住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep19 二人の戦闘

「お前が相馬創か」

 

「そうですが、なにか?」

 

 目の前まで来た大男。

 彼の一挙手一投足を観察して、俺は気付く。

 

(……Dランクぐらいか?)

 

 正直大口を叩いていた割にはあまり強そうに見えない。

 

 魔法の腕前にもよるのかもしれないが、のの猫よりも格下だろう。幸坂さんよりも下。七規と同格は……流石に言い過ぎか。

 

 ただ場所がダンジョン内で魔法ありの勝負なら、七規でも勝てるかもしれない。そんな相手である。

 

 果てさて何を言われるのか。

 

 大男は俺をじっと見降ろし、全身を観察して……徐にそれまで浮かべていた下卑た笑みを引っ込めると、腰をかがめて目線を合わせてきた。

 

 突然のことに驚いていると、彼は俺の左腕を指さし口を開く。

 

「う、腕、痛むのか?」

 

「え? あぁいえ。多少不便ではありますが、幻肢痛とかそういうのはありません」

 

「そうか。……Sランクになるってのは本当なのか?」

 

「そうですね。ギルドからそのように聞いてます」

 

「それは……おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 なんだこの会話。

 

「その、握手してもらってもいいか?」

 

「構いませんよ」

 

 右手を差し出すと、彼は両手でぎゅっと握る。

 

「ありがとう。その……応援している」

 

「は、はい。お互い頑張りましょう」

 

 返事をすると、大男は黙礼して立ち去って行った。

 

 やがて聞こえてくるのは大男を『兄者』と呼んでいた細身の男の声。

 

「あ、兄者!?」

 

「ふっ、やべぇな。ありゃ最強だぜ。俺握手してもらっちった」

 

「マジですかい兄者!」

 

「あぁ、間近で見りゃオーラが全然ちげぇ。誰だよマッチポンプとか言ってる奴。ぶっ飛ばすぞ。見りゃわかる。ありゃあ本物だな。うひょ~、テンション上がって来たぁ! こりゃあ一生の思い出だぜ!」

 

「マジっすか兄者! 良かったっすね!」

 

「あぁ!」

 

 そんな二人のやり取りを横目に俺は閉口。

 結局何だったんだ?

 

 ……まぁいいか。

 めちゃくちゃ褒めてくれてるっぽいし。

 むしろ握手して喜ばれるという理想ムーブが実現したことを喜ぼう。

 相手はいかつい大男だったけどね。

 

「せんぱい、何かあった?」

 

「ん、あぁいや、握手求められただけだ」

 

「そっか」

 

「そっちは登録終わった?」

 

「うん、終わった、よ。更衣室が、あるから、そこで、着替えて、いいって」

 

「それじゃあそろそろ行きますか」

 

 そうして俺たちはギルドに併設された更衣室へと赴き、着替えを済ませる。俺も本日は半袖で来たので長袖にフォルムチェンジ。

 

 更衣室の前で待つこと数分。

 

 まず最初に現れたのは両手に巨大な盾、背中に小さな盾を装備した幸坂さんだった。相変わらずの要塞仕様はとてもかっこいい。

 

 そしてその後ろから現れたのは、先ほどの幸坂さん同様に髪を後ろで束ね、軽鎧とナイフ、左手に小さな盾を装備した七規だった。

 

「似合ってるな。探索者って感じだ」

 

「探索者だもん」

 

「そうだったな」

 

 何て他愛のない話をしてから、俺たちはギルドの奥へと進んで行く。

 三船ダンジョンがギルドから徒歩三十秒ほどの距離にあったのに対し、夜叉の森ダンジョンはギルド併設となっている。クーラーの効いたギルドにさようなら。

 

 俺たちは蒸し暑い夜叉の森ダンジョンへと足を踏み入れた。

 

 

  §

 

 

 いやぁ、相変わらず凄い光景だなぁ。

 

「えぃぃ」

 

 幸坂さんが盾を振う。

 

『『『『GYABAAAAAA!!』』』』

 

 モンスターが蹴散らされる。

 見事なまでの虐殺だ。

 

 現在俺たちがいるのは十階層。

 

 七規も居るし、何より二人は夜叉の森が初めてなので、あまり深く潜るつもりはなかった。故に、Cランクの幸坂さんにとっては出てくるモンスターはすべて雑魚当然なのだが……とはいえ、目の前の光景は中々衝撃的。

