住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep23 歓迎

 翌日の学校。

 三時間目の英語の授業中。

 

 間接疑問文が云々とまったくついていけない授業内容に頭を悩ませていると、徐にスマホが着信を知らせた。

 

「すみません」

 

 俺は先生に断りを入れてから廊下に出る。

 普通ならまず許可など下りないだろうが、俺の場合は特別だ。

 

 最悪の場合、デスパレードが起きる可能性があったりするし仕方がない。

 割とマジで町が滅ぶ危機だったりするのも珍しくないのだ。

 

「仕事か~?」

 

「頼もしいね~」

 

「よっ、三船の守護者!」

 

「こら、静かにしなさい!」

 

 やんややんやとヤジを飛ばすクラスメイトとそれを諫める教師。

 俺は「うっせ」と苦笑いを返しつつ電話に出る。

 すると思った通り相手は松本さんだった。

 

『あ、授業中にごめんね』

 

「別に今更気にしませんよ。何かありましたか?」

 

『うん、なんか……そこまで大きくないんだけど十階層で異変を検知してるみたいで……昨日のこともあるし念のためって思って』

 

「なるほど」

 

『このレベルならCランクでもいけそうだから幸坂さんでもいいかな、って思ったんだけど……』

 

 彼女はまだブランクを取り戻している途中。

 加えて昨日の妙な反応を合わせると、向かわせるのは得策ではないと判断したのだろう。

 

 それに、何か嫌な予感がする。

 胸騒ぎと言うか、なんと言うか。

 言葉に言い表せない、じっとりとした予感。

 

「——分かりました。家に『サファイア』を取りに戻ってからすぐに向かいます」

 

『ありがとう~』

 

「いえ、それじゃあまた後で」

 

 電話を切ると、ギルドから呼び出された旨を伝えて早退。

 緊急なので公欠扱いだ。

 

 足早に家に帰ると、霜月さんは自分の家に帰っているのか、誰も居なかった。

 

 夕方にはまた来て料理してくれる手筈だ。

 

 俺は自室に向かい、ソフトケースに入ったサファイアと着替えを詰め込んだリュックを背負う。

 

「今日はどんな晩飯なんだろうな……早く帰れるように努力しよう」

 

 そうして部屋を後にしようとして——視界の隅に小さなケースが映った。

 

 それは以前、水瀬のおじい様から頂いた魔質増強剤の入った箱。

 

 持ってるだけで実刑。

 使用すれば廃人の可能性もあるドーピング剤。

 

 俺は逡巡した後、箱をリュックに突っ込んでから家を後にした。

 

 

  §

 

 

「松本さん!」

 

「あ、相馬くん!」

 

「どうですか、何か変化はありましたか?」

 

「んーん、特には。ただ十階層で異常を探知したとだけ……大丈夫かな?」

 

 不安げに尋ねてくる松本さん。

 美人にそんなことを言われれば、男の子的に格好をつけるしかない。

 

「まぁ、問題ないでしょう。ちゃちゃっと行って倒してきますよ。……ただ、一つ言うことがあるとすれば……そろそろ本格的にベテランの人手を増やして欲しいですね」

 

「え?」

 

「ここ最近、学校に通って気付いたんですよ」

 

「何に?」

 

「後輩からきゃーきゃー言われるのが楽しい、と」

 

 瞬間、松本さんがジトっとした視線を向けてくる。

 

「へー、まぁ男の子だもんねー」

 

「なんですか、仕方ないでしょう!? 大体同じAランクだって言うのにレイジとの扱いの差がおかしいんですよ! 別にあれぐらいモテようとは思っていませんが、田舎の小さな高校内でぐらいちやほやされたっていいじゃないですか!」

 

「別に悪いとは言ってないじゃない。……ちょっとキモいだけで」

 

「キモいとか言わないでもらえますか? 傷付いちゃうんで。心にグサッときちゃうんで」

 

「……もう、わかったから。ちゃんと探索者の募集は続けとくから」

 

「ほんとですね? ちゃんと経験豊富なベテランでお願いしますよ!?」

 

「分かってるって! もう……いってらっしゃい」

 

「はい、いってきます!」

 

