(sideジョン・シエル)
「一目惚れしました!付き合って下さい!」
ジョン・シエルは生まれて初めて告白を受けた。
数時間前
彼女は戦災孤児でありそのまま軍人になった身だ。才能があったことである程度目をかけてもらい今まで生きてこられたのが彼女だ。
そんな彼女はある日異動を命じられた。何でも近頃、活発化の傾向があり応援が必要になる戦場があるらしい。そこに救援に向かいその基地の防衛に参加しろとのこらしい。軍人にNOなどあり得ない。そして彼女は次の戦場へと向かった。世界を守るために。ひいては育ててもらった恩を返すために。
「お待ちしていました。ジョン・シエル様。」
「は、はい!」
「畏まらなくて結構です。すぐにあなた様の部屋へとご案内いたします。」
「・・・あの、この子は・・・。」
シエルの後ろには丸まった状態のインプレスが存在していた。
「ああ、シエル様のスペリオル機ですね?ご安心下さい。責任をもって担当者が整備まで完璧にこなさせていただきます。」
「あ、ありがとう御座います。」
「いえいえ、この程度当然で御座います。」
そして、彼女は部屋へと案内された。結構広い部屋だった。
「あ、あの、私はここで一人ですか?」
「はい。自由に過ごしていただいて構いません。それとも誰か世話役の方が?」
「い、いえ。そのあっちでは友人と一緒だったので・・・。」
「・・・なるほど。ちなみにその方は?」
「ヴァレッタ・フードです。」
「ああ!太平洋戦線の英雄!一人で千のアグレスを切って戦艦を守り切ったと言われる!」
やっぱり有名なんだ。ヴァレちゃん。
「あ、はい。」
「成る程。しかし・・・その・・・あなた様と同室になれる格の持ち主となるとそのお。」
当然だが、この世界において待遇は階級によって定まっている。そして、英雄格ともなればその同室の相手もそこら辺の者と一緒という訳にはいかないのだ。
「・・・・あの、私嫌われている感じですか?」
「いえいえ!それはもう喜んでいましたよ!ですが・・・その・・・あの方は、エリシャ様は人使いが荒いと言いますか、その、友好関係の作り方が下手と言いますか・・・。なのでこちらの方で止めてしまったという感じでして・・・。」
「・・・・・・・・」
シエルは無言になるしかなかった。
自分も友好関係の作り方が下手くそなのは知っている。だが、部下に止められる程のやばさとは一体・・・?
まあ、シエル自身も別な方向にヤバい奴の枠なのだが本人にその自覚はない。
「あ、はい。分かりました。」
「顔合わせは明日に予定しています。なにぶん今日も小競り合いがあったので・・・。」
小競り合い、それはアグレスとの戦闘を意味する。
「分かりました。」
なら仕方ないと割り切ってシエルは行動を開始するのみ。
「ああ、食堂は右に行って階段を降りればすぐですから。」
そう言って案内係の女性は去って行った。
「そう言えばお昼から何も食べてない。」
シエルはそうして食堂に行った。
汗だくだったので服は先日洗ったものに着替えた。
「これ、洗濯に出さなきゃ、クリーニングは・・・今から間に合わないよね・・・。」
シエルはその軍服をハンガーにかけ清潔な軍服で食堂に行った。
なお、ハンガーにかかった軍服に白金の鳳凰が浮かんでいた。
そして冒頭に戻る。
「一目惚れしました!付き合って下さい!」
そう言ってきた話したことも無い男性。しかし、手には花束。服装も清潔感のある紳士服。ある意味イカれた英雄達と一緒に居る機会が多かったシエルは今回が初の単独での派遣だったよって大いにテンパった。
初対面の男性、初めての告白、初めての花束。
友人を天へ送ったことはあれど、こう言う経験は全く無かった彼女は思考が回転しまくり大いに焦った。
何か言わねばと焦った。
結果
「え、えっと、よろしくお願いします?」
こうなった。
恋愛クソ雑魚、コミュ障の少女はここに人生初の恋人を手に入れた。
◆◆◆
ジョン・シエル、彼女はとある特殊部隊に所属するスナイパーだ。
日々、スナイパーとして戦場に立ち、仲間を後方から救い続けている。そんな毎日を送っているにも関わず彼女には友達がいなかった。容姿にも優れ、実力も折り紙付き、だが彼女には明確に欠点があったのだ。
それは、協調性の欠如である。
彼女がまともに会話をするのは部隊のメンバーだけであり、なおかつ自分から話しかけることは皆無な人間であった。
だが、その協調性が無いにも関わらず彼女は軍において英雄と呼ばれる一人だ。スナイパーとしては世界屈指の技量を誇り、最大射撃成功距離は100kmオーバー。誰にも追随を許さないその技量、そして空間把握能力、呼ばれた二つ名は『絶射』彼女は英雄の近接職との連携でロード級(知能をもった指揮官型アグレスの上位種)を完封してみせる実績をたてた。正に最高のスナイパーである。
そして、彼女の所属する特殊部隊こそ英雄のみ構成された最強部隊の一つ。
紛れもなく、ジョン・シエルは世界の守り手の一人であり最強の一角である。
そんな!
