部隊は隊列を整え、ブリーフィングの通りに整列を開始した。
「相変わらずこの空気感は慣れませんね。隊長。」
「安心したまえMs.カナエ!僕が居る限り君が生きて帰れることは保証しよう!」
「あ!なら私も私も!」
「もちろんだとも!」
(この部隊、本当に良い奴多いよなあ)
昴はしみじみそう思う。何というかお互いにお互いを想っていることが分かるのだ。お互いにお互いが大事だからこその空気感。そして温かみ。良い部隊だと心から思う。
だからこそ昴は思う。
(今日も生き残ろう。皆で。)
昨日、戦友が死んでナイーブな気分でいたが、どうにか気持ちを持ち直せた。
(そして、エマさんに直接聞こう!例え、遊ばれたのが事実だったとしても!)
未来を見なければとても生き残るなんてできやしないんだから。
『総員戦闘用意!』
司令部からの連絡が届いた。そして・・・
「来やがった・・・。」
それは砂塵を巻き上げながら突撃型の突進から始まった。
『強襲部隊、正面に立つなよ。あいつらの顔面は硬い。貴様らだと無駄死にだ。そのまま城壁にぶつけて構わん。』
(相変わらず、効率中毒の王様だようちの大将は!)
「全員脇にそれろ!いつも通りブリーフィングの作戦は破棄された!」
エリシャ・ハルフォードの指揮はいつも次々と変わる。
最初の作戦から相手の出方によって180度変わることする普通にあるのだ。だが、彼らはそれに不満を言わない。慣れているのもあるが、現場にいる者から見ても明らかに良策がとられるからだ。
(一体、どう言う頭をしているのやら!)
『さて、総員間もなく接敵だが我々にとって一番の問題はコマンダー級の存在だ。分かっているな?』
コマンダー級の存在。これがある限り彼らの統制は崩れない。有象無象なら訳もない存在も指揮があればそれは立派な脅威になり得る。
『と、言うわけで今回はそいつから退場願おう。特殊試験部隊、その実力を見せたまえ。』
「は?コマンダー級の場所なんてまだ確認が・・・。」
その瞬間、頭上を何かが高速で飛んだ。
そして、爆音、爆風がアグレス部隊の後方で起こった。
「は?」
そして効果は次々に起こる。先ほどまでの形の整った突撃が崩れ始めたのだ。
『アハハハハハ!最高だよ!最高だ!クイーン!一撃で仕留めたか!』
「コレが特殊試験部隊の力?」
「一体どうやって見つけた?それに、あの距離を一撃で?」
「あれ、砲撃じゃないよね?ただのライフルよね?」
「ああ。だがあの爆発は間違い無くコマンダー級の弱点、脳髄を一撃で貫いた証拠だ。」
コマンダー級はその身に死ぬと発動する自爆機能を備えている。簡単に言えばそれは火炎袋だ。そこまで追い詰められたコマンダー級はそこまで追い詰めた存在も一緒に死ぬためにこの小機能を付けていると言われている。事実、これによりコマンダー級は精鋭部隊を壊滅させることがあった。だが、それを逆手に取る方法もある。それは一瞬の元にコマンダー級を絶命させることだ。彼らは自爆することはためらうことが無いが、自分の陣地で死にかけた場合ようするに今回のようにライフルや砲撃によって死にかけた場合、自爆が味方に悪影響を与えるため自らその機能を取り外し味方に移譲する。だが、一瞬で仕留めた場合に限り移譲も不可能。よって今回のような爆発を起こす。
だが、並大抵の場合は不可能だ。何故ならコマンダー級は上位種でありその装甲も反射速度もそこらのモノとは一線を画す存在なのだ。それこそ超一流の前衛であっても仕留めるのは大変と言うほどに。
それを一撃で仕留めるには、敵に察知されない一撃目に仕留めなくてはならない。スナイパーの存在を知られないために試し打ちすらできない。その状態で敵の頭部のそして柔らかいと言われる目と目の間の感覚器官およそ幅10cmを正確に狂いなく打ち抜く必要がある。それも最低でも5kmは離れた位置から。そうでなくては察知される。
正に絶技。それを可能とする者が大勢いるなら人類はここまで衰退していない。
「マジかよ。」
『さて、戦士諸君あとは有象無象だ。掃討を開始するぞ。間違っても味方を撃つなよ?』
「「「「イエス!マム!」」」」」
「連携が崩れた!間を狙うぞ!カナエ、ミズハは僕とスバルの援護を頼む!」
「了解!」
「任せて。」
