住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

4 / 133
ep4 遠くからキミと繋がる一瞬

「はい、焼けたわよ」

 

「ありがとうございます。……うまっ!? この牛タン分厚くてめちゃくちゃに美味いですよ!?」

 

「当たり前でしょ~。車飛ばして高い焼肉屋さんに来たんだから」

 

 探索者ギルドから車を飛ばすこと約一時間。

 個人経営の焼肉屋に俺たちは来ていた。

 

 経営しているのは老夫婦で、決してお洒落とは言えないけれど清潔感のあるいい店である。

 

 難点を挙げるとすれば、プライベートがない事か。

 

 広い座敷に炭火の釜が複数並んでいる為、離れた席の客の声も聞こえるほど。

 

 しかし幸いなことに他の客は一組だけで、見たところ大学生のカップル。

 何かしらの動画を見ながら焼肉を楽しんでいた。

 

 まぁ、離れてるしそこまで気にならないな。

 

「次、カルビにしましょ!」

 

「若いといいわねぇ、私は最近脂がツラくって」

 

「松本さんは全然お若いですよ」

 

「……なんか、ガチで口説きに来てない?」

 

「……スッー、そんなわけないじゃないですか〜」

 

「おーい、今の間はなんだぁ?」

 

「いいじゃないですか口説くぐらい! どうせ(なび)かないんだから!」

 

「そりゃ私は旦那ラブだけども……お酒入ってる時に若い子からそんな風に言われたら流石に来るものがあるのよ」

 

「年収8,000万の高校二年生です。お酒追加しましょう。すみませーん! 生中(なまちゅう)追加で!」

 

「……まぁ、飲んだからには運転出来ないし近場で泊まるつもりだったけど……部屋は別々だから」

 

「さらに2つ追加!!」

 

「どんだけ狙ってんだよ!? さすがに引くんだけど!?」

 

「俺年収8,000万なのに?」

 

「その年収アピールやめろぉ!! ガチで良くない女に引っかかるから!!」

 

「事実だしなぁ〜」

 

「まったく……あ、次焼くけど何がいい?」

 

「カルビ」

 

「はいはい」

 

 面倒くさそうにしながらもトングで肉を網の上に乗せていく松本さん。

 

 本当に、どうしてこんなに気が合うのに彼女と結婚できないのだろう。

 まったく世の中理不尽だ。

 

「ほい、カルビ」

 

「あざす」

 

「生中三つお待たせー」

 

「ほんとに頼んだんかい! まぁいいや。今日は飲むぞぉぉぉ!!」

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

 松本さんはジョッキを掲げ、俺は烏龍茶を掲げてカンッとぶつけた。

 

「「乾杯!!」」

 

 ごくごくごく……ぷはぁ!

 

「「美味い!!」」

 

「まずいっ!!」

 

「「あ?」」

 

 唐突に聞こえてきた悲痛な叫びに思わず視線を向ける。

 そこには動画を見ながら焼肉を食っていた大学生カップルが。

 

「まずいまずい! このままだとまずいぞ!」

 

「うそっ、のの猫(・・・)死んじゃうの……?」

 

 その言葉を耳が拾ったのはカクテルパーティー効果の一種だったのかもしれない。

 それほどまでに俺はのの猫にガチ恋しているのだから。

 

 ふらふらと立ち上がると、俺は迷惑と思いながらも大学生たちの下へ。

 

「すみません! 今のの猫って」

 

「え、あ、あぁ。ダンジョン配信者の『のの猫』がやべー事になってんだよ」

 

「見せてください!」

 

 悪いとは思いながらもはやる気持ちを抑えられずスマホを半ば奪い取るように確認。

 すると、そこにはブレブレの画面。

 

 恐らく彼女の専属カメラマンである笹木さんも一緒に戦っているのだろう。

 カメラワークを気にする余裕もなく、必死の声が画面越しに響く。

 

『笹木さん!』

 

『大丈夫、いいから猫ちゃんは敵の気を引いて回避優先! 五秒後に魔法撃つから!』

 

『はいっ!』

 

 

:死亡配信はこちらですか?

:不謹慎厨しね

:猫ちゃん死なないで!!

:頑張れのの猫!!

:なんで、ゴブリンがこんなに強いんだよ!

