ARMORED CORE VI SPIRITS   作:アユノシオヤキ

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カシハラのツテで、ジョン・メリエスは「ベクター」と名乗る胡散臭い密航業者と接触した。そして今、彼はベクターの航宙貨物船に揺られながら、人生最後の賭け場となるルビコン3へと向かっていた。
「お客さん。まもなくルビコン3中域に到着だせ。起きてください」
低く掠れた船長の声がキャビンに響く。ジョンはうっすらと目を開け、重たいまぶたを無理やりこじ開ける。
「──ん、やっと着いたか」
寝起きのぼんやりとした頭を覚まそうと軽く自分の頬を叩き、貨物船の窓の外に目を向ける。そこには、確かに"運命の星"があった。
ルビコン3。
見た目は地球によく似ている。だが濁ったオレンジ色の大気圏と、断絶されたかのように沈黙した衛星軌道。その表面には、かつての大災害の名残──そして封鎖によって錆びついた巨大構造物たちの影が静かに横たわっていた。ふと、視界の端に"それ"が見える。
惑星封鎖機構が、大気圏外からの侵入者を排除するために衛星軌道上に配備した巨大な砲台──衛星砲。
「おっと、お客さん。これ、使ってくださいな」
ベクターが無造作に差し出してきたのは、やけに年季の入った双眼鏡だった。受け取り、レンズを覗き込む。惑星環と見間違えるほどの、長大な円形ソーラーパネル。その中心にある球体型の本体と、その下部に据えられたエネルギー砲が、かすかに光を反射していた。
ジョンは静かに唇を湿らせ、宙を漂う水のボトルに手を伸ばす。
一口飲むと、喉の奥からじわりと緊張が広がる。
「──ここが、俺の人生を賭ける場所ってわけか」
「ええ、まあ。運が良けりゃ⋯ですがね」
ベクターはニヤリと笑う。
その顔の奥には、これまで何人の密航者を送り出し、また、どれだけの者が帰らなかったか──そんな数え切れない過去の"重さ"が滲んでいた。
この貨物船の行き先は、表向きには他の惑星とされている。だがその航行の途中、"システム障害"が起きたように偽装し、そして通信を切り、GPSを切断。そして、ステルス航行へと移行する。そのまま、行方不明を装って、封鎖網をすり抜け、ルビコン中域へと密かに進入するのだ。
すべては、金で買った「一発逆転」のために。
ジョン・メリエス、24歳。
賭けるものなど、もう何も残ってはいなかった。
「前にここに密航したやつは、生きてたか?」
ジョンが気まぐれに尋ねる。ベクターは軽く鼻を鳴らして答えた。
「さあ⋯最近だと一人は大気圏突入で熱源感知されて、衛星砲で撃墜されました。そいつが流れ星になってくのを見たよ。ロマンチックでしょう?」
「⋯そいつは笑えねぇな」
ジョンは口元を歪めるが、どこか乾いた笑みを浮かべていた。
「──お客さん。そろそろ"時間"だぜ」
「ああ、そうだな」
ジョンは船内の冷蔵庫を開け、そこからウイスキーのボトルを二本取り出す。一本をベクターに手渡した。
「ここまで運んでくれて、ありがとう。あとは⋯自分でなんとかするよ」
「お客さんに、神の慈悲と幸運があることを願いますぜ」
二人は軽くボトルを合わせ、無言でウイスキーを飲み干した。
「──あのときは女だったな⋯あいつと同じように酒をくれたよ。あれは──五年前か」
「その彼女はどうなった?」
「無事密航できたよ。もしかしたら向こうで会えるんじゃないかな。気の強い人だったよ」
「いいね。ちょっと気になってきたよ」
「あんたの目、いいね。こういう奴が生き残るんだ、意外と」
わずかな間、音のない静寂が宙に漂う。
やがて二人は、黙って立ち上がった。
言葉はもういらなかった。
ベクターは操舵室へと戻り、ジョンは無言で貨物室へ向かう。
重力制御の弱い通路を進むたびに、ウイスキーの余韻が喉の奥でかすかに揺れた。貨物室の奥、無骨な金属の殻──不格好な一人乗りの突入カプセルが静かに待っていた。ジョンは躊躇なくハッチを開け、乗り込む。ひんやりとしたシートに背中を預け、操作パネルに手を伸ばす。
「電源起動、生命維持反応──オンライン」
「ステルス膜展開──完了」
「目標軌道、セット⋯あとは、任せるしかないか」
このカプセルには簡易ステルス加工が施されている。
