住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep31 ダンジョン完全攻略者

 鐘の音を耳にしながら、モノクルの男は呟く。

 

「さて、それじゃあボクはもうじき死ぬし、その前にキミに褒美を与えないとね。試練を合格した者に、ダンジョンは文字通りの祝福を与えてくれる」

 

 そう言って、男は簡単な氷魔法で止血を行うと、だるま状態の創を抱えて大きく跳躍。

 

 すべてが焦土と化した戦場の奥地へと向かう。

 そこにはさらに上へと続く階段があった。

 

 数秒もかからずに駆け上がると、巨大な扉へと続く一本道に出る。

 

 周囲には数十体のゴブリンとオークの姿が見えるも、凡そ敵意と呼べるものは感じられなかった。

 

 むしろ、英雄の凱旋と言わんばかりに道を開けて整列し、首を垂れている。

 

「さぁ、行こうか」

 

 道を進み、モノクルの男が扉を開くと、中は真っ白な空間だった。

 

「さて、それじゃあ改めて。ダンジョン完全攻略おめでとう、相馬創くん。世界で四人目の完全攻略者になるのかな? そんな君には何でも一つ望みを叶えられるという報酬が与えられるのだけど……記憶も、そして人間としての知識もすべて失ったキミに、それを問うのは酷と言うものだろう。だから勝手だけど、ボクが代わりに願ってあげる」

 

 モノクルの男は小さく息を吸い込み、願いを告げた。

 

「三船の守護者にしてダンジョン完全攻略者、相馬創の失った記憶をすべて元に戻してくれ」

 

 告げた瞬間、創の身体を緑色の光が包み込む。

 

 五秒ほどで光は消え、一瞬身体が震えた後、創は意識を失った。

 

「記憶は戻った。けど、傷が消えるわけじゃあない。痛みで気を失うのも当然か。怪我は……前回の大怪我を治したことを鑑みれば、優秀な回復術士さえ居れば何とか間に合うかな。正直怪物じみた生命力だね。……他にも、色々と伝えなきゃいけない事もあるけど、どうするか。……あっ、いい方法思いついた!」

 

 小さく笑みを浮かべ、今後の事を考えるモノクルの男。

 彼は腕の中の創をじっと見つめ、呟く、

 

「一つ心残りがあるとすれば、記憶の戻ったキミともう一度話したかったってことぐらいかな。まぁ、仕方がない」

 

 そう言ってから、モノクルの男は思い出したかのように自分の着ていた服を創に掛けて、白い部屋に寝かせる。

 

「それじゃ、もうすぐダンジョンの外に出られるようになるから、その前にボクはボクの用を済ませるよ。じゃあね、相馬創くん」

 

 小さく別れを告げて——モノクルの男は部屋を後にする。

 

 そして数分後、相馬創の肉体は白い部屋から地上へと転移されるのだった。

 

 

  §

 

 

 私、松本は相馬くんからの電話の後、直ぐに探索者ギルド本部に応援要請の電話をかけていた。

 

 目元は赤く晴れ上がり、鼻水が止まらない。大人になってからこんなに泣いたのは初めての事だ。

 

「だから早く応援をお願いします!」

 

『状況は分かりました。すぐに準備して三船町に向かわせます』

 

 そう言って電話が切られる。

 既に周辺の町に避難指示は伝達済み。

 

 あとは、あとは……。

 

 と、考えて気付く。

 

 私は何も出来ないのだと。

 

 もう私に出来ることは無い。

 せいぜい相馬くんの遺書をご両親に届けることぐらい。

 

「……っ、相馬くん……っ!」

 

 祈るように手を合わせていると、ギルドのドアが空いて水瀬ちゃんと霜月さんが姿を現した。

 

「み、三船町に避難指示って、どういうことですか?」

 

「松本さん、主さまがダンジョンに行ったあとにこれって……あいつは無事なんだよな?」

 

 普段無表情な水瀬ちゃんは見た事ないほどに狼狽し、霜月さんは苦虫を噛み潰したような表情で問うてくる。

 

