住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep10 回想

 ――回想。

 

 二年半前。

 探索者になって半年経った頃の事、俺は松本さんに呼ばれて三船探索者ギルドに来ていた。

 

「相馬くん、依頼よ」

 

「依頼、ですか?」

 

「えぇ、いつもの探索とは違う、ギルドからの依頼」

 

 真剣な口調に生唾を飲み込む。

 そう言う制度があるのは知っていた。

 しかし、依頼が割り振られるのはこれが初めての事だ。

 

 俺のランクはBランク。

 既に依頼を割り振られてもおかしくないランクではあるが、それでもまだ探索者を始めて半年だ。

 

 普通ならあり得ない。

 あり得ないが——あり得ない労働環境(・・・・・・・・・)の前では仕方がなかった。

 

 そんな俺に与えられた仕事は——。

 

「異変の排除に向かった探索者の救出?」

 

 与えられた資料には、数時間前に三船ダンジョンで発生した異変と、その排除に向かった夜叉の森ダンジョンの探索者の写真。

 

 三十代と思われる男女で、何度か三船の探索者ギルドで顔を合わせたことがある。経験の浅い俺の代わりに三船ダンジョンの異変対応をしてくれている二人だ。

 

 話したことは数えるほどしかない。

 それでも顔は知っている。

 

 確か夫婦で探索者をやっているとか何とか。

 

 特段親しいという訳ではないが、見捨てる理由にはならない。

 

「分かりました。必ず助けて帰ってきますね!」

 

 サムズアップして見せる俺に、松本さんは告げる。

 

「うん、頑張って。でも……もしも(・・・)の事があれば、無理に連れ帰らないでいいから、自分を優先して帰ってくるのよ」

 

 もしも。

 それはつまり、救助が不可能な場合。

 

 或いは――救助の必要性が、喪失していた場合。

 

「大丈夫です。俺もうすぐ中三ですよ? 子供じゃないんですから……最悪の想定ぐらいできます」

 

 そんな言葉に、子供でしょ? と松本さんが返さなかったのは、俺のテンションを鑑みてのことだったのだろう。

 

 それだけで、待ち受ける相手がいつもと違うのだと理解できる。

 

 俺は頬を張ってから、松本さんに別れを告げてダンジョンへと向かった。

 

 ダンジョンに入ると異変の階層へと急ぐ。わき目もふらず、魔速型を使ってひたすらに走り続ける。

 

 だって人の命がかかっている。

 のんびりなどしていられない。

 

 魔力を惜しまず、全速力でダンジョンを駆け抜ける。大丈夫だ、俺の魔力量はあのルキーチ・カラシニコフに続いて世界二位。

 

 これまで一度たりとも枯渇したことは無い。

 枯渇する心配をしたことすら無い。

 

 そして俺は——無事に目的の二人を見つけた。

 

 怪我をしているものの、まだ何とか戦えている。

 

 しかし、それも長くは持つまい。周囲には鎧を身に纏い、騎士剣を手にしたスケルトン・ナイトがうようよしている。

 

 一体一体はCランク指定のモンスター。

 だが数が尋常ではない。

 討伐推奨ランクはあくまでも目安。

 数の前には容易にひっくり返る。

 

 さらに周囲にはゴブリンキングやオークといった他のモンスターも散見され……。

 

「加勢します!!」

 

 躊躇いはなかった。

 

 二人は俺の声に驚いて目を見開き、悔しそうに唇を噛みしめ――それでも深く頷いてくれた。

 

 彼らの横に並び立ち、気付く。

 

 二人の怪我は予想以上だった。至る所に裂傷。服には血が滲んでいる。

 

 あと数分でも遅れたら、二人ともモンスターに押されて殺されていたかもしれない。俺と並んではいるが、戦うことなど不可能。自分を守るのが精々と言った様子だ。

 

「……っ!」

 

 だから俺は戦った。

 二人を守るために、二人の分も戦った。

 戦って、戦って——何とか倒し終えた。

 

 魔力は底を尽きかけている。

 こんなことなら移動の際にもっと気を付けるべきだった。いや、少しでも遅れれば二人は死んでいた。それを考慮すれば、これこそ最善か。

 

