住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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第二章 夜叉の森ダンジョン編
ep1 退院明けの日々


 三船ダンジョン完全攻略から五日。

 そこからさらに退院して一週間が経過した今日この頃。

 

 俺こと相馬創は、概ね平穏な生活を送っていた。

 

 最初の頃こそマスコミが自宅や探索者ギルドに殺到していたが、町の人(特に七規のおじい様)の協力や、探索者ギルド本部が『プライベートに踏み入るな』的な声明を出したことで沈静化。

 

(それでもたまにカメラを持った人の姿は見かけるが……言っても聞かない奴はもう知らん。相手にするだけ無駄だ)

 

 正直なところ、最初は取材を受けてもいいかなとか考えていた。

 

 気分はさながらヒーローインタビュー。

 ちやほやされるのを夢見てしまうお年頃だ。

 

 そんなことを友人である佐藤に語ったところ――。

 

「いや、ネットじゃ未だにお前の事叩いてる奴も多いし、絶対あることないこと書かれるから止めた方が良いって」

 

 と、まっとうな意見を頂戴した。

 

 確かに、最近はすっかりネットから離れていたが、話題の人のデタラメ記事が出るのは世の常だ。

 

 まともな記者も居るだろうけど、違いなんてわからないし全部まとめてスルーが安定である。

 

 そんな訳で、俺は少しストーカーの多い高校生活を謳歌していたのだった。

 

 

  §

 

 

 そんなある日の放課後。

 本日も一日が終わり帰る準備をしていると、見慣れた後輩が教室にやって来た。

 

「せんぱい、帰ろ~」

 

 いつも通りの無表情を浮かべる彼女は、高校の後輩にして探索者としても後輩の水瀬七規。

 

 後輩女子が上級生の教室に一人で訪れるのは中々に勇気が必要そうであるが、彼女は特に気にした様子もなくズンズンと教室内にご入場。

 

 そんな七規に周囲のクラスメイト達は「またか」と言いたげな表情を浮かべていた。

 

 彼女が俺を教室に迎えに来るのはこれが初めてのことではない。俺が病院を退院し、学校に復帰してからというもの毎日。

 

 以前に比べて彼女との距離が非常に近くなっていた。

 

 それも精神的にではなく物理的に。

 

 朝になると「一緒に学校行こー」

 昼休みになると「一緒にご飯食べよー」

 放課後になると「一緒に帰ろー」

 

 見事なまでのフルコンボだが、だからと言って嫌かと言えば俺は首を横に振る。

 普通の人なら面倒に感じるのだろうが、正直言って嬉しさが勝つ。

 

 だって七規は美少女だから。

 

 加えて彼女は意外と空気が読める。

 俺が不快に感じない絶妙な距離感を維持して、こちらを気遣って接してくれているのが分かる。

 

 それが分かるからこそ、尚更不快になんて思わなかった。

 

「せんぱい、鞄持つよ」

 

 そう言って手を差し出す七規に、俺は首を横に振る。

 

「大丈夫だって、もう慣れてきたし」

 

「でも……」

 

「心配するな。転んでも怪我なんてしないし、それにこれもリハビリの一環だからな」

 

 安心させるように頭を撫でると、彼女は不満そうに唇を尖らせるも、静かに首肯を返した。

 

 左腕が無くなって以降、七規は何かにつけて俺の世話を焼いてくれる。荷物を持つ時はもちろん、並んで歩く時も常に俺の左側。昼食を共にする時も左側を陣取っていた。

 

 心配性なのか。

 それだけ愛されているという事なのか。

 

 どちらにせよ嬉しい。

 世話されるの楽しい。

 

 そのうちダメ人間にされそうでちょっと怖いけども。

 

「ほんとにいいの?」

 

「必要になったらちゃんと頼るから、安心しろ」

 

「ほんと?」

 

「もちろん」

 

「……わかった。なら、その時は何でもするから遠慮なく頼ってねっ」

 

「あぁ」

 

何でも(・・・)、するからね!」

 

「なんで二回言った!?」

 

「ご飯食べさせたり背中流したり、必要とあればいつどこでも駆けつけるからっ!」

 

「具体例を上げないで!?」

 

 何しろここは教室。クラスメイト達から物凄い視線が飛んでくるのだ。特に女子から向けられる視線が俺の心をグサグサと抉る。

 

