住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが? 作:赤月ヤモリ
東京に到着した一日目。
探索者ギルドが用意したホテルに荷物を置くと、俺は一人で探索者ギルド東京支部へと足を運んでいた。
「初めまして相馬創さん。私の名前は狸原。よろしくお願いします」
「ど、どうも。お願いします」
そう言って握手した相手は中年のおっさんだった。
口元に優し気な笑みを浮かべつつも、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべる彼に、俺は続く言葉を失う。
本日は明日に控えた認定式の打ち合わせ。
そのために、ギルドのお偉いさんと顔合わせを行うことになったのだ。
それが決定した時、俺は思った。
なんで探索者を補充してくれなかったのか、と聞いてやると。
答えによっては法的に訴えてやる、と。
だって許せない。
彼らのせいで、俺は忙殺される日々を送っていたのだ。
学校にも通えない。
女子からちやほやしてもらえない。
そんな寂しい青春を送っていたのだ。
これは許せない。
あ、あと左腕のことも。
ちゃんと探索者を派遣してくれていれば俺の左腕も……いや、それはどうだろうか? 正直あの場にレイジのパーティーが居たとしても、怪我の具合は変わらなかった気もする。
俺がナイトメア種にならなければ、どのみちナイトメア・ゴブリンロードに全滅させられていただろうし。
Sランクが三人いれば話は別だろうが。
そんなのは不可能だ。
不可能なことを告げるほど、俺は理不尽じゃない。
閑話休題。
何はともあれ、文句のひとつでも言ってやろうと思ってきたのだが……。
「まずは謝罪させてください。貴方の要求を断り続けて申し訳ありませんでした」
「……理由をお聞かせ願えますか?」
「当然の権利ですね。と言っても、ある程度想像は付いているかもしれませんが……三船ダンジョンの異変、その頻度を危惧しての判断となります」
「……」
全然想像してなかったぜ。
「三船ダンジョンは非常に危険なダンジョン。それを高校生である相馬さんに任せるのは大人として恥ずべきことではあります。しかし、年齢など関係なく、貴方は強大でした。日本最年少、最速でのAランク昇格に加えて、世界第二位の魔力量ですから」
「……それは」
言われて見れば、そうかもしれない。
異変はいつ起こるか分からない。
三船ダンジョンは過疎っていたが、人の多いダンジョンでは潜っている誰かが発見することも珍しくはない。実際、以前夜叉の森ダンジョンで発生した『夜叉百足』の異変は、探索者が球体であることを目撃している。
夜叉百足の様に逃げられる異変ならまだいいが……三船ダンジョンは少しばかり異常だった。今思えば、モノクルの男がこちらの戦力を測っていたのだろう。
そこに、生半可な探索者を投入するのは確かに危険だ。
最低でも幸坂さんや白木、成長したのの猫レベルの戦闘力がないと逃走すら難しい。
「そして、上位探索者は動かすのが難しくもあります。よって、我々としては相馬さんに頼らざるを得なかった、というのが私の考えでございました」
「そう、でしたか……」
個人的に、お偉いさんって何も考えてないと思っていた。
椅子にふんぞり返って、部下の手柄を奪うだけ、みたいな。
でも実際はそんなことなくて、何かを行わないのはそれなりの理由があってのことなのだ。
「なら、せめて事前に説明しておいて欲しかったですが」
「申し訳ありませんでした。以後、このような事が無いよう改善に努めてまいりたいと思います。また、迷惑料として幾ばくかお渡しする予定でもございます。と言っても、相馬さんが手にした魔石の額と比べると、雀の涙のような物でしょうが」
頭を垂れて誠心誠意謝罪する狸原さん。
まぁ、落としどころとしてはこんなところだろうか。
過ぎたことをこれ以上攻めても仕方ない。
「……はぁ、分かりました。それじゃあ——」
「狸原ぁ! 相馬くんが来ているという話を聞いたのだが……おぉ! 相馬くん!」
唐突に扉を開けて入って来たのは数人の老人。狸原さんより一回り二回り年上に感じられる彼らは、俺を見つけるなり喜色の笑みを浮かべて取り囲む。
「相馬くん!」
「相馬創くんだ!」
「生相馬くんかっこよすぎてやばば!」
「うひょ~、孫に自慢しちゃお」
「三船ダンジョン攻略おめでとう! 流石わしの最推し!」
「史上最年少にしてこの偉業、かわいい子には旅をさせろとは、まさにこのことよのう! ふぉっふぉっふぉっ!」
「は、はぁ……ん?」
困惑しつつも、俺は最後の老人の言葉に引っ掛かりを覚える。
かわいい子には旅をさせろ?