宇宙を漂う少し大きめのデブリと化し、大気圏外からの検出を避けながら突入する。上手く行けば、封鎖機構の網をすり抜け──ルビコンの地表へと到達できる。
「さて⋯」
ジョンは深く息を吸い、ヘルメットのバイザーを閉じる。
小さなカプセルが、静かにジョンを飲み込むように閉じていく。
「⋯俺の人生、これで賭けてみるさ」
直後、甲高い警告音とともに、機体が発進ポジションへ移動を始めた。そして数分後──貨物室のハッチが開放される。宇宙へと滑り出す小さな棺桶。その行く先には、濁ったオレンジの空と、封鎖世界──ルビコンが待っていた。
「なあ、ベクター」
「なんだ?」
「俺が生き延びたら──この船、また使わせてくれるか?」
「ええ、もちろんさ。金さえ払えば」
ベクターはジョンを見送り、貨物輸送船は静かに反転していく。
「幸運を祈りますよ。お客さん」
「ああ、行ってくる」
無線が切れる。あとはこっちの番だ。
ルビコン3の大気圏突入ルートまで突入カプセルを加速させ、電源を切る。
あとは出たとこ勝負だ。あとは無事たどり着けると神さまにでも祈るとしますかね。
──沈黙。
宇宙の底を漂うカプセルの表面が、じわりと色づき始める。
目視できないほど薄い大気の摩擦が、徐々に熱へと変わっていく。
「突入まで──90秒」
機内の自動音声が警告を発する。
シートがわずかに震え、船体が火花のような光を反射し始める。
「突入まで──60秒」
圧力、熱、加速度──全てが限界へ向かって収束していく。
ジョンの身体にも、次第にGがかかり始めていた。
「30秒」
燃え上がる外装。突入角度は最適範囲ギリギリ。
失敗すれば、軌道の摩擦で焼け落ちるだけだ。
「10、9、8──」
ジョンは無言でバイザーを叩き、視界をクリアに保つ。
緊急射出レバーを確認し、わずかに息を止めた。
「──3、2、1」
突入。
轟音と炎に包まれながら、カプセルはルビコンの空へと墜ちていった。
外装が焼け付き、表面のパネルが剥がれて吹き飛ぶ。
機内は地獄のような熱と振動に襲われ、警告灯が一斉に点滅する。
「警告:耐熱層残存率20%」
「警告:ステルス膜焼失」
「警告:推進ユニット異常加熱──」
「くそっ⋯持ってくれよ!」
ジョンは制御スティックを握り、体をシートに押し付ける。
──だが、祈りは届かなかった。
数秒後、警戒圏を通過したカプセルが──衛星砲に補足される。間髪入れずに発射。衛星砲の砲撃が後部ブースターに命中。
「──被弾ッ!」
機体が大きく揺れ、バランスを崩す。
「チッ⋯! 後部切り離し──!」
緊急分離レバーを引く。
ブースターが焼き切れ、カプセルはスピン状態に陥る。
視界が回転し、警告灯が赤く点滅する。
ジョンは歯を食いしばり、前部の減速ブースターを強制起動。
「お願いだから──持ってくれよ!」
減速制御が作動、なんとか姿勢を立て直す。
しかし予定地点から大きく逸れ、カプセルは南方へ流されていく。
濁ったオレンジの空を裂くように、ひとつの閃光が大気を焼いた。まるで、誰かの魂が流れ星になって落ちてくるようだった、眼下に広がるのは──荒廃した街のような荒野と辺り一面の雪。
──そして数十秒後。
ベリウス南部の汚染市街にカプセルが地面に叩きつけられるように墜落した。轟音。衝撃。外装がめり込み、機体は地面に呑まれる。煙が舞い上がり、破損した船体が軋む。
──沈黙。
数秒後、ハッチが内側から蹴破られ、煙と土砂をかき分けて一人の男が這い出る。ジョンは、肩を上下させながら呼吸を整えた。宇宙服に焼けた痕。バイザーの内側は曇っている。ヘルメットを脱ぎ捨て、空気を吸い込む。
「⋯⋯ようこそ、地獄へってか」
目の前に広がるのは、死んだ街のような荒野と、濁った空。
彼の背後で、焼き焦げた突入カプセルが静かに地面に突き刺さっていた。
ここがルビコン3。
封鎖された星の、大地の最下層──ベリウス南部。
宇宙服を脱ぎ、私服のTシャツとツナギに着替える。そしてジャケットを羽織る。ここは冬のように寒い。物資がたんまり入ったリュックサックを突入カプセルから取り出す。
「位置確認⋯くそっ、予定地点より南だ。マップもGPSも焼けたか?」
とりあえず辺りを探索する。
そして、ここからジョンの物語が始まる。
金と死が入り混じる、赤い星の地で。


