林間合宿へ補習組は行けず、学校に居残って夏休み中も補習地獄――と、思いきや!
相澤先生の合理的虚偽が発動。無事全員で林間合宿に行くこととなった。
ちなみに筆記で赤点はおらず、実技では芦戸、上鳴、瀬呂が赤点となった。
ついでにオレは例の件でお小言を貰い、後ほど全員に説明責任を果たせと怒られたため、ホームルーム後に説明することとなった。気まずいぜ。
「そもそも今回の林間合宿は強化合宿だ。赤点になった奴ほどここで力を付けてもらわないと困る。
強化合宿の目的は仮免取得のための能力強化だ」
「お、パイセンが先んじて取ったやつだよな」
「先生、本来それって二年生でとるんじゃないんですか?」
「上鳴、耳郎が言った通りだ。本来は多くのヒーロー科が二年次に取得する。去年の海原は飛び級で取得したが……今年は一年全員に飛び級取得をしてもらう」
な、なんだってー!? という悲鳴と驚愕が教室に入り交じる。
相澤先生がぎろりと睨むとすぐに全員静かになった。だいぶ仕上がってきてるな。
「昨今のヴィラン活性化を受けて、生徒にも自衛の能力を身につけさせることが目的なのと、緊急時の個性使用許可証となるヒーロー免許、その仮免を取得させることが目的だ。
もちろんヴィラン襲撃のリスクを考慮して、行先は内密にする。必要な持ち物などはしおりに書いてあるから、用意しろよ」
相澤先生は説明と共にホームルームを終えた。
強化合宿と言われても、やはり華の高校生の夏休みともなれば気分が浮つき、どことなくそわそわとしていた。
みんなで林間合宿の必要なものを買いに行こうと言い出す面々たちが微笑ましい。
「海原、結局あのことは話すのか?」
「相澤先生はあのようにおっしゃっていましたが……」
有耶無耶にならないかなと空気に徹していた中で轟と八百万の視線がオレに向けられた。
「そういえばなんか言ってたな。なにかあったのか?」
「パイセンのやらかしか?」
上鳴や峰田を始め、注目し始めれば全員がこっちを向く。爆豪ですら、帰る前にじろりと睨んできていた。
オレは佇まいを正し、机の上に肘をつき、左右の手を重ねる。
「ボクの……過去の話や」
声のトーンが変わると、茶化すものでもないと思ったのか、全員がぴくりと肩に力が入っていた。
素直ね、君たち。
「少し長くなるで。あれは今から一年前――」
一年生ながら仮免を取り、初めてのインターンのときのことだった。
「――インターンでヴィランによって怪我を負わされ、下半身不随に。でも個性の応用で上手いこと足を動かしてるんやで」
「……うん」
みんなが頷く。
あれ、結論出ちゃった? これから続きあるのかな? みたいな表情になったがすぐに真面目な表情に戻った。
「――以上!」
全員がずっこけた。
爆豪だけがでかい舌打ちをして、足早に背を向けて去っていった。
起き上がった全員がまくしたてる。
「なんかめっちゃ長い話しそうな感じだっただろ!」
「というか下半身不随ってなに!? パイセン歩いてるけど大丈夫なの!?」
「秘密を話してくれて嬉しいけれど、今は大丈夫なのかしら」
「悲しき過去を語る場面ではなかったのか」
わーわー騒ぎ出すクラスメイトたち。
どいつもこいつも騒ぎ立てて、それでいて全員が心配と困惑に包まれている。
いいヤツらだ。
オレはけらけらと笑いながら全員を落ち着かせる。
「結局のところ、それくらいしか言うことあらへん。強いて言うなら、相澤センセと戦う時に役に立たへんことくらいや」
「それはそうかもしれないけどよ……テストは轟と八百万は一緒だったよな。そこで知ったのか」
「ええ、私はテストの時に……突然崩れ落ちたのでトラブルかと心配しましたわ」
