住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep7 ダンジョンの変化

 電車に揺られること、約二時間。

 途中何度か乗り換えつつ、ようやく夜叉の森に到着した。

 

 普段夜叉の森に行く際は幸坂さんの車が多いし、それ以外で三船町を出ることも少ないので、電車は久しぶりだ。……あぁ、いや。東京に行くとき新幹線に乗ったか。

 

 車内は最初こそ人が少なかったが、しばらくすると増えて来て、ついでに「あれもしかして……」や「あの顔まさか……」と視線も感じ始めたので、俺は持参したマスクの着用を余儀なくされた。

 

 何とか声を掛けられなかったのは、俺が義手をしていたからだろう。

 相馬創=左腕欠損っていうのは、割と認知されていそうだし。

 

(それでもマスクをつけての移動はもうやめよう。死ぬ、暑い、死ぬ死ぬ死ぬ)

 

 俺は死にかけのカエルの様になりながらも、駅からほど近い夜叉の森探索者ギルドに辿り着き――。

 

(ここが天国か)

 

 クーラーの有難さに感謝した。

 人類が作り出した至宝だね。

 

「お~う、相馬じゃねぇか」

 

「相馬さん、ちっす!」

 

「おや、兄者さんに弟者さん。おはようございます」

 

 声を掛けてきたのはいつぞやの巨漢、兄者さんと、彼の取り巻き、弟者さん。

 

 口元に笑みを浮かべ、片手を上げる兄者さんに対し、弟者さんはぺこぺことまるで舎弟のような挨拶をしてくる。年上にそんな態度をとられると困っちゃうぜ。

 

 二人は実の兄弟という訳ではなく、リーダー気質の兄者さんに惹かれた弟者さんがくっついているだけだそう。

 

 因みに二人の本名は以前聞いたのだけれど、その時にはすっかり兄者弟者と呼んでいたので、そのままで行かせてもらっている。

 

(ふと思ったけど、名前で呼ばない人多いよな。俺)

 

 委員長、焼き肉屋で知り合った彼氏さん、彼女さん。そして目の前の兄者さん、弟者さん。あんまりよくないのかもしれないが、覚えやすいから仕方がない。ごめんね。

 

「今日は一人か? 珍しいな」

 

「そうなんですよ。前は一人じゃないことのが珍しかったんですが……」

 

 ぽりぽりと左腕で頭を書いていると、弟者さんが目を丸くしながら問うてくる。

 

「今気付いたんっすけど、その腕……義手届いたんっすか!? 良かったっすね!」

 

「えぇ、まだ昨日届いたばかりですがかなりいいですね。ただダンジョンに持って行くのは難しいので、潜る時はギルドに置いていくことになりますが」

 

「そればっかりは仕方ないっすよねぇ~」

 

 うんうん、と頷く弟者さん。

 へりくだった態度で接してくる彼だけれど、こういう対応を見ていると年上の大人なのだなぁと感心してしまう。

 

「にしても、今日はなんだか人が多いですね」

 

「あぁ、ここ数日は特に多い。それもこれも、お前たちのおかげだな」

 

「俺たち……というと?」

 

「先日の一件に関わった奴らのことだ。あの日、あの時……のの猫だったか? 彼女の戦闘や、相馬の極大魔法を見て、多くの探索者が奮い立たされた。俺ももっと強くなってやるって、そう思う奴が増えたんだ。特に夜叉の森はそれが顕著でな……ほれ、あそこにいる奴ら分かるか?」

 

 言われて視線を向けると、そこには夜叉の森のBランク探索者、近藤兄弟の姿が。

 

「あれの弟の方は相馬の『アイスエイジ』を見て『自分も極大魔法を習得する!』ってんで息巻いてるらしい。他の連中も、自分の一個上を目指して頑張ってるみてぇだ」

 

「……そう、なんですか」

 

「全部、お前たちに当てられたんだ」

 

「……はは、何だか変な気分ですね」

 

「だろうな。けど、悪い気分でもないだろ?」

 

「そうですね。……いい気分です」

 

 この感覚は何だろうか、と考えて、思い至る。

 

(俺は、あの人たちに昔の自分自身を重ねてるんだ)

 

 何かに憧れ、新しく踏み出した一歩。始める挑戦。

 それはかつて、俺がのの猫を見て探索者を目指したのと同じ感情。

 

 俺はギルド内を行きかう人々を見つめてから小さく息を吐き「さて」と切り出した。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ。今日はちょっと深くまで潜ろうかと思ってますので」

 

「そうか、気を付けてな」

 

「行ってらっしゃいっす! 相馬さん!」

 

「はい、行ってきます」

 

 二人に見送られながら俺はギルドの受付へ。

 そこにはすっかり見慣れた地雷系受け付け嬢、入江さんの姿が。

 

 彼女はにこやかな笑みを浮かべながら俺の左腕の義手に視線を向けると、自分の左手薬指に嵌められた指輪をそっと撫でる。

 

