住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep27 頑張る

 ……いったい、どれ程の時間が経過したのだろう。

 

「……はぁ、はぁっ――ッ!」

 

 荒い息を吐き出しながら、迫りくるバスターソードを回避。そのまま本日何度目かになるインフェルノを発動させた――が、ゴブリン・ジェネラルはそれを易々と避けて見せた。

 

 逃げ遅れたナイトメア・ゴブリンが数体焼け焦げる。

 

 周囲を確認すると、小さな紫の魔石が大量に散乱している。

 おそらくナイトメア・ゴブリンの物だろう。

 

 今焼き殺したので、ナイトメア・ゴブリンは全滅した——と、思う。確認する余裕はない。ナイトメア・オークは残り十体ほど。

 

 だが、新しく攻撃に加わったナイトメア・ゴブリンジェネラルはまだ一体も倒せていない。

 

 理由は単純、魔法が当たらないから。

 

(なるほど、ゴブリンやオークを先に突撃させたのは俺の戦闘パターンを分析するためだったか)

 

 道理で一方的な虐殺を行おうと、なかなか手を出さなかったわけである。

 てっきり俺を侮っているのかと思っていたが……むしろ逆。

 

 嗚呼、そうだ。

 あのモノクルの男が言っていたじゃないか。

 『三船の守護者』と。

 

 認めて、警戒して、絶対に殺したいから慎重に慎重を重ね……敵対している。

 

「……ふぅ」

 

 息を整えようと立ち止まった瞬間、四方八方からバスターソードが降り注ぐ。当たれば即死、掠っただけでも四肢を持っていかれる一撃である。

 

 俺は周囲に氷属性極大魔法『アイスエイジ』を生成。

 分厚い氷の壁を生み出す。

 かつてドラゴンのブレスを辛うじてではあるが、防いだ壁は——バスターソードが触れただけでいくつものヒビが入る。

 

 魔質増強剤を使ってこれだ。

 通常時なら今ので即死だっただろう。

 

「——チッ」

 

 舌打ちを零して、俺は周囲にアイススピアを展開。

 かすりもしなかったが距離を取らせることに成功。

 アイスエイジを解除し、移動しながら魔法を詠唱。

 

 基本の戦闘方法は分析されたが、まだ見せていない手はある。

 

 俺は詠唱を終えると、大量の魔力を注ぎ込み——ゴブリンジェネラルが集まっている中心部分を睥睨し、

 

「『フレアバースト』」

 

 魔法を唱えた瞬間、ゴブリンジェネラルの集団の中心で巨大な爆発が起こった。

 

 火属性中級魔法『フレアバースト』。

 

 威力はインフェルノに及ばない物の、目視で捉えた任意の座標を爆破することができる。

 

 基本的に雑魚処理や奇襲にしか使えない魔法であるが、魔力を込めれば火力は上がる。

 

 アイスエイジと組み合わせることで一時的に霧を生み出すことも出来るし——『魔質増強剤』を服用した今なら、充分な火力源になる。

 

 爆心地を見やれば、そこには重傷を負った二匹のジェネラル。

 インフェルノよりも膨大な魔力を込めたのに対して結果は微妙。奴らの身に纏う鎧が想像以上に硬い。大半のジェネラルは露出部を軽く火傷した程度である。

 

 しかし、俺の狙いはこの攻撃本体ではなく——それにより動揺したゴブリンジェネラルの隙。

 

「……」

 

 魔速型の完成系と言われたスピードを遺憾なく発揮し、須臾の間に距離を詰めた俺は勢いそのままに『インフェルノ』を発動。

 

 直撃して十数体のゴブリンジェネラルを肉塊に変える。

 周囲には半身を失ったゴブリンジェネラルが散乱し——

 

「はぁ、はぁ……っ、まだ、まだっ!」

 

 自らを鼓舞するように声を張り上げて、上に放り投げていたサファイアを回収しようと左手を上げ——ガシャンと、サファイアが地面に落ちた。

 

 ……あれ、掴み損ねたか。

 格好をつけたのに情けない。

 

 俺は足元に落ちたサファイアを拾い上げようとして——銃の隣に、左腕が落ちているのを見つけた。

 

「……ぁ?」

 

 困惑の声が喉からこぼれる。

 鼓動が早くなる。

 見たらだめだと心が叫ぶ。

 

 でも、見ない訳にはいかないと理性が告げる。

 

 恐る恐る自身の左腕を見やり——そこに二の腕から先は存在していなかった。

 

 切断された腕の奥——地面の上で何かが動く。

 それは下半身を失ったゴブリンジェネラル。

 

 嗚呼、そうだ。

 モンスターは死ねばダンジョンに吸収され、魔石になる。

 

 肉塊が残っているという事は、生きているという事。

 

「——ッ」

 

 上半身だけでバスターソードを振おうとする死にぞこないをアイススピアでめった刺しに。

 

 次いで、周囲を確認。

 気付けば、残りのゴブリンジェネラルが目と鼻の先まで迫ってきていた。

 

 考えるな。

 直感を信じろ。

 

「……ぐっ、このっ!!」

 

 俺は即座に左腕の切断面を凍らせると、義手のように氷の剣を生成。

 

 迫りくるバスターソードを紙一重のところで横に逸らすと、今度は右手に氷の剣を生成してジェネラルに振う——が、その強靭な表皮に弾かれ砕け散った。

 

 ふざけんなッ!

