異物混入アカデミア!   作:伊良部ビガロ

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反響大きくて嬉しいぜ……
色々と気になったことはどんどん遠慮せずに感想でコメントを残してくれ!
今回感想の返信しきれないので以下で簡潔に答えるよ!

Q.脊髄損傷で下半身不随なら感覚はどうなってんの?
A.個性使用中は普通の人と同じ状態。

Q.抹消で突然個性の働きを消されたらショック症状とか出るでしょ?
A.医学的には出る。でもそこをリアルに書くともうキャラの個性についても矛盾や有り得ないことだらけになるので物語的省略だ!

※投稿時間を誤ったので再投稿しています。すみません。



第17話 期末試験 その3

 こいつはきっと、将来活躍するヒーローになるだろうな。

 

 海原大海の能力を垣間見た時に、漠然とそう思った理由を相澤消太は上手く説明できなかった。

 個性の使い方、戦闘能力、機転、学力、どれをとっても高水準だったが、それらを根拠にするとどうにもしっくり来なかった。

 ただ、まだまだ15の子供というのもあって、未熟な点は多くあった。

 こいつを始め、このクラス全員をきっちり雄英の名前に恥じないプロヒーローに育て上げてやると相澤は決意していた。

 

 学校生活に生徒たちが慣れていくにつれて、“弛み”を見せ始める者が現れ始めた。

 理想に燃えてヒーロー科で気張るも、ガス欠が起こる時がある。所謂五月病というやつに近いもの。そこで結果を残すためにギアを一段階あげて踏ん張れるか、ローギアのままでも回し続けて前に進む者もいたが、中には止まってしまう者もいた。

 

「見込みのないやつに半端な夢を追わせることほど残酷なことは無い」

 

 ましてや災害現場に飛び込み、時にヴィランと戦い、命のやり取りをする職業に生半可な気持ちでなれば、待っているのは過酷な現実とのギャップによる絶望だ。

 相澤はその理念のもと、少しずつ生徒を除籍にしていった。

 壁を用意し、乗り越えさせ、乗り越えられない者には手を差し伸べる。しかし手を握り返さないものは容赦なく置いていった。

 その中で壁を壁として認識しないほど海原大海は別格だった。

 

「体育祭の優勝嬉しいなぁ。ライバルが除籍で減ってなければもっと苦戦したかも、な」

 

 飄々とした笑みを崩さないまま、用意した壁を楽に乗り越えていく。

 あるものは死にものぐるいで進む中、海原だけは壁なんてないように歩いていくのを見て、生徒たちは心を折られていく。

 

「あいつは天才だから」

「やってらんねえよ、才能の差を感じて」

「私達は必死に努力してるのに、あいつはいつも何もしない。なのに簡単に進んでいく」

 

 人は妬むし、嫉む。ましてや高校生という、まだまだ未熟の成長期の少年少女たち。その声は必然だった。

 

「別に海原のようになる必要は無い」

「オールマイトになれないように、海原になる必要もないし、上回らなくてはいけない訳でもない。海原もお前たちのようにはなれない」

「ただ、誰かに手を差し伸べ、確実に助け、安心させてやれるヒーローになることが大切なんだ」

 

 日々の授業で伝えてきたが、そう簡単に心に響くものではない。

 やる気を失った生徒、原点を見失った生徒、目標を見失った生徒を相澤は除籍していった。

 見捨てたわけではない。一度、ヒーロー科の生徒として“死”を迎えれば、かつて憧れたヒーローの姿、あるいは目標が蘇り、そのやる気を掬い上げれば学業に専念するだろうという、スパルタでありながら決して見捨てない相澤の優しさがそこにはあった。

 それを繰り返すうちに、海原は唯一の生徒になった。

 

「ボク一人でA組て、なんか見栄え悪すぎん?」

 

 ヘラヘラと笑いつつも授業では真剣で、そして日に日に才能を開花させていく。

 相澤は海原に前倒しで仮免資格を取らせることにした。海原ならば、少しでも現場を知り、経験を積み重ねることが大きく成長に寄与するだろうと判断して。

 海原は仮免試験で他校の二年生を寄せ付けもせず、仮免を取得。そしてインターンシップを開始した。

 

