住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep9 復帰戦

『夜叉百足』は面倒なモンスターであるが、特段強いわけではない。

 Dランク探索者でも倒そうと思えば倒せる相手である。

 

 しかしながらそれはあくまでも通常種の場合。

 

 異変——つまり眼前のような昆虫ボールともなれば話は別で、討伐推奨ランクはAランクにまで跳ね上がる。

 

 まず危険なのはその重量。

 数トン近い巨体がごろごろ転がって踏みつぶしに来る。

 機動力も兼ね備えている為、非常に面倒だ。

 

 次に数。

 夜叉百足たちはつぶせないと判断すると、球体を構成する一メートル近い百足をそこら中にばらまくのだ。一匹一匹は雑魚でも、数百匹に取り囲まれれば、並みの探索者では太刀打ちできない。

 

 数の暴力の前にはBランク探索者だって普通に殺されてしまうだろう。

 

 百足——と付いていることから、その顎には毒も備えており、総合的に見て非常に悪質なモンスターなのである。

 

「……まぁ、俺の相手ではないが」

 

 一人なので盛大にイキらせてもらう。

 人前じゃ絶対できないからね。

 

 俺は迫りくる夜叉百足に対して火属性中級魔法『フレアバースト』を放とうとして、取りやめる。

 

 危ない危ない。

 発動したら周囲一帯山火事になっていた。

 

 フレイム・サーチは炎の見た目をした魔力の塊なので問題ないが、フレアバーストはヤバい。

 

 普通に炎だし爆発もする。

 

 森林火災——ダンジョン内だからいいじゃんと思わないでもないが、問題は酸素にある。俺は大丈夫でも、次にこの階層に足を踏み入れる探索者が酸欠に陥る可能性は十分にあり得た。

 

 無用なリスクは出来るだけ避けるのが吉。

 

「なら——こっちにするか」

 

 俺はもしもに備えて『アイスエイジ』で周囲を防御しつつ、ある魔法を展開した。

 

「名付けるなら——『アブソリュート・ゼロ』とか?」

 

 迫りくる球体の前に、ピンッと氷の糸が張られた。

 

 夜叉百足の球体は躊躇なく氷の糸に触れ、パキッとへし折った瞬間——球体は氷漬けになる。

 

 転がっていた慣性も、数百匹の夜叉百足の命も、その全てが氷によって凍てついた。

 

 かつて魔法に対する完全耐性を凌駕した、俺の最高火力。

 ナイトメア・ゴブリンロードすら瞬殺した魔法。

 

「ふむ、中々いい感じじゃないの」

 

 燃費の悪さは気になるが。

 極大魔法数発分の魔力を消費した。

 

(けど、まだまだ全然余裕だな……)

 

 フレイム・サーチと合わせてとんでもない魔力量を消費しているはずだが、まだまだ余裕はある。どうしよう、いよいよもって人外の領域に足を踏み入れている感じがするぞ。

 

「ま、まぁ今は気にしない方向で行こう」

 

 小さく頷いてから、俺は氷漬けの夜叉百足を見やる。

 こんこんと叩いてみるがびくともしない。

 

「馬鹿みたいに魔力を食う以外は、本当に最強だな。……まぁ、初見殺しにも程があるけど」

 

 特性上、この魔法は基本待ちのスタイルだ。

 使い方的には地雷に近いだろう。

 

 実際、ナイトメアの軍勢相手に二度目は通じていなかった。

 彼らに限らずとも、ある程度の思考力を持つモンスターの場合、糸を回避されてしまうだろう。

 

 だが、それでも奥の手にはなり得る。

 

「奥の手、か……かっけぇ」

 

 一人ワクワクしつつ、再度夜叉百足をちらり。

 うん、完全に沈黙しているな。

 

 あとは氷を壊すだけだが……。

 あれ? どうしよう。

 

「一応『インフェルノ』で半分ほど溶かせた気はするけど、それ以外じゃ傷一つ付かないよな……」

 

 これは困ったちゃん。

 

 試しにアイスソードで斬り掛かる。

 壊れる気配は皆無。

 次いでフレアバーストを内部で爆破。

 夜叉百足が燃えるだけで氷に変化なし。

 

「うーん……仕方ないか」

 

 俺は大人しく魔法を解除。

 

 すると燃えカスと化した夜叉百足の死骸がダンジョンに吸収され、緑色の魔石が数百個転がった。

 

 流石に持って帰れないって。

 

 一応証明として二、三個回収。

 

 松本さん相手だと手ぶらでも討伐したことを信用してもらえたが、ここは夜叉の森ダンジョン。

 対応も入江さんが行うだろう。

 

 話した感じ、あの人なら疑うことなどしないと思うけど……まぁ念のためだ。

 

 魔石を回収すると、俺は早々に帰路に就こうとして——。

 

「っとと」

 

 またもや木の根に躓いた。

 

 しかも今度は完全に不意を突かれ、木の幹に頭部を強打。身体強化を切っていないので怪我は無いが、それでもちょっと痛いぜ。

 

「っ痛……情けねぇ~」

 

 久しぶりのダンジョン。

 久しぶりの探索。

 久しぶりの戦闘。

 

 それらが無事に終わり、気が緩んだか。

 昼間友部さんに『集中力がある』と褒められたばかりなのに、お恥ずかしい。

 

 俺は打ち付けた頭を擦り——。

 

『……大丈夫、か?』

『疲れたのよね……ありがとう』

 

 ——ふと、懐かしい声を思い出した。

 

「……ぁ?」

 

 それは、昔の記憶だ。

 遠い――と言ってもそこまで遠くない。

 三船ダンジョンに潜り始めの頃の記憶。

 

「前にも、こんなことがあったような……」

 

 戦闘を終えて、俺は気が抜けた。

 今回の様に。

 

 すると、一組の男女が声を掛けてくれて——。

 

 そんな記憶が、蘇った。

 否、蘇っていたのに気付いたと言うべきか。

 

 そう、それは——。

 

「これ、俺が忘れてた記憶のひとつだ」

 

 魔法の過剰使用による記憶喪失。

 その一欠片(ひとかけら)

 

 それはあの日の出来事だ。

 ダンジョンに一人で潜り、ペース配分を間違え、そして両親の記憶を失った日の出来事。

 

「そうだ、あの日俺は——」

 

 俺はただ、ダンジョンに潜っていた訳ではない。

 異変だ。異変が起こったのだ。

 

 スケルトンの上位種であるスケルトン・ナイトやゴブリンキング、オークが複数発生。その異変の対応——ではなく(・・・・)、俺はあの日——。

 

「人を、助けに行ったんだ」

 

 三船ダンジョンの異変対応を行っていた前任者(・・・)

 そんな彼らの救出に向かったのだ。

 

(――向かって、どうなったんだっけ)

 

 失っていた記憶に気付いた俺は、頭に手を当てながら過去を思い出す。

 

 

 初めて味わった地獄を、思い出す。

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