「俺は体育祭の時に聞いていたが正直忘れてた。普段の生活を見ててもそんなふうには見えないしな」
「そゆこと。そやさかい気にする事はあらへん」
オレがそう言うと全員が「そうかな……そうかも……」という雰囲気になる。
結局肉体を個性で操作してるか筋肉で操作してるかだけの違いだし、結局なにか不便があるわけじゃない。
相澤先生のような個性の発動を妨害する個性が相手だとオレの場合は無力化されるだけで、個性が使えなくなって窮地に陥らないヒーローの方が少ない。
そんなときに声が上がった。
「おいおい! みんな聞きてえのはそんなことじゃねえだろ……もっと話すべきことがあるだろ!」
「峰田クン?」
声の主は峰田だった。意外な人物にオレも目を丸くした。
「パイセンが自分から言わねえならオイラから聞いてやる……ちゃんと答えろよ?」
普段のエロ魔人な峰田とは違う只ならぬ雰囲気にクラスメイトたちが息を呑んだ。
峰田はオレの前に立ち、鋭い目つきを向けてくる。
「――オ〇ニーどうしてんの?」
峰田はみんなにボコボコにされた。
「ああ、ボクの個性だと水の温度や粘度を操ってやな」
オレもみんなにボコボコにされた。
そんなふうに、オレのささやかな秘密は受け入れられたのだった。
林間合宿へ向かうバスの中は、ヒーロー科の生徒といえど高校生らしい喧騒に包まれていた。
お菓子の交換を望む声や、カラオケの選曲に悩む言葉、外の景色にはしゃぐ姿。
オレはそれらを見ながら目を細めていた。
「……海原、大丈夫か?」
「轟クンどしたん? ボクはボケーッと皆を見てただけやで」
「そうか……なんかあったら言えよ」
「優しいやん。ホンマに」
「そういうわけじゃねえが……個性をずっと使うって疲れるものだろ。バスの中くらい楽にしてもいいんじゃねえか」
オレの隣に座る轟が心配そうに覗き込んでいる。
やたら好感度高いのか、シンプルに優しさからくる配慮なのか。
どちらかわからないが、優しさは気持ちだけ受け取っておいた。
「今更いちいち解除せーへんよ。よっぽど疲れたらそうするかもなァ」
「体育祭のあととかは解除しなかったのか?」
「あれくらいじゃ疲れへんよ」
ニヤニヤとからかうように笑うと「すげえな」と素直に驚く轟。
そこはもっと「バカにしてんのか」くらい突っ込んで欲しかったイジリだったが天然かつイケメンな轟には発想すらなかったようだ。
爆豪あたりなら「ぶっ殺してやる」と言いそうだったが。
「……期末試験のとき、俺は海原の個性と足のこと聞いてたのに、すっかり頭から忘れちまってた。
覚えていたらカバーくらいできたかもしんねえのに」
「やめてや。そらボクのミスやさかい、思い出させんといて」
「そうかもしれねえけど、自分だけ強いつもりじゃダメだってわかったんだ。
俺はどこかで、自分だけでけえもん背負って、戦ってると思ってた。でも違うんだな」
轟は顔を上げて、遠くを見つめていた。
鋭く、そして決意を以て。
「ヒーローになるなら強いだけじゃダメだ。そして、助けるなら、常に周りを見ないといけねえ。それが少しだけ……わかった気がする。
お前のお陰だよ海原……ありがとな」
「……そか」
オレはそっと視線を窓の外へ向けた。
……いや全然心当たりありませんが?
普通に相澤先生とバトって、普通にやらかしてただけですが?
それ以前も轟とは体育祭でやりあったくらいじゃなかったかな?
「なにか起こりそうやね、この合宿」
確か原作では林間合宿を通じてオールマイトが、AFOと激突して引退する羽目になっていたはず。
だが肝心の過程がまるで思い出せない。
合宿は相澤先生が説明していたように、仮免取得のための強化合宿。
たしかそこにヴィランの襲撃があったはず。
……具体的にいつ、何日目の何時に?
