どうも、藤原妹紅だ。
これから話すエピソードは、私が見つけたとある人形のお話。
売人の件以来、私はボスのお気に入りとなった。財産の提供もしてくれるが故、世界への旅もこれまで以上に楽になり、旅の範囲が広域化、更なる土地へと向かうことが出来るようになった。
今回、向かうは吸血鬼の住み所でありスカーレット姉妹の出身地、同時に禁測地とされた呪怨の土地、アユロ。
昔は昔で名があったらしいが、忘れ去られたんだ、思い出す必要は無い。
アユロがアユロとなった経緯も、今回はパスだ。
そして私はアユロへ向かった。そして恐怖と恥じを覚えた。
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「来たぞ、アユロ。」
禁足地なだけに、人の気配が皆無だ。
荒野って程じゃないが、廃墟となった建物に、ショッピングモール、富裕層の暮らしていた土地と貧困層が暮らしていたであろう土地、それぞれが空から見えたな。
で、そう。今回、私は旅客機で来た。
今の時代、禁足地への踏入は禁忌とされている、当然だな。と同時にそこに何があるのか、コアなファン達から闇依頼も殺到している。そういうヤツから無料で貸し出したんだ。
あっち側からの遠隔操作だから持ち逃げも勿論出来ない。
そして、今回はこのカメラを持って行く。
リアルタイムに写真が転送され、データとして残るって事だ。
言い方を変えれば私は使い捨ての観測機。死んでも変わりなど居るって事。
「楽しみだ…。一体何があるか。っと…着いた証拠写真を送るか。」
かれこれ流行と言うものを長いこと体験してきたんだ。
写真の取り方位分かる。
「いえーい」
パシャ
良し、送れたな。
「お?送信が来たな…どれどれ?「ふざけるな!旅客機を日本に戻すぞ!!真面目にやれ!!!」って~、はいはい。分かってますよ。」
それじゃあ、旅へ行こうか。
ここは…俗に言うショッピングモールというやつかな?
パシャ
「撮るのはこういうので良いんだろ?」
誰も返答はしないが…じゃあ何で問い掛けたのかって?雰囲気だよ。
中は至って普通の廃墟で……正面に大量の商品棚、中は空。左にはカート?やカゴ?の様な物。右には…会計レジ。
「の…上……に?」
何 だ こ れ は
奇妙…その言葉が一番似合う。絶対に。
「取り敢えず…撮るか。」
カシャ
「って…また返信か、えーなになに?「その人形はなんだ?」って、こっちが聞きたいんだ、それは。もう一通来たぞ…「傷付けず持ち帰れ」上等だ持ち帰ってやるよ。」
………あれ…?何か…コキ使われるのに怒ってないか?私ィ?
いやいや…んな事はどうでもいいか。
ヒョイ
軽さは…そこそこ、内部に充分の綿が詰まっている、至って普通の人形。
「……だが…何と言うか、生命を吸い取られている気がする。」
私だからか?至って支障は無いが…。
「グウゥゥォォオオオオオオオ」
!!!
「誰だ!」
姿は見えない…音…。
ダダッダダッ ダダッダダッ
これは足音、時速30km程。
姿が見えない…商品棚の間を縫って移動している…?
ガサササ
否、見えていない!敵は、姿を眩ます事が出来る。
音の形状的に…四足歩行だが奇形…。
よって、何かしらの能力を持った人間である可能性が高い!