「……っ」

 

 私は答えることが出来なかった。

 

 言葉にすれば、相馬くんが本当に帰って来なくなるような気がして。

 

 だけど、目の前の二人はそれで察してしまったらしく……。

 

「……せんぱい」

 

 ふと、水瀬ちゃんがふらふらと出口へと近付く。何をするつもりなのか、そんなこと聞かなくても分かる。

 

「ダメっ!」

 

「でも、でもせんぱいがっ、助けなきゃ助けなきゃ……っ!」

 

 ギルドを出ていこうとする水瀬ちゃんを私と霜月さんで抑える。

 

 でも火事場の馬鹿力と言わんばかりの力で引きづられ……そこに幸坂さんが現れ、水瀬ちゃんを押えてくれる。

 

「一体、何が……?」

 

「退いてっ! せんぱいを、私はせんぱいをっ!」

 

 それだけで状況を把握したのか、幸坂さんは水瀬ちゃんの首を軽く押え――瞬間、水瀬ちゃんがその場に崩れ落ちる。

 

「き、気絶、させました、けど、良かった、ですか?」

 

「えぇ、ありがとう。幸坂さん」

 

 それから私たちは水瀬ちゃんを待合室のソファーに寝かせ、三人で状況を擦り合わせ。

 

「探索者としては、すぐにでも、避難を、してもらいたい、のですが」

 

 幸坂さんの言葉に、しかし私は首を横に振る。

 

「そんな事、出来ません」

 

「なら、あたしも残るかな〜」

 

 私の言葉に同意したのは霜月さん。

 

 彼女は不安を覆い隠すように無理して笑みを浮かべて告げる。

 

「主さまが帰ってきたら飯作ってやりたいからな」

 

「霜月さん……」

 

「確かに絶望的な状況かもしれないけどさ、それでも案外ひょっこり帰ってきたりするかもしれねーじゃん? 上手いこと時間を稼いで〜とか」

 

 そんな霜月さんに、幸坂さんが口を開く。

 

「ダンジョンは、何が、起こるか、分からない。そんなに、能天気で、居られる、場所じゃ、ない」

 

「なんだと?」

 

 鋭い視線を飛ばす霜月さんに対し、幸坂さんは欠片も気にすることなく淡々と続けた。

 

「でも、何が、起こるか、分からないから。生きて、帰ってくる、ことも、ある。あの子は、私より上の、Aランク探索者、だから……私も、信じて、待つよ」

 

「幸坂さん……」

 

「なら最初からそう言えよ」

 

「ごめん、なさい。口下手、だから」

 

「……こっちこそ、申し訳なかった」

 

 そう言って、三人で相馬くんの帰りを待つことに決める私たち。

 

 仮に帰ってこなくても、彼が稼いだ時間を無駄にはしたくない。

 

 私なら三船ダンジョンに詳しい。

 応援に来た人達を少しでも手助け出来たら――。

 

 そうして、時間は刻一刻と過ぎていく。

 応援は来ない。

 

 時計を見ると、相馬くんの電話から三十分が経過していた。もう何十時間と待っている気分である。

 

「……っ、せんぱいっ!」

 

 と、そこで水瀬ちゃんが目を覚ます。

 

 彼女は私たちを見回し、問う。

 

「せんぱいは?」

 

「……」

 

「き、救助とか」

 

「……」

 

 誰も何も言えない。

 顔を真っ青に染める水瀬ちゃん。

 

 そのまま彼女は口元をきゅっと結び、両目から大粒の涙をボロボロと零しながら膝を抱えて丸くなる。

 

 かける言葉が浮かばない。

 

 何を言えばいいのか分からない。

 

 じっとりとした気まずい時間が流れ、相馬くんの電話から一時間が経過しようとした時――それは聞こえた。

 

 美しい、鐘の音である。

 

 その場にいた全員が顔を見合わせる。

 