「お前……このヒーローのところに行くのか」

「相澤センセ知っとるんですか、このヒーローのこと」

「いや……夫婦でヒーローやってることくらいしか知らないが。お前の成績ならもっとビルボードランキング上位のヒーローからの指名があっただろう」

「やっぱり上に行くのが学校の実績的にもよかったりします?」

「別に。お前が行きたいと思ったところに行けばいい。下らん理由じゃなければな」

「じゃあ……テレビの中の芸能人みたいに手が届かない上位のヒーローより、人々の身近で手を差し伸べるヒーローの姿に憧れた言うたら……下らないですか?」

 

 いつもの薄く浮かべた笑みではない、ほんのり照れたような笑み。

 相澤は珍しく相好を崩す。

 

「いいんじゃないか」

 

 ――なんでこいつが、将来活躍するヒーローになるか、わかった気がした。

 

 どこか、昔の友人と面影が重なる気がしたからだ。

 見た目も性格もまるで違うが、どこか素朴な願いを秘めていて、楽観的に必ずそれが叶うと信じているところ。

 

「行ってこい。くれぐれも怪我をするなよ」

「気をつけます。ボクは相澤先生唯一の生徒やからね」

 

 インターンを終えてどこまで成長しているのか、楽しみにしていた。

 楽しみに、していたんだ。

 

 

 

 緊急時だろうと病院の中で走らない理性はまだ残っていた。

 海原大海がインターン中にヴィランと交戦し、重傷を負った。インターン受け入れ先のヒーローは市民をヴィランから庇って死亡。

 その知らせを聞いて、相澤は「まさか」という言葉を飲み込んだ。

 ニュースではヒーローが市民を庇って名誉ある死を遂げたことが報道され、インターンのヒーロー科の生徒が怪我を負ったことは記されていなかった。それに違和感を覚えるが、相澤にとっては重大事件そのもの。

 本人の容態が安定したと聞いてから相澤は面会のために病院へ急いだ。

 早歩きでナースステーションにたどり着くと、病室を尋ね、礼もそこそこに個室に向かう。

 

「海原、入るぞ」

 

 ノックもせずに入ってしまうほど、相澤は焦っていた。

 

「あぁ、センセ。すんません、こんな格好で」

「ぁ……いや……いい。すまん、俺も急に来てしまって」

 

 病床に伏した海原はやややつれて見えるも、血色はそこまで悪くない。点滴に繋がれてこそいるものの、自分で呼吸し、自分でものを考えて喋っているようだった。

 容態が安定し、面会可能になったのだから、当たり前のことだが、それでも相澤は直接海原の姿を見て、安心した。

 

「怪我の具合はどうだ」

「ぼちぼち……言いたいとこですが、まぁ治療とリハビリにはかなり時間がかかりそうですわ」

「そうか……」

 

 医師から怪我のことは本人から聞いてくださいと言われた。当たり前だ。あくまで生徒と教師、勝手に本人の個人情報を聞けるようなものではない。

 

「雄英には……戻れそうか?」

「……まだ、わからへん」

 

 その言葉のトーンで相澤は大体を察した。

 いつも浮かべていた飄々とした笑みは消えて、僅かに開かれた瞼の奥には何かに対する絶望が渦巻いていた。

 

(何に対して、絶望している?)

 

 ヒーローになれるチャンスを失いかけていることか?

 ヴィランの強大さを知ったからか?

 プロヒーローの過酷さを体験したからか?

 

 相澤は目の前の生徒の瞳に映るものが何か、わからなかった。

 なんて声をかければ良いのかも、わからない。

 

(仮にも教師やってんのにな)

 

 油断したなと冗談を飛ばせばいいのか、慰めてやればいいのかもわからず、相澤は普段通りの態度をとることに努めた。

 

「報道と報告では、受け入れ先のヒーローが……亡くなったことは聞いていた。だがお前のことはマスコミが報道していない。

 ありがたいことだが……正直、奴らがインターンで来たヒーロー志望の学生、それも雄英の生徒が大怪我をしたのに報道すらしないのは違和感がある」

「せやね。ボクに怪我を負わせたのは……あー……ボクを受け入れてくれたあの人たちを殺したヴィランや」

 

 何故か言い淀む言い方をする海原。

 指名手配されたヴィランの顔や個性、名前は既に報道されている。ならばそいつを逮捕して、自分の生徒を傷つけた落とし前をつけてやろうか、と思考が熱くなるも、やはり違和感があった。

 

「……本当に、そいつにやられたのか?」

 

 海原は窓を見ていた。

 復讐に燃えているわけでも、ましてやトラウマを刻まれたようにも見えない。

 どこか空虚な雰囲気を漂わせていた。

 

