住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep4 平穏な日常

 俺は周囲を見回し、大きくため息。

 日常生活を謳歌しているはずだった俺は、何故か現在ダンジョンに居た。

 

 それも一人で。

 

 時刻は深夜二時(・・・・)

 場所は夜叉の森ダンジョン(・・・・・・・・・)

 

 おかしいな。

 次にダンジョンに潜る時は、七規と幸坂さんの二人と一緒のはずだったのに。

 

 なのに一人。

 今日も今日とて変わらぬ一人。

 何故に一人なのか。

 

「ははっ、ほんとブラックだぜ」

 

 思わず乾いた笑みがこぼれ、俺は泣きそうになりながら本日の出来事を思い出すのだった。

 

 

  §

 

 

 七規の家に行ってから一週間が経過した日の放課後、俺は探索者ギルドで嘆いていた。

 

「助けてまつえも~ん」

 

「誰がまつえもんよ誰が。どちらかと言えばしずかちゃんポジションでしょ。……というか一週間ぶりね相馬くん。こんなに顔合わせなかったのなんていつ以来かしら?」

 

「三船ダンジョンあった頃は毎日顔合わせてましたからねぇ」

 

 当時は忙しくて気にする暇もなかったけれど、今思えばなんて役得だったことか。

 

 失ってはじめて気づく大切な物って、きっとこういう物のことを言うのだろうな。……違うか? 違うな。

 

「それで? 一体どうしたのよ」

 

「実は、三船ダンジョンが無くなってからという物、自由に使える時間が増えたのは良いんですけど……使い道が無いんですよ」

 

「ほう……つまり?」

 

「端的に言うと暇です」

 

「そんな定年退職したサラリーマンみたいなこと言わないでよ、爺クサい」

 

「酷くな~い?」

 

 でも大体あってると言うね。

 

「それでも学校には行ってるんでしょ? なら友達やクラスメイトと遊べばいいじゃない」

 

「はっはっはっ、遊べたらそうしてますよ」

 

「遊べたらって……はっ! あ、ご、ごめんね!? そ、そうだよね! 全然通えてなかったもんね! うんうん、仕方ないよ! 相馬くんは悪くないし、気にする必要なんてない! み、みんな相馬くんの事大好きだからね!」

 

「友達が居ない訳じゃありませんよ!? でもありがとうございます」

 

「えー、それじゃあどうしてな訳?」

 

 小首をかしげて問うてくる松本さん。

 この人ほんと綺麗だな。

 

「うちの学校ってもうすぐ期末試験なんですよ。それでみんな勉強に忙しくて、放課後は遊ぶ相手もいないし、かと言って趣味と呼べる物ものの猫の追っかけぐらいしかありませんでしたし……」

 

 因みにのの猫のことは今なお愛しているが、ネットとは現在進行形でサヨナラしているので配信は追ってない。

 

 すまないのの猫。

 

 俺がネットを断っていることは松本さんも知っているので、そこには触れず、彼女は息を吐く。

 

「はぁ~、もうそんな時期か~」

 

「ですです」

 

 今は試験前の勉強期間だ。

 この間は部活動も禁止され、生徒は全員お勉強に集中を余儀なくされる。

 

 必然的に、昨日から七規の見送りもない。

 以前俺が伝えた「学校生活も頑張れ」という言葉を忠実に守ってくれているのだろう。

 

 それでも朝単語帳片手に迎えに来る辺り、彼女の心配性も中々の物だ。そんな心遣いが嬉しくもあり、申し訳なくもあり。

 

 複雑な高二男子の心模様。

 

「私勉強苦手だったから、試験って聞くだけで嫌な思い出がよみがえってくるわね……」

 

「へぇ、意外ですね」

 

「ほんとにそう思ってる?」

 

「お、思ッテマスヨ?」

 

「……あとでお仕置きね」

 

「ひぇええ」

 

 松本さんはコホンと咳払い一つ入れると話を戻す。

 

「でも確かに試験なら遊びに誘い辛いわよねぇ……あれ? ちょっと待って? 相馬くんは勉強しなくていいの?」

 

「あー、俺はほら。探索者で忙しかったので、学校側も配慮してくれるみたいです。夏休みに何度か補習受けるだけで試験は免除、卒業も約束してくれるって感じです」

 

