住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep15 過去の真相

 のの猫と師弟関係になった。

 

 と言っても、俺がやることはスパチャでアドバイスだけだ。

 女性配信者に直接会って物を教えるとか、流石にヤバい。

 

 特に、俺の正体が昨今巷で話題のAランク探索者だとバレるのがヤバい。

 

 のの猫大炎上待ったなしである。

 

 そんな訳で、これまでと変わらず気になった点をスパチャするという形に落ち着いた。

 

『スパチャはいりません! むしろこちらが払いたいです!』

 

 なんて言われたがこればかりは譲れない。

 俺の手でのの猫を養う感覚、一度覚えたらやめられない。

 

 松本さんにバレたら死ぬほど怒られるから絶対に言えない趣味である。

 

 そうしてのの猫の師匠になった俺は、彼女の配信を横目に焼き肉をパクり。

 

「何を見ているんだ?」

 

「ダンジョン配信ですよ。見ます?」

 

「ん、見る」

 

 ひょいと顔をのぞかせてきた友部さんに画面を見せる。

 すると彼女は無言でじっと見つめていた。

 

 ……何だろう。

 

 自分の好きな動画を人におすすめした時、こんな風に無反応だと不安になるよね。

 

「……面白いですか?」

 

「ん、あぁ。ダンジョンってこんな感じなのかーって思って面白い」

 

「友部さん回復魔法使えますけど、病院勤務ですもんね」

 

「一応探索者の免許は持ってるんだが、それだって魔法使うために取っただけだしなぁ」

 

「興味は無いんですか?」

 

「無いことは無いが……普通に怖いな。キミの前では格好をつけているが、それでもごく普通の女なのだよ。私は」

 

「わかってますよ」

 

 思えば俺も始めてダンジョンに潜った時は怖かった。

 もちろんワクワクもしたけれど、一人だったから怖かった。

 何で最初からソロなんだよ。

 

「あれ、のの猫ちゃんだー。私にも見せてー」

 

 友部さんと話していると、ビールをちびちび飲んでいた松本さんが俺の右側に腰掛ける。これにより、俺は友部さんと松本さんにサンドイッチされる形に。

 

「松本は彼女を知っているのか?」

 

「前相馬くんに教えてもらってねー。ダンジョンの勉強も兼ねてたまに見てるのよ」

 

「なるほどな……」

 

 それから二人はのの猫の配信を見ながら「ここの動き~」「ここの選択は~」と言葉を交わす。

 

 俺も俺で、気になる箇所が見つかればスパチャで指摘(俺の文章は気持ち悪いらしいので、二人には見えないように)する。なんで気持ち悪いんだろうね。顔文字がないと個人的には冷たい印象が出るから、少しでも優しくなればという想いなのに。

 

 そんな俺たちの対面では、眠る彼女さんに膝枕しながら、霜月さんから旦那の惚気を聞かされている彼氏さんの姿が。

 

(よかった、場所代わってもらって)

 

 霜月さんの惚気話とか、嫉妬で頭がどうにかなりそうなので絶対に聞きたくない。

 

 男子高校生の歪んだ独占欲である。

 

 

  §

 

 

「なんで私が……っ」

 

 翌朝。

 大人組が全員酒を飲んでしまったので、近くのビジネスホテルで一泊(部屋は別々)した後、俺たちは松本さんの車に揺られながら三船町へと帰っていた。

 

 車内には助手席に俺、運転席に松本さん。

 後部座席に霜月さんと友部さん。

 

 彼氏さんと彼女さんも自分たちの車で来ていたそうで、ビジネスホテルで別れを告げて去っていった。

 

「まぁまぁ、昨日遅くまで飲んでましたし」

 

「そりゃ分かるし、私の車だから私が運転するけど……でも、いざ後ろで爆睡されるとムカつくのよ~」

 

 言われて振り返るとすやすやの二人。

 うん、とっても気持ちよさそう。

 

「その代わり、向こうに着くまでは俺が話し相手になりますよ」

 

「ぐぅ……っ、一番年下なのにほんと良くできた子!」

 

「いえいえそんな。それに……少し二人で話したいこともありましたし」

 

「話し?」

 

 小首をかしげる松本さん。

 俺は短く深呼吸し、ぼんやりと正面を見つめながら口を開いた。

 

「……二年前、ですかね。俺が、両親の記憶を亡くした一件があったじゃないですか。二人の記憶が戻ったことは以前お伝えしたと思うんですけど……もう一つ、最近になって思い出したことがあって」

 

「……」

 

「むしろ、なんで忘れてたんだって様な事で……あの日、俺は探索者を助けに行ったんですよね?」

 

「……」

 