「センセ……ボク、一応怪我人で、事故に巻き込まれたばかりなんやで」

「……すまん」

 

 思えば、受け持ちの生徒がヴィランにやられて大怪我を負ったというのは初めての経験だった。

 もしも今後あったら、動揺してはいけないな、と相澤は反省した。

 ちょうどそのとき、来客が病室を訪れた。

 ご両親かと思い、相澤は佇まいを直すが、現れたのは黒いスーツに身を包んだ男二名だった。

 

「初めまして。私、公安の端役(はやく)と申します」

「同じく公安の、最部(さいべ)です」

「……公安の警察が何故こんなところに」

「ああ、何回か来てもろうてますよ」

 

 公安――言ってしまえばヴィラン襲撃事件で出てくる立場ではない連中の出現に相澤は困惑と警戒を滲ませたが、海原の言葉に振り返った。

 

「海原くん……君の怪我については……」

「ああ、ええ。インターン中の事故ということで」

「ちょっと待て海原。公安のあんたたちも……なんの話をしている?」

「お答えできません」

「チッ……プロヒーロー、イレイザーヘッド……ちゃんとプロヒーローだ。話くらい聞けるだろ」

「お答えできません」

「なっ……!?」

 

 レコーダーのように定型句を返す公安警察の男。

 プロヒーローの身分を出しても答えようとしない彼らに苛立ちを覚えつつも、それほど重要な事件なのだと理性が訴えてもいた。

 

「では今後口外は……」

「もちろん。明らかにヤバいもんなぁ」

 

 相澤を蚊帳の外に置いて話はかなり進んでいるようだった。

 仮にも国立のヒーロー養成機関である雄英高校にすら情報を隠すほどの事件に巻き込まれていたのだと気づき、海原を見た。

 海原は何かを諦めたような視線のまま、

 

「それじゃ、話はおしまいということで」

 

 と打ち切った。

 相澤はそれ以上、無理に踏み込めなかった。ただ、養生しろよ、という月並みの言葉をかけるだけ。

 どんな事件にしろ、心身が傷ついた生徒に何もしてやれない無力感に、打ちひしがれていた。

 

 

 

 一ヶ月後、海原が雄英高校を訪れた。相澤は海原が車椅子に座る姿に眉をしかめた。

 

「海原、お前……」

「いや歩けますって。ちょっとまだ疲れるから遠出する時はこれ使うとるだけです」

 

 そう言って笑う姿はいつものような飄々としたもの。

 絶望と諦観に覆われた眼が晴れて、乗り越えるきっかけを得たのだと、思うことが出来た。

 

「センセ……ボクの怪我、少し治るのに時間がかかるんや……少し、待ってもろうても、ええやろか」

「……ああ。お前は出来の悪い生徒だからな。除籍にして放り出したら、何をしでかすかわからん。だから早く治してこい」

「ありがとな、センセ」

 

 寂しそうに笑う海原を見て、相澤はこのインターンでの事件の前後で彼が変わったことに気づいた。

 以前の彼にはなにか目標や夢のようなものがあった。他の生徒と変わらない、素朴な、ヒーローになるという目標。

 信念というほど大袈裟なものではなくとも、いつかそれが芽を出して、いつか花開く、若者が持つ特権。

 いつもの海原に戻ったようでいて、その何か目標のようなものが無くなってしまった、あるいは変わってしまったような気がした。

 

(現場を、そしてヴィランとの戦闘を体験したんだ。変わりもする。だが――)

 

 ――本当にヒーローになりたいのか?

 何かを捨ててしまったのではないか?

 何かを諦めてしまったのではないか?

 

 益体のない疑念が浮かんでは、口から出る前に喉に溶けていく。

 やはり相澤は、踏み込めなかった。

 

 

 

「お前――ふざけるなよ!」

 

 胸ぐらを掴んで怒鳴っていたのはほぼ反射的な行動だった。

 

「下半身不随なんて障害を抱えたまま、ヒーローになろうとしたのか!」

 

 治すと言ったじゃないか。

 復帰した時に治ったと、言ってくれたじゃないか。

 

「もしもヴィランに俺のような個性を妨害する個性の持ち主がいたらどうするつもりなんだお前は!」

 

 USJ襲撃事件、保須事件、共に死んでしまう可能性だってあった。

 もちろん他の生徒だってそれは同じだ。

 優劣をつけるわけではないし、海原がダメで他の生徒が良いわけでも、その逆も有り得ない。

 

「助けに来たところで、お前が足手まといになってどうする!」

 

 市民を助けたところで再び要救助者が増えるようでは意味が無い。

 それで周りの仲間や友人たちはどう思う?

