住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep7 受付嬢は地雷系

 準備、と言っても殆ど荷物はない。

 

 武器は氷魔法で生み出すし、防具は『インフェルノ』を発動するたびに蒸発するため購入していない。

 

 そもそも魔速型は回避専門なのであまり必要ないというのもある。

 

 結果、俺は散歩に行くようなラフな格好で、ダンジョンに潜ることが多かった。

 

 これでも以前までは『No.3サファイア』という美しい相棒を担いでいたのだが、それも失ってしまった。

 

 故に持って行くのは着替えの入ったリュックぐらいの物。日中帯ならお弁当や水筒もここに含まれる。

 

 うん、ピクニックかな?

 

「でも夜叉の森か……」

 

 夜叉の森には何度か潜ったことがある。

 

 その時の記憶を引っ張り出した俺は、服を長袖長ズボンに変更。予備の着替えをリュックに詰めて、準備完了だ。

 

 季節は六月末。

 夏が近付いてきた今日この頃に長袖はきついが……まぁ、夜は涼しいので何とかなるだろう。

 

 そうして待つこと十分ほど。

 ピンポーンとインターホンが鳴る。

 

 玄関を開けると、そこにはラフな格好の松本さんが立っていた。

 

 彼女も寝る直前だったのだろう。

 すっぴんに眼鏡と、普段は見せない姿だ。ラフな格好故の緩やかな胸元が非常にえっちで、視線が吸い寄せられないように必死にこらえる。

 

 にしてもギルド職員も大変だ。

 異変があると、こんな夜中に高校生とドライブしなければならないとは。

 

 これって労基に訴えたら勝てるのかな?

 勝てるなら訴えたいな。松本さんの為だし。

 

「もう、化粧してないからあんまり見ないで……」

 

「してなくても十分お綺麗ですよ」

 

「こんなおばさん褒めなくていいから」

 

「本心なのに……」

 

「それより本当に大丈夫そう? ほら、左腕もまだ慣れていないんじゃない?」

 

 ここにきて心配げな表情を浮かべる松本さん。

 

 確かに完全に慣れたとは言えないが、動くのに支障はない。それに——。

 

「そろそろ動かないと身体が鈍るところでしたからね。丁度良かったぐらいです。七規と幸坂さんの二人と潜る時にかっこ悪いところは見せられませんからね」

 

「相馬くん……」

 

「それじゃあ二人のいけない逃避行と洒落込もうじゃありませんか!」

 

「もー、そう言うのは七規ちゃんに言いなさいってばー!」

 

 俺の言葉に松本さんも調子を取り戻す。

 暗いより明るい方が良いからね。

 

 そんな彼女の車に揺られ、俺たちは『夜叉の森ダンジョン』へと向かうのであった。

 

 

  §

 

 

「なっが……」

 

 片道約一時間半。

 長時間かけて到着したのは夜叉の森探索者ギルドである。

 

 簡素な三船町のギルドとは違い、全体的に木目調というか、オシャレな雰囲気だ。

 

 天井にはプロペラ的なアレがくるくる回っている。都会のJKのSNSでしか見ないやつだ。

 

「流石は人気ダンジョン、金掛けてるなぁ」

 

 いや、夜叉の森が人気というより、三船が不人気すぎるだけか。

 

 しかしそんな同所も、時間帯が時間帯なので他に探索者の姿は皆無。

 

 ダンジョン内で一夜を明かしている者は居るかもしれないが、それでもギルド内は閑散としていた。

 

 通常深い層まで潜るとなると、往復に時間が掛かる。

 

 俺のようなソロは全力ダッシュで帰宅するけど、複数人のパーティーを組んでいるとそうもいかない。

 

 例えば、レイジのパーティーが渋谷ダンジョンの八十五階層を探索していたけれど、あの階層からあの人数で帰るとなると、最低でも一日はかかるのではなかろうか。

 

 たぶん、メイビー。

 パーティー組んだことないから分かんないけど。

 

 閑話休題。

 

 閑散としたギルドに入った俺と松本さんは、唯一人影のある受付へと向かう。

 

 そこに居たのは年若い受付嬢。

 年のころは二十歳前後か。

 正直俺とそう変わらない様に思える。

 少しだけ年上のお姉さんって感じだ。

 

 そんな彼女は変わった服装をしていた。

 

 所謂、地雷系というやつだ。

 髪は長く腰まで届き、紫のインナーカラーがアクセントになっている。

 耳にはピアスやイアリングがジャラジャラとしており、ちょっと危ない雰囲気が童貞の心を弄ぶ。多分舌ピもしてると思う。あと臍も。

 

「探索者ギルドって職員の制服ありましたよね?」

 

「そのはずだけど……」

 

 隣りの松本さんも困惑の様子。

 すると、地雷系受付嬢がこちらの存在に気付き——彼女は一瞬目をぱちくりさせると「わっ」と驚いたような声を出した。

 

 そして——。

 

「も、ももっ、もしかして相馬きゅん!?」

 

「……きゅ、きゅん?」

 

「わー、やばっ! 本物!? 写真で見るよりかわいー! 生で見れるとかラッキーって感じ! ねねっ、写真撮っていーい!?」

 

 スマホ片手にぐいぐいくる地雷系。

 整った顔立ちが間近に迫り、胸がどきどき。

 

 明らかにヤバい雰囲気なのに、顔が良くて似合っていればドキドキしてしまう思春期メンタル、どうにかしたいと最近切に願う。

 

「えっと、貴女は?」

 

「あっ、ごめんねー! 興奮して我を忘れてたよー! ウチは入江! 一応夜叉の森の職員だから、不審者じゃないよ! 相馬きゅん!」

 

 にっと笑みを見せる入江さん。

 ちらりと覗く大きな八重歯が最高にチャーミング。地雷系ファッションと相まって新たな扉が開くのを感じる。

 

「入江さんですか。初めまして相馬創です。それでこちらが——」

 

「三船の探索者ギルドで職員してます。松本です」

 

「はわぁ~! 推しに名前呼んでもらっちゃったぁ~! うれし~! あ、松本ちゃんもよろしくね~!」

 

 人好きのする笑みを浮かべ、松本さんの手をぎゅっと掴んで握手。次に俺の右腕も掴んで、松本さん同様に握手。

 

 テンションが高い人だなぁと思い、気付く。

 

 彼女の左手薬指にきらりと輝く、結婚指輪の存在に。

 

「……」

 

 くくくっ、相変わらず人妻とのエンカウント率バグってるだろ。

 

 そんなことを思いつつ、俺と松本さんは、夜叉の森で発生している異変に関して、入江さんから詳しく伺うのであった。

 

 

  §

 

 

 ——そして時間は今に至る。

 

 夜叉の森に到着したのが午後十一時半。

 そこから異変発生現場の三十二階層まで、さらに一時間半かかってしまった。

 

 三船ダンジョンならまだしも、ここは慣れてない夜叉の森。特に、夜叉の森の構造は他のダンジョンとは違って少し特殊だからなぁ。

 

「もう少し()があれば楽なんだが」

 

 ため息交じりに周囲を見回すと、そこには高さ十メートル近い木々が生い茂る密林(・・)が広がっていた。

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