戦場とは地獄だ
昨日、酒を飲み交わした友が隣で死に、今朝、上官の愚痴を交わし合った戦友がいつの間にか消えている。
地球外生命体、「アグレス」その存在がこの世界を全て変えた。
多くの人が食われ引き裂かれ死んでいった。それに対して人類は総力戦で対抗したが徐々に苦戦を強いられていった。理由は簡単、その繁殖能力と学習能力が尋常ではないからだ。
アグレスは様々なモノが存在し、虫のように小さいものから、かつて存在した恐竜のようなモノまで存在する。今まで確認された中では100m級のものも存在する。
人類はそれに対して人型兵器、「インプレス」を開発した。
体調5mから10mになるその兵器は、高い機動性、搭乗者とのリンクによる柔軟な操縦を可能とし、確かに彼らの排除するために大いに活躍した。特に100m級討伐の際にはその高い機動性と柔軟な行動を可能とするシステムをさらに個人専用にカスタマイズされた「スペリオル機」が開発され、その特殊部隊によって多数の死傷者を出しながら討伐に成功した。
だが、それでもアグレスの繁殖と学習の前に人類生存圏の縮小を余儀なくされていた。
正に数と学習の暴力が人類を追い込んだ。
だが、その結果とある希望がともることになる。
英雄の台頭である。
それは、政治のための英雄でも無く、本当に人外とも言える能力を持つ者がある時を境に台頭し始めたのだ。その者達はアグレスという怪物達の数と学習を凌駕する能力をもって戦線を押し上げていった。科学者の中には人類の進化を疑う者、政府極秘の人体実験の産物や、本当は人間じゃないといったように多くの欺瞞に満ちた情報がながれ、現在もその真実は分かっていない。
だが、一つだけ言えることがあるとすれば、彼らは人類を救った英雄だったということだ。
ps,連邦調査局 報告書第564号
◆◆◆
「まあ、だからといって俺達一般兵は一般兵だって言うのに。」
俺、高羽昴は今日の戦場をやっとの思いで生き延びた。周りは地獄、阿鼻叫喚、手足を失った者もいれば、もう息をしていない者、友人を失った者、多くの者が叫び、泣き、一日を終えようとしていた。
「はあ、人類に栄光あれ。」
そう言って、一枚のプレートを胸にしまい、その場を後にする。
これが一般兵が行き着く一日の終わりである。
俺達の仕事は命がけである。
勿論、その分の教育、そして給料などはそれなりのものが支給されている。だが、言ってしまえばそれだけだ。何せ命がなければ全て紙切れと鉄くずそしてデータにしかならない。では何故それでもここにいるのか。簡単だ。働き口がここしか無いからだ。
人類は追い詰められた。一般人にもそれが分かるぐらいに追い詰められてたのだ。何せ人類生存圏は奴らが来る前と比べて半分に満たない。インプレスが出来るまでに多大な犠牲があったのも確かだが、それ以上に世界がまとまることに時間がかかっていしまったのが大きな原因だ。上の政治家達も現代兵器で十分抵抗できると思っていたのだろう。
しかし、そうはならなかった。奴らの学習と自己改造の速度を前に現代兵器は対策され加えて、繁殖力という点においても想像を絶していた。結果、国が人が大地が奴らによって蹂躙されたのだ。しかも、それは獣のそれではない。明らかに統制されており指揮官がいるのは明白だった。その指揮官を我々は今、『コマンダー』級としており彼らの場合、意思疎通すら可能だと判明している。まあ、敵意もりもりだが。
まあ、始めての地球外生命体との接触が戦争だとは映画の見過ぎだと皆思っていたさ。でも、まあ、仕方ない。始まってしまった戦争の終わり方は勝つか負けるかの二択しかない。
でもまあ、分かるだろう。この戦いほぼ負けが確定しているのだ。
「和馬、龍大、逝ったか・・・。」
和馬、龍大共に同期で入り、英雄になってやると豪語していたうるさい奴らも今日遂にこの世を去った。
兵士の生存者の名前は調べれば分かるようになっており死亡が確定すればその時点で分かるようになっている。前線などの通信が困難な環境の場合一日ごとにパネルに生存者リストが出されそこで確認することができる。死亡者リストではないだけマシなものだ。
俺はそれを毎日チェックしているが、いつも気が滅入る思いだ。だが、戦友である以上それなりの事をしてやる義務があるだろう。少なくとも俺はそう思っているしあいつらも同じ事をしているだろう。
「生存率10%、か・・・。ひどいな。」
今回のその戦場は飛び切りひどかったらしい。