こうして強襲部隊は連携の崩れた突撃型を突撃の間を縫うように移動しながら撃破していった。
強襲部隊に必要なことは、突撃してくる敵に慌てず対処する冷静さだ。正にコンマ1秒の判断ミスが部隊を危険にさらすのだ。よってここに選ばれる時点で彼らのメンタルは相当なものであるという証明である。そしてそれは第5強襲部隊にも当てはまる。
「私は昴を援護するわ!叶、レオンをお願い!」
「分かってる。」
ズダダダダダ!一斉射が始まった。レオンと昴は最も危険な敵前方を確かな技量を持って捌いていった。そしてその後方にそれぞれついた叶と水羽はその撃ち漏らしを対処していく。
これこそが強襲部隊の腕の見せ所である。
「こちら遊撃部隊!脇から参戦する!」
「任せたぜ!兄弟!」
そして遊撃部隊が脇から狩りを始めればあとはそれに挟まれたアグレスはたやすく葬られていく。
「本当に楽だね!隊長!」
「ああ、連携のできないアグレスがここまで有象無象になるとは!そこ!」
まさにその通り。1個体ずつならば彼らはインプレスの機動力の前にただ倒される木偶人形も同然であった。
流れが人類側にきたことで次々と制圧報告が上がり始めた。
『強襲部隊各位、それ以上前方に進むな。そこからは虫の存在が多数確認されている。こちらからそれ以外をつり出すから後退しろ。』
王様も平常運転のようだ。
「どうやってつり出すんだろう閣下。」
「まあ、なんとかするんだろう閣下だから。」
その瞬間砲撃部隊の雨がある一カ所に集中砲火された。その瞬間また爆発が起こった。
「「「「え」」」
「まさか・・・」
「今のは・・・」
「多分不発弾を爆発させたんだろうね・・・後多分可燃性ガスも投げたよあの王様。あはははは。」
「ええ・・・。」
「成る程。こうなったら最後まで燃やすと。そして可燃性ガスを一気に撒くことで被害拡大虫型はあらかた燃え死にます。その結果アグレスは安全なこっち側に・・・。」
「撃て撃て撃て!」
「馬鹿野郎がああああ!」
「効率中はこれだから。」
「さっさと撃ちなさい!死ぬわよ!」
ああ。何て派手で自由な戦い方なんだろう。そして撤退させた挙げ句、その撤退先を死地に変える作戦。
『砲撃部隊、前方は強襲部隊と遊撃部隊が片付ける。貴様らは後ろで縮こまっているモノ達を叩け!』
「「「「イエス!マム!」」」」
敵もまさか最初に死ぬのが指揮官だとは思うまいよ。正に撤退という思想がないアグレスにとってここはただの死地であり、狩られる側であった。
だが、勿論人類側も無傷とはいかない。
「しまった!炎で周りが・・・ぐわ!」
インプレスは基本機動力においてアグレスを圧倒するが、その耐久力はそこまでではない。よって隙を見せれば一撃で大破する。
「バランーーー!」
誰かの悲鳴が聞こえた。だが、彼らは止まらない。何故なら止まるのはこの場の全てのアグレスを殺した時と決まっているからだ。そして、そもそも耐久力の低いアグレスは止まれば仕留められる可能性が高い。よって彼らは常に命を賭けて戦い続ける。
「・・・この炎、アグレスの死体に燃え移ってますね。」
「ああ、これじゃあ視界も妨げられる。」
「良かったわね。先に合流しておいて!」
「ああ。ナイス判断だレオン!」
第5強襲部隊はエリシャが爆発させた時点でこうなることを読み全員の合流を最優先し、全員で全方位の警戒をしながらできるだけ視界の良い所で戦闘を行っていた。
「後、どれくらいよ!」
「分からない。レーダー上はあらかた片付いたけど・・・敵の後方部隊はどうなったか。」
「分からないことは仕方ない。閣下からの指令をま・・・おや。」
「指令か。レオン。」
「ああ。」
『全機撤退。繰り返す全機撤退。基地に帰投せよ。』
「だ、そうだ。」
「終わったの?」
「カナエどう見る?」
「レーダー上こちら側は殲滅完了している。後方は分からない。でも帰投っていうことは勝ったんだと思う。」
「じゃあ、帰るか。」
「ああ。それが命令だ。ただし、注意はとくな。潜伏している奴がいる可能性がある。」
「「「了解!」」」
こうして、ユーラシア大陸東部戦線の小競り合いは終結した。
アグレス1330体殲滅
砲撃部隊 損害なし
遊撃部隊 2機大破 2機中破(パイロット生存)
強襲部隊 3機大破 3機中破(パイロット生存)