住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep41 異世界からの来訪者2

 迫り来るテスタロッサを前に、俺は思考を巡らせる。

 

 戦闘において——否、戦闘方法及び実力が不明瞭な相手と相対するにあたり、最も注意すべきは初手の一撃である。これを自分から打ち込むか、或いは撃ち込まれた一撃を受け流せるかで生死が決まる。

 

 頬を冷汗が流れ、乾いた唇を舐めると同時に全身に魔力を流して魔速型に移行。身体能力を最大にまで引き上げる。

 

 と、同時にテスタロッサが踏み込んだ。

 

 大地を踏み砕く脚力から生まれた速度により、彼我の距離が一瞬にして消え失せる。

 

 一歩、空中での姿勢、剣を振る動き――そのすべてに無駄な箇所はなく、振り被られた騎士剣の一撃が俺の首筋目掛けて打ち下ろされる。

 

「……ッ」

 

 咄嗟に距離を取ろうと後ろへとジャンプ。

 剣の射程範囲外に出たと確信した途端、テスタロッサは振り下ろす動作の途中で持ち手を滑らせることで再度俺を射程範囲内へと捉える。

 

「チッ――」

 

 舌打ちを零しながら俺はアイスエイジで防御。

 踏み込みを見れば彼女が馬鹿力な事は明白。ルナリアの一撃を防げたとしても、彼女の攻撃を防げる保証はなく、故に受けの選択はしたく無かったが仕方がない。

 

 やがて彼女の剣がアイスエイジの氷の壁に触れる――直前で制止。

 剣は軌道を変えて横薙ぎに振われる。

 

(読まれた!?)

 

 流れるような動きは予測不可能な完璧なフェイント。

 

「くそがッ!」

 

 悪態を吐きつつ俺は氷の義手を剣と腹の間に差し込むことで何とかガード。多少欠けたが、それでも膨大な魔力をつぎ込んで動かしている義手だ。砕けることは無く、何とか剣を防ぎきってくれた。

 

 が、その威力をすべて殺せたわけではなく、俺の身体は数メートルほど吹き飛ばされて転がった。

 

「……へぇ、思ったよりやるじゃねぇか!」

 

 まさか防がれると思っていなかったのか、テスタロッサは口端を持ち上げた。

 

 対する俺の胸中は焦りが浮かぶ。

 完全に裏をかかれた。

 ルナリアも十分人外じみていたが、それとは別種の強さ。

 

 身体能力もそうだが、何より問題なのは——彼女の技術。

 

『剣聖』

 

 その肩書は伊達ではないということか。

 踏み込み、虚の付き方、呼吸のタイミング、視線誘導、剣線の偽装、体重移動、観察力、剣術の型、力の抜き方、フェイントの上手さ。

 

 どれをとっても一級品。

 世界最高峰に研ぎ済ませれている。

 

 加えて……実戦も俺とは比べ物にならないほど繰り返しているだろう。

 

 速さはルナリアの方が圧倒的に上。

 何なら俺の魔速型の方が断然速い。

 

 けれど、それを補って余りあるほどの技術。

 

「……ふぅ」

 

 嫌な相手だ。

 思い出すのは昨日、Aランク探索者の時雨さんとカフェで話をした時の事。

 

 俺はレイジ相手に負ける気はしない。

 だが、富岡さんというAランク探索者には勝てる気がしないと答えた。

 

 理由は単純。

 富岡さんも、目の前のテスタロッサと同じ剣術の使い手だから。

 

 基本力でごり押し戦法の我が身としては、最も相性の悪い相手である。

 

「……まぁ、諦める気はないけど」

 

 息を吐くと、集中力を上げる。

 全身に巡らせる魔力量も増やし、身体能力をさらに向上。

 

「……ははっ、いいねェ! 諦めの悪ィ奴ァ好きだぜェ!!」

 

 そう言って、テスタロッサは再度攻撃を仕掛けてくる。

 

 一瞬で間合いに入られ、多彩な剣術が振り下ろされる。

 対する俺はというと、そのすべてを氷の剣と氷の義手で弾く。打ち下ろしを剣の腹で逸らし、切り上げを氷の義手で弾く。見破ることのできないフェイントにはすべて引っかかった上で、そのすべてに対応していく。

 

 技量で敵わないのなら物量で。

 技術で届かないなら身体強化のごり押しで防ぐ。

 

 当然魔力がごりごり削れていく。

 ナイトメア戦で魔力量が上がっていなければ、そろそろ記憶を食い始めていただろう。極大魔法をほとんど使っていないにもかかわらず、この消費量だ。本当にふざけている。

 

 そして、それだけしてもすべてを防ぎきることはできない。

 俺の身体には裂傷が増え、赤いシミがスーツを汚していく。

 

「……ッ」

 

