ライフルの弾丸は安くない   作:wakawaka

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いつもの戦場

 アグレスの行動はある程度予測することができる。

 

 理由は単純、その規模の大きさから()()するのがたやすいからだ。加えて基地周辺からは絶えずドローンといった斥候を出しており周辺の状態がリアルタイムで報告されている。空も地中も例外なくその存在を捉えるために人類は技術を高めてきた。そして、その結果それらに異常があれば・・・

 

 

 

 ビー!ビー!ビー!

 

「急いで情報を回せ!」

 

「規模は!」

 

「出ました!日本海側!数は凡そ1000から1500!」

 

「どれも小型から中型の模様!大型個体確認出来ず!」

 

「了解!ただちにインプレス部隊を出撃させます!」

 

 あらゆる情報を一手に受け持つ司令室では警報が鳴ると共にわずか1分以内にほぼ全員が集結し緊急態勢を敷いていた。

 

 彼らはここの防人であり頭脳。全員が英雄には及ばないにしろあらゆる点で優秀と判断された精鋭達であり、もしもの場合は全員がインプレスに乗り最後の砦となることを義務付けられて居る者たちである。それほどの覚悟が無ければここの仕事は務まらない。

 

「閣下は!」

 

 そしてここの最高責任者にして、その要。

 

 普段は暴君の体をしているが、こと襲撃からの防衛においてここに居る者達が絶対の信頼を置いている総大将の存在は大きい。

 

「恐らくかの英雄を呼びに行きました!」

 

「<絶射>か」

 

「はい!」

 

「閣下はここであの者の能力を測るおつもりのようですね。副司令?」

 

「黙れ、青二才。閣下がそうしたのならそれが最善だ。我々は粛々とそれに従うのみだ。」

 

「わーお。それだから皆に王の番犬なんて呼ばれるんですよ?」

 

「ほほう。ではその番犬らしく貴様から食いちぎるぞ。技術顧問殿?」

 

「ご冗談を?僕が居なくなればこの基地のインプレスの機動力が1割は落ちますよ?」

 

「っち!」

 

「あ!舌打ちされたー!最低だー!パワハラだー!」

 

「黙れ!技術バカ!それであのスペリオル機はどうなっている!?」

 

「勿論。全て万全にしてありますよ。・・・それにしてもあれを作った人はイカれてますね。まあ、乗る方もですけど。」

 

「当然だ。スペリオル機は人類の切り札になる者に与えられる特注の中の特注。あのミハエル・アインシュタインが自ら作り上げているのだからな。」

 

「・・・僕はあいつが嫌いですよ。あいつの場合他人に理解させる気がまるでありませんから。」

 

「おいおい、だからこそ、英雄なのであろうが。駒共。」

 

「閣下!」

 

 そこにはこの基地の最高司令官にして絶対の守護者が後ろ髪を靡かせながらやってきた。

 

「誰にも理解されず孤高の中であってもなお輝く存在。だからこそあいつらは良いのだ。私も是非会ってみたい。」

 

「えーー。」

 

「何がえーだ。技術顧問。」

 

「ただの嫉妬です。閣下。」

 

「ふむ。素直でよろしい。で、準備は?」

 

「万端です。」

 

「ならば良し!迎え撃つぞ!」

 

「「「「「は!」」」」」

 

 彼らは戦う。一人の王の号令と共に。厳つい副司令も皮肉屋の技術顧問も彼女の前では駒の一つ。けれどそれで良いと彼らは言う。

 

 彼らは知っている。彼女の指示に無意味なものなど一つもないと。そして、()()()()()()()()()()()()()()()ことを。

 

 故に彼らは王の家臣。エリシャ・ハルフォードのボーンであることを良しとする。

 

「だがまあ、今回はチェス盤では愚策だが面白いことから始めよう!」

 

 そして意気揚々と王の腕が振るわれる。

 

「クイーンを出せ!せっかくだ。コマンダー達に最初の犠牲者になってもらう!」

 

「了解!」

 

 開戦の狼煙が上がった。

 

 

◆◆◆

 

 

 ビー!ビー!ビー!

 

 それは全ての兵士にとって全力の飛び起きを強制するものであった。時間は午前3時。されどそんなことはこの緊急事態を知らせるブザーの前には些事だ。

 

 勿論それはこの俺、高羽昴にも同じ事である。

 

 いかに昨夜夢のような時間があったとしても、このブザーは決して平穏を与えてクはくれないのだ。

 

「クッソ。アグレス共!昨日も来たくせに今日もかよ!」

 

「言ってくれるな。兄弟。それに今回は日本海側だ。」

 

「っち!俺、水に濡れるの嫌なんだが!」

 

「は!インプレス乗りが濡れるかよ!精々、海の中に引きずられないことを祈るんだな!」

 

「そうかよ!死ぬなよ!兄弟!」

 

「おう!」

 

 こう言う時ばかりは普段あまりしゃべらない者達とも少しでも喋った方が良いのだ。緊張はたやすく戦場で命を落とす理由になり得る。

 

 そして、

 

「遅いぞ!昴!」

 