 家族はどれほど心配する?

 

「だいたい、報連相はどうした! 重大な怪我を隠して事故を起こしていたら責任もとれないだろう!」

 

 なんで言ってくれなかった。

 個性で動かせているなら、そう言ってくれればそれでよかった。

 個性を妨害される個性を持たれていたとて、それはどんなヒーローでも窮地に立たされる。

 そもそも体を動けなくする個性だってこの世にはきっとあるだろう。

 個性ありきで活動することを言われても、相応の困難や試練を与えて、乗り越えさせるだけの話だ。

 隠す必要はなかったはずだ。

 

「報告や連絡はヒーローになってからも重要、それどころか社会人としても必須だ!」

 

 そんなに言いづらかったのか。

 そんなに頼りない教師だったのか。

 そんなに信用できない教師だったのか。

 それとも、自分の命を使えば多くを助けられるという自己犠牲でもあったのか。

 それで残された人達はどれだけ悲しむと思うのか。

 

「海原、お前は、お前は――」

 

 除籍もやむ無しの事案だ。

 除籍だと、相澤は口を開こうとして、固まった。

 もしもこのまま除籍したとして。海原はこれまで除籍にした生徒とは違い、ヒーロー科に戻る切っ掛けは得られないだろう。

 そして、海原の実力ならば他校のヒーロー科に編入してヒーローになることも容易だと、相澤は評価していた。

 ここで切り捨てても結局ヒーローになるだろう。

 後遺症を報告しなかったことは罰せられるべきだが、それ以外は優秀の一言で、なんなら今日この日まで気づかないほど、ハンデを自分で覆していた生徒を見捨てていいのかと、相澤は除籍の二文字が言えなかった。

 

「――お前は、教師たちで話し合って今後の対応を考える」

「……さいですか」

 

 肩をすくめる海原。

 相変わらず何も感じていなさそうに見えて、その実、バツが悪そうにしていた。

 

「海原は別に……悪意があったわけじゃないと思うんです。報告しなかったことは、いけないことだと思う。けど、海原がいなかったら……助からなかった命もある」

「轟さん……そうですわ。相澤先生、彼のお陰でUSJ襲撃事件でも救われた人は多くいます。保須の事件でも多くの市民を助けました。……海原さんのヒーローの道を閉ざさないでください」

「轟クン……ヤオモモチャン……いやいや庇う必要なんてないんやで。相澤センセの言ってることが正しいし……相澤センセ」

「なんだ」

「……すみませんでした」

 

 相澤は海原が頭を下げるのを見て、「謝るくらいならちゃんと言え」と呟いた。

 そして、

 

「少し熱くなりすぎた。すまん。だが報告しなかったことは許されることじゃない。罰は受けてもらうからな」

「ハイ」

「それと海原」

「ハイ?」

 

 ――言わせてやれなくてごめんな。

 とは言えなかった。

 どんな事情があろうと、どんな隠し事があろうと、通さなければならない筋はあった。

 

「今は……痛みとかは、ないのか」

「……痛みも何もあらへんよ。個性切ると感覚なくなるんやけど」

 

 だから今はまきびしが痛いわ。

 海原の笑う顔に、相澤はシンプルに「ばあさんに診てもらっておけ」と背を向けた。

 今度こそは本当だろうなと念押しはしなかった。

 苦しんでいる訳では無いのなら、少しだけ、相澤は安心した。

 

 ☆☆☆

 

 心が痛いよ〜!!

 相澤先生ごめんよ〜!!

 

 内心では謝り通しだ。

 そもそも抹消の個性で体の内部まで影響受ける発想がなかったというか、無意識のうちに「内部は見られてないんだから抹消されなくね?」という勝手な思い込みがあった。

 だからずっと隠し通したまま――轟クンにさらっと言っちゃったけど――少なくとも今回のような無様を晒すことなくいくつもりだった。

 元々持っていたオレの敵だか味方だかわからないロールプレイをこなし、AFOとタイマンして最終的には相打ちなり、倒すなり、あとのヒーローやA組の皆が楽に滅することが出来る状態にもっていければいいかなという目標だったが、危うく破綻するところだった。

 もちろん、オレの能力があれば雄英じゃなくともなんとでもなっただろうが、雄英にいないと面白さがない。

 ……あとは個人的な感傷を処理するためにも。

 