予想の倍以上のアグレスにより襲撃を受けいたようだ。歩兵だったらその時点で逃げ出す者が出ていただろう。だが、インプレスの場合逃げ出すこともできないから戦うしかない。プログラムにそう書かれてしまっているし、インプレスは軍事兵器だ。それで逃走などどんな刑罰が下るかはもう目に見えている。まあ、逃げる奴なら既に死んでるだろうけど。
「俺も、もうすぐ死ぬんだろうなあ・・・。」
「止めとけよ昴。」
「おお、裕也かお前は元気か?」
峰岸裕也。この基地で出会った日本人だ。まあ、話し出したのもここ一ヶ月の話だが日本人同士で話し合えることも少ないからだろうか、それなりに仲良くなったのだ。
ちなみにこのインプレスを扱う軍隊は既に国際組織「ガーディアン」、所謂「国連の軍事組織」という扱いになっている。そのため世界中の兵士がここに所属している。まあ、ご大層な感じだが、実は特殊部隊でも何でも無い。世界中の軍から適当に募集されその規定された人数がそこに行かされるのだ。そこから世界中あちこちに派遣されそこでインプレスに乗って最前線で戦う。これが現実だ。夢も希望もあったものじゃない。
ああ、一応言っておくが俺は志願はしていない。て言うか普通の人間は志願なんかしない。何故って?ほぼ確実に退役できずに死ぬからだ。そもそも海外に出されて辞めますなんて言える戦場なんてない。生きるか死ぬかだ。まあ、要すに俺はトカゲの尻尾切りにあったという訳だ。なんか泣けてくる。
「元気な訳ないだろう。・・・それは北アメリカの西部戦線か?」
「ああ、友人がそこに居てな。今日死亡が確認された。」
「・・・そうか。」
もはや死は日常だ。そこに慣れなくちゃ俺達は死ぬ。
本当に嫌な世界だよ、全く。
「そっちはどうなんだ?英雄のお付きになった気分は?」
「お前それ聞かれたら銃殺刑ものだぞ。」
この世界には英雄と喚ばれる者達がいる。まあ、簡単に言えば人外の才能をもった異端者達。彼ら彼女らがいなければ世界は既に滅んでいたと言われている。ちなみにこのインプレスを作り上げ人類に反撃の狼煙を上げたのもその英雄の一人だ。
人類の切り札。世界の守り手。神の使徒。そう喚ばれる者達が現れたのはアグレスが侵攻しだして間もなくだった。世界のほんの一部一部で防衛に成功する基地が出現し、その存在が徐々に浸透していったのだ。まあ、無能がどんどん死んでいって有能な者が生き残ったとも言えるかもしれないが、とにもかくにも彼らは現れ、そして世界は能力主義へと徐々に舵を切り出したのだ。全く以て大したものである。
そしてこの基地にもその一人がいる。名前はエリシャ・ハルフォードは若干17歳で英雄としての頭角を現し、拠点防衛において50回以上の防衛に成功した正に守りの英雄。ここが無事なのはその英雄がここに居るからだ。確実に彼女がいなければここはすでに奴らに呑まれているだろう。
だが、もちろん英雄と喚ばれる者達は一筋なわではいかない。何せ、彼女達は全員英雄だ。もちろん与えられる特権も豪華であるが、彼ら彼女らが「やーめた」と突然言い出せばすぐにでも戦線は崩壊しかねない。よって英雄の個人的な要望は基本何でも通るのだ。
そしてその犠牲者の一人がこの峰岸裕也だ。
エリシャ・ハルフォードは決して醜女じゃないしむしろ美人の類いであり、外見だけでみれば本が似合う静かな印象を受ける。だが、彼女は苛烈さで知られている英雄だ。彼女は戦場をチェスに見立てて戦っていると言われており、戦場では兵士は駒として彼女には見られている。そのため駒の死は全く以て彼女に何の影響ももたらさない。苦情を言う将官までもが現れることがあったが、彼女はそんな将官を軽く論破しその将官を言葉で制圧して見せた。そして、指示内容も無慈悲で冷酷。そして、アグレスを見事に制圧しきるその姿は正しくキングだったと彼女の副官は答えたと言う。
結果彼女は50以上の防衛を成功させている。ああ、正しく英雄だ。
だが、軍は一人では回らない。
キングである彼女は有能で多くの者達を守って見せているが、その直属の部下達は彼女無茶ぶりの帳尻合わせに奔走することになる。弾薬、インプレスの整備、食料備蓄管理、兵士のメンタルケア等々戦場以外のことにおいてその英雄は、有能ではないのである。
結果、生まれるのが悲しいブラック企業以上のブラック体質となった後方勤務者達である。
「裕也お前寝れてるか?」
「はははははは!それをこの僕に聞くか?ああ、勿論寝ている!ちなみに今日は2時間も寝れた!」
「・・・・・」
もう壊れている。軍人なら後方配置は命が助かる良いことだと言う奴もいるがそっちもそっちで命がけなのだと俺達は知っている。そう!生きるためには休息が大事なのだと知らないあの英雄によって!