 あの時の様に、ナイトメア・ヒューマンになることが出来れば、すぐに彼女たちを捕らえることが出来ただろう。しかし、胸に焼き付いた魔力回路は何の反応も示さない。

 

 あの一瞬が奇跡だったのか。

 それとも条件が整っていないだけか。

 

 どちらにせよ今は使えない。

 使えないなら、思考から追い出す。

 

「オラオラオラオラッ!! どーしたよォ、えぇ!?」

 

「……ッ」

 

 テスタロッサの猛攻を受け続ける。

 言葉を返す余裕はない。

 余裕はないが——言葉を返さなければ攻撃を返せる。

 

 フェイントを含めたすべての攻撃への対応。

 頭が疲れるし、いつまでもつか分からない恐怖が心臓を締め付けるが——それでも確かな成果を生み出していた。

 

「……っ、まじかこいつ!?」

 

 どこか焦りを含んだ声。

 思うように攻撃が入らなくなってきたからだ。

 否、それだけではない。

 

「——ッ」

 

 俺は一歩踏み込むと、魔速型の速度を活かしてテスタロッサへと刺突攻撃を放つ。

 

「……っ」

 

 彼女は首をかしげるだけでそれを回避。

 美しい銀髪が数本切れて、宙を舞う。

 

 だが俺は手を緩めることなく一気に斬りかかった。

 

 突き出していた剣を横薙ぎに振い、彼女の首を取りに行く。するとテスタロッサは予想通り大きく身をかがめて回避。そのまま俺の足を切断しようと剣を振うが、その騎士剣の腹を思い切り踏みつけた。

 

 その隙を逃さず、俺は動きの止まったところに追撃。

 しかし当然の如く空振り。

 彼女は躊躇することなく剣を手放すと、低い姿勢から俺の顎目掛けて拳を振った。

 

「……」

 

 迫った拳を、今度は俺が首だけで回避。

 代わりに氷の義手でボディーブローを叩き込む。

 

「……」

 

 大して力の入っていない一撃故に、腹で受けると思われたが——彼女はこちらの思考を読むかの如く手で受け止めた。ならばと右手の氷の剣を振うと、こちらももう片方の手で受け止められる。

 

 両手がテスタロッサによって拘束される形だ。

 

「……」

 

「……」

 

 至近距離で見つめ合い——コンマ一秒にも満たない膠着の後、俺は氷の義手を破棄。肉体との接合部を外して拘束を抜ける。

 

 これを狙っていた。

 事あるごとに氷の義手で防御して印象付けさせ、腹を狙ったことで氷の義手に何かがあると思わせる。が——俺の本命はこの一瞬の隙。テスタロッサの思考の隙間を縫うように、俺は左腕からアイススピアを生成して、テスタロッサの腹を狙った。

 

「……」

 

 俺に出来うる最高のタイミング。

 完全に虚を突いた一撃。

 テスタロッサの両手は塞がっており、回避は不可能。

 

 この攻撃を起点に、彼女を拘束する――という考えは、一瞬で水泡に帰した。

 

 彼女は足先で地面に落ちていた騎士剣を蹴り上げると、そのままアイススピアをガード。アイススピアの射出速度を利用して、彼女はそのまま距離を取った。

 

「嘘だろ……」

 

 思わず歯噛みする。

 完全に倒したと思った。

 全身全霊で相手の攻撃を読み合い、その上で怪我を負わせて拘束できると——その寸前まで差し迫ったにもかかわらず、技量の差で逃げられた。

 

 時間にして一分にも満たない攻防。

 しかし、集中力が持たない。

 正直もう一度できるかと問われれば、無理だと首を横に振る。

 

 そんな内心を押し隠しつつ、ポーカーフェイスを装う俺に対し、テスタロッサはひしゃげた騎士剣を見つめ、次に自分の腹を擦ってから……恍惚な笑みを浮かべる。

 

「ははっ、面白れェ……!」

 

「……」

 

「こんなに集中したのは久しぶりだぜェ? やっぱり殺し合いってのは楽しいなァ~!? 技量も力量も勝ってるのに、お前の馬鹿げた反応速度を超えられる気がしねェ……これだよこれ! このひりつくようなやり取りがアタシを高揚させる!!」

 

「そんなに殺し合いがしたいなら魔王とやってろよ……」

 

「あぁ? 無理無理。あれは強すぎてつまんねぇ。アタシなんざ足元にも及ばねぇし、つーか誰も彼も足元にも及ばねぇ。アタシより強い奴なんざ、世界中探しても片手で数えられる程度だろうが、その全員で掛かっても魔王には勝てねぇよ。それぐらいヤベーんだよ、魔王ってのは。ありゃ神話の領域(・・・・・)だな。めんどくせェ」

 

 髪の毛を掻きむしりながら溜息を吐くテスタロッサ。

 

 対する俺は得られた情報に喜び半分、悲しみ半分。

 まず吉報は、テスタロッサやルナリアレベルの手練れが異世界にはゴロゴロいるのかと思っていたが、どうやら彼女たちが最上位の部類だという事。

 

 つまり、異世界の最上位と地球のSランク探索者は充分渡り合えるという事。

 

(ルナリアは亜獣の国を大したことないって言ってたけど……正直こいつらがナイトメア・ゴブリンロードを二十体同時に相手して勝てるとは思えない)

 

 一対一という条件なら、不老不死に近いと言っていたルナリアは勝てるかもしれないが。もしかすると彼女たちは亜獣の国のゴブリンたちがナイトメア種になっていたことを知らなかったのではなかろうか?

