住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep37 Sランク探索者の移動法

 遡ること数時間前。

 

 東京の認定式で松本さんの電話を受けた俺は即答した。

 

「すぐ行きます」

 

『す、すぐ行くって——』

 

 俺は松本さんの電話を切ると、狸原さんに駆け寄り事情をかいつまんで説明。

 彼は眉間にしわを寄せて十秒ほど悩んだが、最終的には苦渋の決断と言わんばかりに首を縦に振ってくれた。

 

「わかりました」

 

「いいんですか?」

 

「もちろんよくありませんが……相馬さんの大切な人なのでしょう? なら、断ることはできません。それに、責任問題に関しても、相馬さんの為なら喜んで首を切ってくれそうな老いぼれたちに心当たりもありますので」

 

「……ありがとうございます」

 

「それで、移動はどうするのですか? 空港にチャーター便を——」

 

「いえ、それじゃ時間が掛かるので……屋上へ案内してください」

 

「お、屋上?」

 

 困惑する狸原さんに対し、横で話を聞いていた宮本さんが「こっちです」と会場の外へと案内してくれる。そんな彼女の背を追いつつ、俺はエレベーターに乗ってホテル最上階へ。

 

 そこから非常階段を使って屋上に出ると、スマホのマップアプリで夜叉の森ダンジョンの方角を検索。

 

「何を……って、まさか!?」

 

「はい、そのまさかです。それじゃ、後はよろしくお願いしますね」

 

 そう言うと、俺は全身に魔力を巡らせて空中に氷の足場を生成すると——それに飛び乗って一気に跳躍。氷が砕けるほどの勢いで一気に加速し、夜叉の森ダンジョンへと向かう。

 

 落ちそうになるたび足場を生成、氷が落下する前に消して、また新たに作り出してを繰り返し、勢いを殺すことなく空を駆け抜ける。

 

「魔速型の完成形……舐めるなよ」

 

 そうして三十分ほどで、俺は夜叉の森ダンジョンへと舞い戻った。

 

 新幹線でも二時間弱かかる距離であるが、上空をまっすぐ突っ切った結果恐ろしいまでの時間短縮だ。

 

(まぁ、公共の場での魔法の使用は犯罪だから、後で怒られるんだろうけど)

 

 夜叉の森探索者ギルドに入ると周りからぎょっとした目で見られる。

 つい先ほどまで東京から生放送されていた人間が同所に現れたのだから当然だろう。

 

 救助の為に多くの探索者が集まる中、人ごみを割って入江さんがやってくる。

 

「そ、相馬くん!」

 

「状況は?」

 

 すると答えたのは入江さんではなく、青い顔で側にいた江渡さんだった。

 

「……し、白木ちゃんと、幸坂さん、七規ちゃん……それと、ダンジョン配信者ののの猫さんの四人が、二十二階層の転移魔法陣に飲まれて……現在行方不明です」

 

「……なっ!?」

 

 七規、幸坂さん、白木の三人までは想定していた。

 しかし、まさかのの猫までとは。

 というか遠征先って夜叉の森ダンジョンだったのか。

 

「笹木さ——のの猫のカメラマンは?」

 

「その人なら帰還途中にモンスターに襲われて、今治療を受けてます」

 

「……状況は把握した。それで、転移先の特定だが……入江さん、探知機に反応はありませんか? 微弱でも構いません」

 

 転移魔法陣。

 そう聞いて、思い浮かぶのは当然モノクルの男と、悪夢の軍勢。

 

(まさか、同じ異世界人が……?)

 

 仮にそうだとすれば、ナイトメア戦の時同様強力なモンスターを準備している可能性は高い。そう思って尋ねたところ……。

 

「異変異変……六十六階層で、ほんの微かにだけど魔力異常が起こってます!」

 

「……わかりました。ならすぐに出ます」

 

「ちょっと待ってください! 六十六階層って未探索領域を四階層も超えた先ですよ!?」

 

「まぁ、そうですけど……行かない選択肢はないので。とにかく俺は先に向かいます。皆さんも準備をして後を追っていただけると幸いです」

 

「……だ、だいたい六十二階層までの道案内とかどうするんですか!?」

 

「……? 現在攻略されている階層ならすべて頭に入っています」

 

 探索者として、用心に用心を重ねるのは当然のこと。潜るダンジョンの階層間の最短ルートはすべて頭に入れている。夜叉の森も当然そうだ。

 

 以前『夜叉百足』の異変の時に時間を食ったのは、それより前に潜ったのがかなり前で忘れかけていたことと、三船ダンジョンの迷路形式のダンジョンと違い、広大な土地に木々が生えている環境に不慣れだったことが大きい。

 

 それもここ最近の探索で慣れているのに加えて、夜叉の森の階層が広大なひとつの空間であることを考慮すれば……六十六階層まで一時間半程度。

 

「……おい、相馬創」

 

 話しかけてきたのは初めて夜叉の森に来た時に知り合った大男。

 『兄者』と呼ばれる彼とは、顔を合わせると挨拶を交わす間柄になっていた。

 

「なんでしょうか?」

 

「……本当に大丈夫なのか?」

 

「えぇ、問題ありません。全員連れて帰ってきます」

 

 端的に告げると、彼は静かに息を吐いてから俺の背中を叩いた。

 

「なら、肩の力を抜け。今のお前は誰の目から見ても焦り過ぎだ。そんなのでは、出せる実力も出せないだろう」

 

「……そうですね。ありがとうございます」

 

「いやいい。どの道六十六階層なら俺は行けないからな。頑張れよ、相馬創」

 

「はい」

 

 そうして、俺はギルドを後にして――想定通り、一時間半かけて六十六階層まで到着した。一階層あたり約一分。

 

 未探索領域も、これまでの傾向から次への階段の位置はある程度推測できる。

 モンスターを完全無視して進めば、数分の攻略も容易だ。

 

 もちろん、常に魔速型を維持し続け、時には極大魔法で阻む敵を一掃する必要もあったが……それでも俺は六十六階層に到着した。

 

 そして——今まさにロック・ビートルの砲撃を受けようとするのの猫の前に氷属性極大魔法『アイスエイジ』を展開するのだった。

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