ちなみに苦情を入れて死にかけた奴を知っているため全員何も言えないのだ。
そう。これが縦社会の現実である。
「はははは!ああ、そろそろ時間だな。」
「そうか。その、まあ、ちゃんと寝ろよ。」
「勿論、休息は大事だ。それに死んだら妻が笑えなくなる。」
「ああ、その通りだな。」
裕也は颯爽と去って行った。
彼には妻も子供もいる。何でも自分がエリートコースに進んだことで治安の良い所に引っ越すことが出来たとかなんとか。そして自分が戦場で死ねばそこで定住できるらしい。
「やるせないよな。・・・側に居てあげたいだろうに。」
こんなご時世だ。仕方ないと言えばそれまでだ。だが、家族は一緒の方が良いに決まっているだろうに。
「ま、俺はそんな相手もいないんだけど。・・・親父達はなにやってんだろ?」
心配するだけ無駄な気がするけど。
「さて、今日も訓練行きますか。」
例え戦場帰りだったとしても訓練とそして反省は大事だ。
腕が鈍ればその分死ぬ確率が高くなる。自己管理そして、適度な休憩こそ大事なことだ。だが、こちらも学習を続けなければ生き残るなんて不可能だ。
◆◆◆
「さて、今日は、どうするか・・・。」
軽い訓練を終えれば夕食の時間だ。
友が死のうとも夕食は取らなければならない。しかし、今日は同期が二人も亡くなった日だ。
「何かあいつらへの肴になるような事でもするか・・・。」
精神も限界、肉体も限界。されど死した友を送る事だけは彼は欠かさない。
それこそが死んだ兵士への礼儀だと死んでいった教官達に教え込まれたことだからだ。
その時、食堂の前で見たことの無い少女を見かけた。それも美少女だった。見た感じインプレスの搭乗員の一人だろう。つまり同僚ということだ。だが、この基地では見たことがない。
「新しい搭乗員?いや、時期が可笑しいし明らかに・・・いや年齢を聞くのはマナー違反だろう。階級は・・・ん?階級章をつけていない?おいおい、ばれれば折檻ものだぞ。けどまあ、新人ならたまにやっちゃうんだよなあ。あれ。」
大方、洗濯の時外してそのままにしてしまったとかそんな感じだろう。だが、俺もやったことがあるし、こんなご時世だ。規律を少し守らない事など若い子は大目に見られるべきだろう。うん。
ちなみにインプレスの搭乗において男女の優劣の差そして年齢の優劣はそこまでない。必要なのは反射能力と視野の広さであり、英雄の中には一人で500以上のアグレスを近接武器のみで狩って見せた女インプレス乗りも居るほどだ。
「そうだ!」
高羽昴はちょっとした事を思いついた。
所謂、告白ゲームである。告白して振られそれをあいつらへの肴にしよう。そもそも彼はあの少女に会った事も無ければ、話をしたことも無い。加えて彼の容姿も平凡の域を出た。つまり告白が上手くいくことはありはしない。
だが、今、彼はとてつもなくバカな事をしたかったのだ。友人が死んで自分のきっとそう遠くない未来に死ぬとしても笑っていたかったのだ。
善は急げで彼は速攻で適当に花束を買いに行き、良い感じに服も整え、少女の食事が終わる前に彼女の前に立った。
それはもうバカまるだしでいかにもフって下さいとばかりに彼は動いた。
そう、それはただの気まぐれだ。
そして
「一目惚れしました!付き合って下さい!」
さあ、何が来る!平手打ちか、それとも鋭い回し蹴りか!
彼はそれさえ本当に楽しんでいた。
そして少女は口を開いた。
「え、えっと、よろしくお願いします?」
了承の返事。
世の中は不思議なものだ。行動するまでその結果は神様だって分からない。
斯くして、一般兵、高羽昴は人生初の彼女を手に入れたのだった。