住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep11 懊悩する探索者

「はわわ~、しゅごい……♡ 推しが強すぎてやばば~♡」

 

「いえいえ、これくらいなんてことないですよ」

 

「あっ♡ だめ、かっこよすぎてマジ無理♡ 推しの過剰摂取で鼻血出そう♡」

 

「……面白い人だなぁ」

 

 夜叉の森ダンジョンでの異変、夜叉百足討伐の報告を受け、入江さんは鼻血を噴き出していた。

 

 地雷系ってもっと絡みづらいイメージあったのだけど、案外面白いんだね。それとも入江さんが特別なのか……多分後者だな。

 

 鼻にティッシュを詰めながらキーボードを叩く姿は何とも愉快だ。それでも綺麗だと思うのだから顔がいいというのは本当に素晴らしい。

 

「それじゃ、こんなところですかね」

 

「そうだね! 相馬きゅんの活躍、ウチの胸にぐさーっと突き刺さったよ♡ もうほんとハート射抜かれちゃった♡」

 

「わ、分かりましたからちょっと離れて……」

 

 あまり身体を押し付けないでもらいたい。深夜テンションの高校生とか一番危険な生物だから。ちょっとしたはずみで一生残る黒歴史を製造してしまいかねない。

 

 深夜テンション×性欲。

 

 それは交わらせてはいけない方程式。

 

「あ、それと一つお願いがあるのですが……」

 

「なになに!? この後なら空いてるよ!?」

 

「入江さん既婚者でしょ!?」

 

「えー、あんな浮気男しーらない! ウチは推しラブで生きて行こっかなーって♡」

 

 色々ご家庭の事情があるんだね。

 それでぐいぐい来られるのも困るのだけど。

俺ってチョロいから、普通に流されちゃう。

 

「それでお願いって何?」

 

「えっと、実は今回の異変を解決したのが俺だって言うのは、秘密にしといて欲しいんです」

 

「え……でもギルド本部に嘘の報告は……」

 

「あぁ、そっちは大丈夫です。ただ、一般に公開される場所に名前を載せたり、入江さんが他の人に口外しないでほしいなと」

 

 じゃないと七規にバレてしまう。

 彼女には心配を掛けたくない。

 

「相馬きゅんのお願いならもちろん聞くけど、ほんとにいーの? 折角のお手柄なのに」

 

「はい、お願いします。入江さん」

 

「~~っ!! う、うん……ぁあ、推しにお願いされちゃった♡ やば、もう無理死んじゃう♡」

 

 胸を抑えて腰を抜かす入江さん。

 

「ギルド職員って、変わった人が多いんですね」

 

「そうね~って、あれ? それ私も入ってる? 私は比較的普通だと思うんだけど、あれ? おーい、相馬くん?」

 

「さて、三船町に帰りますか」

 

「おいこら、待てこら」

 

 そうして俺たちは夜叉の森ギルドを後にし、松本さんの車に揺られながら三船町へと向かう。

 

 運転する松本さんは、信号に止まるとコンビニで購入した缶コーヒーを眠気覚ましにごくごく。唇についた液体をぺろりと舐めとる。

 

「……ん、なに?」

 

「いえ、何も」

 

「えー、じっと見てたじゃない。なによ~なんか付いてる?」

 

「とても綺麗な目と鼻と口が黄金比で付いてますね」

 

「はいはい」

 

 適当に流す松本さん。

 信号が青になると、アクセルを踏み込む。

 

 いかん。

 ダンジョンで昔のことを思い出してから変な感じだ。気付けば松本さんへと視線を向けている自分が居る。……それはいつものことか。

 

 そうではなくて、俺が気になっているのは俺が助けに向かった二人の探索者の事。

 

 あの日、目を覚ました俺は両親の記憶がないことに気付いた。しかし、本当はそれだけじゃなく、助けに向かった二人の記憶も失っていたのだ。

 

(なんで、気付かなかったんだ)

 

 記憶は戻っていた。

 しかし、思い出さなかった。

 

 両親の記憶が戻って、そればかりに気を取られていたからだろうか。……情けない。

 