「ふぅ……っ、あっ」

 

 今までにない程の緊張。

 それが解けた俺はふらついて、壁に頭をぶつけてしまう。

 

「……大丈夫、か?」

 

「疲れたのよね……ありがとう」

 

 至る所に怪我を負いながらも、俺を気に掛けてくれる二人。いつも一人でダンジョンに潜っていたからこそ、その温かさが心に沁みる。

 

 俺は二人の名前を呼ぼうとして——今更ながらに聞いていないことに気付いた。異変なんて滅多に起こらないし、二人と顔を合わせること自体も稀だ。

 

 それでもこうして共に死地を乗り越えたのなら、名前を知りたいと思うのは当然のことで——俺は問いかけようとして。

 

「っ、モンスター!!」

 

 男性の声。

 

 彼が視線を向ける先には、先ほどと同じぐらいのモンスターの群れが。

 

 ――異変、ではない。群れを構成するのは先程のスケルトン・ナイトやゴブリンキングに比べて弱いモンスターばかりである。

 

 おそらくは戦闘音を聞きつけて集まって来た周辺のモンスター。

 

 普段落ち着くときは周囲をクリアリングしてから腰を下ろすが、今回はそれを怠った。

 

 てっきり異変の群れが、この階層のモンスターすべてだと思い込んでしまっていたのだ。

 

 経験不足。

 知識不足。

 思考不足。

 

 突然のことに慌てる俺に対し、二人は小さく息を吐いて立ち上がる。

 

「……ついてないな」

 

「相馬くんは休んでて」

 

 そう言って前に出る二人。

 戦闘はすぐに始まった。

 

 二人とも経験豊富な実力者だ。現れたモンスターの討伐推奨ランクを鑑みても、容易に対処できるだろう。

 

 ——いつも通りなら。

 

 数が尋常ではなかった。

 男性の言った通りついてない(・・・・・)。ただそれだけだ。異変という程ではなく、それでも普段に比べて多くのモンスターが現れた不運(・・)

 

 加えて二人は怪我を負っていた。決して軽傷とは言えない怪我だ。戦うなんて出来るはずがない。

 

 そして、先ほども言ったように推奨ランクはあくまでも目安(・・)で、数というのは容易に実力を凌駕してしまうのだ。

 

 それに気付いたのは、二人の背後に迫るゴブリンがナイフを振り下ろした後だった。

 

 

  §

 

 

「……はぁっ、はぁっ!」

 

 俺は息も絶え絶えになりながら、意識のない二人を担いでいた。目指すはダンジョンの入り口だ。

 

 ゴブリンのナイフは致命傷にはならなかった。

 しかし毒が塗られていたのか、二人の動きは正確さを欠き、やがて大怪我を負って倒れた。

 

 だから俺は戦った。

 魔力も回復していない中、頭の中で何かが失われていくのを感じつつも、魔法を行使し続けた。今だって身体強化魔法を掛け続けている。

 

 そうじゃないと中学生が大人二人を運ぶことなど出来ない。

 

 迫りくるモンスターに気を配り、迎撃はすべて魔法で行う。

 

 いったい今は何階層なのだろう。

 帰り道は足が覚えているけれど、細かな階層を思考する余裕はない。ただ、いつまで続くのか分からないダンジョンを、ひたすらに昇り続ける。

 

 暗い。

 怖い。

 疲れた。

 逃げたい。

 泣きたい。

 

 そんな弱音を飲み込んで、ただ足を動かし、魔法でモンスターを打ち落としていく。

 

 そうして、何階層も、何十階層も死に物狂いで登り——。

 

「……まつ、もと……さ……」

 

 明るい地上で、見慣れた茶髪を見つけた俺は意識を失い——次に目覚めた時には両親と……二人の探索者に関する記憶を失っていた。

 

 

 ——回想終わり。

 

 

  §

 

 

 懐かしい地獄を思い出しつつ、俺は夜叉の森探索者ギルドまで戻ってくる。

 

 そこで待っていたのは、あの日と同じ不安と安堵の入り混じった表情を浮かべる松本さんだった。

 

「……ただいまです。松本さん」

 

「おかえり、相馬くん」

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