「あぁ? なんだテメェ……ヒーローか?」
水を差されたマスキュラーが海原を睨む。
遊びながら人を殺す残虐性を持った男の殺気を受けるが表情は変わらずに淡々と答える。
「答える必要があるか?」
歩き出すと緑谷とマスキュラーの間に立つ。
驚きに固まっていた緑谷がようやく声を上げた。
「海原くん! そいつの個性は筋肉増強でパワーとスピードは桁違いだ! 近づいちゃダメだ!」
「海原……? あぁ忘れてた。一応仕事なんだったな……お前が海原か。なんだよ見つけたら仕事しねえとだな」
面倒臭そうにマスキュラーは頭をぼりぼりとかいた。
「聞いとくが……素直に付いてくるなら命は助けてやるぜ」
「オレが狙いなのか。都合がいいな……だが日本語が間違ってるぜマスキュラー」
普段の常に笑みを浮かべた飄々とした姿とはうってかわって凪いでいる海原の様子に緑谷は言いようのない感情が湧いた。
助かったことによる安堵か、いつもと違う姿に対する恐怖と不安か、言葉にできなかった。
それを煽るように海原が日常とかけ離れた言動を重ねる。
「お前が言うべきはこうだ。『大人しく雇い主の元へ連れていきますから殺さないでください』だ」
「あぁ? 言うじゃねえか……!」
緑谷は彼がウォーターホースのもとへインターンで出向いていたことを思い出す。
復讐――その二文字に思い至ると、反射的に海原の手を後ろから引いた。
「だ、駄目だよ! すぐに逃げて、相澤先生たちの助けを借りよう! だから、だから……ウォーターホースの復讐なんてダメだ!」
「え……」
「緑谷……」
声を漏らす洸汰と、少しだけ振り返る海原。
マスキュラーは目を細めると、ますます笑った。
「おいおい……お前まさかあのとき、ウォーターホースの後ろにくっついていたガキか!? いやすごいねぇ、またまた運命的だ!
お前とは確か、ほんの一瞬顔を見合わせただけだが……師匠の敵討ちってやつか!? 感動だな!」
「べらべらとよく喋る。舌の筋肉も強くしてるのか?
緑谷、勘違いするな。あんな小物に興味は無い」
京都弁の口調すら剥がれ落ちている海原に対して緑谷は不安を覚えるも、薄く開かれた青い瞳にどす黒いものは見えなかった。
むしろ、もっと深く、何か別のものを見ているようだった。
「小物だぁ……? 最近のガキは口と育ちがワリィな。そんなガキには――教育が必要だよなぁ!!」
「海原くん!!」
筋線維で全身を覆い尽くし、まるで戦車のような迫力で海原へ突貫する。
先程まで緑谷を嬲っていたときとは訳が違う、質量と内包されたパワーを重ね合わせた全てを破壊する悪夢のような突進。
いくら海原の戦闘能力が優れていようと、水分操作の個性では正面からぶつかり合うパワーを生み出すことはできない。緑谷の悲鳴が上がった。
「マスキュラー。復讐なんて崇高なものじゃない。個人的な感傷にケリをつけたいがためにテメェを倒す」
「やってみろよ海原ァ!!」
海原が手のひらを向ける。
それだけで攻撃は最早完了していた。
「“
翼を広げる鳳凰を思わせる水の塊が正面からマスキュラーを弾き飛ばす。
筋肉の鎧が剥がれ、たたらを踏むが戦いを終わらせるほどのダメージは入っていない。
「弱ぇなぁ!」
踏み直して右腕を振り下ろすマスキュラー。海原は右腕が振り下ろされるより早く接近すると、手のひらを彼の体に押し付けた。
「“
「あ……!? か、はぁ……! テメ……!」
マスキュラーが何をされたのか気づいた時には既に、肉体は肌つやを失い、シワが増え、筋肉が萎れていく。
海原の個性は水分操作。手を触れたことで他者の肉体にある水分を一気に奪い去ったのだった。
眼窩が落ち窪み、瞬く間に老人のように痩せ細っていく。
振り払うべく腕を振った時には、力なく海原を叩くだけだった。
「が……か……かひゅ……!」