 ……何故だろう。

 そんな一挙手一投足が恐ろしく見えるのは。

 

 バリバリに感じるのは不倫の気配。

 ルナリアやテスタロッサが向けて来た殺意と同じぐらい、入江さんからは下心をびんびんに感じる。

 

「そ、それじゃあ一人で潜ります。一応今日中には帰ってくるつもりですが、最悪夜を明かすかもしれません」

 

「わかったよ、相馬きゅん。気を付けてね」

 

「あ、はい」

 

 気を付けます。

 ダンジョンにも、貴女にも。

 

 そんな言葉はぐっと飲み込み、俺は更衣室へ。

 義手を外して、服と一緒にロッカーに詰め込むと、鍵を入江さんに渡して、早々にダンジョンに潜るのだった。

 

 

  §

 

 

 今日の目的は下見。

 

 配信の目的が『相馬創のSランク探索者としての実力を示す』ことならば、カメラを回す階層は深い方がいいだろう。

 

 そんな訳でサクサクと階層を進み、一気に深くまで潜ろうと思ったところで——俺は二十二階層に立ち寄った。

 

 足を向けたのは七規や幸坂さんから聞いていた『転移魔法陣』が仕掛けられていた地点。既に調査の手は入っているだろうけど、それでも自分の目で確認しておこうと思ったのだ。

 

(前に俺がハメられた魔法陣は、ダンジョンと一緒に消えたからなぁ……)

 

 思い出すのは整列されたゴブリンと、その奥に存在した祭壇と魔法陣。

 

 そう言えば何で祭壇だったんだ?

 亜獣の国の文化だったりするのだろうか?

 転移魔法陣で人を罠にかける時は祭壇を用いましょう的な。

 

(……まぁ、考えても分かるわけ無いか)

 

 それよりも今は、と立ち寄った二十二階層にて……。

 

「分かってはいたが、何もないな」

 

 そこに魔法陣の痕跡はなく、ただ雑草が生い茂っているのみだった。

 

 当然と言えば当然か。

 むしろ何かあったらギルドが消しているだろう。

 

 転移魔法陣は双方向に作用するものが多く、魔法陣が繋がっていた先が六十六階層であることを踏まえると、消しておかなければ大惨事になる。

 誤って探索者が六十六階層に送られるのも問題だが、六十六階層のモンスターが二十二階層に現れるのも大問題だ。

 

 俺は魔法陣が在ったであろう場所をぐるりと一周し、不意に気付く。

 

「んぁ? なんぞこれ」

 

 薄らぼんやりと、霧の様な何かが揺らめいて見えたのだ。

 しかし特に何かがあるという訳ではなく、ゆっくりと広がって空気中に溶けていく。――否、正確には溶け続けていた。

 

 おそらくは俺が同所を訪れるよりもずっと前からこの霧のような物は広がっていたのだろう。

 

(……こんなのがあるなんて、ギルドから聞いてないぞ?)

 

 ここは別に封鎖されているという訳ではなく、先日の一件以来他の探索者も多く訪れていたはずだ。しかしながら、霧の話なんて欠片も聞いたことがない。

 

 試しに触れてみるけど、手は空を切る。

 ふっ、と息を吹きかけてみるも、どうやら実体がない(・・・・・)のか、揺らめくことすらしなかった。

 

(何なんだ? ……って、うお!?)

 

 近付いて匂いなどを確かめていると、霧の一部が俺の胸に――正確には胸に焼き付いた『No.3サファイア』の魔石式機構に反応。微かに、ほんの微かにだが、魔力が回復した。

 

(ってことはこれ、魔力か?)

 

「……だからどうしたって話だが」

 

 魔力自体はそこまで珍しい物ではない。

 

 ダンジョン全体にあふれているし、何ならモノクルの男――ギュスターヴの言葉を信じれば、ダンジョンを介してこちらの世界に流れ込み、それがホモ・サピエンスに適応したことで我々は魔法を使えるようになったのだそう。

 

 問題なのは、通常魔力は目に見えるものではないと言う点だ。

 俺であろうと優秀な魔法使いであろうと、同様。

 

 なら別の物質の可能性も考えられるが……魔力が回復したという事は、現状この霧が魔力である可能性は高い。

 

(他にも疑問点はある)

 

 それは、何故この地点(・・・・)の魔力だけ視認できているのかという事だ。

 

 仮に何かの要因で俺が魔力を視認できるようになっていたとしても、先ほども言った通り魔力はダンジョン中にあふれている。この地点、この瞬間の魔力だけ見えるというのはいまいち道理に合っていない気がした。

 

(何か理由があるんだろうけど……わからんな)

 

 帰ったら狸原さんにでも報告しておくか。

 

 そんなことを思いつつ、俺は二十二階層を後に。

 数時間かけて六十七階層の地へと足を踏み入れるのだった。

 

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