ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか 作:sakky314
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戦争とは悲惨なものだ。
あの『
壊れた街並み、失った財産。そして、消えた命。戦いが明け降り注ぐ日差しを浴びて、失ったものに気づく。だが、それでも生きようとあがかなければ人は死ぬ。
戦いから復興へ、怪我人の治療、死んで逝った者の供養、殲滅したモンスターの残骸の処理、やるべきことは数多い。今日も人は生きていく。
オラリオの主要産業は魔石製品という物らしい。
ダンジョンに潜む畜生共の核を加工し、産業製品から日用品まで様々なものに利用する。ダンジョンの素材を利用するオラリオにとって、唯一かつ世界最大の独占産業。
オラリオにとって幸運なのは、
今はまだ、デメテル・ファミリアの備蓄した食料とメレンから送られる魚介類によって、深刻的な食糧不足には陥ってないが、それだって有限な資源であり、自前の食糧生産能力を持たないオラリオの経済回復は急務と言える。
そういった事情によって、街の復興と同時にダンジョンへの探索も行うようにと、ギルドから各ファミリアへとお触れが回っていた。
そうしてやってきたのがダンジョン13階層。
陽の光の当たらない薄暗い地下の広場で、赤い瞳だけを爛々と輝かせる。
「囲まれてんぞ~手伝ってやろうか?」
そう気の抜いた掛け声をかけてくるライラを鼻で笑う。
「フン.....こんなものに手伝いなど必要ない。疲れたくなかったら、そこでおとなしく見てることだな」
そう言って周りを囲む目を向けたことを合図にするように、怪物の群れが突っ込んできた。
その後方から投げつけられた
四方から飛び掛かってくる、小型斧を持った兎が3匹、無手の奴が1匹。横合いから叩き切ろうとする凶刃を回るように避けては、至近距離から投げられる小型斧をしゃがむことで、後ろから噛み付こうとした兎に当てさせる。
最初に蹴り殺してから放置されていた小型斧に手を伸ばし、飛び上がってその無様な白い背中をさらす兎2匹を蹴り飛ばしては、狼の炎弾の盾にする。
最後に残った兎の首を掴み、握り折っては、蹴り飛ばすことでその手を離れた小型斧に両手に持った二つを投げつける。俺の着地を狙い目に火炎を喰らわせようとした狼共は、軌道の変わった小型斧に気づくことなく、その首に斧を生やして短い命を終わらせた。
さっきまで動いていた、殺戮に支配された憐れな生き物を見下ろす。
できることならば、もう少し手に入れた力を試したかったのだが......
「これでは修行にもならないな.....」
「いや、初っ端から中層で暴れる人間の方が常識外れだからね?」
「それはお前の勝手な思い込みだ」
呆れた目を向けるノインに対して、その力不足を言ってやる。意図が伝わったのか、返ってきたのはため息と竦める肩だった。
「お前も今日はここまで来る予定じゃないってこと、忘れんじゃねぇーぞ」
物足りないところに諫言を刺してくるライラを疎ましく思いながら、「ああ.....」とだけ返事しておく。
「こんなことならもっと大きい
「アリーゼ....なぜあの男をファミリアに迎えたのですか?」
ダンジョンに異常がないか、それを確かめるために中層を進んでいた調査隊に参加したリオンは、先を進むアリーゼに、気が付けばそう尋ねていた。
「どうしたの、リオン。貴方はおにい様のことが嫌い?」
「それはちっ.......違うとは言いきれません.....私は、彼が我々のファミリアには.....相応しくない。そう、考えてしまいます」
問いについて返された問い。『他人を嫌っているのか』とアリーゼに問われ、プライド高いエルフらしく、条件反射のように違うと自己弁護しようとした自分の口を正して、その
私はあの日見てしまった。あの男の本性を。
闇派閥が血に塗れたその跡で、不満と侮蔑をその顔に張り付け見下す。マダラの素顔を。
私は本能のままに理解した。アレとは手を取り合えない。アレはまぎれもない『悪』の人間の素顔なのだと。
「ねぇ、リオンはマダラが言った正義のこと覚えてる?」
「ええ、あの日のことでしたら、覚えています」
「あの後、マダラに聞いたの。『大切なものを取りこぼしたらどうればいいのか』って。そしたら、彼なんて答えたと思う?」
「.......一体何ですか?」
「『耐え忍ぶ覚悟を持つ』だって。それで私気づいたの。マダラにも辛いことがあったんだなって.....あの人が笑ってくれたらいいなって。そう思った」
「それは.....」
考えてもいなかった。自分が敵わなかった力を持つ男でも、あの『大最悪』や【静寂】とも戦えた男の過去など。ならば、あの男の力の本質は。あの男の本性は―――
「ねぇ、リオン。『夢』ってある?」
考えに耽っていたところに、アリーゼからまたもや問いが繰り出される。
「『夢』、ですか?」
「きっとマダラは、『正義』がなんなのか知ってる。今まで、何にも考えずに『正義』を考えてたけれど、私達に足りない物がある―――」
「それが、『夢』.....」
「何も考えないままじゃいられない。『夢』とか『目標』とか、それが見つかれば、きっと私達はまた一歩『正義』に近づける」
アリーゼの胸中では数々のことが思い出される。マダラが語った言葉。【静寂】が掴み取らせたかった未来。そして、『邪神』の神意。