「殺しはしないがしばらく寝てろ」
意識を失ったマスキュラーは地面に倒れ伏した。
(一瞬で……あれだけ強かったマスキュラーを……)
海原が振り向く。その視線にさらされ、恐怖に一瞬震えた。
圧倒的強者を前にした本能的な恐れ――しかしすぐにその威圧感は消え失せる。
海原がにやりと、いつものような笑みを浮かべたからだ。
「緑谷クン。早く合宿所に戻ろか」
「あっ……」
「広場に出てきたヴィラン二人はもうプッシーキャッツが拘束しとる。洸汰クンの安全確保が大切やろ」
「う、海原くんは?」
「ボクはまだ安否がわからない皆を探しに行くで」
「だっ、ダメだよ! 敵連合は海原くんを狙っているんだよ!? 一緒に合宿所に戻ろう!」
海原が数歩前に出て、背中を向けた。
振り向きざまに少し笑う。
「ごめんな。それはできひんねん」
「なんで!?」
「――ええヒーローになるんやで」
「海原くん!」
手を伸ばす緑谷。しかしはるか遠く、海原に届くことなく、個性を使用して飛び去った彼の背中を見つめ、手が空を切った。
まだ間に合うと一瞬その考えが過ぎるが、背中の洸汰の存在を考えたらそれはできなかった。
緑谷は歯噛みしながら、合宿所に駆けた。
『A組、B組生徒総員! プロヒーロー“イレイザーヘッド”の名において、戦闘を許可する!』
『それと、ヴィランの狙いの一つが判明! ヴィランたちは海原くんを狙っている! 当の本人は生徒の救出に動いちゃったから、見つけた生徒は一緒に合宿所に戻ること! 海原くん聞いていたらすぐに戻ること! わかった!?』
「聞いたか拳藤! ぶん殴り許可が出た!」
「待てって鉄哲、お前わかってんのか!? このガスのこと!」
「やべえ、ってことだろ! 俺もバカじゃねえ!」
「おバカ!」
B組生徒の鉄哲と拳藤がマンダレイのテレパスを聞いたのは、有毒ガスが漂う森の中を走っている時のことだった。
ガスを吸って昏倒する生徒が多数いる中、八百万と合流したことでガスマスクを入手。
九死に一生を得た生徒たちは対応を迫られた。
逃走を提案した拳藤に対し、B組がA組に遅れをとっているのはヴィランとの戦闘経験の有無だと訴え、戦闘及び撃退を望む鉄哲。
八百万やB組生徒の泡瀬に倒れた生徒の救護を任せ、一人突出しそうな彼をフォローすべく、B組学級委員長の拳藤は後を追っていた。
「このガスのこと、マンダレイは何も言っていなかった。わかるだろ意味が」
「バカにすんな! マンダレイたちはガスのこと何も言ってないってことだろ!?」
「おバカ二回目! いいか――?」
マンダレイたちがいる位置からガスは見えないこと。
ガスが霧散せずに一定方向に流れ続けており、とどまっていること。
ガスの濃度に違いがあること。
このことから、ガスは個性によるものであること。そして、個性を使うヴィランを中心に渦を巻くようにガスが散布されていること。
その二つを推理した拳藤に鉄哲は目を輝かせた。
「つまり中心に突っ込んでぶん殴るってことだな!」
「ちが……くはないけど! お前本当に大丈夫か!?」
「――よくはないなァ」
二人が思わず振り返ると、テレパスにあった渦中の人物である海原が、ガスマスクもせず現れた。
驚愕に目を剥く二人。
「海原、お前ガス!!」
拳藤が咄嗟に自らの個性“大拳”で海原を包んでガスから守ろうとするが、海原は手で制した。
「おおきに拳藤チャン。でもええねん。こういうタイプならボクの個性でなんとかなんねん。自分しか守れんけどな」
「どういうことだ、お前水の個性だろ!」
「せやで。呼吸器に水の膜を張って、自分の操作の範囲で有毒物質と無害な空気を選別してんねん。水でフィルターを作ってガスマスクと同じ原理を作っているだけや」
「水の呼吸ってことか……」
「ちゃうよ」