 

 夜叉の森に生息する森ゴブリンが幸坂さんに襲い掛かる。

 

「せぇぇぃ……」

 

 小さな掛け声で肉片に変わる。

 怖いね。

 

「幸坂さんすっごぉ」

 

 これには七規もびっくり。

 分かるよその気持ち。

 俺も最初はそうだったから。

 

「……どう、ですか?」

 

「いい感じですね。前回注意した目を瞑る癖も意識して治そうとしているのが分かります。周囲への警戒も十分ですし、引率自体は後一、二回で大丈夫そうですね」

 

「うん、ありがとう! でも、その後も、良ければ——」

 

「はい、パーティーは継続させてもらえると俺としても嬉しいです。誰かと一緒にダンジョンに潜るの、初めてなので」

 

「っ! うん!」

 

「それじゃあ次は——」

 

「私だね。見ててせんぱい——『ドミネーション』」

 

 お次は七規に視線を向けると、彼女は草原に居たスライムを使役。

 スライムはぴょんぴょん跳ねながら近付いてきた。

 

「かわいい」

 

「ほんと、だね」

 

 丸くてふよふよしたスライムは、その見た目から女性人気が高い。

 モンスターにしては珍しく、グッズ展開されるほど。

 

 さらに、その粘液質な身体から男性からの人気も高い。

 こちらもグッズ展開(R18)されるほど。

 

 だが、俺は嫌いだ。

 何度こいつに窒息させられたか。息を吸っても意味はなく、喉をスライムが通り抜ける感覚はまさしく地獄である。

 

「よし、それじゃあ次はそのスライムを使って別のモンスターと戦わせてみよう」

 

「……え、か、可哀想だよ、せんぱい」

 

「……なるほど」

 

『ドミネーション』——伸ばせばまさしく最強格になりうる魔法であるが、七規のような少女が持つと、こういうことになるのか。

 

 俺は顔に手を当て深呼吸。

 

「七規」

 

「なに?」

 

「次から可愛い系のモンスターに『ドミネーション』使うの禁止な」

 

「う、うん。わかった」

 

 小さく首肯する七規。

 正直「いいから黙って戦わせるんだよ!」と言ってもいいとは思うが、七規には逆効果だろう。

 

 ここで無理やりやらせても彼女の力が十全に発揮されることは無い。

 

 魔法は感情に左右されることこそ無いが、集中力は感情に左右される。ダンジョンという空間において、高いテンションを維持するのは必須技術だ。

 

 それに、戦闘は非情になればなるほど研ぎ澄まされていくが、それと同時に心は疲弊してすり減る。

 

 ダンジョン以外での生活もあるのだから、あくまでも『探索者は一つの仕事』という心持ちを忘れてはいけない……と、俺は思う。

 

 要はあれだ。

 パワハラ、ダメ、絶対。

 

「それじゃあスライムはやめて——」

 

 次に七規が使役したのはコボルト。

 二足歩行の小さな狼だ。

 

 彼女はコボルトを七体使役すると、群れを引き連れ他のモンスターと戦闘を開始した。

 

「右、左、後ろから来てるよ!」

 

 適時コボルトに指示を飛ばす七規。

 視野は狭いが、指示自体は悪くない。

 地頭の良さという奴だろう。

 

 だが、それだけで攻略できるほど、ダンジョンは甘くない。

 

 七規は気付いていないが、右方向の木の上。

 そこにスケルトンが弓を構えていた。

 

 やがて矢が発射されても七規は気付かず——彼女に当たる直前で俺が矢を弾く。

 

「……へ?」

 

「七規、前」

 

 矢に意識が向いた瞬間、夜叉百足がコボルトの間を抜けて七規に迫る。

 

 完全に手遅れ。自衛のためのナイフを手にしようとするが、焦って地面に落とし、慌てて拾おうとバランスを崩して尻もちを着いてしまう。

 

「せいっ」

 

「せ、せんぱい……」

 

「指示が止まってる」

 

「……っ、うん! ごめんせんぱいっ!」

 

 僅かに震える足。

 それを叩いて立ち上がり、七規は悔しそうに唇を噛みしめながら指示を再開。

 

 以降は特段問題もなく、モンスターを討伐し終えるのであった。

 

「さて、それじゃあ反省会だな」

 

「うぅ~」

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