「待たせたな!叶、水羽、レオン。」

 

 これが俺の今のチームメンバー。そして背中を預ける部隊だ。部隊名は第5強襲部隊。主に一番前で前衛を張りアグレス達の進撃を食い止める役目をこなす部隊だ。まあ、戦場の花形と言えば聞こえが良いが一番死ぬ場所とも言える場所だ。

 

 まあ、だからこそベテランが派遣されるのだが。

 

「聞いたかい?今回の戦場は海の近くだ。」

 

「聞いたよ。たく、俺は濡れるの嫌いだって言うのに。」

 

「はっはっは!確かにね。だが僕としては、女の子とビーチで遊べないことの方が問題だよ。」

 

「言ってろ。隣の女子どもが恐くなればな!」

 

「はははは。Ms.カナエもMs.ミズハもそこまで心がせまくないとも!」

 

「最低です。レオン。」

 

「ええ、最低ね。レオン。」

 

「・・・一応ここ僕が隊長なんだけどね。」

 

「ま、これから一番危険な場所に行くんだ。これぐらいの方が丁度良いだろう。」

 

「良くないよね、スバル!君は同じ男としてこっちの味方だろう!」

 

「残念。俺は紳士の一人として淑女の味方だ。」

 

「ク!そんなんだから君はいい年なのに彼女の一人も出来ないんだぞ!」

 

「・・・・・・・」

 

「なんだい!その沈黙は!」

 

「隊長ブリーフィングが始まります。」

 

 そして彼らの前に彼らの上官が現れた。

 

「総員!傾注!」

 

 ザという音と共に全員が敬礼を返した。

 

「貴様ら!いつまでたるんでいるつもりだ!これより先は紛れもなき死と隣合わせの戦場である!生き残りたければ我らの英傑に敬意を示せ!」

 

「「「「「イエス!サー!」」」」」」

 

 ここにいる者達は全員エリシャ・ハルフォードの指揮下で戦うことが義務づけられており、異論は許されていない。

 

「良し!これよりブリーフィングを行う!心して聞け!」

 

「アグレス達は現在、日本海よりこちら側に侵攻中。数はおよそ1000から1500。全て小型から中型であり大型は現在確認されていない。」

 

 この時点で多くの将兵が心の中で安堵した。何せ大型が一体でも居ればその攻勢は厳しいものが予想され、その戦いによる犠牲は毎回大きくなるからだ。だが、それがいないおとなればそれは小競り合いであり、被害が少なくなることが予想できるのだ。

 

「だが、コマンダー級の存在は確認された。敵は間違い無く連携と統制がとれた動きでこちらを攪乱してくる。だが、間違っても動揺するな。相手は歴戦の司令官だとしても我らが英傑エリシャ閣下には遠く及ばん。その指示に従え良いな!」

 

「「「「「イエス!サー!」」」」」

 

「そしてこれからその作戦を説明する。今回は始めに特殊試験部隊の導入がされる。」

 

(特殊試験部隊の導入!)

 

 これには、多くの将兵が驚いた。この基地内においてそんな動きがあるとは皆しらないからだ。

 

(あれ、もしかしてエマが・・・?)

 

 だが、昨日普段見かけない少女と出会った昴は違う予想が立てられた。

 

(そうか!だからエマは階級を持っていなかったのか!)

 

 試験部隊ならその秘匿性から名前、部隊名、階級を明かすことを禁じられている場合がある。それなら納得。と昴は落ち着いたが。

 

(あれ?これって俺弄ばれた?)

 

 その恐ろしい推測が頭をよぎり落胆。

 

(うん。そりゃあそうだよな。年の差だってあるし。うん。俺には釣り合わない釣り合わない。)

 

「この特殊試験部隊による攻撃をもって開戦とする。号令は閣下が行う。そしてその特殊試験部隊の攻撃の成否に関わらず強襲部隊の第1から第5はそまま接敵そして殲滅を行ってもらう。もし、特殊試験部隊が失敗に終わった場合、遊撃部隊の第1から第3が側面から削る。そして砲撃部隊の第1から第5はいつも通り敵のど真ん中に一斉射を行ってもらう。ちなみに第6から第10部隊は回り込んで敵後方部隊を叩いてもらういいな!」

 

「なお、不足の事態があり次第すぐにこちらに連絡を遅れ。閣下がそれを元に号令を出す。」

 

「あの、私達遊撃の第4と第5の部隊はどうするのでしょうか?」

 

「貴様らは特殊試験部隊の護衛だ。なおこの部隊は秘匿事項が多いためこの部隊の者達には後ほど厳重な機密条約にサインしてもらう。」

 

「!イエス!サー!」

 

「敵の種別は?」

 

「確認されているだけで、近接型<ワーグナー種>突撃型<ベヒモス種>特殊型<スコーピオン種>虫型<ミクロ種>が確認されている。」

 

「虫型。・・・ガスの投入は。」

 

「既に行っている。戦闘区域外で大幅に数を減らせるだろう。一応レーダーにも映るはずだ。その場合は部隊での撤退そして放射器での殲滅を推奨する。全員レーダーから目を離すなよ!」