「お前ら馬鹿なこと言ってないで……そんなことできるのか、って今はそんな話をしてる場合じゃない! 海原、さっきのテレパスのこと聞いてただろ? 早く合宿所に戻りな!」
「そうだぜ、ここは俺たちB組に任せて先に戻れ!」
「ん、ああ……こっちにも色々とやることがあるんや」
海原は無造作にガスへ向けて歩き出す。
ガスの濃度が高い方へ――つまりヴィランがいるであろう地点。
鉄哲と拳藤は止められず、かといって見捨てることもできず、ついていく。
「海原、さっき鉄哲にも言ったけど、多分ガスの渦の中心にヴィランがいる!」
「せやな。まだボクの水分探知の範囲外やけど、だいたいそんなとこやろな」
「海原お前も拳藤と同じ高IQキャラか!」
「このおバカのことは放っておいて」
「うん」
海原は策を弄することなく堂々と歩みを進め、ほどなくしてガスマスクと学ランを身に着けた少年と相対した。
少年は首を傾げる。
「あれあれあれ……あまりにゆっくり歩いてくるから仲間かと思っちゃったよ。君たちは仮にも雄英高校、名門のエリートたちでしょ? なんで無策なのかな」
「てめぇが小大や塩崎を……歯ぁ食い縛れ!」
「こっちの台詞」
「鉄哲!」
“マスタード“と、かの毒ガスの名前からとったヴィランネームを自らにつけた少年は懐から黒光りする鉄の筒を取り出した。
リボルバーと呼ばれる回転式拳銃の銃口を鉄哲に向ける。
個性社会が叫ばれて久しいこの時代において、銃火器は戦術的優位を前時代ほど確保できなくなっているが、依然として銃弾をまともに食らえば肉が千切れ、骨が砕ける威力を持つことは変わっていない。
個性“スティール”――鉄哲は身体を鋼鉄に変化させることができるため、銃弾一発で致命傷とはならないが、何発も受けられるものではない。
マスタードを殴るべく駆け出そうとした鉄哲の脚が止まる。
それを見て上機嫌そうにマスタードはリボルバーをゆらゆらと見せつけた。
「あっは、だよね。拳銃は怖いよねぇ。エリート名門校のヒーロー志望でも銃弾受けたら死んじゃうんだもん。いい気味だね」
(拳銃の弾程度なら受けても平気だが、ガスマスクに食らったらマズイ……ちくしょう!)
堂々と正面から姿を見せたがために奇襲もできない。
(あたしも鉄哲のことバカって言えない……! 海原が普通に歩いていくもんだから何も考えずついてきちゃった……。
どうする? 鉄哲なら一発は耐えられるから、あたしの“大拳“で奇襲する……あたしたちとあのヴィランの距離はおよそ10……いや8m。まだちょっと遠い!)
「いやぁ、まさか本当に無策? 名門校だよ? 高学歴だよ? もっと頭使って戦わないと! おバカさん!」
「――馬鹿はどっちやろね」
「はぁ? ……待て、お前なんでマスク無しで平気なんだよ……!」
拳藤は前に出た海原を庇えるように身構えたところで、彼の表情を見て、背筋に大量の氷を詰めたような寒気が突き抜けた。
わかりやすく怒りを浮かべているわけでもない。ただ、薄く目を見開き、笑みを浮かべている。
微笑みに対して、命の危険すら感じている。
「は、ははっ。そういう個性か? まぁいい……撃てば終わりさ!」
「策って言うたかな、キミ」
ぱぁん――火薬が弾ける音が炸裂した。
その瞬間には、マスタードは地面に叩き伏せられていた。
「――は」
「え……」
拳藤も鉄哲も何が起きたかわからなかった。
ヴィランが発砲したと思ったら、海原がすでにマスタードを叩き伏せていた。
身体能力か、個性か、どんな現象かわからないが、海原という男が自分たちより遥か格上の――ともすれば、ヴィランより恐ろしい相手だと感じた。
「策いうもんは、格上の敵を倒すために練るもんや。なんでキミみたいな雑魚相手に策を練る必要があるん?」
「コワー……」
(こいつがヴィランとかじゃなくてよかったよマジで……!)