多分夜だったことくらいしか思い出せないし、合宿所の何処かもわからない。
ダメだ、まるで役に立たない。
「海原ちゃんも歌うかしら?」
「海原くん歌うまそうやね!」
「うーん……ボク歌えるの六甲おろしくらいやで」
「出た! 関西要素!」
「京都で阪神ファン……そういうものなのか……?」
あと緑谷が元気100倍だかになってワンパンでヴィランを倒していたのは覚えている。元気100倍ってなんだ、アンパンマンかよ。ワンパンってことはワンパンマンかよ。
緑谷がハゲるってことか? 確かにハゲそうなイベントに巻き込まれまくっているが、髪の毛的にはワカメみたいでハゲそうにない。
違う緑谷のハゲは関係ない。
「デクくんは歌わんの?」
「ええっ!? か、カラオケなんてそんなハイカラなもの……」
「ハイカラ!」
「まさかの発言! 緑谷は声高めだから面白いんじゃね?」
緑谷はヴィランと戦う。そしてそのヴィランが……ああ、そうだ、思い出した。
「血狂いマスキュラー……か」
関係なければ「シグルイ……? 虎眼流使うヴィランとか勝てないよ……」とでもほざいていただろうが。
オレとそのマスキュラーというヴィランネームを与えられた奴に直接の面識はない。
ただ少し、個人的に思うところがある程度の感傷があった。
別に大局に関わるほどのものでもない、つまらない話だ。
「やっぱり歌うわ」
「お、パイセンいけー!」
「盛り上がろうぜぇーっ!」
「では……津軽海峡・冬景色で」
「「「まさかの演歌!!!!」」」
とりあえず今回はAFOにたどり着けるチャンスもある。今後の目的のためにも、ちょっとこの合宿は気合いを入れる必要がありそうだ。
(そして普通の歌唱力……)
(普通や……)
(ちょっとかっこいいわ……海原ちゃん)
(普通だね……)
(あ、恋のヒメヒメぺったんこ入ってるんだ……)
「着いた〜……って、何も無いじゃんここ」
「うう、小便漏れる……! おしっこおしっこ……!」
「パーキングエリアでもドライブインですらねえな」
A組は道路脇に設けられた何も無い展望台に降ろされた。
見晴らしはいいがそれだけ。展望台からは辺りを覆い尽くす森林が広がり、山々が稜線を作り出している。
少なくとも合宿所の雰囲気ではない。
「なんの目的もなく、では意味が薄いからな」
相澤先生の意味深な言葉に、ほんの僅かな緊張感が走る。
そこへ現れたのは二人のヒーロー。ともに妙齢の女性で、猫を模したヒーローコスチュームに身を包んでいた。
「煌めく眼にロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ!!」」
「と、いうわけでワイルドワイルドプッシーキャッツの皆さんだ」
おー、とオレが拍手するとみんなも奇抜な紹介に呆気にとられつつ、釣られて拍手しはじめた。
ぱちぱちという音をかき消すように興奮した緑谷が彼女達が山間救助をメインに大活躍のヒーローチームということを声高に叫び、経験年数を口にしたところで青みがかったコスチュームのヒーロー――緑谷によるとピクシーボブが、年齢に関して制裁を加えていた。
「このあたりは私らの私有地なんだけど、今回、あんたらが宿泊するのはあの山の麓!」
「遠っ!?」
鬱蒼と生い茂る森の中、豆粒のような大きさにしか見えない建物らしきものをマンダレイが指を指す。
「なんでこんなところに降ろしたんやろ。トイレもない場所に」
オレの言葉にクラスメイトたちの疑念が大きくなった。
思い出す原作の流れ。ピクシーボブの個性により土砂で崖下に落とされるA組。彼女が操る土で生み出した魔獣と戦いながら合宿所まで移動するという展開だったはずだ。
オレは……どうしようか、と思い相澤先生に目を合わせるとアイコンタクトが送られてきた。
みんなから少しだけ距離をとる。多分土石流に巻き込まれない位置。
「バス……戻ろう? な? 早く……」
「12時半までにたどり着けなかったキティたちはお昼抜きね!」
直後にピクシーボブの個性“土流”によって操られた土砂が、オレ以外のA組の面々に悲鳴を上げさせながら、彼らを押し流した。
ぽつんと残されるオレを見て赤を基調としたコスチュームのマンダレイが、相澤先生に振り返る。
「彼は残しておいていいの?」