 いつもの呆れが混じった笑みを浮かべる松本さん。

 どうやら、彼女の不安は拭えたらしい。

 

 ひらひらと手を振る松本さんに背を向け、俺はギルドを後にする。

 

「……気を、付けてね」

 

 ギルドを出る直前、そんな声が聞こえた気がした。

 大人には敵わないなと思った。

 

 

  §

 

 

 ダンジョン内に足を踏み入れた俺は、一瞬で違和感を感じた。

 

 何かが起こっている。

 それを察知しながら目的の十階層を目指す。

 

 道中は異常に満ち溢れていた(・・・・・・・・・・)

 

 モンスターの数は増えていない。

 強力な個体も存在しない。

 むしろ少ないぐらいで——だからこそ、おかしい。

 

 俺は早々にサファイアを手にすると、警戒心を強めて先を進む。

 

 一階層、二階層、三階層と慣れた道を行き——十階層に辿り着く。

 

 十階層は寒気がするほどに静かだった。

 モンスターの足音ひとつ聞こえない。

 

 生唾を飲み込んでクリアリングを開始。

 十一階層に続く道には何もなく、分岐路を進んで行くもやはりなにも居ない。

 

 最後は行き止まりとされている道に入り——小さな呼吸音を捕らえた。

 

「……」

 

 俺は慎重に道を進み、十匹の鎧をまとったゴブリンを見つける。

 が、しかし……。

 

(……なんだ、こいつら)

 

 ゴブリンたちは自らの前に剣を掲げ、道の両脇に五匹ずつ整列していた。

 それはまるで騎士の敬礼の如き。

 

 ゴブリンたちの奥には小さな祭壇のようなものがあり、その中心部には魔法陣が描かれている。

 

(転移魔法陣、か……)

 

 その魔法陣を守っているのだろう。

 ならば早々に殲滅し、破壊するだけ。

 

 袋小路になった地形の関係上、姿をさらさなければならないが、問題はない。

 鎧こそ身に纏っているが、中身はただのゴブリンだ。

 

 俺はサファイアを握りしめながら岩陰から飛び出し、全員を撃ち殺そうとして——しかしゴブリンは一匹も動かなかった。

 

 気付いていない訳ではない。

 奴らの視線はすべて俺に注がれている。

 

 その上で、動かない。

 

 ——違和感。

 

 近付く。

 動かない。

 

 ——違和感。

 

 やがてすぐ目の前までくるが、動かない。

 

 ——違和感。

 

 そして気付く。

 ゴブリンたちは、祭壇を守っているのではないと。

 

 統率された彼らから感じるのは敵意ではなく——敬意と礼節。

 

「この先に、行けってことか?」

 

 ぽつりとこぼした言葉に、ゴブリンは反応しない。

 

 ただじっと俺を見つめている。

 

 目の前には転移魔法陣。

 この場にいるゴブリンは、すべて雑魚。

 こいつらを皆殺しにして、応援を呼ぶのが得策。

 

 一歩下がろうとして——瞬間、ゴブリンたちは醜悪な笑みを浮かべた。

 

 俺は訳の分からない状況で必死に頭を働かせる。

 

(この転移魔法陣は明らかに罠。この先には何かがある。一度退くか応援を呼ぶのが定石……だが、転移魔法陣という事は向こうからくる(・・・・・・・)可能性があるということ)

 

 次いで思い出すのは昨日、一階層に現れた異変(・・)

 

(もし、この奥にいる奴が一階層に転移できるとしたら……)

 

 この異常事態を引き起こせるだけのイレギュラーが、ダンジョンの()に出るという事。

 

「……選択の余地はないのか」

 

 この奥にいる奴は、俺を誘っている。

 俺だけを誘っている。

 もし応援を呼べば、いつでも外を滅ぼすことができるぞと脅して。

 

 生唾を飲み込む。

 サファイアを握りしめる。

 

「今日は、早く帰りたかったんだがなぁ」

 

 のの猫の配信、久しぶりに見たいな~とか考えていたのに。

 

 大きく深呼吸。

 

 足を踏み出し、俺は転移魔法陣に飛び乗った。

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