住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep32 女子パーティー

「笹木さん、カメラ下げて!」

 

 私たちを見つけたのの猫……さんの第一声はカメラマンへの指示だった。

 瞬間、彼女の後ろにいた女性が慣れた動きでレンズを下げる。

 

 私たちを捉えている暇もない動き。

 ダンジョン配信者として活躍する以上、周囲の人を映さないよう動くのは慣れているのだろう。

 

 まぁ、その辺り気にせずガンガン周囲の人を映しまくる配信者もいるけれど。

 少なくとものの猫はその手の輩ではないらしい。

 

「いやぁ、ごめんね~今日はこの階層で配信してて。映ってないとは思うけど、後でアーカイブ確認して編集はしとくね」

 

 その言葉にまず反応したのは白木さんだった。

 彼女は真っ先に口を開き、真っ先に小首をかしげる。

 

「配信? あ、あーかいぶ?」

 

「なんでわからないのに真っ先に口を開くの!?」

 

「……ダンジョン配信、前レイジがやってた」

 

「あー、あれか! え!? それじゃあ何百万人がそのカメラの向こうに!?」

 

 白木さんたちの会話にのの猫は苦笑。

 

「あはは、そんな何百万人もいないにゃ~。精々一万人行くか行かないかぐらい?」

 

「わー! ほんと!? やはー! どーしよ! 最強で最高に可愛い私が世界に知れ渡っちゃうぜぇ~! 人気者になっちゃうなぁ~!」

 

「今カメラは下がってるよ!?」

 

「……人気者、金持ち……美味しい物、たくさん」

 

「食いしん坊キャラがすぎるよ!?」

 

 ボケる白木さんと友利さんを、江渡さんは一人で抑える。

 抑え……られているのだろうか?

 

 兎にも角にも、そんな三人は今は放置。

 私と幸坂さんが代わりにのの猫と会話。

 

「すみません、うちの仲間が。すぐに行きますので」

 

「別に気にしてないよ~。って言うか、迷惑をかけるのは不本意だし、こっちが動くからゆっくりしてよ」

 

 これも配信者としての矜恃だろうか?

 そういうことならお言葉に甘えよう。

 

「あ、因みにこの後は何階層に行くんですか? その、申し訳ないんですけどあまり顔を映したくないというか……なので、教えて頂けると助かります」

 

「もちろんだよ! 私たちはこれから——」

 

 と話し始めた瞬間、モンスターの気配が近付く。

 大きな足音に、ふざけ合っていた白木さんたちも警戒を強める。

 

 私は先ほどドミネーションしたゴブリンとコボルトを四方に展開。

 それぞれに、モンスターが接近すると大声を出すように指示を出しておく。これで、現在進行形で接近してくる大物以外のモンスターを幾分か気にせずに戦うことが出来る。

 

 それはせんぱいと一緒に考えた方法。

 ソロなら本体の私が弱いから意味をなさないけど、パーティーを組んでいる今なら、索敵は大きなメリットになる。

 

(元々ソロ向きの魔法じゃないなら、パーティー向きの動きにシフトする……!)

 

 と、自分の役割を考えていた時だった。

 

 森から飛び出してきたのは、上半身が牛で、下半身が人のモンスター。

 体長は三メートル近いだろうか。

 丸太の様に大きな腕に加えて、その巨体をも超える大きなバトルアックスを手にしている。

 

「……っ、ミノタウロス!? こんな低階層で出るモンスターじゃないでしょ!?」

 

 のの猫の悲鳴にも似た言葉に、全員が静かに息をのむ。

 ミノタウロス――それは非常に有名で、Bランク指定のモンスター。

 

 夜叉の森では五十五階層付近で目撃されている。

 

 そんなモンスターが二十二階層に出現した。

 それも、武器を持つ個体である。

 

 通常のミノタウロスは武器を持たない。

 身体も、二メートル程だ。

 

 つまるところ、目の前の個体は明らかに異常。

 討伐推奨ランクも、BランクではなくAに近いと推測できる。

 おそらく夜叉の森ギルドでは『異変』を知らせるアラームが鳴っていることだろう。

 

 逃げるべきか? と悩んだ瞬間——怒声が響く。

 

「下がってッ!!」

 

 聞いたこともない幸坂さんの声。彼女は吠えながら両手の盾を構え——いつの間にか接近していたミノタウロスの斧を真正面から受け止める。

 

「ぐっ――」

 

 衝撃で地面が網目状にひび割れ――競ったのはほんの数秒だった。

 斧の勢いは留まるところを知らず、やがて幸坂さんの身体が宙に浮いて、後方へと弾き飛ばされる。私たちの横を飛ばされ、地面を数度バウンドした幸坂さんは後方の木々にぶつかって静止する。

 

「……ぁ、こ、幸坂さん!」

 

 頭から血の気が引く。

 私は大急ぎで彼女の下へと駆け寄ろうとして——その前に、当の本人が立ち上がる。

 

 両腕の大盾を杖代わりにしながら、口の中の血を吐き出した。

 

「大丈夫、だよ……これでも、頑丈、だから」

 

「で、でも……!」

 

「いいから、七規ちゃん、は、警戒継続。……白木ちゃん、友利ちゃん。いける?」

 

「ん~、ちょー怖いけど、いけるよ」

 

「……タン塩、カルビ、ロース……焼肉食べたい」

 

 こんな時に緊張感のない二人であるが、その余裕が今の私には心強かった。

 そうだ、ミノタウロスは強力なモンスターだけど、こちらの戦力だって充分以上なんだ。

 

 Aランク探索者が必要な案件は無理でも、それ以外のある程度の異変なら対応してしまえる程度に強い。何しろ私を除いて全員Cランク探索者。

 

 特に、せんぱい曰く白木さんはBランクでもおかしくない程度には強いらしい。

 

 笹木さんのランクは知らないけど、それでもやってやれないことは無い戦力のはずだ。

 

 まずは幸坂さんと友利さんが前に出る。

 

「私が、受け止める」

 

「……私は捌く」

 

 次いで白木さんとのの猫が彼女たちの後ろで隙を伺う。

 

「なら、私が脳天叩き割る」

 

「のの猫さんも手伝うにゃー。急所ぶっ刺してぶっ殺す」

 

 江渡さんと笹木さんが、さらにその後方で魔法を構える。

 

「なら、私は魔法で支援を」

 

「自分も、少しなら援護できます」

 

 そして、残った私は……きゅっと唇を噛みしめてから、彼女たちに続いた。

 

「わ、私は、他のモンスターが来ないか警戒します! 皆さんはミノタウロスに集中してください!」

 

 その言葉に即答したのは、せんぱいの次に一緒にダンジョンに潜っているパーティーメンバーで——幸坂さんはちらりと私を見やると、口端を持ち上げて答えた。

 

「うん、任せた!! ——行くよッ!!」

 

 即席パーティーによるミノタウロス戦が始まった。

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