住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep17 新たなご近所さん

「すごぉ……、こんなの見たことありません」

 

「お母さん、ここ見て。すごい綺麗な形」

 

「こら、今は師匠! でもほんとね……見惚れちゃう」

 

「さ、触ってもいい?」

 

 シャルロッテさんの問いかけに首肯を返すと、彼女の白魚のような指が俺の身体を這う。

 

「へぇ、こんな感じなんだ」

 

「わ、私もいいですか?」

 

「ど、どうぞ」

 

 頷くや否や、ペタペタと俺の身体に触れるクラウディアさんとシャルロッテさん。思わず変な声が出そうになるのを、腹筋に力を入れる事で我慢。

 

「くすぐったいの? ぴくぴくしてる」

 

「感覚はあるんだ」

 

 二人の言葉を受け、俺は思った。

 

(おかしい……こういうのってそれっぽい台詞(・・・・・・・)だけど実は違うってパターンじゃないの!? 親子そろって俺の身体を撫でまわしてくるんだけど!?)

 

 唯一異なる点があるとすれば、それは彼女たちの興味が俺ではなく、二の腕より先の失われた左腕と、胸元に焼き付いた魔石式機構――特に後者へと向けられている点か。

 

 当初『服を脱げ』と言われた俺は困った。

 義手を作るにあたって確認は必須。おじい様の知り合いにオーダーメイドを依頼するときも確認してもらった。

 

 故に脱ぐのは当然なのだが、問題は胸の魔石式機構の存在だ。

 

 別に見られて困る物ではないが、何と説明しようかと考えている間にあれよあれよと服を脱がされ――結果、上裸の男子高校生に身を寄せる金髪美人の親子という、ちょっといけない絵面が生まれたのだった。

 

「そ、そろそろいいですか?」

 

「あ、はい! でも、あとで写真撮らせてもらってもいいですか!?」

 

「構いませんよ」

 

「ありがとうございます! ……それにしても、なぜ胸に?」

 

「まぁ、端的に言いますと、ダンジョンを攻略する際にモンスターの攻撃を受けて、そのまま焼き付いた感じです」

 

「ふむ、なるほど……」

 

 しばらく考え込むように顎に手を当てていた彼女だが、直ぐに顔を上げると笑みを浮かべる。

 

「何はともあれ、偶然とはいえ祖父の技術を見せていただきありがとうございます! 大変参考になりました! 参考に出来そうな祖父の魔石式機構もありますし……義手の方は期待してもらって大丈夫です!」

 

「それは良かったです」

 

 まぁ、見せたというより見られたというのが適切だけど。

 

「……私も、参考になりました。ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 どこかツンとした表情のシャルロッテさん。

 しかし魔石式機構に興味をそそられたのは本当らしく、興奮から若干頬が上気していた。

 

 弟子と紹介されたし、彼女も魔石加工職人を目指しているのだろう。

 こんなに小さいのに将来を見据えていて凄い。

 

 俺なんて探索者として生きていくかな~と、漠然と考えているだけで何も……いや、最近は友部さんに勉強を教わっているな。

 

 明確な夢が決まってるわけじゃないが、それでも俺は歩いている。

 今はそれだけで良しとしよう。……何の話だっけ?

 

「それで、お二人はこれからまたドイツに帰られるのですか?」

 

「? いえ、こちらに家を借りました!」

 

「……え?」

 

「そこです!」

 

 と言ってクラウディアさんが指さした先は我が家の窓。

 そこから見える一軒家だ。

 

 確か何年か前に空き家になって、その手の回収業者がリフォームして貸し出していたはずだ。生憎と三船町は超が付く田舎なので、誰も住んでいる様子はなかったが……なるほど、彼女たちが住むのか。

 

 というか、断られたらどうするつもりだったのだろう。

 

 プレゼントしたいって言っていたし、俺が断っても住み込んで作るつもりだったのだろうか? すごい執念だ。

 

「これはこれは……ご近所さんとしてよろしくお願いしますね」

 

「はい! お願いします!」

 

「……お願い、します」

 

 元気なクラウディアさんに対し、シャルロッテちゃんはどこか落ち着いている。

 何というか、背伸びして大人びて見せてる子供って感じ。

 

「因みにお二人だけで?」

 

「そうですね! 旦那とは五年前に離婚してるので! シャルは……ほんとはドイツの学校に行って欲しいんですけど、元々引きこもり気味だったところに魔石加工にハマってしまいまして……」

 

「付いてきちゃったと」

 

「まぁ、それならそれでいいかもと思ったので連れてきました」

 

「連れてきたんだ……」

 

 苦笑を浮かべる俺に、にこにこ笑顔のクラウディアさんと、ツンとしたシャルロッテさん。

 

 こうして個性的なご近所さんが増えた。

 

 

  §

 

 

 それが期末試験一日目の放課後の出来事。

 以降は俺の腕のサイズを測ったり、重さを測ったり。

 

『義手の魔石式機構を作る材料に高純度の魔石が必要』と説明を受けた際は、それならとナイトメア・ゴブリンロードの魔石を一つお渡しした。

 

 際しては「これはとある戦士の魔石ですので、大切に使っていただけると幸いです」と伝えておく。

 

 モノクルの男と共に現れた大量のナイトメア種。

 

 男の言葉が真実ならば、あのゴブリンたちはダンジョンが作り出したモンスターではなく、モノクルの男と同じ異世界に住んでいた『異世界人』なのだろうと言うのが俺の結論だった。

 

 故に、彼が『戦士』と呼んでいたゴブリンたちに、俺は一定の敬意を表すことにしている。魔王から仲間を守るために、先陣を切って侵略しに来たのだから。

 

 はた迷惑なことは変わりないけれど、それと彼らの心情は別問題。

 

 まぁ、だからと言って、これからもモンスターを倒すのに躊躇することは無いが。

 

 俺の説明にクラウディアさんは疑問符を浮かべていたが、それでも「分かりました」と真摯に答えて魔石を受け取ってくれた。

 

 それから数日。

 二人が義手作りに没頭する中でも俺の生活は変わらない。

 試験を受けて、答案を半分埋めて。

 放課後になると友部さんと勉強会。

 

 そうこうしている内に四日間の試験期間が終わり、次は返却期間。

 雀の涙のような点数に涙を流す一方、七規はというと。

 

「見て見て~、全教科九十点以上だったよ~」

 

 と、超人みたいなことを言っていた。

 

 よく考えれば七規って優秀だったんだよなぁ。

 家は金持ち。成績優秀。容姿端麗。

 生け花の腕前は全国レベル。

 コミュ力も普通にある。

 探索者じゃなくても、絶対人生成功させられるタイプの女の子だ。

 

 そんな子に好かれていると思うと、俺も頑張らないとなと背筋を伸ばしたくなる。これからも勉強を頑張ろうと決意を新たにしつつ、返却期間は過ぎ、一学期の終業式も終えた俺たちは——。

 

「あっつ」

 

 いよいよもって夏休みに突入した。

 

 そして本日は七規、幸坂さんの二人と『夜叉の森ダンジョン』に潜る日である。

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