「ええ、大丈夫です」
「やっぱりボクはなんかあるんやね。まぁ仮免取得の強化合宿やさかい、ボクが一緒したら意味あらへんよね」
「えっ、彼だけ才能豊かな感じ!? 唾つけとこ! TEL番教えて! ちなみに彼女持ち!?」
「TEL番て、今時使わんでしょ……あと彼女おるんでリアルに唾つけんといてください」
婚期に焦っているらしいピクシーボブが崩れ落ちるのを無視して、相澤先生はオレに指示を出した。
「海原、わかってるよな?」
「ええ、もちろん」
「言ってみろ」
「ボクは最強なのでバスでゆっくり合宿所に先乗り」
「違う」
となると面倒な予感。
嫌そうな顔を浮かべてアピールするが相澤先生には効かない。
あとピクシーボブ、コスチュームはともかく耳元でにゃんにゃんアピールするのは流石にキツいです、色んな意味で。
「お前が期末試験で与えられた課題は周りとの連携だ。はっきり言ってお前は大半のことをこなせる。トッププロと遜色ないほどに。
だが違う場所で同時に発生した事件を解決できないように、一人では限界がある」
「絆パワーを手に入れるのが期末試験のボクの課題やったんやね」
「絆なんてもんはいらん」
「教師のセリフかい」
「そんなもんで他人が救えたら苦労はしない。お前はなんでもできるから、最終的に自分が全部何とかすればいいというケがある。だから、個性を妨害され、できることが制限された状態で、良くも悪くも迷いがない轟や、自信を喪失気味だった八百万との連携を見たかった。
報連相を怠るバカのせいで少し狂ったが」
「誰やろそんなバカは」
「鏡が欲しいなら素直に言え」
「でも相澤センセ、それならみんなと一緒に降りた方がええんちゃいます?」
「話は最後まで聞け。
期末試験では連携を要求したが、連携するためだからとお前が実力が下の連中に合わせていてはお前のためにはならん。
だから今回の林間合宿ではお前も個人として徹底的に鍛えてもらう」
相澤先生が何かをオレに放り投げた。
受け取ると、それは簡易的なタイマーだった。何故か猫がモチーフの形をしていたが、プッシーキャッツのものだろうか。
「あいつらには一応三時間で来いとは伝えたが、実際はもっとかかるだろう。ざっと六時間から七時間くらいか」
「三時間くらいってのは私たちにとって、だからね」
マンダレイが注釈を入れた。
「お前は制限時間二時間だ。そして他の連中と協力するのも援護するのも禁止だ」
「二時間かぁ。プッシーキャッツよりも短い制限時間なん?」
「自信失くした?」
マンダレイが挑発的にくすりと笑う。
オレはストレッチをしながら、お返しのように歯を見せて笑った。
「ヨユーやで」
崖上から躊躇なく飛び出した。
森へ落ちる途中で、マンダレイの傍に控えていた目つきの悪い少年と目が合った。
あの子は、と記憶に蘇る。少年もまた、じろりと睨んでいた目が徐々に見開き、声を上げようと口を開いたところで、オレからは見えなくなった。
☆☆☆
ピクシーボブが生み出した土の魔獣を相手取るA組の面々たち。
それぞれの個性を駆使し、連携をしているが、大型の敵を同時に複数相手取るというのは精神的にも肉体的にも疲労が積み重なっていく。
「そういえばパイセンはどうしていないんだよぉぉぉぉ!」
個性のモギモギを千切っては土魔獣へ投げつけ拘束する峰田の叫びが森に木霊した。
「いねえもんはいねえ、仕方ねえだろ! 今だ砂藤!」
「そうだぜ峰田、パイセンばかり頼ってらんねえよ! うおおお、シュガードープ!」
瀬呂がテープで木々を飛び回り、土魔獣の攻撃を絡めとって防ぐと同時に峰田のモギモギとあわせて動きを完全に止める。
そこへ砂藤の強化された拳が突き刺さり、土塊を粉砕した。
「そういうわけじゃなくてだな、オイラは……パイセンなら、ズボンを、パンツを……! ぐえぇ!?」
「峰田くん危ない!」
「雑魚が気を散らしてんじゃねえカス!!」
土魔獣の腕が峰田がいた場所を通り過ぎる。
剛腕が叩きつけられる直前で緑谷が峰田の襟を掴んで庇った直後に爆豪の爆破が轟音を鳴り響かせる。
「数が多い……! 上鳴くん、轟くん!」
「まかせろ」
「やってやるぜぇーっ!」
氷結と雷鳴が小型の土魔獣を撃破していく。
