ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか   作:sakky314

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 恥辱の時という物は、誰でも人生において一度はあるものだ。

 

 柱間に敗れたあの日。

 

 計画のため、夢のため、新たな力を求めるため。

 理由を探せば、いくらでも言い訳はできた。それでも、全力でもってあの闘いに挑み、負けたという事実は、それまでの己が崩れていくようで認められるものではなかった。

 日の当たらない場所に隠れ潜んでからも、何があれば柱間に勝てるのかを考える日々だった。

 

 付きまとう『敗北』という名の汚点。拭うことの出来ないその事実を噛み締める日々は、とても耐えられるものではない。

 

 

 

 信じていた夢が虚像だったと自覚したあの日。

 

 柱間と語り合った夢を信じられなくなり、己が信じた道を進み続けた。

 そんな己が捨てた夢を諦めず、拾い上げようとするオオノキを見て、醜いと評した。

 しかし、己が夢見た世界は結局筋立てられたまやかしで、結局は柱間が託していった夢の前に潰えた。

 

 望めば届くこともできたはずなのに、柱間を裏切った。あまつさえ、気づかずに傀儡として動かされていた己が、酷く滑稽だった。

 

 

 

 だが、それでも―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうしてジャーファを倒したアラディンは、ジャスミーネと結ばれ、幸せに暮らしましたとさ」

 

―――これ以上の恥辱は、後にも先にも経験することはないだろう。

 

 

 リオンがアリーゼに連れていかれた先は、ガネーシャ・ファミリアの拠点『アイアム・ガネーシャ』。そこでシャクティに頼み込んで、アーディが収集していた英雄譚を借り受けてきた。

 シャクティ自身、アーディの遺品とはいえ、同じ本を3冊も4冊も持っていても困るだけだったので、孤児院に寄付するか売り払おうかと悩んでいたところだった。だから、アストレア・ファミリアのためならばと快く貸し与えた。

 

 その結果がこれだ。

 

「ふぅ......」

 

 書き取りを終えて、ペンを置く。イラつきと凝った肩をほぐす様に肩を回す。

 

「お疲れ様。だいぶスラスラ書けるようになってきたわね」

「こんなものでなければペンも進んだのだがな」

 

 読んでいた本の背表紙を閉じて背筋を伸ばすアリーゼに、恨み言の一つもぶつけたくなってしまう。

 

「リオンが借りてきたんだから使わなきゃ‼それに無駄にしたらリオンに何を言われるか......」

 

 オレに渡す際、人を射殺す程に鋭利な彼女の瞳を思い出してアリーゼがその体を震わせる。もし、手汗でも滲ませようものならば、木刀が飛んでくることは想像に難くない。

 

「その本の持ち主......アーディはね、明るくて、可愛くて、いつも笑顔を絶やさないいい子だった。よく二人で仏頂面のリオンを揶揄ったの」

 

 その娘の思い出に浸るように本を撫でては、おもむろに一冊の本に手を伸ばす。

 

「この本.....アルゴノゥトが大好きでよく聞かせてくれた。この人がどんな人でどんな物語を紡いだのか、書いてないことまで話してきたの」

 

「なぜ......そんなことを、このオレに話す......?」

 

「貴方に知っていてほしかったから......ううん、やっぱり自分のためかな。アーディのことを忘れないようにしたかったから」

 

 本を胸に抱き、その思いを心に刻みつけるようにうつむいては凝視するアリーゼ。

 

「この眼は.....オレの死んだ弟の眼だ」

 

 急な告白にアリーゼは顔を上げ、オレの瞳を見つめる。

 あの時、弟が死んで残ったものは両眼の瞳術でしかないと語ったにも関わらず、思い出そうとすれば、弟と過ごした時の情景が、弟の声が、顔が、泉のように湧き出てくる。

 

「お前は、オレの様にはなるなよ」

 

 席を立ち、アリーゼの頭に手をのせて、それだけを言い残す。

 部屋の扉が閉まるまで、本を抱えつつもアリーゼがオレから目を離すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「えええ~~~~後片付け全部私がやるの~~~~~!?!?!?」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「はい!と言うことで家事当番を決めたいと思います!!」