EPISODE 02:補給物資搬送

「独立傭兵ゴールド・スレイヴ。貴方に、ひとつ作戦を依頼したい。

内容は、我々の武装採掘艦『ストライダー』への補給物資の搬送だ。

近頃、企業の破壊工作により、我々の輸送ヘリは大きく損耗している。

その影響で、ストライダーへの補給が滞っている状況だ。

現在、ACによる物資の地上搬送が唯一の現実的手段と判断された。

だが、搬送経路であるボナ・デア砂丘は、激しい砂嵐の影響で視界が極めて悪い。

また、敵勢力の妨害も予想される。十分に警戒してくれ。

物資が届かなければ、"反抗の要"であるストライダーはただの鉄の棺桶になる。

君の機体と腕に、仲間たちの命がかかっている──

貴方の助力が得られることを、心から願っている。」

 

 

 

 

 

砂嵐が吹き荒れる──ボナ・デア砂丘。巻き上がる赤い砂塵が、空と地平を曖昧にかき消している。

視界はおぼつかず、レーダーとマーカー情報だけが命綱だ。その嵐の中を、一機のACが黙々と

進んでいた。

肩部に巨大なコンテナを一つ──補給シェルパを背負うように装備。

機体の積載上限ギリギリまで積載し、いつもより動作が鈍い。

だが、パイロットは止まらない。一歩、また一歩。

赤い大地を踏みしめ、報酬金のために物資を運ぶ──それが今の"仕事"だ。

「本当にこの先にストライダーがあるのか?何も見えないぞ」

「私のナビが信用できないってわけ?それとも、視界ゼロで迷子になりたいの?」

「それはそうなんだが⋯。こうも視界不良だとな」

「珍しく気弱ね。安心して。もし敵と鉢合わせても──"彼"を呼んでおいたから」

「ああ。そうだな」

そんな会話をナナミとしていると"彼"がやってくる。

──赤い砂を蹴立てて、跳ねるように飛来する一機の高機動AC。

流線的なシルエットの"アレス"が、爆音とともに砂嵐の中から姿を現した。

「──お待たせしました、スレイヴの旦那。いや〜、この風、肌に刺さるねぇ。最高だ!」

砂嵐の中から、陽気な声とともに一機の高機動ACが滑空してくる。

レーダーのマーカーが瞬時に味方識別へ切り替わり、赤い砂を蹴って"アレス"が滑空してくる。

赤い砂を巻き上げながら、跳ねるように地面を蹴って目前に現れる。

「おう、来たか。カエルム。てっきり来ないと思ってたぞ」

「何言ってるんですか。旦那のところから呼び出しが来たら真っ先に向かいますよ」