「ほぇ~流石Sランク探索者」

 

「まだAランクですよ、はははっ」

 

 などと謙遜するが、内心調子に乗っているところがあるのも事実である。

 ギルドからSランク認定の知らせはまだ無いが、それでもほぼ内定していることを考慮すれば当然のことだろう。

 

 だって世界で四人目のSランク。

 日本人では唯一にして最初の一人だ。

 たまんねぇな。

 どうよこのステータス。

 日本最強のレイジが霞むレベルと自負してる。

 

 これなら難攻不落と噂の松本さんも堕とせるのでは? ……ちら、ちらちら。

 

「……どうしたの?」

 

「あ、いえ。何でもないです」

 

 旦那ラブを公言している人妻は強かった。

 まぁ、絶対にありえないと分かっているからこそ、俺もふざけられるのだが。

 

 何かの理由で彼女が離婚したら、絶対結婚するつもりでは居るが、それでも略奪婚はダメよダメダメ。

 

 特に――。

 

「暇潰しねぇ……何か無いかな~?」

 

 こんな、俺のくだらない相談にも乗ってくれる松本さんには、迷惑を掛けたくない。

 

 この人は俺が世界で一番幸せにしてあげるのだ。

 

(あれ? なんか結婚するみたいになってしまったぞ? 何故だ)

 

 そんな益体のないことを考えていると、松本さんは何かを思いついたようにポンと手を打った。

 

「うん、やっぱり相馬くんも勉強すれば?」

 

「べん、きょう……?」

 

「なーんで、そんな『聞いたことのない単語だ』みたいな反応するのよ。勉強よ勉強(べ・ん・きょ・う)! 学生の本分でしょう?」

 

「ふふふ、それを嫌うのは学生の本能ですよ」

 

「上手いこと言わないの! ……でも、実際問題暇なら勉強するのが一番じゃない? ほら、相馬くん学校に行ってなくてバカだし、最低限の教養はあっても損ないでしょ?」

 

「確かに……」

 

「それに……」

 

 と松本さんは声のトーンを落とし、もじもじと指を突き合わせながら続けた。

 

「これは、あくまで個人的にだけど……これから相馬くんが有名になっていった時、バカなのがバレて笑われたりするの……私嫌だし」

 

「勉強します」

 

「え!? そんな一瞬で!?」

 

「松本さんの為ならなんだってやりますよ!」

 

 そこまで想って貰っていて、どうして断れようか。彼女の為なら俺は例えダンジョンだって攻略して見せよう!

 

「ただ問題が一つ」

 

「ほう……それは?」

 

「何が分からないのか分からないレベルで俺がバカと言うことです。学校の授業すらついていけませんし、一人で勉強とか絶対無理です」

 

 どれくらい馬鹿かというと、七規にバレたら引かれるレベルでバカだ。

 

 ちょっと想像してみよう。

 

『七規! 俺ってバカなんだよね!』

 

『バカなせんぱいも好きーっ!』

 

「……」

 

 どうしよう、嫌われる未来が想像できない。

 全肯定な七規なら、きっと何でも許してくれそう。ダメ人間にされてしまいそうという恐怖と、それでもいいかと思っちゃう男心。

 

 辛いね。

 

「でも言わんとしてることは分かるわよ。私もバカだったし。う~ん……あ、そうだ!」

 

 ふと何かを思いついた様子の彼女は、スマホを取り出しどこかへと電話を掛ける。

 

 数度のコールの後、電話は繋がり――。

 

「あ、もしもし松本です。はい、お世話になってます。はい、はい。あ、実は一つ頼みがありまして……いいんですか!?」

 

 話すこと一分ほど。

 電話を終えた彼女は俺に向かってサムズアップ。

 

「今から勉強教えに来てくれるって!」

 

「……え、誰が?」

 

 そうして知らない人との勉強会が開催されることになった。

 

 誰なのか聞いても「来てからのお楽しみ」とのこと。

 

 俺はドキドキしながらギルドのロビーで待ち——三十分後、自動ドアを開けて現れたのは、白衣の似合うクール美人。

 

「悪いね、待たせたかな?」

 

 ニヒルに笑う彼女は、文字通り俺の命の恩人——友部さんであった。

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