 俺はモテる。それゆえに、実のところクラスの女子の大半から告白されてたりするわけだ。もちろん全員丁重にお断りしたが——今はむしろそれが気まずさに拍車をかけていた。

 

 だって彼女たちからすれば『忙しいから、って理由で振った男が目の前で後輩女子とイチャイチャしてる』的な状況な訳で。……端的に言って地獄だね。

 

「じゃあせんぱい行こっか! 今日は私の家に来てくれるって約束だし!」

 

「お前わざとだろ!?」

 

「スーッ……え? なにが?」

 

「間があったぞ間が! 誤魔化しきれてないって!」

 

 視線を逸らして口笛を吹く七規。

 絶対わかっててやっている。

 意外と腹黒な後輩だ。

 それでもかわいいけど。

 

 なんて思っていると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。

 

「そ、相馬! 今のはどういうことだ!?」

 

「い、委員長……」

 

 鼻息荒い彼女は我がクラスの委員長。

 

 整った顔立ちに、制服を下から押し上げる豊満な胸。生真面目な性格ではあるものの、男子から人気の高い女子である。

 

 名前は……やべぇ、覚えてない。

 

 告白してくれた女子の名前なら憶えているが、それ以外は結構あやふや。委員長からは告白された事ないし、彼女は周囲からも『委員長』と呼ばれているので本気で分からない。

 

 あとで名簿でも確認しておくか。

 

「不純異性交遊は校則で禁止だぞ!」

 

「いや、これは誤解で……家に行くって言うのは七規のおじい様に用があるって言うか……」

 

「保護者にご挨拶!? まさかそこまでの関係だったと!?」

 

「だーもう! そうじゃなくって、アレだよアレ! 探索者関係の話!」

 

 言った瞬間、周囲がシュンとなる。

 

 正直『探索者』ってワード出したくなかったんだよなぁ。みんな俺の左腕を見て暗い表情になるし。

 

 だが背に腹は代えられん……!

 

 誤解は誤解と、きちんと伝えとかないと面倒なことになるからだ。具体的には明日以降、教室の空気が地獄になる。絶対に嫌だ。

 

 これを受けて委員長は小さく首肯。

 

「そうか。探索者関係の……」

 

「そ、そうだ。だから不純なことは一切ない! それじゃ、そう言うことだから俺たちはこれで!」

 

「う、うむ。引き留めて悪かったな」

 

「いいよ、委員長が真面目なのは知ってるし」

 

「……っ、ふん! どうせ真面目さだけが取り柄のつまらない人間だ」

 

「つまらなくなんかないし、むしろそこが委員長のいい所だろ~? 不真面目生徒代表としては憧れるね」

 

「……そ、そうか……ふむ」

 

 何故か自分を卑下する委員長に苦笑を返してから、俺は七規を連れて教室を後にする。

 

「……せんぱいモテすぎ」

 

「なんの話?」

 

「別にー」

 

 相も変わらぬ無表情のまま拗ねた様子の七規。

 

 そんな彼女に小首を傾げつつ、俺たちは下駄箱で靴を履き替え校門へ。そこで見慣れた高級車が停っているのを発見する。七規の家の車だ。

 

(いつ見ても厳ついぜ)

 

 七規が俺と登下校を共にするようになってからは出番を失っていた高級車くんであるが、本日ばかりは特別。

 

「おかえりなさいませ」

 

 運転手に案内されて後部座席に乗り込み、揺られること数分。

 見えてきたのは三船では有名なお屋敷だった。

 

 敷地面積は如何ほどか。

 高校よりは小さいと思うけど、それでも一般住宅が十軒以上入るのではと思わせるほど広い。

 

 周囲は白い塀に取り囲まれ、出入り口となる一角にのみ巨大な木製の門が取り付けられていた。

 

 これを受け鼓動がドキドキと高鳴るのを感じる。

 

(原因は何だろうね……)

 

 初めて女子の家に遊びに行くからか。

 それとも任侠映画さながらのお屋敷に対するドキドキか。

 

「……」

 

 うん、考えるのはやめよう。

 

 思考放棄していると、門の前に見慣れた人を発見。茶髪を揺らしながらこちらに手を振る彼女は、俺が愛してやまない人妻。

 

「二人ともおかえり~」

 

「松本さん!」

 

 絶世の美女と言っても過言ではない女性——松本さんの姿を見つけ、俺はどこか安心感を抱きながら駆け寄るのだった。

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