カエルム。好青年で典型的な陽キャ。彼はルビコニアンではあるが、土着勢力らの武装組織

「ルビコン解放戦線」には参加せず、独立傭兵として活躍している。彼自身、「真人間」ゆえに

操縦はややぎこちない。だが、その無駄の多い動きは、敵にとっては予測不能な撹乱にもなり得る。

"直線的すぎる強化人間の動きじゃ、逆に真似できない芸当だよ"──と、本人は笑っていた。

高機動型による前線突撃、撹乱が彼の得意分野。

彼のAC"アレス"はシュナイダー社製のパーツを主に構成された軽量二脚。武装はバーストマシンガンに

双身式レーザーライフル、そして肩部の小型三連双対ミサイルとパルスシールド。

軽量機にしては大火力な武器構成だ。

「僕のAC"アレス"の火力は一級品です。旦那は悠々と運転手やってください、僕が前で暴れますから!」

その直後──薄闇に沈む砂丘の斜面が、微かに蠢いた。

まるで砂そのものが形を変えたかのように、輪郭の歪んだ機影が浮かび上がる。

低く唸るような駆動音。レーダーにはまだ何も映らない──が、確かに"いる"。

「MTだ。数⋯六機以上。いや、もっといる」

「ったく、来やがったか──さて、派手にいきますよ、スレイヴの旦那!」

カエルムが前衛に出る。

(⋯ああ、こういう奴がいると、ほんと助かる)

スレイヴは誰にも聞こえぬ声でそう呟くと、再び足を進めた。

「⋯いたぞ。報告にあった補給部隊、そして護衛AC。間違いない」

「軽量機に物資を背負った鈍足なACか、話にならん。囲んで袋叩きにしてしまえ」

MTがカエルムを包囲するように動く。

「軽量機だからってナメんなよ?先制で潰せば、装甲の差なんて関係ねぇ!」

MT群が一斉に火線を開いた。 砂丘に火花が咲き、砂塵の中に無数の曳光弾が走る。

「開幕から本気かよ! 上等だ!」

カエルムが機体を跳ね上げ、持ち前の機動力でミサイルと弾を回避しながら、逆に横合いから突撃する。

「ミサイル、行きますよっと!」

肩部ミサイルが咆哮し、三連双対の軌道が幾重にも交錯して敵陣を切り裂く。

一体、二体──爆炎に呑まれたMTが砂煙とともに弾け飛んだ。

「旦那!ここは僕に任せて、あんたはストライダーへ急いで!」

(コンテナが破損したら報酬が減る。それどころか、運んでるこちらがもたない)

スレイヴは短く息を吐くと、索敵画面をスクロール。砂嵐に揺れる目標マーカーを睨み、

地形の凹凸を咄嗟に解析した。

(まだ行ける⋯! このルートなら──!)

