住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

9 / 133
ep8 Aランク探索者『相馬創』

「ダンジョン探索において重要なのは敵の位置を把握し続けることだ。死角から狙われてはひとたまりもないからな。できれば半径二百メートル内にいるモンスターは全て把握しておきたい」

 

「に、二百メートルもぉ?」

 

「あぁ、そうでなければ後ろから不意をつかれ、気付けばあの世だ」

 

「別に私が見ればいいんじゃないの?」

 

 七規にアドバイスを送るとそんな答えが返ってきた。

 

 その言葉に俺の思考は停止。

 脳に電流が走ったような衝撃を受ける。

 

「後ろを、誰かに任せる……?」

 

「え? あ、ごめんねせんぱい。調子乗っちゃって――」

 

「いや……なるほどそうか、これからは独りじゃないんだ。協力すればゴブリンに不意打ちを食らうことも、天井から降ってきたスライムに窒息されかけることも無くなる……!」

 

「あっ……なんか、ごめんねせんぱい」

 

「謝らないで? 心、傷ついちゃうから」

 

「大丈夫、これからは七規がそばに居るからね」

 

 慰めの言葉を告げる七規。

 しかしその表情筋は微動だにしない。

 

「……えい」

 

「……っ! な、なな、何するのー!」

 

「いやぁ、もしかしたら凝り固まってるのかなと」

 

 試しに頬をつついてみると新鮮な反応が返ってきた。

 しかしそれ以上に柔らかい頬っぺにこちらがドキドキ。

 

 いかん、俺はのの猫一筋なんだ。

 それと松本さん……全然一筋じゃなかった。

 

「んもぅ、触るのは別にいいけど、こんなトコじゃなくてせんぱいの部屋とかがいい〜」

 

「やめて、割とガチで恋人との甘酸っぱい青春に憧れてるから、本気で捉えちゃう」

 

「少なくとも私は本気だよー?」

 

「ぐう……っ!」

 

 これ、もういいんじゃない?

 七規可愛いし、話してみれば意外と楽しい。

 それに同じ探索者だ。

 

 むしろ断る理由が無いかもしれない。

 いや、ない!(断言)

 

 俺は彼女に交際を申し込もうとして──。

 

「あっ、十二層に着いたよせんぱい」

 

「……そ、そうだな」

 

 どうしよう。

 いざ交際を申し込むとなると緊張して足を踏み出せなかった。

 成功確率百パーセントなのにチキっちゃったよ。

 

「よし、帰ったら言おう」

 

「せんぱい?」

 

「いやなんでもない」

 

 はぐらかしつつ、俺は周囲を確認。

 一応ずっと警戒はしていたが改めて。

 

 すると、モンスターの流れが少し歪なことに気が付いた。

 

 いつもなら不規則に動き回るモンスターが、ある方向には近付こうとしていない。

 

「七規、モンスターが近寄らない場所があるのに気付けるか?」

 

「え? うーん、と……あのへん?」

 

「そうだ。今回みたいな異常事態の原因は基本的に強力な個体の出現であることが多い。そして、弱いモンスターはそれらから逃げる傾向にある」

 

「なるほど。それじゃ、あっちへ向かえばいいの?」

 

「あぁ、その前に……他のモンスターを倒してからな」

 

 俺は気付かれないように周辺の雑魚を狩り始める。

 七規も『ドミネーション』を駆使して使役していた。

 

「それじゃ、大元を討伐してくるから、その間使役しているモンスターで身を守るんだぞ? もし危なくなっても最優先で助けるから安心しろ」

 

「わ、わかった。せんぱいも頑張って」

 

「……」

 

「せんぱい?」

 

「あ、いや何でもない」

 

 いけない。

 こんな場面で応援されることなど皆無だったからジーンと来てしまった。

 

 ここは思う存分に格好をつけて、せんぱい風を吹かせるとしよう。

 そして彼女に交際を申し込む。

 

 俺は七規から離れると、持ってきていた細長いソフトケースを開ける。

 

 そして一丁の上下二連式ショットガンを取り出した。

 

 漆黒のフォルムに青白い光が走るショットガンを構えつつ、大ボスがいるであろう場所をチラリ。

 

 そこは崖になっており、目的のモンスターはその下にいた。

 

「……ゴブリンキングか」

 

 居たのはゴブリンキングと膨大な数のゴブリンの群れ。

 ゴブリンキングはAランク指定のモンスター。

 つまり俺一人でも倒せる相手である。

 

「……よし」

 

 俺は気合いを入れるとショットガンを構えて……キング目掛けて引き金を引いた。

 

 ガンッ!

 

 甲高い金属音が鳴り響く。

 キングが音に反応するが、もう遅い。

 発射された青白い魔力の散弾が群れに降り注ぎ、キングとその周囲にいたゴブリンたちを蹂躙した。

 

 特に狙っていたキングは大量に弾を浴びたのかそのまま絶命。

 ボスが死んだことで群れは混乱し、散り散りになっていった。

 

「よし、終わり」

 

「え、もう?」

 

「あぁ」

 

 いつの間にか横に来ていた七規に頷いてみせると、彼女は無表情のまま口を『へ』の字に曲げる。

 

「ち、チート武器じゃん! せんぱい! それズル!」

 

「えぇ……安全第一に行動するにはこれが一番なんだよ」

 

「でもでも、だって……うぅ……せ、せんぱい、もしかして戦えないの?」

 

 どこか疑ったような視線を向けられた。

 だが仕方ないだろう。

 

 彼女からすれば、憧れていた相手がただのチート武器の使い手だったのかもしれないのだから。

 

「いや、これは最近手に入れた武器でな……あまりにも使い勝手がいいからつい頼ってしまうんだよ。一応これ抜きでもAランク探索者だから安心しろ」

 

「ほ、ほんと?」

 

「あぁ。うーん、そうだなぁ――『フリーズ』」

 

 俺は応えるように散り散りになったゴブリン達に氷魔法を行使した。

 瞬間、数十匹がまとめて氷漬けになる。

 

 魔法はそれぞれ火、氷、風、雷、光、闇の六つの属性に分類されている。

 人により適正は異なるが、俺の場合は火と氷。

 今のは氷属性の魔法である。

 

 因みに七規の使った『ドミネーション』は闇属性の魔法だ。

 

 俺は氷漬けにしたモンスターたちが逃げ出さないうちにショットガンで撃ち抜いて処理。

 

「とまぁ、こんな感じだ」

 

 全て片付けて若干格好を付けながら振り返ると、そこにはキラキラとした目で俺を見つめ、甘い吐息を零す七規の姿が。

 

「せんぱい、かっこいい……」

 

「うーん、ちょろい」

 

「えへへ、うん。私ちょろいんだぁー♡ せんぱいがかっこよくて仕方ない。好き、付き合ってー♡」

 

「あー、うーん。まぁ、取り敢えずギルドに戻ろうか」

 

 さすがにこの状況で付き合う判断を下すほど俺は愚かでは無い。

 

 だって七規はどこからどう見ても俺の強さ(・・)に惹かれているから。

 確かにそれも魅力の一つなのかもしれない。

 

 俺だってのの猫の顔や声にベタ惚れだ。

 

 でも、出来れば内面をもっと知ってもらって、その上で交際したいなと思う俺は童貞なのだろうか?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。