住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep18 夜叉の森探索者ギルド

「せんぱい汗だくだね~」

 

「そういう七規もだろ? というか、俺たちはまだしも——幸坂さん、大丈夫ですか?」

 

「……ぇ? う、うん。大丈夫、だよ」

 

 俺と七規の視線の先。

 そこには車から巨大な盾を下ろす幸坂さんの姿があった。

 

 夏休みに入って三日後である本日。

 俺たちは予定通り『夜叉の森ダンジョン』を訪れていた。

 俺、七規、幸坂さんのパーティーが初めて稼働する日である。

 

 同所までは幸坂さんの車で一時間半の道のり。

 電車の方が早いのだけれど、幸坂さんの荷物が荷物だから仕方がない。

 

「手伝いますよ」

 

「あり、がと……っ、ふぅ」

 

 額から汗を流す幸坂さんは、何とも魅惑的なタンクトップ姿。

 割と内気気味な彼女の大胆な露出に男子高校生としてはぐっとくるものがある。

 もちろん七規の手前、平静を装って入るが。

 

「あっつ」

 

 幸坂さんは汗を拭いつつ、ポケットからヘアゴムを取り出すと、口にくわえて長い頭髪を一つにまとめた。

 

「……」

 

「……せんぱい?」

 

「あ、いや、幸坂さんが髪結ぶの珍しいなって見てただけだから」

 

「……ほんと?」

 

「ほんとほんと」

 

 仕方ないって。

 あれは見ちゃうって。

 

「……せんぱいが言ってくれたら私はいつでもその髪型にするからね」

 

「それは嬉しいけど、俺は七規が自分で好きな髪形をしているのが一番いいと思うぞ。素材が良いから何でも似合うだろうし」

 

「……っ、そ、そっか。えへへっ」

 

 無表情ながらに照れる七規。

 彼女の服装は白のワンピース。

 

 ダンジョンに潜る際は長袖長ズボンに着替えることになるが、現在は何とも涼し気な格好か。まるで深窓の令嬢のようで非常に可愛らしい。むしろ美しいとすら思えてくるな。

 

 本当にうちの後輩は顔が良い。

 

「……あっつ」

 

 俺たちを見つめながら呟く幸坂さん。

 

「そこまで暑いですか?」

 

「うん、アツアツ、だね」

 

「? ならギルドに急ぎましょうか」

 

「幸坂さん、私も持ちますよー」

 

 そうして彼女の装備の運搬を手伝いつつ、夜叉の森ギルドへ。

 自動ドアの先のクーラーが気持ちいい。

 

「生き返るー」

 

「それじゃ、とりあえず登録手続きをしますか」

 

 そう言って俺たちは受付へ。

 登録とは以前幸坂さんが三船ダンジョンに潜る際に行ったものと同じで、当該ダンジョンに潜る際に必要な手続きだ。

 

 誰が潜っているのか把握しておかないと、帰還が困難な状況などに陥った際、応援を出すことが出来ないからな。

 

 俺たちが向かった先。

 受付に居たのは見覚えのある地雷系人妻。

 

「わぁっ! そ、相馬きゅんっ!」

 

「入江さん。お久しぶりです」

 

「……え? せんぱい知り合いなの?」

 

「あっ、えーっと、ほら、七規が三船に来る前に、何度か夜叉の森にも潜ったことがあって、その時からの知り合いだよ」

 

「……そうなんだ」

 

 なんとか誤魔化せただろうか。

 それにしてもついうっかりしていた。

 危うく、前回の夜叉の森の異変対応が俺だとバレるところだった。

 

 七規の過保護は期末試験終了後、夏休みに突入しても続いている。

 

 朝起こしに来ることは無くなったが、それでも昨日、一昨日と遊びに来ている。俺も暇してたから別にいいんだけどね。

 

 因みに何をやっていたかというと、いかがわしいことは何もなく、霜月さんも含めた三人でゲームして遊んだ。まさかの霜月さんの圧勝である。

 

 閑話休題。

 

「とりあえず、二人の探索者登録お願いしていいですか?」

 

「はぁ~い♡」

 

「……」

 

 甘い声で返事する入江さんに、七規は無表情ながらに不機嫌そうな視線を向ける。付き合いが長くなってきて、もう大体彼女の表情は読めるようになってきたな、なんて思いつつ軽く頭を撫でて宥める。

 

「やっ、もう。汗かいてるからだめ」

 

「別に何もないから力抜け」

 

「……わかった」

 

 渋々と頷く七規は幸坂さんに倣って登録手続きを始める。

 その間手持無沙汰な俺はギルド内をきょろきょろ。

 

 前回は深夜だったので人っ子一人居なかったが、休日の昼間である現在は大勢の人であふれかえっていた。

 

 知り合いなどいないが……至る所から視線が飛んでくるのが分かる。

 

 俺たち——正確には俺に、向けられる好奇の視線。

 

(そりゃ気付くよなぁ)

 

 別に変装している訳でもないし、何より俺には左腕がないという特徴がある。これで気付かないと言う方がモグリだろう。

 

 まぁ、見られるぐらい気にしない。

 

 いや待て、普通なら囲まれるよな?

 だって俺、ダンジョン完全攻略したんだぜい?

 

 きゃーきゃー言われたいよ。

 ちやほやされたいよ。

 正直言うと、その為に変装してこなかったんだから。

 

 いいよ、サインするよ?

 握手するよ?

 俺は意外と承認欲求の塊なんだよ?

 

 しかし残念ながら、誰も彼も遠巻きに眺めるのみ。

 

「あれ相馬創じゃない?」

「え、本物?」

「こんなとこに居るはずないでしょ?」

「でもさっき入江さんが」

「それにあの腕」

「ほ、ほんとだ……」

「話しかけてもいいのかな?」

「やめといた方が良いんじゃない?」

「怖い人だったらどうしよ」

 

『何でだよ』と思いつつ、しかし俺とて有名人が目の前に居ても話しかけられる自信はないので何とも言えない。

 

 例えばのの猫が目の前にいたとしよう。

 話しかけられるか?

 ……絶対に無理。

 遠巻きに眺めてきゃーきゃー言うのが関の山である。

 ガチ恋勢はシャイなんだ。

 

 なんて考えながら周囲の声に耳を傾けていると——。

 

「なんだアイツは?」

「兄者! あれが相馬創でさぁ!」

「なに? あのマッチポンプ糞野郎という?」

「へぇ! その通りでさぁ!」

「ふんっ、三船で引きこもっているならまだしも、俺の縄張りに踏み込むとは、調子に乗っているようだな」

「その通りでさぁ!」

「どれ、一つこの俺がお灸をすえてやるとしよう」

 

 と、何やら不穏な会話が。

 

 ちらりと視線を向けると、下卑た笑みを浮かべた大男がのっしのっしと近付いてきた。そして——。

 

「お前が相馬創か」

 

 俺を見下ろしながら話しかけてきた。

 もっと平和に行こうよ。

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