 

 朝餉を取り始めたアストレア・ファミリアの面々。そんな中で朝食の肴とばかりに、アリーゼが声を張り上げた。

 

「何が『と言うことで』だ。朝っぱらから憂鬱になるようなこと言うんじゃねぇよ」

 

 朝から元気な団長に、頭が痛くなるような感覚を抑えて、ライラがうっとうしそうに吐き捨てる。

 

「明後日でちょうど当番が一周するじゃない?だから決めとこうと思って!」

「みんなに任せてばかりもあれだし、私もやるわよ?」

「いえ、アストレア様にそのようなことをさせる訳には―――」

 

 今日の朝食は、固い黒パンと牛乳。目玉焼きにサラダとそれを彩るドレッシング。少し物足りない気もするが、ざっくりとしたノインが用意したと考えれば、贅沢は言うまい。

 少女たちの喧騒を他所に固い黒パンを牛乳で流し込み、塩を振って塩気のついた目玉焼きを頬張る。サラダを口に入れ、口の中の味を直して朝食を終える。

 食器を纏め、流しに運ぼうと席を立つと、声がかかる。

 

「待って!マダラ、話はまだ終わってないわよ!!」

「なんだ......オレに関係がある話だったのか?」

「なんだって......マダラの当番の日まだ決まってないじゃない」

 

 

 

 

 ................?

 つまり、こいつはオレに家事をしろと言っているのか?

 

「つまり、貴様はオレに家事をしろと言っているのか?」

「..........?そうだけど?........ハッ!!洗濯とかは大丈夫よ!いくら私だって男の人に下着を洗われるのは―――――」

「そういう事じゃ......まぁいい、このオレが()()と思うか?そんなこと」

 

 身体をくねらせ、大事なところを服の上から隠すアリーゼの態度に腹が立って、冷静にもなってしまう。

 

「できるようになればいいのよ!フフーン!さっすがは私、完璧な考えね!!」

「自分が一番できねえ癖によくいうぜ」

 

 なるほど。ニヤついた顔でこちらを見てくるライラのおかげでこいつらの魂胆が読めてきた。

 つまりは、あれだ。

 ここで汚点を残す。ある種の格付けをしようという腹積もりだろう。

 

「そもそも、家事など女のお前達がやることだろう」

 

 

 ?

 

 その言葉を放った瞬間、あれ程喧しかった館が、別世界に行ったように静かになる。

 あのアストレアですら、いつもの笑顔を苦笑いに変えてこちらを見てくる。

 

「あんた.....それ本気で言ってるわけ.....?」

「ん?......そうだが?」 

 

 ノインの疑問に素直に答えたところ、続く『何を当たり前のことを』という言葉を敵地(アウェー)の空気に飲まれ、すんでのところで呑み込む。

 

「ハァ~~~今時、マスキュリズム(男性優位主義)なんてはやんねーんだよ。神共の言葉を借りていうなら時代は、じぇんだーふりーだ。じぇんだーふりー」

「家父長制の鑑の様な男でございますねぇ......女の敵めが」

「流石の私でも擁護の言葉は出ないわね!」

 

 口を開けば罵詈雑言の嵐が襲い掛かる。

 最後の頼みにとアストレアの方を向けば、彼女は困ったように首を振った。

 

「ハァ.....わかった。やればいいんだろやれば......」

 

 ここに来てから溜息を吐く回数が増えた気がする。一体いくつの幸運が逃げたのだろうか。

 

「さっすがは私!あのおにい様でさえ、私達の正しさの前にひれ伏したわね!フフーン!!」

「イラァ」

 

 髪をかき上げ、誇るように胸の下で腕を組むアリーゼに、青筋を立てる。こいつは一度怒ったほうがいい。

 

「それじゃあ、3日後の家事はマダラに任せましょう!」

「おいおい、いきなりじゃねーのか?」

「こういうことは早い方がいいのよ!善は急げってね、大丈夫!()()()()()()()()()()()!」

 