どういうことだ?
「皆さん、今はお引き取り下さい!」
そう言って狸原さんが老人たちを部屋の外へと追い出した。
残ったのは俺と狸原さん、そして彼の秘書だという宮本さん(超美人)。
「……狸原さん。今のは?」
「……」
「かわいい子には旅をさせろ、って……なんでこの場でその言葉が出てきたんですか?」
「……」
「狸原さん?」
何と言うべきか眉間にしわを寄せる狸原さん。
そんな彼に変わり、宮本さんが口を開いた。
「それは、先ほどの老害共が『やっぱり相馬くんの成長には試練が必要だよね! 辛いかもしれないけど、これを乗り越えた時、相馬くんはきっと日本最強のSランク探索者になる! 探索者の補充はなしで!』みたいな考えを持っていたからです」
「おい、宮本!」
「……本当ですか?」
「はぁ……えぇ、そうなります。今相馬さんの前で発言したように、あれらはギルドの幹部ではありますが耄碌した愚か者です」
「つまり、先ほどの説明は言い訳だったと?」
「いえ、お伝えした通り、あれは私の考えです」
確かに先ほど『私の考え』と言っていたな。
ギルドの、ではなくあくまでも狸原さん個人の、と。
「ということは、先ほどの人たちは自分たちの推しが活躍して欲しいから、的な理由で俺にあんな……あんな死ぬほど忙しい日々を……?」
「……」
これはちょっと、許せませんねぇ。
思わず引き攣った笑みを浮かべていると、狸原さんと宮本さんは一瞬目配せした後、提案してきた。
「「訴訟するのでしたら、お手伝いします」」
「是非ともよろしくお願いします」
Sランク認定前日。
俺は訴訟を決意した。
次なる戦場は法廷とか、流石に笑えないぜベイベー。
§
「そう言えば、以前お送りした映像に関して、その後進展はありましたか?」
「映像、と言いますと——異世界からの侵略者に関することでしょうか?」
狸原さんの言葉に俺は首肯。
すると彼は難しい表情を浮かべて口を開く。
「そうですね。既にギルド上層部と政府に話は通し、現在世界ダンジョン機構に通達。議論を重ねている最中、とお伝えするのが良いでしょうか」
「意外に進んでるんですね」
「日本国内では、ですね。先程の老害共はあれでもギルドトップですし、そんな彼らが相馬さんのファンだったことが、この場合幸いしております」
それは何とも複雑な事か。
「日本国内、と限定したのは?」
「そのままの意味です。国外においては『いちAランク探索者の戯言では?』との見解が噴出しており——だからこそ、相馬さんのSランク昇格を急いだという背景があります」
そこで繋がってくるのか。
妙に早いとは思っていたが。
「ですが、日本の発言に懐疑が生じているのに対し、その当人をSランクにしたところであまり意味はないのでは……?」
「……これは、あまりプレッシャーを掛けたくないのでお伝えしたくなかったのですが……つまりは相馬さんのSランク昇格は日本が世界に示す
何それ、ほんとにプレッシャーじゃん。
「まぁ、別に大丈夫ですよ。本当のことですから」
「……貴方は、変なところで豪胆な人ですね」
「そうですか? 割と傷つきやすいピュアボーイを自称しているんですが」
そんな俺に、狸原さんは苦笑を返すのだった。
§
それから明日の予定を確認し、ギルドを後に。
ホテルで待ってる両親と合流して観光にでも向かうか、と意気込んでいると——キャップ帽に半袖のパーカー、緩めのジーパンを履いた女性がギルド本部の屋上から
ぴょんて感じで。
十階以上はあると思うのだけど、軽く足を曲げるだけで勢いも衝撃も何もかもを殺し、埃一つ舞い上げることなく現れた彼女はゆっくりと口を開く。
「……最強観察」
彼女の声に、俺は聞き覚えがあった。
誰だったかと目深にかぶった帽子の下へ視線を向けると……そこには。
「……し、時雨雫さん?」
Aランク探索者にしてレイジのパーティーメンバー。
時雨雫がそこには居た。