そんな彼女は初めて!
「あの!ど、何処の出身なんですか?」
デート?をしていた。
「お、俺は日本出身です。そのまあ、そこから軍に入って、異動でこっちに・・・。」
「そ、そうなですね。私は戦災孤児でして、その出身がもう分からなくって・・・その軍が家みたいなもので、その、えっと・・・。」
「そ、そうなんですね。あの、俺名前言ってませんでしたよね。俺、高羽昴って言います。」
お互いにこういう経験が無いのが分かる話し合いが続いていた。
何というか、初さが際立っていた。
「え、えっとジョ、
(あれ?これ私が名前教えたら色々ヤバいのでは・・・。)
せっかくの恋人、無駄にするのは何か違うと考えるシエル。
「ゴホン、エマ・シュビーです。」
「じゃ、じゃあ、エマさんですね。」
「はい!え、えっとじゃあ、す、昴さんとお呼びしても?」
「あ、は、はい!構いません!」
大丈夫だと、心で安静を取り戻すシエルと、こんな美少女が良いのかと汗かきまくる昴の攻防は実際には数秒でも彼らにとっては長い時間をかけているようなものだった。
「あの、失礼でしたら階級など教えていただけると・・・。」
そこでピシっと固まるシエル。シエルは首元を見ると階級章をつけていないことに気付いた。
(階級章付けてない!)
ここで初めてシエルは何故告白を受けたのかを中途半端に理解した。
(成る程。階級章がないと言う事はこの人は私の正体も、所属もしらない!)
どうしようか迷うシエル。
見ると昴は上級准尉。
真実を話すか、嘘を話すか迷い所である。
「あれ!私、階級章忘れてました!?すぐに戻って付けてきます!」
結果、出たのがこの、あやふやにして部屋に戻る作戦。
「ああ!やっぱり。気を付けてください。ここでは上官に見つかれば折檻ものですから。」
「あ、あの、見逃していただけると・・・。」
「構いませんよ。俺もやったことあるので・・・。」
(や、優しい人だああ。)
シエルはそのまま連絡先をいろんな理由をつけて聞き出しその場を後にした。
◆◆◆
「待たせたな!私のクイーン!」
「はい?」
シエルは予定通り基地の司令官との面談に訪れていた。
そう、件の問題ありとされていた司令官兼英雄だ。
「何、それほど驚く必要はない。私に最強の矛がやってきたのだ。それに歓喜しないプレイヤーはおらぬだろう?」
(あ、やっぱりこう言う人だったんですね。)
英雄とは大体が可笑しい。だが、大抵はその他のことで凄まじい成果をあげる。凡人にしてみれば「天才」は「天災」でもある。全く、他と一線を画する者達は自分が他者と違うことを理解しているから尚のこと扱いづらい。だからこそ彼らは英雄なのだが・・・。
それはさておき、エリシャ・ハルフォードは大いにこの日を楽しみにしていた。
なにせ、久々の同類との対面である。英雄と呼ばれる者達は余りには数が余りに少なくシエルのように特殊部隊の一員にもならなければ共闘する機会さえ中々与えられることがないのだ。だからこそエリシャ・ハルフォードは内心孤独な毎日を送っていたのだ。
それが、ついに破られる!