「行くしかねぇな。カエルム、任せたぞ」

「任せてください!旦那」

カエルムに任せてスレイヴはストライダーへ急ぐ。

「荷物持ちが逃げるぞ。追え!」

MTの別働隊が、斜面を崩すように背後から迫る。振り向く余裕はない──だが次の瞬間。

「へへっ、油断してたか? 俺が忘れると思った?」

背後から舞うようなミサイル斉射が、敵影をまとめて吹き飛ばした。

「お前らの相手は俺だ。かかって来い!」

そのまま突き進む。前方にMTを発見。

「邪魔だ。どけ」

最低限の自衛用に装備した長銃身ハンドガンとマシンガンを構えて、発射する。

MTを蹴散らしながらひたすら突き進む。

一方、カエルムは──

「二脚が十、四脚が二──お出迎えが豪華すぎるって!」

そこへ指揮官機らしき大豊の量産型AC「天槍」が現れる。

「よくぞここまで持ちこたえたな。だがこれまでよ。塵芥と化せ!」

天槍の右腕に装備されたガトリングガンが唸りを上げ、カエルムへ弾丸の嵐を浴びせる。

「おーおー、撃ってくるねぇ。でも⋯そんな真っ直ぐじゃ、僕には届かないよ!」

カエルムが半ば楽しげに機体を翻し、砂丘を跳ねるように疾駆する。そして相手まで距離を詰める。

「見事。だがこれならどうだ!」

距離を詰めた矢先。天槍の左腕に装備された近接武器である炸裂弾投射器がカエルムへ小型爆弾を大量にばらまき前方範囲への爆撃を行う。前方視界が爆発で埋め尽くされる。

「やるねぇ。ちょっとビビったよ──でも、まだこっちは元気だ!」

肩部のパルスシールドで咄嗟にガード。軽傷で済ませる。爆炎の中を突き進みながら、カエルムは距離を詰めた。

「近接圏内に飛び込むなんて、命知らずめ!」

天槍のガトリングガンが再起動し、銃身が再び赤く焼ける。さらに肩部の拡散バズーカと12連装垂直ミサイルの弾幕が合わさり、カエルムへ襲いかかる。

「──させるかッ!」

パルスシールドを展開したまま、カエルムは機体をひねる。

狙いを外させた瞬間、左腕のチャージされた双身式レーザーライフルが閃いた。二つの砲口から放たれたレーザーが相手へ突き進み直撃。右腕と肩の拡散バズーカを文字通りえぐりとる。

「貴様ッ⋯!」

弾幕が薄くなった。その隙を逃さず、肩部ミサイルとバーストマシンガンを発射。

三連双対ミサイルが複雑な軌道で敵を囲い、炸裂──!

さらに放たれた弾丸が命中する。

「ぐあああああっ──!!」

爆炎に包まれた天槍が、砂上に崩れ落ちる。そこへブーストからの蹴りを食らわせ、トドメをさす。

天槍は砂丘を転げ落ち、爆発四散する。

カエルムは機体を滑らせながら、煙の中で一回転し、静止した。

「ったく、俺ひとりにこの量ってのは割に合わないよなあ。⋯まあ、楽しいけど!」

一方、スレイヴは───

(視界ゼロ。だが、もうすぐだ⋯)

前方に巨大な鋼鉄のシルエットが、砂嵐の中からうっすらと姿を現した。

武装採掘艦《ストライダー》──

外見は6つの巨大な脚部と前後2つの車両で構成された歩行型の戦艦。

艦体側面には解放戦線のロゴマークが確認でき、前方車両下部には採掘用ドリル、先頭部にはBWEが付いている。

砂嵐でうっすらだが、よくわかる非常に巨大で山の如き威容を誇る。

しかし、後方から二脚と四脚のMTが襲いかかってくる。

「指揮官が撃墜された。せめてコイツだけでも!」

「しつこいやつめ」

さすがにこの量はマズイ。なんとかならないか。

「こちらストライダー。援護する。射線上から退避されたし」

通信越しの声は冷静沈着だが、戦況はぎりぎりだった。

「───そいつはありがたい!」

咄嗟に射線上から離れる。

「アイボール起動 焼き払え!」

「了解。『コーラルよ、ルビコンと共にあれ』」

「ルビコンと共にあれ」

艦体先端部上層の球体が異様に光り出す。さては巨大レーザー砲か!