「ちゅう〜!」

 

 リカバリーガールの治癒の個性によって足の裏を治してもらう。

 別に切り傷、刺し傷だから絆創膏でも貼ってくれればいいですよと伝えたが、「アンタはでかい怪我を隠してたからね。ついでに確認するためだよ」とお小言を頂戴してしまった。

 情報共有早いですね、相澤先生。

 ちょっとウンコしてスマホ弄ってた十分の間にもう話が伝わってる。

 

「結論から言うと脊髄損傷は治癒の個性の範囲外だね。というか良く動かしてるもんだよ。糸人形みたいに操ってなんとかしている元ヒーローや、個性の使用許可を得た一般人もいるけど、流石に電気信号や血液や水分の電解質濃度を操作するとかは聞いたことないね。

 CPUの演算を暗算で処理してるようなもんだよ」

「それほどでも」

「確かにすごいけどね、ちゃんと怪我は言いなさいな。事故に繋がるよ。相澤からも言われただろうけどね」

「ハイ」

 

 ペコペコ頭を下げていると保健室の扉が開いた。

 

「HEY!! 海原、Are you okay?」

「プレゼントマイクセンセやないの……どないしたんですか」

「虫にやられてちょっと心の傷薬を……あと変な毒とか入ってないか検査してくれよリカバリーガール!」

「情けないねアンタは! そんなものないよ! 口田って子も口に虫を突っ込んでやればよかったんだ」

「想像したくねぇー……! それと海原、イレイザーから聞いたぜ」

 

 話が早い!

 会議とかでちゃんと話すんじゃないのか、マジですれ違う度に婦人方の井戸端会議よろしく「ちょっと奥さん聞きました? 海原くんなんですけどね……」「ええーっ、やだぁーっ!」とかやってるんじゃないかって疑いたくなる。

 見たいなそれ。

 

「つまるところ、まだ怪我を個性で誤魔化しながら過ごしてるんだよな?」

「ええ……そうです。大切なこと言わんですんません」

「それはイレイザーから怒られただろうからもういいさ……それより……」

 

 プレゼントマイク先生は綺麗に腰を曲げて、お辞儀をした。

 

「すまなかった!」

「はい……?」

 

 なんのことかわからないオレは糸目なのも忘れて目をぱちくりさせてしまう。

 プレゼントマイク先生に謝られる事柄は何一つ思いつかない。

 

「期末テストの英語の採点間違えましたか?」

「違うそれじゃない……いやもしかしたら間違えてる……? 不安になること言うなよ!」

「すんません」

「そうじゃなくて……俺、体育祭のとき実況したろ? そこでお前のことイジっちまって……怪我が完治したんだからいいだろと思ってたが、お前はまだ苦しんでた……知らなかったからって許されることじゃない。DJ失格だ」

「そこは教師ちゃうんですね。いや、ボクが言わんかったからやっただけで……」

「そもそも変にウケ狙いでリスナーをイジるのはダメだったな! アレだ、反省してるよマジで」

「はぁ……」

 

 じゃ、あとは頑張れよなとプレゼントマイク先生は保健室を去っていった。相変わらず騒がしい人だ。

 授業は意外と普通であまり面白くないが。

 

「……ま、黙ってることで色んな人を傷つけたり、思い詰めさせるってことを学んでおきな」

「はい」

 

 リカバリーガールの一言と同時に、どうやら期末テストの演習試験がすべて終了したことを示すアナウンスが鳴り響いた。

 他愛のないイベントのはずが、オレにとっては少し心苦しい事態を引き起こしてしまった。

 

「これから先、大事なイベントがあるってのに」

「ん、なんか言ったかい?」

「いいえ、なにも?」

 

 オレは深くため息をつくのだった。

 次のイベントは、林間合宿。

 転生前の記憶を結構覚えているし、個人的な感傷を晴らすためにも自然と意識せざるを得ないイベントを前に、余計なことをしてしまったなと頭を抱えたくなった。

 




相澤「除籍で」
海原「」

海原「というわけで御社を志望しました! こちら履歴書です!」
死柄木「帰れ」
海原「特技は潤滑油です!」
死柄木「聞いてねえ」
海原「御社の歯車の潤滑油として円滑なコミュニケーションを促します!」
死柄木「いらねえ」
海原「個性で水の粘度を操り、ローションプレイも可能です。潤滑油ですねw」
死柄木「黒霧!! 早くこいつ殺すか帰すかしろ!!」
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