「背後から大型のやつが二体! 甲田、足止めして! 対応しきれないかも!」
「翼を持ちし者たちよ! 我らに害なす者の視界を遮るのです!」
「俺がカバーする! でりゃあああっ!」
「委員長、一緒に足を狙うぞ! “尾空旋舞”!」
飯田のエンジンで勢いを得た蹴りと尾白の尻尾が土魔獣の足を砕き、動きを止める。
その場で即興の連携を重ねながら土魔獣を撃破し、少しずつ森を進んでいくA組一行。
しかし波状で襲来する土魔獣や、全方位への警戒による精神的疲労、そして連戦による肉体の疲労による戦闘力や判断力の低下は決して否めない。
「麗日、後ろ後ろ!!」
「麗日ちゃん!」
「な、しまっ――!?」
質量の大きい相手だろうと触れてしまえば無力化してしまえる麗日が攻撃の軸の一人となっていたが、一瞬の隙をついて土魔獣の接近を許してしまう。
カウンターで触れるにも、判断が僅かに遅れた。
カバーに注力していた蛙吹が麗日を守るが、芦戸の援護は追い付かず、助けに入った蛙吹は自身の安全を確保できない。
土魔獣の巨大な腕が伸びる。その瞬間――
「もう追い付いてもうた」
蒼い龍が土魔獣を飲み込んだ。蒼は、太陽の光を反射して輝く水によるもので、土魔獣を丸呑みする龍を生み出す水流を見て、全員がその正体に気づく。
「パイセン!」
「海原!!」
「海原くん!」
蛙吹を抱えて着地する海原の背中に期待を込めた声が届く。
自然とA組全員の脳裏に(海原なら、なんとかしてくれる――)という思いがよぎった。
海原は蛙吹を優しく地面に下ろす。
「邪魔してもうた。ごめんなァ」
「パイセンおせーぜ! ここから一気にぶち抜いて昼飯にありつくぞぉ!」
「海原さんがいれば、土魔獣を倒す火力も一気に増しますわね!」
切島や八百万の声に対して海原は首を振った。
「いや、ボク禁止されとるねん。みんなを助けることは。というわけで先に行くで」
「嘘だろパイセン!!」
数人の悲鳴が響くころには海原の背中はすぐに遠ざかっていた。
希望が見えた直後に、その光が遠ざかったことに士気が瞬く間に落ちる。
「ちくしょう……オイラたちだけでやるってのかよ……!」
「やばいよ、流石に土魔獣をこれだけの数を相手にするなんて」
「索敵はともかく、やはりあの破壊力があるかないかで大きく変わるからな」
「天からの恵みは得られないということか」
疲労もあってネガティブな声が満ちる。
(海原くんのあの実力が……知らず知らずのうちにA組の中で絶対の支えになっていたんだ……! 援軍が来たと思っただけに、上げて落とされるカンジだ)
緑谷は息を荒くし、肩を落とすクラスメイトたちになんて言葉をかけようか迷った。
少なくとも立ち止まることは得策ではない、まずは進むように声をかけようとして、特大の爆音と爆炎が撒き散らされた。
これほどの破壊力を引き起こせるのは、クラスに一人だけ。
「か、かかか、かっちゃん!? ダメだよそんな大火力じゃ! ゴールに辿りつくまで持たな――」
「うるせえぞクソデク!! てめえらもだカスども!!」
爆破の反動で震える右腕を押さえながら、爆豪は血走った眼で叫んだ。
土塊の魔獣が一気に数体吹き飛ばされ、炭化していた。
最大火力を放ったことによる痛みもある中で爆豪はそれを怒りでかき消しながら怒鳴る。
「テメェらはこれからなんでもあのクソ糸目に頼るつもりか!? ヴィランを前にして、助けを待つのか!?
ちくしょう……むかつくぜ……」
思い起こされる海原の『手助けは禁止されている』という事実。おそらく相澤に指示されたものだろうと爆豪は推測した。
それはつまり、海原の力があればA組のほかの生徒たちは成長できない、守られる存在でしかないと判断されていること。
爆豪にとって途轍もない屈辱であり、そして無意識のうちに海原を頼る、気弱さを露呈するクラスメイトたちにも怒りを覚えた。
「ヒーローになんだろ! あのクソ糸目なんざ目じゃねえんだよ! あいつの助けが欲しけりゃこの場で泣きわめいてろ!」
爆豪が吶喊する。
いつものような独断専行だが、爆豪の怒りと檄を聞いて、それを咎める生徒はいなかった。
全員が汗や泥を拭い、顔を上げる。
――海原に追いつく。
「さっさといくぞテメェら!」
「「「応ッ!!!!」」」
爆豪の声にA組の声が重なった。