 訂正しよう。こいつは一度躾けたほうがいい。

 

「テメェで料理してやろうか!コラァ!!」

「きゃー!!おにい様が怒った~~」

 

 マダラの伸びる手を自身のステイタスをもって、軽々と躱してゆく。

 そんないつもよりちょっぴり荒々しくも、新たなファミリアの光景を見てアストレアは笑った。

 

「どうかしましたか?アストレア様」

「いいえ、こういう賑やかさも面白いと思って」

 

 あの子がああやって誰かに甘える姿は、私以外にあまり見なかったから。という言葉をアストレアは話さなかった。

 たんこぶをつけて涙目になる少女と、握りこぶしをつくる青年。数奇な運命の巡り会わせだ。本来だったら交わることのないIFかもしれないが、互いに微笑む二人の物語が、この先も続くことを母は願う。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 燃え上がる炎がパチパチと雄叫びを上げる。

 

 赤く光る瞳が、その時を待ち侘びる様に爛々と輝いては、片時も離さずに一点だけを見つめる。

 

 熱によって浮かされた気泡が弾けると同時に炎がはためいた。

 

 黄緑色の結膜に黄色一色の瞳孔が熱にうかれ、悲鳴を上げる。

 

 

 

「おっ、案外できんじゃねぇか。人は見かけによらねぇもんだな」

「誰も()()()()とは言っていないだろう」

 

 まだ起きるには早い時間だったが、ライラがその姿を現した。室内に広まる匂いで、その出来を判断する。誰も朝食に焦げカスを食べたいとは思わない。

 

「一言いいたいんだけどよぉ......」

「なんだ?」

 

 味付けと蒸し焼き、炊事の手を動かしながらも、聞き返す。

 

「エプロンといい三角巾といい、お前、絶望的に似合わねぇな!」

「目障りだっ!邪魔するなら、どっか行ってろ‼」

 

 「悪ぃ、悪ぃ」と軽く謝りつつも、端に寄せてあった台を動かしては隣に置く。

 

「せっかく手伝いに来てやったんだ。そうカッカすんなよ」

 

 そう言っては、蓋をしてあった鍋から汁物を分けては口に含める。

 

「おお、美味ぇじゃねえか。イヤ、ほんとに」

 

 味わった味噌汁にしても、下拵えをしてあった魚をグリルに入れる振る舞いからしても、完璧に経験者のそれ。とてもではないが、先日まで家事の文字すら知らない男とは思えない。

 

「でもよぉ......この献立って――」

「あら、やってるわね」

 

 そんな疑問を口にしようとした折に、リャーナが姿を現す。

 面倒見のいい彼女らしく、マダラの手伝いをしに来たようだ。

 

「あとはサラダくらい?ほらライラ、貴方も手伝いなさい」

「なあ、リャーナ。この献立ってよぉ」

「ええ、私と同じね。見る限り下拵えから味付けまで私と一緒」

 

 野菜を洗いながら、鍋に入っている具材を見たリャーナは苦笑いをつくる。

 

「こんなことにも使えるなんて、すごいわね貴方の眼は」

「眼?」

「しゃりんがんの話よ。貴方も聞いたでしょう?見た動きを模倣するって。こんなことに使うなんて想像もしてなかったけど....」

「そりゃ、大層な能力の無駄遣いだな....」

「何事も要は使いようだ。オレの痴態を見れなくて残念だったな」

 

 ライラに勝ち誇るマダラが蓋を開ければ、四つ目の目玉焼きが姿を現す。

 

「何を争ってるのよ、貴方達は.....子供じゃないんだから」

 

 

 

 

 

「「「「「おお~~~~」」」」」

 

 食卓に並べられた食事に感嘆の声をあげる。

 黄金色に焼けた魚の皮、ふっくらとしたご飯の艶やかさ、みずみずしいサラダが卓上を輝かせる。

 

「それじゃあ、いただきます!!」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 朝の糧を力に変えて、また今日も彼女たちは歩き出す。




偏見で語る
 ネーゼは焼いたものしか出さない。味付けもしてない。


 書きたかった。後悔はしてない。
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