「松本さん、知ってたんですよね。俺が忘れたのは、両親の記憶だけじゃなかったって。……そうじゃないと、普通二人がどうなったか教えてくれますから。それで、教えてくれなかったってことはきっと——」

 

「……」

 

 俺の言葉に、松本さんは否定も肯定もしない。

 ただまっすぐ前を見据えて、ハンドルを握っている。

 

「教えてください」

 

 知ったところでどうにもならない。

 何にもならない。

 俺の推測が正しければ、ただただ悲しくなるだけだ。

 

 事実、思い出した当初は聞くのを躊躇っていた。

 勇気がなかったからだ。

 でも、知らなきゃならない。

 そうでないと、いつまでも一人うじうじと悩み続けることになる。

 

(ある意味、のの猫がぶっ壊れたのに触発されたのかもな……)

 

 あそこまで思いの丈をぶちまけるのもいかがなものかとは思うけど。

 

 俺の問いかけに松本さんは逡巡。

 小さくため息を吐くと、ゆっくり口を開いた。

 

「……相馬くんの、想像通りよ」

 

「……」

 

「別に相馬くんが悪い訳じゃない。誰も悪い訳じゃない。あの日の異変は二人で十分対応できるレベルだったし、相馬くんも加われば、むしろ安全と言えるレベルだった。ただ、それでも何が悪かったかと言えば——運が悪かった」

 

「……」

 

 ダンジョンは何が起こるか分からない。

 

 モノクルの男やナイトメア戦は異例中の異例であるが、そうでなくてもモンスターがいつもより多いことや、苦手なタイプのモンスターがたまたま多く集まった、なんてのはざらにある。

 

 そしてそれは、時に俺たちの想定を大きく上回ることもあるのだ。

 

「相馬くんが地上に帰ってきて気を失った後、二人は一時的に目を覚ました……いいえ、たぶん相馬くんに運ばれている途中でも薄っすら意識はあったのだと思う。そこで私は何があったかを聞いた。それで二人は……相馬くんの治療を最優先にって」

 

「……」

 

「ただ、勘違いして欲しくないのが……二人とも気付いてたんだと思う。もう、助からないって。お医者さんもそう言ってた。探索者だから生きていたけど、それも本当にぎりぎりだったって」

 

「そう、ですか」

 

「二人が亡くなったのは相馬くんが目覚める少し前。翌日、相馬くんに伝えようとはしたんだけど……」

 

「その前に俺が『両親の記憶がない』って泣きついたんでしたっけ」

 

 言われて思い出す。

 細かい記憶が埋まっていく。

 

 そうだ。

 俺はあの日、家に帰ってすぐに両親の記憶がないことに気付き、そのまま松本さんの下へと走ったのだ。

 

 怖かったからだ。

 怖かったから、色濃く記憶に残っている松本さんを頼った。

 

(俺が松本さんを好きなのは、その時助けてもらったからってのも大きかったんだろうな)

 

 閑話休題。

 

 だからこそ、松本さんは言えなかった。

 

 否、彼女じゃなくても、両親の記憶を失って泣きつく少年に「キミが助けようとした二人は死んだ」だなんて誰が言えるだろうか?

 

 言える訳が無い。

 

 そして、幸か不幸か両親の記憶がなくなる程一生懸命に助けた二人の事を忘れていたから——松本さんは伝えないという選択をしたのだ。

 

「……あの日ほど神様を恨んだ日はないわ」

 

「でしょうね」

 

 そりゃ誰でも恨みたくなる。

 あまりにも救いのない話だ。

 

「ごめんね、今まで黙っていて」

 

「いえ、俺を気遣ってのことだってのは、痛いほどわかりますから」

 

「……」

 

「ありがとうございます、話してくれて。……すみません、せっかく楽しかったのに、こんな暗い話しちゃって」

 

「気にしなくていいのよ、そんなこと。楽しいことなら、また何度でもやればいいんだから……ね?」

 

 そう言って頭を撫でてくる松本さん。

 俺も早く、こんな大人になりたいと思うのだった。

 

「も、もう少し寝てるか」

 

「賛成だな。すぴー」

 

 後部座席からそんな会話が聞こえた気がした。

 

 

  §

 

 

 同日の夜。

 寝る前にスマホを確認すると、探索者ギルドからメールが届いているのに気が付いた。

 

「なんぞこれ?」

 

 疑問に思いつつ開封すると、そこには以下の一文。

 

【相馬創殿。貴方を日本初、世界四番目のSランク探索者に任命することが正式に決定いたしました。つきましては東京にて認定式を行いたく思いますので、下記日程よりご都合の付く日をお教えください】

 

 ……マジか。

 時間の問題と思ってはいたけれど、ついに来た。

 

 どうやら俺はSランク探索者の仲間入りとなるらしい。

 う~ん、これは嵐の予感だね(涙)。

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