使い手が倒されたことで瞬く間に霧が散っていく。
依然として森に燃え広がる蒼炎は消えないが、少なくともガスが消えたことで脅威は減った。
「と、とにかく、ヴィランを倒したんだし、鉄哲も海原も退くよ!」
「釈然としねえがわかった……海原! 今回はA組に手柄を譲ったが次はこうはいかどこにもいねえ!!」
「はぁ!?」
「ヤバイ!! ヤバイって!! 本当にヤバイよコレはヤバイ!!」
響き渡る泡瀬の狂乱の声。その後ろには、チェーンソーに、ドリルや鋸といったおよそ人間に向けるにはあまりに凶暴すぎる凶器を乗せられるだけ乗せたかのような有様の怪人――脳無が迫っていた。
「八百万生きてるか!? 走れ、走ってくれ!! 追い付かれる!!」
必死な声を八百万は聞きながらも満足に言葉すら話せないでいた。
脳無との遭遇を察知するより前に攻撃を受け、頭部にダメージを受けた脳震盪で意識も半ば朦朧としていた。
泡瀬の個性“溶接”によって八百万は彼に抱えられて逃げていたが、とても逃げ切れる速度差ではない。
「くそ……ちくしょう! ちくしょう! なんなんだよ!」
振り回されたチェーンソーが背中を切り裂いた痛みに喘ぐ暇もなく、泡瀬は少しでも前へ走る。
そのときに佇む海原が目についた。
反射的に泡瀬は叫んだ。
「後ろから化け物が来てる! 逃げろ海原! 今すぐに!」
それに対して海原は場違いな微笑みを浮かべた。
「そういうときに助けを求めるんやなくて逃げるように言うあたり、やっぱりヒーローやわ」
視界の端の闇の中を何かが通り抜けた。
次の瞬間、八百万諸共泡瀬を串刺しにすべくドリルを突き立てようとしていた脳無の四肢が、切断された。
「あ、え――?」
「犠牲者は出とらんよね」
手足を切り裂かれた脳無はぐちゃりと湿った音を立てて地面に倒れ伏す。
振り返った泡瀬が目にしたのは、崩れ落ちた脳無がバラバラに散らばっている惨劇だった。
「うお、グロ……!」
「うぅ……うなばら……さん……?」
生理的嫌悪感や臭いなどから思わず口を押さえる泡瀬。
八百万は重い瞼を上げた。
海原は泡瀬から八百万を受け止めると、頭部の傷口を診た。
「ヤオモモチャンの傷自体は深くはないな。脳震盪ってことか……止血は個性でカサブタ作って済ませたから大丈夫やで。はよ戻り」
「ありが……とう……」
「あ、ああ、わかった……海原は?」
「ボクはやることがあんねん」
「待って……海原、さん……!」
「待てへんねん。ヤオモモチャンも、元気でな」
海原は個性で水流のジェットを生み出し、その場を飛び去った。
☆☆☆
「別れの挨拶は回り切れないなぁ」
どうせなら全員にここでいなくなるかも、と知っておいてもらいたかったが、そこは計画の範囲外。
オレは大人しく諦めて今回の合宿の計画を果たすことにする。
「お集まりみたいやね、敵連合」
森の中にある空地にいたのは敵連合の連中。
荼毘とかいう黒いコートと継ぎ接ぎが特徴的な男とトガヒミコというナイフをたくさん取り付けた女子高生は記憶に薄く残っている。
あとは変な仮面とマジシャンを思わせるハットを被った人物――声音から男か。さらに全身タイツのマスクマン。
「海原大海……まさかここで目標が自らやってくるなんてな」
「海原くん!? なんでここに!」
端では緑谷、障子、轟の三人組が身構えていた。
「緑谷クン、なんで避難しとらんの」