 

 虫型のアグレスは全インプレス乗りにとって天敵だ。奴らはその小ささから排気口からの侵入すら行ってくる。1匹や2匹では全く脅威にならないが集団となるとその乗組員のスーツを食い破り貪り始める。そしてインプレスから降りようものならその他のインプレスに食われるか踏み潰される。正に天敵だ。

 

「他に何か質問はあるか?」

 

「よろしいでしょうか?少佐。」

 

 そこで昴達の隊長レオンが手を挙げた。

 

「なんだレオン隊長。」

 

「は!特殊試験部隊はどのような行動を?場合によっては我々も護衛に参加するのでしょうか?」

 

「ふむ。真っ当な質問だ。そして断言しよう。その必要はない。むしろ今回の作戦において貴様らは大分楽ができるだろう。」

 

「楽、ですか?」

 

「ああ。私も閣下もそれほど今回の特殊試験部隊の運用には自身があるということだ。まあ、大船に乗ったつもりでるがいい。死なない程度に、だが。」

 

「・・・分かりました。」

 

「他に質問は・・・無いようだな。それでは、総員出撃準備にかかれ!出撃時刻は04:00だ!良いな!」

 

「「「「イエス!サー!」」」」

 

 

◆◆◆

 

 

「どう思う?スバル。」

 

「ああ、うん。少佐があの調子なのはいつも通りだが、あの閣下まで太鼓判を押したのならある程度信用して良いんじゃ無いのか?だってあの人ビックリするぐらい疑り深いし。」

 

「まあな。閣下がいる以上この程度でここが落ちることは無いと思うが、どうにも気になってな・・・。」

 

「そうか?新兵器が投入されるかもしれないだろ?なら良いことじゃないか。もし、それで俺達が楽できるならそれが一番いい。」

 

「・・・まあな。国家間の争いも今となっては外交の争いぐらいだし、アグレスの侵攻は増える一方、そろそろ楽したいのはみな考えていることだ。」

 

「だろう?」

 

「今回がその一歩目となるなら、うん、良いことだなスバル。」

 

「・・・ああ。良いことだ。」

 

 スバルは昨日会った少女の事で悶々としながら、レオンはこれからのアグレスとの戦いに変化があるかも知れないという希望を胸に出撃の準備をしていた。

 

 

 

「あの二人何話していると思う?叶。」

 

「きっと例の特殊試験部隊の導入についてですよ。あの二人ふざけているようで実は真面目ですから。」

 

「はあー。面白くない。もっと盛り上がることしましょうよ。この後は死地だって言うのに。」

 

「仕方ないですよ。レオンさんは部隊全員の命を、昴さんはそのレオンさんの相棒ですから。」

 

「私達も部隊の一員でしょうが!」

 

「うーん。何というか年下は守るみたいな感じがお二人とも強いような感じですからね。」

 

「・・・いい人達なんだけど、いい人達何だけど!なんか、なんか!」

 

「釈然としませんか?」

 

「うん!そう、それよ!叶。」

 

「なら、私達であの人達を守りましょう。水羽。」

 

「そうね!そうしましょう!」

 

 叶も水羽の日本人と言う事もあり昴とレオンと一緒に組むことになった経緯がある。二人とは年が少し離れてはいるが入ってからの戦いにおいて昴もレオンも部隊の安全そして二人の生存のために行動することが多かった。何でも昴もレオンも多くの戦友を見送ってきたらしい。それもあって彼らは二人を基地に帰すことを最優先にしている節がある。

 

 二人にとっては有り難いことだ。そう有り難いことだが、いつまでもおんぶに抱っこにされるのは軍人として、部隊の仲間として少し思うことがあるのだ。それに二人とも一兵卒から准尉まで上ってきた歴とした経験がある。そこまで足手まといではないと思うのだ。

 

 いい仲間、良い戦友、それに恵まれて、その人達のために死ぬのなら後悔はない。

 

 例えそれが、アグレスによる肉片すら残らない無残な結末だったとしても・・・。

 

 二人にとってはそう思えるぐらいにレオンも昴も彼女達は信用と信頼を置いていた。

 

 だって戦場という場所で、家族も身寄りもない二人にとっての居場所は部隊しかないのだから・・・。

 

 

 

 

「さて、準備は良いか?私の駒達?」

 

 そして彼らの王の号令が始まった。

 

「敵は我らの前に突撃体制で来るようだ。何とも脳筋な戦い方だ。一応言っておくが私はこう言う奴らが最も嫌いだ。何故だか分かるか?」

 

 王はただただ駒に語りかける。

 

「答えは簡単だ。こう言う奴らとのチェスはすぐに終わってしまうからだよ。」

 

 王は言う。彼らを瞬く間に葬ってやると。

 

「では、チェス盤に招かれた戦士諸君、戦争の時間だ。安心しろ。私の勝ちは揺るがん。」

 

 その絶対の自信、その確信に満ちた声色がどれほど戦場に行く者達に勇気を与えているのかかの英雄は知らないのだろう。

 

「では全員出撃だ。」

 

 さあ、人類に栄光を。

 

 

 

 

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