:これキングやろ

:ゴブリンキングって、Aランクモンスターやん

:卍卍†死亡確定†卍卍

:葬式には呼んでくれ

 

 

 くそっ、ゴミみたいなコメ欄だな。

 十中八九Twitterかどこかから流れてきたカス共だろう。

 以前も配信者が危険になった時、同じような事が起こった。

 

 それに何より、こいつらは大きな勘違いをしている。

 

『ゴブリンキング……こんなに強いなんて』

 

『魔法に弱いって聞いてたのに……っ、全然効いてないっ!!』

 

 そんな焦燥感にまみれたのの猫とカメラマンの声が聞こえた。

 

「っ、違う」

 

 俺はスマホを大学生に返し、自分のを取り出して配信サイトDtubeを開くとのの猫の配信画面に行き──。

 

─────

影猫@Aランク探索者 ¥50,000

『そいつはゴブリンキングじゃなくてロード! 魔法に対する完全耐性を持ってるから魔法は無意味! 物理で殴ろうにも猫ちゃんの力じゃ絶対無理だから逃げろ!!』

─────

:でた

:こんな時にもこいつ

:ならお前が行って倒せよ

:逃げられないからこうなってんだよ!

:笹木ちゃんが怪我してんの!

 

 

「……っ」

 

 なら仕方がない。

 俺はのの猫ガチ恋勢である。

 

 故に彼女がカメラマンの笹木さんと仲が良いのは知っているし、仮に仲良くなくても彼女が誰かを見捨てて逃げることなど出来ないのも知っている。

 

 故に俺は再度赤スパ。

 

─────

影猫@Aランク探索者 ¥50,000

『なら弱点は腹! そいつは足と腕の筋肉が発達してるけど腹は脂肪だけ! そこならのの猫でも貫ける可能性がある!! 逃げられないなら勇気を持って飛び込んで!!』

─────

:何言ってんだこいつ

:自称プロは黙ってろ!

:いや、いーじゃんww突っ込め突っ込めww

:巫山戯んなよゴミ!!

 

 

 阿鼻叫喚と化したコメント欄に対し、息を整えるために距離を取ったのの猫に笹木さんが声をかける。

 

『ね、猫ちゃん』

 

『なに?』

 

『か、影猫さんが、お腹が弱点だって……』

 

『……っ』

 

 一瞬、のの猫が配信画面に目をやった。

 おそらく俺の送った文章を読んだのだろう。

 

『魔法に対する完全耐性とかも言ってるけど』

 

『そっちは信用できそう。というか、もう知ってるし』

 

『……どうする?』

 

 笹木さんの言葉に、のの猫はぺろりと唇を舐めた。

 これは覚悟を決めた時の合図である。

 

 

:だめだめだめだめ!!!!

:やめて猫ちゃん!!

:無理だって!! それより救助が来るまで耐えようって!!

─────

影猫@Aランク探索者 ¥50,000

『ロードは魔法耐性のせいか魔法を完全無視する傾向がある。だから、笹木さんの魔法で土埃を上げて視界を遮れ。少しは成功確率が上がるはず』

─────

 

『確実には、ならないんですね』

 

─────

影猫@Aランク探索者 ¥50,000

『そもそも猫ちゃんが勝てる相手じゃない。ワンチャンあるとしたらこれ』

─────

 

『なにそれ最悪……。最期かもしれないんで言いますけど、私影猫さんのこと気持ち悪くて死ぬほど嫌いでした』

 

─────

影猫Aランク探索者 ¥50,000

『俺は一生最推しだから』

─────

 

 のの猫は大きく溜息を吐き、目元を拭うとカメラに目線を向けて大輪の笑みを見せた。

 

『それじゃ、スーパーチャットありがとうございました!!』

 

 そんな言葉を残し、のの猫はゴブリンロードへと駆けだした。

 同時に、笹木さんがファイアボールを地面に放ち砂埃を立てる。

 

 のの猫はその隙を逃さない。

 

 魔速型の真骨頂を遺憾無く発揮して、瞬きの速度より速く──カメラのフレームレートが追い付けないほどの速度で駆け抜け砂煙の中に一切の躊躇なく踏み込む──直前。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 ダンジョンに不釣り合いの勝気な声が響いた。

 

 次の瞬間ゴブリンロードが大きく吹き飛ぶ。

 

 そして、砂埃の中から一人の青年が現れ、コメ欄が一気に加速。

 

 

:だれ?

:!?

:この声……まさか!!

:れいじ?

:レイジ!

:rageキター!!

:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

:キタ━━(゚∀゚)━━!!

:れーじ!!

:これで勝つる!!

:キタキタキタキタ!!

:Rage!!Rage!!

:待ってました、日本最強(・・・・)!!

 

 カメラに映っていたのは、現日本最強の探索者、雲龍礼司だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。