「それはこっちの台詞!」
「言ってる場合か! 海原、爆豪と常闇が誘拐された。あのシルクハットを被ったヴィランだ」
「ホンマか障子クン」
「そうだぜハンサムボーイ。確かに爆豪くんと常闇くんはこの俺が頂いて――ありゃ?」
「ああ、誘拐された、だ……! 今の行為でハッキリした。どんな個性か知らないが、このビー玉のようなものに人や物を収納するのがお前の個性だな!」
「いつの間に……流石六本腕、まさぐり上手め!」
「逃げるぞ轟、緑谷! 海原もだ!」
「つまり誰も巻き込む心配はないんやな」
オレは手をかざして大津波をヴィラン連合たちに放つ。
「うわっでかい! こんなの小波だぜ!」
「流石にまずいのです!」
「容赦ないな最近の子供は!」
「浮足立つなよ」
纏めて飲み込むと思われた大津波の下から蒸気が吹き上がる。直後にヴィランたちは水に飲まれたが、波が静まると、びしょ濡れになりながら、少し離れた木々になんとかしがみついていた。
「キミの個性やな、火を使うキミの。高温で水を蒸発させて威力を軽減させたんか? 中々の火力や。どっかのナンバー2を思い出すわ」
「そりゃどうも」
「けどあと何発撃てる? 流石に今の炎を何発も出せんやろ」
もう一撃、といったところで横から飛び込んでくる人影。トガヒミコとかいう女子高生の恰好をしたヴィランだ。
「貴方好みじゃないです。全然血が流れなさそうで」
「初めて女の子にそないな意地悪言われたなァ」
寸前で躱すがこのヴィランの奇襲は中々のものだ。
気配を消すのが非常に上手い。気を抜いていたらいつの間にか刺されていそうだ。
とはいえ、初撃を避けてしまえば身体能力も並以上が精々の評価で、適当に裏拳で殴り飛ばす。
「さっきの火力の……」
「二倍ならどうだヒーロー!」
(荼毘が二人!?)
突然蒼炎使いの荼毘が二人になっていた。
二人の手のひらから蒼い炎が噴き出る。
ただの炎よりも遥かに熱を持って燃焼するそれを防ぐべく水を出して壁にする。
じゅわ、という音と共に蒸発した水が白煙となってあたりを埋め尽くした。
「二倍じゃ足りんで」
「隙あり! いややってねえ!」
「その通りやってへんね」
飛び掛かってきたラバースーツの男の奇襲をかわして蹴り飛ばす。
霧が晴れると息も絶え絶えに構える敵連合の姿が露わになった。
「海原、逃げるぞ!」
既に森に潜り込もうという轟たちが声をかける。
チラ、と振り返ったときだった。
「待った! 待った、待てだ、戦えじゃないぞ!」
「
「冷静になれよ荼毘。戦いよりもスマートな方法がある」
ミスターと呼ばれたマジシャン風の男が仮面を外すと、その舌先には青いビー玉が二つ乗っていた。
「ネタばらしは後でするつもりだったんだがね、このMr.コンプレスのマジックショーが台無しになるならやむなしだ」
「まさか……」
「そう、そのまさかだタコ少年! 君の手にあると思われた爆豪くんと常闇くんですがなんと、実は! 氷でしたー」
Mr.コンプレスが指をパチンと鳴らすと氷塊が障子の手から飛び出した。
爆豪と常闇は依然コンプレスの手の内いや口の中にあることに気が付いた三人が飛び出すが荼毘の炎が押しとどめた。
「待ってくれよ海原大海くん! 焦っちゃいけないぜ」
「聞いたるわ。何が言いたいん?」
「取引だ! この二人を返すから君が俺たちと来てくれ」
「ふざけるなよこの野郎!」
「緑谷落ち着け!」