「燃えろ、炎よ。こちらも出さないと、無作法と言った所か。」
これは私が会得した能力だ。
幻想の炎じゃない。実在する、実際の炎だ。
禁足地、カメラさえ取らなければこの姿を人に見られることは無いだろう。
「来い!お前は誰
グシャァァ
「グッッッ……ッッ。腕が………」
噛まれたな…感染症については心配ないが、痛い…。鮫の様な歯、その例えが一番近い。
「グォォオオゥウウ」
「あくまでも姿は見せない、って所か。」
ボォォォォォオオオ
炎を円上に炸裂させ、対象がこの円陣に触れた瞬間………
「グオオオオオ」
ピッッ
「ドカン、だ。」
ゴォォォオオオオオオ
天井が焦げかけているな…倒壊の恐れが見える…。
「ギィィィィォォオオオ」
「それに、観念したかな?戻れ、炎よ。」
「グッッッガウゥゥ……」
姿が見えた…やはり人間だったか。
獣のように体毛が生え、背丈も多分相当高いのだろう。
足、腕、腰、どの筋肉も常人以上に鍛えてある…いや…鍛えてある、と言うより…生活で出来た産物か?
「おい、大丈夫か?」
「バウッッッ!!」
「こりゃぁ…言葉が通じなさそうだな…。」
話が通じない以前に相手が私を違う種族と見なしている。
……?さっきから…こいつ、私を見ていない!?
異常な程…普通、捕まったならば捕まえた本人を見るのが感性、人間性の筈だ。
手元を…特に見て………。
「人形か!?」
あ…手を伸ばして悶えている…間違いないな。
ひょっとしたら…持ち主なんじゃ…?
「……お前のか?」
「バウッッッバウバウッッッ」
「ッッッッッッッ…。」
どうすれば良いんだ…。
ーーーー!」
…?何か聞こえたか?
スーーーー!どこなのーー!」
ショッピングモールの外から聞こえたぞ…。
ドア越しに姿が見えた!
「誰だ!」
「!!!」
髪色は黒、私よりも少し背が高くて…顔立ちが整っている…何より!
「日本人か!」
「…えぇ…そうですが…。」
「こいつ、何とかしてくれ!」
「!!…サリス!あなたここに居たの!」
「サリス…?」
「その人形はサリスの人形で…、離して挙げて下さい!」
「あ、あぁそれは失礼。」
パッ
「バウッッッキャインキャイン」
「わ…ぉ」
結構喜んでるな…。
「なぁ…ここは禁足地だぞ、何故人が居るんだ。君含めて。しかも日本人ときた。」
「禁足地…?あっ私、セリーナって言います。宜しくお願いします。」
「セリーナ…そうか、私は妹紅だ。そしてセリーナ、この人は一体どういう人間なんだ?」
「私の夫…サリスは
「!あんた今、夫って!」
「やはり…奇形でしょう?昔は元気な好青年だったんですよ、成績表もきっとオール4とかたまに5を貰うような。」
「……ッッそうか、すまない…彼は今はどういう状況なんだ?」
「妹紅さん、物事には順序というものがあります。まずはどこか落ち着ける場所を探しましょう。それこそ、三階の室内公園のベンチとか。」
知っている…?ってことは…この地域の住民だろうか?
「あ…あぁそうだな。」
「サリス、行きましょう」
「バイィィ、バウッッッ」
廃墟となったショッピングモール、だが面白いな…
こうした朽ち果てた建物をリアルで見てその中を歩く、これって珍しい事じゃあないか?