 

 確かめるすべはないが。

 

 それよりも問題なのは——魔王の強さ。

 

 テスタロッサレベルの戦士が匙を投げる相手など、どうやって勝てばいいのか。

 

 モノクルの男——ギュスターヴだったか?

 勇者になってくれとか言ってたけど、無理っぽくね?

 魔王の足元にも及ばないテスタロッサさんに大苦戦してるんだけど?

 

「……にしても、気に食わねぇなァ!」

 

「何が?」

 

「お前、本気出してねーだろ」

 

「……」

 

「それぐらいわかるってんだ。お前は強い、強いのに剣術は素人だ。それってつまりよォ、お前の本気が剣術じゃねぇってぇ事だろ?」

 

「……」

 

「ははっ、答えねぇってか。まぁいいさ、本気出してねーのはお前だけじゃねーからよォ」

 

 えぇ……嘘ぉ。

 

「またまた~」

 

「ったり前だ。初っ端から本気な訳ねぇだろ? それに——奇遇なことに、アタシの真骨頂も剣術じゃねぇんだよ。こいつは手慰みに覚えた技術でなぁ……。おい、姫様ァ! 本気出していいかァ!?」

 

 あれで剣術がメインじゃないとかマジかよ。

 

 内心戦慄する俺に対し、ルナリアへと問いかけるテスタロッサ。

 

 しかし答えは返ってこない。

 彼女は頭に疑問符を浮かべ、周囲をきょろきょろ。

 

 だがルナリアの姿は見つからない。

 

「姫様~? お~い、姫様ぁ~?」

 

「……撤退してたか、いつの間に」

 

 テスタロッサに集中しすぎて全然気付かなかった。

 元々ルナリアを逃がさないための戦闘だったというのに……情けない。

 

「え、アタシ置いて行かれたのか?」

 

 途端にしょんぼりするテスタロッサ。

 彼女も気付いていなかったのだろう。

 

 俺はフレイム・サーチで階層中を捜索するが……反応は無し。

 

(二人で襲い掛かって来なかったのは、アイツも俺が本気を出してないってことに気付いていたのか)

 

 二人同時に襲われたら、俺は勝てない。

 故に、倒すことを諦め――殺すことにシフトしていただろう。

 

 一対一の戦いなら後れを取る俺であるが、範囲攻撃に関しては一家言ある。

 

 ルナリアも、テスタロッサも。

 塵一つ残すことなく消す自信はあった。

 

 そして二人で襲えばそうなる(・・・・)と悟ったからこそ、ルナリアはさっさと撤退を選択したのだろう。

 

 ——当然だが、想像以上に頭が切れるな。あの吸血姫。

 

「か~、ふざけた姫様だぜ! 戦いもせずに逃げるなんてよォ!! まぁ、しかし……そう言うことなら仕方ねぇ。アタシも帰るとするさ。楽しかったぜ、相馬創」

 

「……勝手に終わらせるなよ。吸血姫が無理なら、テスタロッサ……あんたを拘束する」

 

 出来るかは分からない。

 けれど、この場でみすみす逃すことも出来ない。

 

 そんな俺に対し、テスタロッサは目を見開いて驚いた後、くくくと喉を鳴らす。

 

「くくっ、くははっ! まさかこのアタシがそんなことを言われる日が来るなんてなァ~! いいぜ? なら一度だけ本気を見せてやるよ。その結果次第で、拘束……いいや、お前ら側についてやってもいいぜェ!」

 

「……」

 

「ただし、さっきまでの遊びと違って——命の保証はしねぇがなァ!!」

 

 剣聖は歯を剥き出しにして大きく吠えると、手にしていた騎士剣を放棄(・・)

 

 次の瞬間、テスタロッサの姿に異変が起こる。

 

 腕に鱗が浮かび上がり、指の形状が変化。大きく鋭い爪は、かつて三船ダンジョンで討伐したドラゴンによく似ている。

 

 臀部からは太ももほどもある太い尻尾が出現し、彼女の頬にも鱗が出現。頭部からは二本の大きな角が生えていた。

 

「……ルナリアの時も思ったけど……異世界人って意味わかんねぇ」

 

 そんな泣き言は、しかしテスタロッサの哄笑に掻き消えるのだった。

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