球体から放たれた光線は、空を裂くような轟音とともに発射され、赤い砂を蒸発させながら一直線に大地を貫いた。

「回避!」

「ダメだ。間に合わ」

直後、MT部隊がレーザーで薙ぎ払われ、一瞬にして消し飛んだ。

「敵部隊の全滅を確認。これで安心よ。スレイヴ」

「ああ、あとはこいつを届けりゃ⋯やっと終わる」

「ストライダーより着信。接舷ポイント、右舷第三ハッチが開放されます」

砂煙の中、艦体側面の装甲がせり上がり、コンテナ搬入用のクレーンアームが姿を見せる。

背負っていた補給シェルパをクレーンアームに固定する。そしてストライダーへ回収されていった。

「こちらストライダー。補給物資の搬送に感謝する」

ストライダーが遠ざかっていく。

「お疲れ、スレイヴ。荷物、無事ね?」

ナナミの声が柔らかく聞こえる。

「まあな。破損ゼロで届けてやったぜ。⋯報酬は、満額だろ?」

「もちろん。経理には私が口添えしておく。感謝してね、スレイヴ」

そのとき、別チャンネルからカエルムの声が割り込む。

「お疲れさまでしたー!あー楽しかった!」

「お前⋯相変わらず元気だな。機体の状態は?さすがにボロボロか」

「かすり傷です、かすり傷! あ、報酬、山分けですよね?」

「⋯あいかわらず騒がしいわね。まあ、カエルム君らしいからいいけどね」

──通信越しの、戦場に似つかわしくない笑い声が、砂嵐の中に溶けていった。

(まったく⋯こいつらがいると、少しだけこの星でも生きていける気がする)

スレイヴはふとそう思うのだった。

──このときはまだ知らなかった。

次に待ち受ける"地獄"の扉が、すでに開かれ始めていることを。




PM 22:00──ベリウス西部・大豊第四軍事基地
「ストライダーへの兵站破壊部隊、壊滅しました。帰還できたのは三機のみです」
報告に、作戦指揮室の空気が凍りつく。
「なんだと⋯?」
「たかが独立傭兵二機相手にここまで⋯」
ざわめく上官たち。報告書の数字に、誰もが言葉を失っていた。
「これだけの被害⋯上にどう報告すれば⋯」
その時だった。
──警報。けたたましいサイレンが基地中に鳴り響く。
「何事だ!?」
「敵襲です! 所属不明機、一機、いや二機──高速接近中!」
「所属不明⋯? どこのACだ!?」
「識別できません。──機影、消えました!」
「何っ!?」
突然、モニターにノイズが走る。次の瞬間、基地周辺の監視カメラのひとつが爆発音とともに
ブラックアウトした。
「来るぞ⋯ッ基地に残っている機体を全て出せ!」
──音もなく、影のように二機のACが現れる。
赤外線センサーが、凶光を放つ光学兵器の起動を捉えた──その直後、沈黙が破られた。
数分後、大豊第四軍事基地は静寂に包まれていた。
おびただしい数のMTやACの残骸。倒壊した建物。
もはやそこには、組織だった"軍"の形など存在しなかった。
建物の残骸の中から這い出した満身創痍の大豊のACパイロットが辺りを見渡す。
かつて軍事基地だった場所は、今や焼け野原。地獄と同義の光景が広がっていた。
ふと上を見上げると、基地を壊滅させた二機の所属不明のACがいた。
「─成果は上々だ。帰還しろ。H-1、K-12」
「「了解」」
一機がどこかへ飛んでいき、一機はまだそこに留まっていた。
その一機を睨みつけるように見る。肩にマーキングがある。それは十二使徒の柱のひとつである
「聖ヨハネ」のマークと下に「K-12」の文字。
──地獄に天使が現れるなら、きっとあれは堕ちたものだ。
「──K-12、なぜまだいる?」
「見届けている」
「長居は無用だ。帰還しろ」
「──了解、帰還する」
一瞬、沈黙が訪れた。
佇むK-12のシルエットが、ひとつの業を見届けた証のように揺れていた。
やがて、重い静寂を残して空へと消えていった。
「─覚えてろよ。必ず─報いを受け─させて─やる」
砂混じりの血を吐きながら、彼は静かに崩れ落ちた。
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