 ただ、それと同時に——誰からも伝えられなかったから、思い出せなかったというのもあるかもしれない。

 

 横目で松本さんを見つめる。

 

『あの二人はどうなったの?』

 

 そんな問いが喉まで登り、されど形にはならなかった。

 

 どうなったか何て、松本さんから伝えられていない時点で容易に想像が付く。

 

 助ける事が出来ていたら、教えない意味がない。

 

 つまり——俺は助けられなかったのだ。

 

 松本さんは両親の記憶を失ってショックを受けていた俺に、それを伝える事を躊躇した。

 

 躊躇して、俺が両親だけではなく、助けられなかった二人の探索者のことも忘れているのに気付き——伝えないことにしたのだろう。

 

 優しい松本さんらしい判断だ。

 

「……」

 

 だから、俺は何も言わずに助手席から窓の外の景色を眺める。

 

 三船町が見えてくる頃には、遠くの空が明るくなっていた。

 

 

  §

 

 

 翌朝、寝不足から若干ふらつきながらも学校を終えた俺は、友部さんとの約束通り探索者ギルドを訪れていた。

 

 まだ彼女は来ていない。

 仕事の時間的に当然だ。

 

 仕方がないので一人勉強道具を広げて先に始めていると——書類をトントンと揃えた松本さんがおもむろに告げた。

 

「相馬くん! 今夜焼き肉に行きましょう! 奢るから!」

 

「行きます! ……いきなりどうしたんですか?」

 

「普通質問してから返事すると思うんだけど……まぁ、いいや。ほら、昨日大変だったと思うからその労いと……あとは、昨日の帰り道からなんかテンション低いから」

 

「う……」

 

 よく見てる。

 

 聞くべきか聞かざるべきか。

 うんうんとベッドの中で悩み、勇気が出ないという結論に達したのは朝方の事だった。

 

「悩んでる理由は聞かないけど、せめて気晴らしにってね! 仕事終わりに——そうだ、友部さんも誘ってどうかな?」

 

「いいですね! あ、でも今日は霜月さんが晩ご飯作りに来てくれる日で……」

 

「なら霜月さんも誘っちゃおう!」

 

「……天才ですか? 人数は多い方が楽しいですし、そうしましょうか!」

 

 当日だしもしかしたら断られるかもしれないけれど、ここ最近霜月さんはほとんど俺の家で夕食を共にしてるし誘ってみる価値はある。

 

 そうと決まれば早速連絡。

 俺は霜月さんに。

 松本さんは友部さんに。

 

 RINEでメッセージを送ると、すぐに既読が付いた。

 

『今日松本さんたちと焼き肉食べに行きませんか?』――『いくいく!』

 

「霜月さんおっけーですって」

 

「友部さんも大丈夫って返って来たわよ」

 

 そんな訳で本日は焼き肉になった。

 なんだか久しぶりだ。

 

 前に食べたのは——のの猫がレイジに劇的な救出をされた日か。

 

「……」

 

 のの猫を助けてもらったことにはこれ以上ない感謝の気持ちがあるけれど、それはそれとして俺はレイジが嫌いだ。

 

 俺への悪評の原因……なんてのはどうでもいい。一番問題なのはのの猫と噂されたという事だ。

 

 許せない。

 ガチ恋勢的に、そういうのは到底許されるものではないのだよ(嫉妬)。

 

 それからしばらくして友部さんが合流。松本さんの仕事が終わるまで勉強を教えてもらい——しばらくして霜月さんもこんにちは。

 

「へぇ、ちゃんとベンキョーやってたんだなぁ、主さま。アタシにはちんぷんかんぷんだ」

 

 興味本位に問題集を覗き込み、速攻で諦めて去っていく霜月さん。確かに勉強好きそうな感じはしないもんね。

 

 でも大丈夫。

 霜月さんには最高の料理の腕があるのだから。

 

 そうこうしている内に松本さんの仕事も終了し、荷物を片付けた彼女が車のキーを指で回しながら登場。

 

「お待たせ~、それじゃあ行きましょうか」

 

「「「焼き肉だ~!!」」」

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