移動中にサリス、セリーナの片親が日本人で知り合いだったという事を聞いた。
ここか、ベンチは意外にも綺麗だな。
「確か妹紅さんですよね?」
「あぁそうだ。」
「バギィィィ!」
「私の夫、サリスですが…数十年前までは人間らしく…と言うのも変ですが…実際人間らしく…過ごしていました。ですが…その人形、アユロの人形で人生までも狂ってしまったのです。」
「この国の名前と同じだな…。」
「…かの昔…この国のマスコットとして存在した人形です。夫は……それに……。」
少し…涙が見れた気がする…。
「あまり…辛いことは話さなくても良いんだぞ。」
「いいえ、これは受け継がれるべき話なんです、妹紅さんにも自分勝手ですが聞いて欲しいんです。」
「…そうか。……時間はある、好きなだけ語ってくれ。」
「ありがとうございます。アユロの人形は、子供に大人気で…私も小さい頃に持っていました、夫もです。可愛らしい見た目から争いにより、冷めた世の中の子供に楽しさと癒しを与えました。」
コロコロン
「あ…人形が…。」
ボロボロの崩れた部分が多数に…でも、その中で可愛さを見付けることは難しくはない……目、顔立ち、服。
「グルルルル…ギュィィイ…」
「落としたぞ、サリス。」
「ギュウウウウィィ」
「多分…ありがとうって言っています。」
「そうか…。」
その瞳には疑う気持ちの無い、私が持つことの無い、綺麗で…純粋で…「ただ幸せに暮らしたい…」そう願った様な輝きがあった。
「兄弟の居なかった夫は愛情を人形に捧げていました、ですが…敵兵に捕まった時、夫の能力"透過"が発動し生き残るため、逃げるため、夫は人形を見捨てました。人形は敵兵の腹いせにボロボロにされ、サリスの元へ巡り巡り………。その人形が今のサリスが持っている人形です。見捨てたカルマが夫の精神を駆り立てて…透過により自身の形を認識できなくなり…今の様になりました。」
「結婚したのはいつなんだ?」
野暮……きっと野暮だ…。
だが…気になる。知りたい。
「夫と私は幼馴染です。やはり不思議ですか?奇形となった夫と結婚するのは」
少々…悲しい表情を浮かべている……な。
「そうじゃない……ごめん。」
「良いんです、夫は…能力により人と関わる事が少なく…人間不信のようなものになっていました。ですが…本当は誠実で…本当に心優しいんです。」
サリス…もしかして人形を求めていただけで…私にはなんの危害を加えようとしていなかった?
この腕も…人形との直線上にあった障害物だっただけで…。
「ご……ごめんなさい…。」
恥じるべきだ…、本当に…これは。
「人形…そういえば…生命を吸い取るような気がしたんだが。」
「奇形を保つ為、夫の寿命は常に尽き掛けています。多分…それを補充するためかと…。」
「サリスとセリーナの寿命の差は?」
「…50年程の差があるかと。」
「引き受けよう、私が。その50年。」
「妹紅さん!ダメです死んでしまいます!」
「自己紹介、まだだったかな?藤原妹紅、不老不死の蓬莱人だ。」
「不老不死?」
「サリス、人形を貸してくれ。」
「ギュィィイ?」
「何秒かは分からない…感覚で…。」
集中して見ると…人形が綺麗に補修されている気がする。
「!今まで…人形にここまで寿命を授けた事がありませんでした…。」
「……不思議だな…。奇形を保つ為かと思ってたが…。」
それは…カルマの精算。人形と一心同体って事か?
過去の記憶の再現…?
奇形な体…否、彼は…。思い出した…。
「セ………セ…………リーナ……、セリーナ。」
「サリス…。」
「セリーナ…!」
「サリス!」
「フッ………じゃあな。」
ここはもう、私の居る場じゃない。
二人の夫婦が、禁足地となった場でどう生きていくか、それは知らなくて良い。
「幸せに生きてくれサリス、セリーナ。」
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この後、その辺に落ちてそうな文字入りの石板を持って帰って何事もなく帰宅した。
アユロの人形、古い時代の重要参考品なのか?
美術館に展示されていた。
同時にお土産なのか、レプリカもあった。
こう見ると確かに可愛らしい。
駄々を捏ねて買った意味があったよ。高かったがな。
「この話に満足して頂けたら結構だ。」
解決はしていない。だがそれで良い。
だからこそ想像が出来る。
何故あそこに人形があったのか。
能力、というが詳細は何なのか。
人形と一心同体になった男、寿命を吸収するらしいが、永遠の寿命を持つ私の寿命を幾ら吸い取ったのか。
「想像次第で全て見えてくる。」
では次のお話まで、さようなら。
不揃いな部分もあるかもしれません。
修行です。