住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが? 作:赤月ヤモリ
ダンジョンにはいくつか種類が存在する。
最もメジャーなのが洞窟タイプ。
『三船ダンジョン』や『渋谷ダンジョン』など、大半のダンジョンがこれに該当される。
そしてもう一つが特殊タイプ。
洞窟とは異なる内部構造をしたダンジョンの総称だ。
有名どころだと、
ハワイの『ホノルルダンジョン』
ギリシャの『アテネダンジョン』
エジプトの『ギザダンジョン』等。
日本においては『夜叉の森ダンジョン』がこれに該当していた。
§
夜叉の森ダンジョンの特殊性。
それは植物の存在にある。
通常、洞窟タイプのダンジョンに植物は存在しない。床も壁も天井もすべてが硬質の岩であり、雑草一つ存在していない。
一方で夜叉の森は異なる。
一階層に広がるのは広大な草原。三船ダンジョンの様な壁や迷路のような通路は存在せず、ただただ広大な草原が入り口と二階層へ続く階段との間に広がっていた。
二階層も似たような物。
それが三階層、四階層と階層を進むにつれて変化を見せていき、背の高い草が生え始め、木々が出現し、徐々にその数を増やして、林に、森に——やがて密林となる。
低階層の開けた空間ならまだしも、密林ともなればそれは三船ダンジョンとは完全に別種の
右を見ても木、左を見ても木、自分がどこから来たのか、どちらへ進むべきなのか。
地図が頭に入っていようと、慣れないうちは方向感覚が狂わされる。
それこそ、俺が三十二階層に来るまでに一時間半を要した原因であった。
気分はさながら、ふえぇ、頭おかしくなっちゃうよぉ……って感じ。
他にも、夜叉の森の特殊性として挙げられるのが『空』の存在だ。
一見して青空であり、雲や太陽、昼夜の概念もあるように見えるのに、ドローンを飛ばして確認するとしっかり天井が存在するのだ。原理は不明、学者の間では魔法的な作用だと言われている。
そんな限りなく自然に近い夜叉の森ダンジョンは、それ故に人気があった。
毎年行われる『一度は行ってみたい、国内ダンジョンランキング!』では、他の追随を許すことなく五年連続の堂々一位。
理由としては『すごくファンタジーだから』とのこと。
現在俺のいる三十二階層は高温多湿のくそったれジャングルであるが、十五階層や二十二階層は過ごしやすい気候な上に、綺麗な湖や川まで存在している。
そんなのどかな風景に出現するモンスターという構図は、まさに異世界に迷い込んだ気分になる。おかげで、探索者——特にダンジョン配信者からの人気が高いのだ。
「……はっ! これはもしや、配信者のカメラに俺が映って、真の実力が世間にバレてしまうフラグでは……っ!?」
最近WEB小説界隈で人気なジャンルと七規が言っていたのを思い出す。
まぁ、このくそジャングルは夜叉の森の中でも特に人気がない階層だし、深夜という事も相まって誰の気配も感じないのだけど。
「……にしても、ダンジョンって何なんだろうな」
モノクルの男は『侵略の為のトンネル』と言っていた。
しかしトンネルに川や湖は必要ないだろう。
さらに、ダンジョンごとに出現するモンスターが異なったり、それこそ洞窟タイプや特殊タイプと仕様が異なるのも理解に苦しむ。
普通は管理しやすいようにすべて同じ仕様にするのではなかろうか?
日本の会社とかだったら許されないんじゃない?
「……っとと」
考え事をしていたからか、木の根に躓く。幸い倒れはしなかったが、ジャングルを歩くのなんて初めてだから難しい。
怪我して帰ったら松本さんに心配かけそうだし、出来れば無傷で帰りたいところだが……。
「今更だけど、七規には絶対言えないよなぁ」
昨今、松本さん以上に心配性な後輩だ。
そんな彼女に「一人でダンジョンに潜ったんだよね~、しかもほとんど潜ったことのない夜叉の森ダンジョンの異変対応に!」と言えばどうなるだろうか?
卒倒するかもしれない。
或いは過保護が加速するか。
想像してみよう。
おはようからおやすみまで七規のいる生活。
「……悪くないんだよなぁ、これが」
せんぱいせんぱいと慕ってくれる可愛い後輩と一つ屋根の下。男子高校生的にはぐっとくるシチュエーションだ。ひと月と経たずに籍を入れてる未来が見える。
……いや、今のは流石にキモいか。
一人反省しつつ、俺は異変の原因を捜索するが——。
「あっつ、ひっろ、見つかんねぇ……」
汗を拭って嘆く。
十メートル近い木々で視界が悪いことも手伝い、目的の『夜叉百足』が全然見つからない。加えて高温多湿という環境が体力を消耗させる。
長袖を脱ぎ去りたいが、それは論外。
原因は耳元を飛び回る蚊の存在故。
それはモンスターでも何でもなく、ただの蚊。
外から探索者にくっついて入り込み、繁殖したのだが……半袖だと全身刺されまくるのだ。虫よけスプレーも効果がない数の為、高温多湿の階層を通る際は長袖が必須。
結果が今の汗だく状態であった。
「このままじゃ脱水症状で倒れそうだな……なら」
足を止めて魔力を集中する。
元々、今回は異変対応の為だけに来たわけではなかった。最優先はもちろん異変の排除だし、松本さんに語った『感覚を取り戻したい』というのも本心。
ただそれ以外に確かめたいことがあった。
それこそが——今から使う魔法。
思い出すのはあの日、ナイトメア戦の最中。
ダンジョンの力を借りてナイトメア・ヒューマンになった俺が行使した、未知の魔法。
「さぁ、復帰戦だ。——『フレイム・サーチ』」
次の瞬間、青白い炎の糸が周囲へと伸びていく。
木々に引火することなく、三十二階層全域張り巡らされたそれは、ナイトメア種になっていた俺が使っていた探知系統の魔法。
原理はシンプルで、炎の糸に魔力を流し続けることで、何かが触れて途切れると、その位置を特定するという仕組みだ。
集中力も必要魔力も極大魔法以上。
常に魔力を流し続けている都合、徐々に魔力が減っていくが——問題はない。
元々俺の魔力は世界二位。
さらにナイトメア戦以降、上昇している。
「正直、今の俺の魔力量ってどれぐらいなんだろうな。流石に世界一になったとは思うけど……」
何てぼやきながら探知を続ける。
燃費は悪いが、効果のほどは実証積み。
かつてはあの高速で動くナイトメア・ゴブリンロードを探知したのだ。
それ以下のモンスターなら容易に見つけられる。
当然——『夜叉百足』も。
「……いた」
向かって左側。
五百メートルほど離れた場所で、炎が切れる。
『夜叉百足』以外のモンスターの可能性もあるが——最初の反応から続けて多くの炎が途切れていく。
「この大きさと速さは……間違いないな」
俺は魔速型に切り替えて跳躍。
周囲の木々を蹴って上空に躍り出ると、反応のあった方角目掛けてひとっ飛び。
「身体強化の調子も良さげだな」
呟くと同時、見つけた。
「相変わらず、エッグい見た目してるよなぁ」
そこに居たのは木々を倒しながら移動する巨大な
よく観察すると表面には体長一メートル近い巨大な百足が蠢いていた。
その一体一体こそが『夜叉百足』。
そして何かの拍子に数百匹の個体が集まり、球体となると
「こんなのR18Gだろ。ほんと……どうせ十八禁ならエロい方面で見せて欲しいよ」
とかなんとか呟きつつ、俺は『夜叉百足』へ向けて足を踏み出した。