それを聞いてオレはうんうんと頷いてから、
「ええで」
「そうか、オーケーか……えっ、本当に?」
「キミが言うたんやろ。早く爆豪クンと常闇クン解放しぃ」
「海原とか言ったか……お前立場わかってんのか?」
ぼうっ、と荼毘の手のひらから蒼い炎が揺らめいた。
全力の炎であれば周囲を巻き込んで燃やし尽くせるという示威行為のつもりらしいが、オレの前では意味がない。
見せつけるように指先で水を集め、渦を巻かせた。
「ボクが上でキミらが下や。『二人を解放するからどうか勘弁してください』ってのがキミらがとるべき態度やで」
「ヒーローって態度じゃねえな」
そう言う荼毘の額から頬へ水滴が垂れた。
先ほどの攻撃の残滓か、冷や汗かはわからないが、少なくとも強気に出られはしないと理解しているらしい。
「――ええ。彼はそういう人物らしいですね」
「黒霧……」
そこに現れたのは黒霧。ワープゲートを生み出し、トガやトゥワイスを回収していく。
「とりあえず確保できるのはこれだけですか。海原大海を確保できるならば問題ありません」
「……ミスター」
「はいよ」
コンプレスが指を鳴らし、爆豪と常闇が投げ出された。
そしてオレは二人のそばに広がるワープゲートへ歩み寄る。
ここで暴れたら逃げ切れるが、オレにとっては付いていくことが目的なので、暴れはしない。
「海原くん!!」
だんっと踏み込んだのは緑谷。
蹴った地面が一気に罅割れて砕かれた。踏み込みにすらワン・フォー・オールの100%を使用したのだろう、爆発的な加速を得て突っ込んできた。
にじみ出る威圧感によって危機感を覚えたのか荼毘とコンプレスが身構えた。
「ワン・フォー・オール100%……SMASH!!」
直接彼らを狙うのではなく、足場となる地面を叩き壊して黒霧のワープゲートに風圧と砂塵が撒き散らされた。
視界が埋め尽くされるその中で、緑谷がすぐそばまで迫る。
「海原くん! 手を……がッ……!?」
緑谷が反射的に手を伸ばそうとするが苦痛に喘ぎ、蹲る。左腕はマスキュラーとの戦いで、右腕はこうして今、OFAで粉砕されてしまった。
痛みだけで気絶するほどだろう。
腕すら伸ばせず、縋るようにオレを見つめた。
「――ごめんな、緑谷出久」
それに対して“俺”は簡素な謝罪の言葉を吐くのだった。
☆☆☆
「それで先生。この海原ってガキがどうして先生と因縁がある? こっちで調べてみたが精々、インターンで負傷したことを公安に隠蔽されていたくらいだ。
マスキュラーが暴れてインターン先のヒーローどもが死んだこと、そしてこのガキが怪我を負わされた……程度しかわからないぜ」
「公安も上手く隠したんだねぇ。いや、隠さざるを得なかったというべきか。そうだね……あのときは僕もまだ影に隠れているときのことだったんだけどね。
いやぁ、本当に偶然でしかなかったんだ――」
マスキュラー→スナスナの実みたいに水分吸収ゥ!
マスタード→アクアジェット(いりょく40めいちゅう100)で先制攻撃!
脳無→高水圧カッターでブツ切り!
荼毘「もう少しヒーローっぽい技にしろよ」
コンプ「厨パかよ」
トガ「効率ばかり求めて面白味がないタイプです」
トゥワイス「ダメージ与えすぎて結構大きい罪にならないか? 正当防衛だ!」
死柄木「クソゲー」
海原「そこまで言わなくても……」
地味にB組から海原に対するトラウマポイント上昇中