「さあ、ジョン・シエル!好きなものを頼むがいい、大抵のものは揃えておいた!」
エリシャは大いに興奮していた。
「あ、はい。それじゃ、ココアを一つ。」
「良いだろう、ユウヤ!ココアだ!」
「は!」
すぐさま、隣にいたそば付きの者がココアをいれるために駆けていった。
「・・・ユウヤ、というと日本人ですか?」
「おや、もしかして何か日本人に嫌なことでも?」
「い、いいえ!その、知り合いに日本人がいまして・・・。」
「成る程。だが、それほど珍しくもあるまい。あそこは勤勉な者が多い国だ。能力主義の現代において勤勉な者は上に行きやすい。まあ、無能が居なくなっただけかもしれんが。」
「そ、そうですね。」
そうした、雑談を続けているとココアが間もなく裕也によって運ばれてきた。
「熱いのでお気を付けて。」
「あ、ありがとうございます。」
裕也はそのまま黙って下がっていった。
「さて、本題に入ろう。」
ピシっとした雰囲気が醸し出された。
「貴君がここに派遣された理由は知らされているだろう?」
「はい。大規模侵攻そして、ロード級の存在がガーディアン本部により予測されました。」
シエルが呼ばれた理由はこのロード級討伐が現在のこの基地「ユーラシア大陸東部戦域」において現戦力では困難とされたからだ。加えてここが落とされれば人民への被害が無視できない領域になるため人員カツカツの中シエルが送られたのだ。
「うむ。コマンダー級ならいざ知らず、ロード級ともなると我々の装備ではまず勝負にならん。なにせ、奴はでかい上に生命力も高い。そして知能も我々にせまるからな。正直言ってここは放棄されるものと私は考えていたのだが・・・。」
ロード級アグレス、まさにその強さは圧倒的なタフネスと大きさ、そしてその知能レベルの高さにある。ロード級が率いるアグレスは皆訓練された精鋭部隊のような動きをする上に全員死を恐れない死の兵だ。それが大軍でやってくるのだ。これにより落とされた国は数知れずであり、英雄台頭前は全く手も足も出なかった。
そう、英雄台頭前は・・・
「そこでシエル!貴君のような最高の兵士が転がり込むとは思わなかったのだ!まさか、世界最強の狙撃兵!そしてたった二人でロード級アグレスを完封勝利した実績の持ち主とあってはプレイヤーの一人いやコマンダーの一人としてウズウズするのが止まらんよ!」
「は、はあ。」
(あれは、他のアグレスを先輩達が足止めしてくれたからだし、ヴァレちゃんが凄すぎたんだよね。)
思い返すは1年前の激戦。そして、嬉々として戦場に飛び込む相棒。あれはもう、戦場が家みたいな感じなのだろうと思いながら、ひたすらに引き金を引き続けたことを覚えている。
「あの時は、その主にもう一人の英雄がダメージを与えていたのであってそこまで私は凄いことはしていないというか・・・ひたすらに初動を潰しただけというか・・・。」
「それができるだけ貴君は優秀だよ、ジョン・シエル。それに、貴君かヴァレッタ・フードどちらが欲しいかでいっても私は即答で君を所望する。絶対に。」
「そ、そうですか。」
鬼気迫るエリシャの言葉を前にシエルはもうタジタジだった。
「それに削るだけの算段はこちらでつけた。安心したまえ、君の役割は変わらない。貴殿のインプレスにてロード級を完全に抑えてくれ。できるかね?」
「・・・恐らくあちらも学習していますが、いけるでしょう。」
「なら結構!後はこちらに任せたまえ!きっちり勝って見せよう。」
ニカッと笑ったその英雄は見るからにウキウキしていた。
「あ、あの!」
「なんだね?シエル。」
既に呼び捨てにするエリシャ。
「こちらでの私の待遇なんですが!」
「む!問題があったか言ってくれ早急に手配する。」
「いえ、あの私が英雄であることを隠してもらえませんか?」
「・・・と言うと?」
「・・・その、私、英雄扱い嫌いなんです。なので、その・・・。」
「成る程。・・・英雄が参加していないというのは士気が下がりかねんがまあ、貴君がパフォーマンスを下げるよりはマシだな。了解した。そのように手配しよう。」
「あ、では名前もお願いします。」
「名前?」
「はい。この基地だけで良いので。」
「確かに、名前で調べれば一発で貴君だとバレるな。よし何か要求はあるかね。」
「えっと、名前はエマ・シュビーで階級は・・・少尉でお願いします。」
「良いだろう。」
「・・・良いんですか?」
「当たり前だろう。貴殿と言う戦力が十二分に動けるよう配慮するのはコマンダーとして当然だ。何より貴君は英雄、他の者との価値が違う。言っただろう貴殿はクイーンなのだと。」
「は、はあ。あの、先ほどからのそのクイーンというのは?」
「む?貴君もしやチェスをしたことがないのか?」
「あの、その、見たことはあるんですけどやったことは・・・。」
「なんだと!?それはまずい。英雄同士でチェスをやろうと基地内大会まで準備してしまったのに・・・。よし!私が教えよう!うん!それで解決だ!」
それを聞いて頭を抱えるエリシャの部下達。
ああ、これがこの人が「
そうしてシエルは仮の名前と階級を手に入れた。
「ちなみにその名前は?」
「・・・死んだ友達の名前です。」
「・・・そうか。」
それだけ言ってエリシャとシエルの対談は終わった。