辛く苦しいだけの闘いは、芽が出せぬ種のままだった少女の心を、少しづつでも確かに芽吹かせた。
「それじゃあ、アストレア・ファミリア報告会を始めたいと思います!」
夕日が城壁の向こうへと沈み、暗闇が支配するオラリオの都。アストレア・ファミリアの
「それじゃあ、私から始めるわね。今日で重症患者は、あらかた治療が終わったわ。あと一週間もしない内に、怪我人はいなくなるわね」
そう切り出したのは、戦いが終わってから診療所に詰め込まれていたマリュー。診療所に溢れかえっていた患者の量を目撃していたが故に、落ち着きを見せた結果に安堵の表情を、少女たちが見せる。
「マダラも医療忍術?だっけ、使えるんでしょ?そっちに合流しなくていいの?」
アスタが感じた単純な疑問。回復力が低く、重症者に対して適切な魔法と言えないリオンはともかく、【静寂】に急襲された輝夜とライラを治療したマダラが合流しなくてよかったのかと尋ねる。
「えぇ.....まあ、そういう意見が出なかった訳ではなかったのだけど―――」
「マダラさんの回復魔法は、実際には人の持つ回復力を最大限まで高める物らしいんです」
アスタの疑問に答えたのはセルティだったが、それだけでは疑問の答えにならなかったアスタはマダラに顔を向ける。
「人の細胞分裂回数は決まっている。軽い怪我ならともかく、重傷者の治療となれば確実にそいつの寿命を縮めるだろうな」
思わぬ視点で語られる医療忍術のリスクに納得する。マダラからすれば、回復魔法や
「それじゃあ!次はネーゼ、よろしく!」
「ん、こっちはまぁ、ぼちぼちだな。いかんせん片付けるモノが多すぎるせいで、あんまり進んでねぇ。ただ、商人たちが物資を持ってきたおかげで復興は順調に進みそうだ。ま、それに関しちゃゴブニュ・ファミリアがやることだな」
「商人を呼び寄せた
「ライラ.....彼の容姿がエルフに似つかわしくないという思いは同じですが、彼も身を切っているのです、もう少し言い方を―――」
「そんな身もどうやって溜め込んだのか、知りてぇんだけどなぁ~。どーせ、集まってきた商人共ともロクでもない取引してるんだろうぜ?」
こいつは
「それじゃあ、次は私ね!18階層は異常なし。ダンジョンの修復も規模が規模だから時間はかかるだろうけど、じきに直るだろうとの見込みね!」
「ただ、『大最悪』におびえたモンスターが階層を移動しているのも確認しました。そのことでギルドも中堅派閥を筆頭に、まずは18階層までの安全を確保するよう要請を受けています」
深層から『神の神威』を利用されて生み出された『大最悪』。その影響はダンジョンにおいて下層域のモンスターが中層深部に進出するほどの大混乱を起こす結果となった。
「上層で
「あの怪物の対処が遅れていたならば、最悪、モンスター共の氾濫.....なども起こっていたかもしれんな」
付け加えるように話をつづけたノインの報告に輝夜が「もしも」と続ける。そんな輝夜の仮定の話すら、容易に想像ができてしまうから、恐ろしいことだ。
「おにい様は初めてのダンジョン探索どうだった?」
「手応えがないな。もう少し楽しめるものだと思ったのだが、あれではな.....」
「モンスターに第一級冒険者並みの動きを期待しろってか?ダンジョンがそんな人外魔境だったら、あたしは冒険者なんてやってないね」
「まあ、そうだろうな」
そういってふてくされるライラ。己とて巣穴に引きこもる畜生共に期待などしていなかったのだが、己が苦戦するようならば、そもそもこのオラリオすら存在してなかっただろう。
「んな事よりも、アリーゼ。こいつ、文字が書けないみてーだけどよ。どうすんだよ?」
いつになってもその凍り付いた表情を崩さないマダラに対し、腹いせのように痴態を暴露してニヤけた笑みを浮かべるライラ。
それが判明したのは、ダンジョンに行くためにギルドに登録を行おうとした時だった。
マダラのこの世界の知識は、オラリオに着いたときに襲ってきた闇派閥の記憶に起因する。そんな末端の
「確かに文字が読めないっていうのも困りものよね~」
「そんなもの、ここで生きていくうちに自然と覚えて―――」
不穏なことを言い出したアリーゼの言葉を覆い隠す様に放つマダラの言葉は、ネーゼによって遮られる。
「いや、アストレア様の眷属が教養にかけるなんて、アストレア様の品位が疑われてしまう!」
「おい、待てっ!!」
話の雲行きをあやしくする狂信者の言葉に焦りを覚え、終には声を荒げてしまうが、ここは正義の眷属の本拠地。ネーゼの言葉に乗っかった小娘共の悪乗りが始まる。
「ネーゼの言葉は一理あるわね」
リャーナの納得を皮切りに次々と上がっていく。
震えるマダラの前のグラスから水が零れようとした時―――
「私に考えがあるわ!」
皆を黙らせる少女の言葉に視線が集まる。
「リオン!!出かけるわよ!」
「ア、アリーゼ、こんな時間に一体どこへ!?」
「ガネーシャ・ファミリアの本拠!アイアム・ガネーシャへ!!」
そう言ってリオンを部屋に突っ込み身支度をさせては、慌しく星屑の庭を飛び出してゆく。
過ぎ去る嵐のように二人の少女が消えていく光景を、唖然と見詰めることしかできなかったマダラだったが、弾かれたように動き出し、二人の少女の後を追う。
「......まさか......な」
闇夜の街並みに消えた少女の行き先。その先に聳え立つ大穴を塞ぐ神の塔。
それを睨みつけ呟いたマダラは、光灯る本拠へと戻っていった。