 それは、かつて三度鳴り響いたことのある鐘であり、ダンジョンが完全攻略された際に、世界中の人に届けられる祝福の知らせ。

 

「……まさか」

 

 と、私が呟いた頃には既に水瀬ちゃんはギルドを飛び出していた。

 

 私と霜月さん、幸坂さんもワンテンポ遅れて彼女の後を追い、三船ダンジョンの入口がある場所までやって来て――目を、見開いた。

 

「……っ、ダンジョンが……消えてる」

 

 ダンジョンの入口があった場所が、更地となっていたのだ。

 

 そしてその中心部に、何かが横たわっているのを見つける。

 

 ──ゾクリと嫌な予感がした。

 

 きっと、みんな一緒。

 

「せん、ぱい……」

 

 掠れた声で、水瀬ちゃんが駆け寄る。

 私達も後を追って……。

 

「相馬、くん」

 

 見るも無惨な状態となった相馬くんを見つけた。

 

 四肢が全て吹き飛ばされ、右目は潰れ、両耳から血を流している。

 

 顎は下半分がなく、喉も潰れ、胸元には彼が愛用していた『No3.サファイア』が焼き付いていた。

 

「いや、いやぁあああっ!! せんぱい! せんぱいっ!!」

 

 水瀬ちゃんの絶叫が周囲に響く。

 隣では霜月さんが膝から崩れ落ち、幸坂さんも下唇をかみ締めて顔を伏せる。

 

 私は……。

 

「うそ……でしょ……? 相馬くん? 相馬くん?」

 

 ふらふらと近付き、声を掛けるが反応は無い。

 

 身体を揺するが、動かない。

 

「ダメよ、こんな、こんな終わり……相馬くん! お願いだから目を覚ましてっ!!」

 

 耳元で強く叫ぶ。

 

 が、当然反応は無い。

 

 それを理解した瞬間、心の中にぽっかりと穴が空いたような気がした。

 

 ずっと、ずっと見てきた男の子だ。

 

 息子、と言うには大きすぎるが、それでも弟のように可愛がっていた。慕ってくれるのも嬉しかった。

 

 そんな男の子が……死――。

 

「……っ」

 

 瞬間、微かに身体が動いた気がした。

 

「相馬くん! 相馬くん!!」

 

 再度呼びかけると、唯一無事な左目の瞼が微かに震えた。

 

「……っ、生きてる!! まだ生きてる!!」

 

「なにっ!?」

 

「せんぱいっ、せんぱい!!」

 

「は、早く、救急車を……!」

 

 私は大慌てでスマホを取りだし119番に電話。

 しかし、誰も出ない。

 

 なんで……っ、そうか。

 

「だめっ! みんな避難してて誰も出ないっ!!」

 

「そんな……っ」

 

 悲痛な顔を浮かべる三人。

 この場にいる誰も、回復魔法など使えない。

 

 応急処置でどうにかなる怪我でもない。

 

 だめっ、どうすればいいの!?

 どうすれば……あ。

 

 私は一縷の望みをかけて、電話。

 数度のコールの後、繋がった。

 

「友部さん! 助けて!! 相馬くんが、相馬くんが……!!」

 

 私の必死の叫びに対し、答えは電話口ではなくすぐ後ろから聞こえてきた。

 

「助けるよ。何しろ彼は、私たちを助けてくれた英雄なのだから」

 

 振り返った先には、友部さんの姿。

 彼女の後方には、私が応援として呼んだ探索者達の姿もある。

 

「おい! 探索者が一名重体だ!! 回復術師は全員集まれ!!」

 

 友部さんの言葉に十人ほどの回復術師が集まり、回復魔法をかけられながら相馬くんは車に乗って病院へと搬送される。

 

 私たちもすぐに後を追おうとして――。

 

「これ、相馬くんのスマホだ。なんでこんなところに……?」

 

 相馬くんが居なくなったあと、落ちていたスマホを拾う。

 

 至る所傷だらけだが、壊れてはいない。

 後で渡そうと、スマホをポケットに入れ、病院に向かうのだった。

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