住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep38 己が探索者であるために。

 私、のの猫が相馬くん(師匠)に対して啖呵を切るのと同時、別所から声が上がった。

 

「せんぱいの前で、かっこつけないで……っ」

 

 声の主は七規ちゃん。彼女の側にはひしゃげた足を抱える白木さんと、彼女を支える幸坂さんの姿があった。

 

 幸坂さんに支えられながら地面に腰を下ろした白木さんに、相馬くんは視線を合わせながら問いかける。

 

「白木、大丈夫か?」

 

「ん、へーきへーき。痛くて泣きそうだけど死ぬ気はしないぜ、ぶいっ!」

 

「ったく」

 

 これで彼女が命に係わる怪我をしていたならば、彼は私の啖呵など無視してロック・ビートルの討伐に移っていただろう。

 

「ごめんなさい、巻き込んで」

 

「いいよ、どーせ回復魔法使える人が来るまで痛いのは変わんないし……なによりさっきの啖呵、すげーかっこよかったし!」

 

「白木さん」

 

 彼女の言葉に罪悪感を覚えていると、今度は幸坂さんが相馬くんに話しかけていた。

 

「相馬くん。白木ちゃんを、お願い」

 

「幸坂さんも行くんですか?」

 

「うん、私も、探索者、だから……っ」

 

「その姿を見るに、受けきれない攻撃だったんじゃないんですか?」

 

「まぁね。……でも、相馬くんや、のの猫さんを見てて……こんなところで、止まれる訳、ないでしょ?」

 

「……そうですか」

 

 苦笑を零す相馬さん。

 

「うん、だから私のことも、見ていて。キミの、パーティーメンバーを」

 

「分かりました」

 

 小さく首肯を返す相馬くんに、今度は七規ちゃんが近付いて声を掛けた。

 

「せんぱい」

 

「なんだ?」

 

「のの猫や幸坂さんだけじゃなくて、私も見ててね」

 

 ……呼び捨て?

 あれ? さっきまでのの猫さんじゃなかった?

 

 疑問に思っていると、彼女と目が合う。

 どこか敵対心の籠った瞳を見て、私は悟った。

 

 そんな彼女に相馬くんは応える。

 

「だけど、七規に出来ることは無さそうに思うがなぁ?」

 

「せんぱい意地悪。……気付いてるし、見つけたから安心して」

 

「ならお手並み拝見だ」

 

 その言葉を受け、七規ちゃんは初めて笑みを浮かべて見せた。

 

(凄い……彼が来ただけで空気感が変わった)

 

 いざとなれば助けてくれるという安心感——などではない。

 

 むしろその逆で、安堵ではなく危機感に近い物が七規ちゃんと幸坂さんから溢れ出していた。

 

 ——この少年の前で、失敗は出来ないと言わんばかりに。

 

 ミスは許されない。

 先ほどまでの、失敗すれば命の保証がないという危機感よりも、さらに強い感情。

 

 自分が探索者であることの存在証明。

 

 この場、この瞬間。

 彼に頼るのは探索者であることを諦めるのと同義だから——だからみんな、気を引き締める。

 

 自分自身が探索者であると、証明するために。

 

 幸坂さんは盾を構える。

 七規ちゃんは静かに周囲へ視線を巡らせる。

 

 そして私は四肢に魔力を流し込み、剣を握る。

 

 それと同時に、突然の闖入者に警戒心を強くして静観を貫いていたロック・ビートルが大きく咆哮を上げ——戦闘は最終局面へと突入した。

 

 

  §

 

 

 俺こと相馬創は白木の横で戦闘の様子をうかがう。

 

「ほんとに手を貸さなくていいの~?」

 

「あぁ、今の三人なら十分勝てるよ」

 

 六十六階層に到着し、のの猫の啖呵を耳にした俺は即座に周囲を見渡して状況を確認。巨大なロック・ビートル。そしてロック・ビートルの攻撃では負うはずのない火傷をしたのの猫の姿から、魔法を使うモンスターがどこかに隠れていることも把握した。

 

 そして、その程度であれば彼女たちなら負けないと確信したからこそ、俺は三人を送り出したのだ。

 

 おそらく全員焦っていたのだろう。

 無自覚だったかもしれないが、焦って誰一人全力を出せていなかった。そう仮定しなければ、白木を含めた四人が負けるとは考えにくい。

 

 事実、俺が到着した際にのの猫が見せた動きは完ぺきだった。極限まで集中した決死の一撃は、仮に俺の『アイスエイジ』が間に合わなくても、砲撃を逸らして見せただろう。

 

 それを理解し、白木の怪我も命にかかわるものではないと判断したからこそ、俺は三人を送り出すことにした。

 

「まぁ、相馬っちがそこまで言うならお手並み拝見と行こうかにゃ~」

 

「……それってのの猫の真似?」

 

「そうにゃそうにゃ。可愛いにゃ?」

 

「そりゃ可愛いけど……やめない?」

 

「やめにゃ~い」

 

 にゃーにゃー鳴く白木。

 平気そうな振りをしている彼女であるが、その額には冷汗が浮かんでおり無理をしているのは一目瞭然だった。

 

「とにかく応急処置するから足を見せてみろ」

 

「……ん、ありがと。……ほんとに、ありがと……」

 

 優しく声を掛けると、震えながら俯く白木。

 

 痛みもそうだが、彼女自身も精神的に厳しいものがあったのだろう。他の三人が焦っていて、白木だけが例外何てことはもちろんない。ここは未知の階層で、加えて足の大怪我。自分で動けないという状況は、想像以上に恐怖心を煽る。

 

 気丈に振舞っていたとしても、他の誰より彼女は恐怖に怯えていたのだろう。

 故に、安心させるように言葉を掛ける。

 

「大丈夫、気にするな」

 

「……ん、うん……」

 

 ぎゅっと俺の服の裾を握る白木。

 頭を撫でると、彼女は安心したように息を漏らした。

 

 本当なら怪我の方も癒してやりたいが、生憎と俺は回復魔法が使えない。

 

 増援組の中には使える者も居るが、彼らが到着するのは早くても数時間後と言ったところ。それまでは副木を当てて氷魔法で患部を冷やすほかない。

 

「無理させてすまない」

 

「別に大丈夫。……むしろ、探索者的には戦闘に参加できない方が悔しいにゃ~」

 

 ニッと笑みを浮かべながら、されど俺の服から手を離すことは無い白木。弱弱しさを押し隠そうとして、しかし隠しきれない様子の彼女の不器用さに感謝しつつ、俺は戦闘へと視線を向けるのだった。

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