住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが? 作:赤月ヤモリ
軽く汗を流して風呂から出ると、用意されていた着物に着替える。客人用に出されたものだけどきっと物凄く高いのだろうなという事だけは分かった。
「お風呂上がりのせんぱい、かっこいい……♡」
「七規も、さっき言いそびれたけど着物が良く似合うな」
彼女の私服なのだろうか。
薄手の着物を羽織った七規はザ・大和撫子と言った様子でとても綺麗だ。
長い黒髪が良く似合う。
「ほんとっ!? えへへっ♡」
いつもと変わらぬ無表情だけど、ほんとに可愛い。
ぎゅって抱きしめたくなる可愛さがある。
その後方では、髪をひとまとめにしたシャルロッテさんが、慣れない着物に落ち着きのない様子を見せつつ、畳の上にごろんと大の字になっていた。風呂上がりにアイスを食べて、エアコンを浴びながらゆっくりする光景は、まさに夏休みの小学生のよう。
その後はクーラーの効いた部屋で昼食。
シャルロッテさんは箸に慣れていないのかフォークを使ってぱくぱく。美味しそうに食べる姿に、おじい様はメロメロになっていた。めっちゃ頬が緩んでる。あんなに上機嫌なおじい様は初めて見たかも。
食事を終えると、シャルロッテさんは七規を連れて屋敷の中の探検に向かった。
子供って友達の家とかホテルとか、見知らぬところ探検したくなるよね。俺もそうだったから凄く分かる。
というか俺も七規の家を探検したい。
子供だから超したい。
「さて……、それでは持って来て下さい」
二人きりになった一室にて、おじい様の声を合図に眼鏡の男性が現れた。
見覚えのある顔は、義手の製作が決まった際に体重などを測定してくれた男性だ。
彼の手には細長い箱が抱かれており、大事そうに俺の前に置かれる。
「大変長らくお待たせしました。こちら、相馬さんの義手になります」
「あ、開けていいですか?」
「もちろん。ここで装着し、使用感の程を確かめてください」
言われて箱を開けると、見た目人間の腕にしか見えない義手が入っていた。ちょっぴり猟奇的。
俺は着物の上をはだけさせ、義手を持って来てくれた男性の手を借りながらも装着。割と簡単にくっついた。
「それでは魔力をゆっくり流してみてください」
「わ、わかりました」
言われた通りゆっくり流し込むと……おぉ、感覚が同期した。
試しに動かしてみると、かなり自由自在に扱える。
「いかがでしょうか?」
「凄いですね! おぉ、指先まで綺麗に動かせますよ!」
コンマ数秒のラグはあるが、日常で使う分には問題ない。
流石お高いお金を支払って製作された義手だ。
「それじゃあ確認していきますねー」と義手を持ってきた男性が呟き、結合部や反応速度、可動域などを確認していく。
「スペック通りちゃんと動いてますね。違和感はありますか?」
「いえ、大丈夫です!」
痛覚は無いが、何となく触覚に近しい物がある。
分厚い手袋を重ねたように分かり辛いが、それでも何かに触れているような感覚があるというのは、非常に便利であった。
「これで日常生活がだいぶ楽になりますよ~」
素直に笑みを浮かべて感謝を述べると、おじい様は頬を緩める。
「いえいえ、三船町を守っていただいたのですからこのぐらいは。それに以前もお話したと思いますが、その義手は日常での使用なら問題ありませんが、ダンジョンに潜るとなれば別。いつ完成になるかはわかりませんが、先ほどの少女の母、クラウディア・シュヴァルツコップさんの義手頼りとなってしまいます」
クラウディアさんがダンジョン用の義手を作ってくれていることはおじい様にも伝えている。彼の管理するナイトメア種の魔石をクラウディアさんに分け与える際、合わせてご説明させていただいていた。
彼自身も、俺が愛用していた『No.3サファイア』を製作した人の孫娘が作ると聞いて、自分のことのように喜んでくれた程だ。
「何はともあれ、本当にありがとうございます!」
「いえ。あぁ、それと一応これを」
「? これは?」
何やら塗り薬をいただいた。
「痒み止めです。夏場ですからね。義手との接合部が汗疹になるかもしれませんので。あのお医者さんからいただきました」
あのお医者さん、というのは友部さんの勤める病院に勤務する少し気の弱そうなお医者さんだろう。また今度お礼に伺わないとな。
でも、勤務中だと迷惑かな?
友部さんにでも暇な時間を確認してもらって向かうとしよう。
§
義手を受け取った俺は、屋敷探検から帰って来たシャルロッテさんを連れて七規の家を後にする。
帰りはまだ暑いだろうという事で車で送って貰うことになった。
普段なら断るけど実際かなり暑い。
俺だけならともかく、幼女なシャルロッテさんも居るのなら断る選択肢はなかった。
そうして家の近くまで送ってもらい、運転手さんにさようならしたところで――。
「じゃあ、私もこの辺で」
そう言って自分の家へと歩いて行くシャルロッテさん。
かと思えば徐に立ち止まり、引き返してきた。
「何か忘れ物?」
「……ち、違う」
「えっと……」
困惑する俺をよそに、シャルロッテさんは言い淀むように何度か口を開閉。しかし意を決すると、真剣な表情でまっすぐ俺を見つめて――告げた。
「ありがとう、相馬。ななお姉ちゃんたちを助けてくれて」
「俺は助けてなんかないですよ。あれは彼女たちの実力です」
「……日本人、謙遜しすぎ! 感謝したんだから素直に受け取れ!」
「それは……そうですね。どういたしまして」
その答えを受けてシャルロッテさんは「ふん」と鼻を鳴らして腕を組み、こちらに背を向けながら続けた。
「それと……相馬も、無事に帰ってきてくれてよかった」
「……え? デレた?」
「で、デレ!? デレてない! デレてない~!」
うがー! と怒ったかと思うと、そのまま家へとぴゅ~と逃げ帰るシャルロッテさん。そんな微笑ましい様子に苦笑を浮かべつつ、俺は俺で自宅へと帰るのだった。
§
同日の夜。
風呂上がりにスマホを操作していると、RINEにメッセージが届いた。
お相手は誰だろうと確認すると、そこに表示されていたのは『のの猫』の文字。
「……ぁ゛あ゛!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまったぜ。
だって俺の愛してやまない憧れの相手なのだから。
(というか、今更だけど俺って直接のの猫と会ったんだよな?)
わずか二日前の出来事だというのに、現実味がない。
今思えばもっとちゃんと話しておけばよかった。
忙しかったし、仕方ないと言えば仕方ないけど。
(って、それより今はメッセージだ)
俺は高鳴る胸を押さえながら生唾を飲み込み、震える手でアプリのメッセージを確認。するとそこには——。
『相馬さん! ダンジョン配信に興味ありませんか!?』
ほう。……ほう?