住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep6 委員長との約束

 翌朝。

 

 昨日食べれていなかった霜月さんのお昼ご飯を朝食として平らげた俺は、おじい様から頂いた義手を装着。感触を確かめてから、朝早くに家を出発することにした。

 

 少しでも涼しい時間に移動しようと試みた結果、現在時刻は朝の七時三十分。

 

「あっちぃ……」

 

 正直時間とか関係ないわ。くそ暑い。

 天気は今日も今日とて快晴で、日中は三十八度を超えるとの予報。

 

 滴る汗で地面を濡らしつつ駅まで歩いていると、その途中で見覚えのある顔を発見した。

 

 半袖の制服に身を包んだ彼女は、我がクラスの委員長。

 巨乳が特徴的な、男子から人気のある少女である。

 

「む、相馬じゃないか」

 

「委員長、おはよ。制服着込んでこんな時間から学校かい?」

 

「あぁ、生徒会の仕事でな」

 

「そう言えば生徒会長もやってたんだっけ。大変だな」

 

「そうでもないさ。生徒数の少ない学校だし、仕事といっても教師の雑用程度。アニメや漫画の生徒会ならいざ知らず、現実の生徒会なんて委員会の一つに過ぎないさ」

 

「なるほど」

 

 言われて見ればそうかもしれない。

 それに都会のマンモス校ならまだしも、三船町はくそ田舎。

 淡々と語る彼女の様子から察するに、本当に忙しくはないのだろう。

 

 まぁそれでも、不良生徒の俺からすれば雲の上のような存在であることに変わりないのだが。

 

「それで相馬の方はどうかしたのか? 制服も着ていないし、学校という訳ではないのだろう?」

 

「まあな。今日はちょっと夜叉の森まで」

 

「むっ、また探索者の仕事なのか? 先日あんなことがあったばかりだというのに……大変だな」

 

「大変なのは否定しないけど、今回は仕事じゃなくて個人的に潜りたくて潜るだけだよ」

 

「珍しい……。いや、探索者的にはそれが正解なのか? まぁいいか。何はともあれ気を付けるんだぞ――って、日本唯一のSランク探索者様に送る言葉ではないな」

 

 自嘲する委員長に、俺は首を横に振る。

 

「そんなことないさ。やっぱ心配してもらえるのは嬉しいし、何より俺自身『気を付けなきゃなぁ』って、気持ちが引き締まる」

 

「Sランクでもそういうものなのか?」

 

「どのランクでもそういうものだ。『委員長を心配させちゃいけない! 泣かないうちに早く帰らないと!』といった具合にな」

 

「んなっ!? ば、馬鹿なことを言うな! 誰が泣くものか!」

 

 揶揄い甲斐のある反応に俺は堪らず噴き出す。

 これを受けて委員長も察したのか、不満げにそっぽ向いてしまった。

 

 そんな子供じみた様子に苦笑していると――ふと委員長の視線が俺の左腕へと向けられた。

 

「そう言えば、それどうしたんだ?」

 

 彼女の指さす先には本物そっくりな義手。

 夏休み前まで存在していなかった腕の出現を目にすれば、疑問に思うのも当然だろう。

 

 俺は魔力を流してひらひらと動かしながら答えた。

 

「実は生えたんだよ。ニョキニョキって」

 

「本当か!?」

 

 途端に満面の笑みを浮かべる委員長。

 まるで自分のことのように喜んで見せる彼女に、俺は罪悪感からすぐに言葉を訂正する。

 

「ご、ごめん。生えたってのは嘘だ。ほんとは昨日届いたばかりの義手だ」

 

「え……そ、そう、か……嘘か……」

 

 爛漫の笑みから一点。

 悲壮感漂う表情を浮かべる委員長を見て、心が締め付けられる。

 

「ほんとごめん、委員長。ちょっとした冗談のつもりだったんだよ。ほら、夏休み前の教室で、みんなすげー気にしてたしさ。俺自身はそこまで気にしてないってことを伝えたくて……」

 

「……」

 

 言葉を取り繕うも、彼女は顔を伏せたまま。

 その肩は僅かに震えており……これはやってしまったな。

 

 どうしようかと困っていると、彼女は徐に顔を上げると真正面から無言で見つめてきた。

 その間約十秒。

 夏の青空の下、蝉の大合唱が耳朶を打つ中――永遠にも感じられる十秒が過ぎ去り、委員長は呆れた様子でため息を吐いた。

 

「はぁ……、本当に生えて来たと思って嬉しかったのにな」

 

「うぐ」

 

「そうか、嘘か」

 

「ぐっ」

 

「皆のために戦って負った傷が、治ったと思って嬉しかったのにな。そうじゃなかったのか……」

 

「ご、ごめんって委員長」

 

 チクチク攻撃してくる委員長。

 最初は責めた調子だったが、次第にその口元には笑みが戻り始め……彼女はこほんと咳払い一つ入れると、人差し指を立てて告げた。

 

「――ふっ、なら嘘を吐いた詫びに、一つ願いを聞いてもらおうかな」

 

「あぁ、うん。俺にできる事なら」

 

 首肯を返すと、彼女は生つばを飲み込んでから『願い』を口にする。

 

「夏休みの終わり、近所の神社で開かれる夏祭りに一緒に行かないか?」

 

「……」

 

 意外なお願いに閉口。

 てっきりもっと凄いお願いをされるのかと思っていた。

 すると、黙っていることが不安だったのか、彼女は視線を逸らしながら言葉を続ける。

 

「べ、別に無理なら無理でいい。その時は別の願いを言うだけだ」

 

「あー、いや。別に無理って訳じゃないよ。予定も入ってなかったし」

 

「そうなのか!? なら――」

 

「ただ、仕事が入ったらそっちを優先しなきゃいけないから、確約は出来ない。それでもいいなら……俺は構わないよ」

 

「ほ、本当だな!?」

 

「流石にもう嘘なんかつかないって。それより委員長の方は良いのか? というか何で俺? 友達は良いのか?」

 

「友人とは別の機会に遊んでいるから問題ない。何故相馬にしたかと言うと……まぁ、単純に遊んだことが無かったからだな。一度しかない高校生活、仲良くしてみたいと思った相手とは、たくさん遊んでおきたいじゃないか」

 

「……なるほど。そりゃそうだ」

 

 若干クサい台詞を恥ずかしげもなく語る彼女は、しかしてとても格好良く見えた。本心から言っているのが伝わったからだろう。

 

 つまるところ、委員長は陽キャというやつなのだ。

 最高に青春を謳歌する彼女は、俺にとってとても眩しく見えるのだった。

 

「それでは、約束は成立したとしていいんだな?」

 

「あぁ、問題ないよ。それじゃ、当日はよろしくな」

 

「こちらこそ」

 

 小さく頷く彼女に背を向け、俺は駅へと向かう。

 腕時計を確認すると、夜叉の森へと向かう電車の時刻が迫っていた。

 

 くそ田舎である三船町の電車は、次を逃せば四十分近く無人駅で待機する羽目になる為、俺は駆け足気味に駅へと向かうのであった。

 

(あっつ)

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