 

 俺は足元に落ちている『サファイア』を蹴り上げると、右手でキャッチして銃撃。

 

 続いて三発撃ったところで弾切れ。

 

 リロードが間に合うはずもなく、俺はサファイアの柄でジェネラルの顔面を殴りつけて、一瞬の隙をついて距離を取る。

 

 が、休む間もなく生き残っていたナイトメア・オークが突進。

 

 氷の刃と化した左腕を突き出し——、オークの勢いを利用してその首を叩き切った。

 

「……ッ、はぁっ、はぁっ!!」

 

 荒い息を吐きながら、敵を見つめる。

 

 ゴブリンジェネラルが残り八十体前後。

 そして、無傷のゴブリンキングと、ゴブリンロードが約九十体。

 

 対するこちらは左腕を失い、魔力もほぼ空。

 

 サファイアは鈍器として利用してしまったため、握っていた銃口部分がひしゃげて使い物にならない。

 

 まぁ、もうカートリッジの予備がないし、あったとしても魔力的に難しい。

 

 頭がくらくらする。

 血を失い過ぎた。

 視界がぼやける。

 魔質増強剤の副作用だろうか。

 

 全身が痛い。

 血管の中を針が流れているような感覚だ。

 鼻血は止まらず、少し下を向いただけで地面を赤く染め上げる。

 

「いやはや、流石は三船の守護者だね」

 

 モノクルの男の声。

 彼が何者かは分からないが、この絶望の軍勢の指揮官は彼なのだろう。

 

 俺は息も絶え絶えになりながら、必死に言葉を絞り出す。

 

「……ならさ、もうやめない?」

 

「やめない」

 

 即答。

 続けて。

 

「はっきり言って想像以上だけど、もう終わりかな」

 

「じゃあさ、終わらせていいから……ダンジョンの外に出るのは一週間後とか一か月後とかにしない?」

 

「しない。キミを殺して、その亡骸を掲げながら外に居る人間を蹂躙する。——あぁ安心して。ちゃんと服は着せてあげるから」

 

「……はっ、そりゃ、ありがたいね」

 

 そう言って、俺は顔を上げる。

 視界に映るのは悪夢(ナイトメア)の軍勢。

 

 確か珍しいモンスターって聞いてたはずなんだけどなぁ~。

 

 数は最初の半分以下になっている。

 ただし、戦力的に見れば1パーセントも削れていないだろう。

 

 そんな軍勢の前に出ていたモノクルの男は、俺を見つめて問うた。

 

「それじゃあ、改めて聞くけど……もう終わらせる?」

 

 俺は右手のサファイアを肩に担ぎ、答える。

 

「ん~、もうちょっと頑張ってみる」

 

「りょーかい。頑張ってね~」

 

 手をひらひらと振って軍勢の奥へと消えていく男。

 

 代わりに、大量のゴブリンジェネラルが襲い掛かり——加えて、ナイトメア・ゴブリンキングまでもが動き出す。

 

 だが、乱戦で邪魔にならないようにするためか、動いたのは一体だけ。

 ゴブリンキングの弱点は魔法。

 

 ナイトメア種になってどう変わったかは知らんが、突かない手はない。

 

 俺は魔法を行使しようとして——ぁ。

 

「魔力が切れた」

 

 絶望は続く。

 

 

―――――

 

 

『……何とか終わった?』

 

 時雨雫のつぶやきに、レイジは口元に笑みを湛えて答える。

 

『あぁ、ちょっち手こずったが……俺らの勝ちだ』

 

 そう語る彼らの周りには紫色の小さな魔石が十個転がっていた。

 

:うぉおおおおおおおおおおおお!!

:やべぇやべぇやべぇ!!

:やっぱ日本最強のパーティーよ!!

:カッコ良すぎなんだが!!

:日本最強! 日本最強! 日本最強!

:Sランク指定のモンスター十体同時討伐はヤバすぎるだろ!!

 

『おぉ~コメ欄も絶賛の嵐だぜ、雫』

 

『ほんとだ。いつもこんなことないから嬉しいかも』

 

 照れくさそうな笑みを浮かべる雫。

 次いでその横から発達した大胸筋をぴくぴく揺らす米山がフレームイン。

 

『みんな~、俺の筋肉見てくれたかな!?』

 

:雫たんを隠すな筋肉

:むちっむちっ♡ むわぁ…♡

:すげぇ、大胸筋が喋ってる

:米山バルクやばすんぎ

:やっぱAランク探索者って頭一つ抜けてんだなぁ

 

 レイジのパーティーに所属しているAランクはレイジ本人含めて三人。

 時雨雫と米山一成である。

 

 先ほどのエンジェル・ナイト討伐戦においても、上記三人の活躍が大変大きかった。

 

 もちろんほかの探索者もサポートや隙をついて攻撃を行っていたが。

 

 それでもメイン火力として戦っていたのはAランクの三人である。

 レイジは周辺に転がる紫色の魔石を回収しつつ、コメントに答える。

 

『そりゃまぁ、Aランク探索者ってのは日本に居る全探索者の頂点。Sランクのお歴々には敵わんが、それでも探索者の代表としての実力は示さないとだよな』

 

:かっこいい

:レイジが言うと説得力が違う

:お?

:ついに言及する感じ?

 

『そうだな。あんまり引っ張ってもあれだし、最近話題になってるAランク探索者の選定基準についてちょっち触れてくか』

 

 そう言ってレイジは回収した魔石を荷物持ちのリュックに放り——カメラに向かって語り始めるのだった。

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