ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか   作:sakky314

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 神の塔。ダンジョンを塞ぐために奇人ダイダロスによって建てられたそれは、神時代において、冒険者にとって重要な迷宮攻略の最前線拠点とも呼べる。

 そんな建物に訪れたのは、下に降るのではなく、上へと赴くため。

 

 朝早いこの時間にも冒険者が行き交う中、備え付けの案内板へと向かう。

 今日の目的地を指でなぞりながら確認すると、昇降設備に乗り込む。

 

 魔石製品――忍界では無かったその機構にマダラは、赤子と比較しても遜色ない程に無知だった。それこそ明かりをつけろと言われて、火打石を探しに行ったほどに。

 そんなマダラが、昇降設備の使い方が分かるはずもなく。諦めて階段を使おうと思い始めた時。

 

「すみません、私も乗ります!」

 

 そう言って、駈け込んで来た少女がこちらを見る。

 

 

 

「ありがとうござ......貴方でしたか.....ああ、成程」

 

 乗り込むまで開け放たれた扉に感謝を伝えようとして、閉められなかったのだと理解した私は、彼の代わりにテキパキと備え付けの装置を動かしていく。

 

「目的地はどの階ですか?」

「8階だ」

 

 8階を選択すると閉まる扉。それと同時に開かなくなった口元。

 沈黙が室内を支配する。やけに大きく響いた装置が動く音と浮遊感に彼が大きく身構える。

 

「ふふっ.....」

「フン......お前は何をしに来た?」

「貴方と同じです。武器を.....作ってもらいに来ました」

 

 懐から一振りの剣を取り出す。もはや、使えそうにもないボロボロの親友の遺剣。

 彼女の姉に返そうと思ったその剣は、彼女の元を訪ねた時に英雄譚と一緒に押し付けられてしまった。曰く、『彼女の死すら利用とした自分よりも、親友が持っていた方が喜ぶ』と言われて。

 彼女を想う為の墓に供えようとも考えたが、彼女のためにもこうして打ち直しをするためにヘファイストス・ファミリアの元へやってきた。

 

「それだけで、強くなると思い上がるとはな」

「貴方が.......彼女の何を知っているというのですか」

「知らんな。だが、一つわかることがある。そいつはお前が弱いから死んだということはな」

 

 たった一言。彼が放った一言だけで、頭の中に火が灯った。

 

「お前に何が分かる!あの戦いの辛さが!痛みが!」

 

 本能がままに胸ぐらを摑み上げようとして、伸ばした手を捻り上げられ拘束される。振り払おうとしても捻じられた手首がそれを許さない。

 そんなこと自分が一番よく分かっている。自身が弱いことなど自分自身が。お前に言われなくても。

 

「亡者の品を繋がりなどと(のたま)い、歩みを止めるならば、お前はそこで終わりだ」

 

 動けない身体に上から言葉を浴びせられて、もはやできる抵抗はマダラを睨みつけるに限られる。だが、それも彼の赤い瞳に呑まれてしまい、反論すらできない。

 

「なぜ、焦らない。なぜ、強く在ろうとしない。弱者の語る夢など、誰も聞こうとはしない」

 

 そうこうしている間に昇降設備は目的地に辿りつき、閉じていた扉が開け放たれる。

 上がってきた昇降機に乗っている、掴みかかる少女とそれを抑える男の姿に場が騒然とする。

 

 摑まれていた腕を振り払って、逃げる様に昇降機から飛び出す。

 

 閉まる扉に視線も向けず、その場を後にした。

 

 朝早くにテナントを準備している人がいるにもかかわらず、目的地まで廊下を走り抜ける。目的地が見えてくると、丁度そこに戻ってきたであろう部屋の主と視線が合う。

 

「おっ、丁度いいところに来た―――何かあったのか?」

「【単眼の巨師(キュプロクス)】.....いいえ......なんでもありません」

「そんな顔して何でもないは無理があろう。入れ入れ、茶くらい出してやる。全部吐き出せ」

 

 首根っこを摑まれて、猫のように部屋へと押し込まれる。誰にも邪魔されることがないように鍵をかけて、茶を汲み始める。

 【単眼の巨師】.....ヘファイストス・ファミリアの団長にして、lv.4にして最上級鍛冶師(マスター・スミス)の奇人。オラリオで最高峰の鍛冶の腕前を持つ彼女に頼みに来たのだが―――

 

「ただの感傷なんでしょうか.....亡き友の残した剣を使いたいなど.....」

 

 剣を持つ手の震えが止まらない。彼は何を言いたかったのだろうか。

 

「何があったのだ?そんな様子では何もわからんぞ....」

 

 肩を竦めて息を吐く彼女に先程マダラに言われたことを話す。

 それを黙って聞いた彼女は、「うーーーーーーむ」と考え込む。

 

「手前は鍛冶師だ。剣を打つことしか能がない。其奴が何を言いたいのかはピンとせんが、鍛冶師としてわかることくらいはある」

「そっ、それは何ですか!?」

「お主のように亡き者の剣を打ち直したいという奴らは、別にありふれた話だ。武器には魂が宿ると言うが、お主の持つ物ように、芯が死んでおらん剣も多い。手前からしたら、墓に刺される方が武器の本懐から遠ざかっておると言える」

 

 それはそうだ。迷宮が存在するオラリオにおいて、死者など珍しくもない。残された剣など、彼女からしたら見慣れるほどに見てきたのだろう。

 後半の話は傍から見ればズレていると言う人もいるだろうが、まぎれもなく鍛冶師から見た彼女なりの感性なんだろう。

 

「だが、同時にそんな打ち直した剣をそのまま整備することも多い」

「は?」

「よくいるのだ。打ち直した剣が傷つくことを恐れ、後生大事に懐にしまう奴がな。そのくせ、整備だけは一丁前にしに来おる。油すら古くなっておらんと言うのにな」

 

「そういった奴らは、大体が迷宮の中でくたばりおる」

 

「過去に憑りつかれておるのだよ。奴らは」

 

「手前が思うに、其奴はそういうことを言いたかったのではないか?」

 

 【単眼の巨師】の話を聞いて、手元の剣に目を落とす。

 

 私は使えるだろうか。この剣を。

 

 頭の中で考えれば考えるほど、この剣を振るう自分自身の姿が想像できない。

 同じく彼女に託されたこの木刀を振るう姿は容易に想像できるのに。

 

「大いに悩め、覚悟が決まったら、また手前の元に来るのがよかろう」

「【単眼の巨師】....ありがとう.....ございます」

「あー、その名は好かん。これからは椿でよい」

 

 答えの出せない私に時間を与えてくれる。その気遣いが何よりも嬉しかった。

 

 

 

「辛気臭い話になってしまったな。どうだ、飯でも食いに行かんか?」

 

 暗い雰囲気を吹き飛ばす様に外へ出ようと誘い出す椿の部屋を誰かが叩く。

 椿が鍵を開ければ、汗をかいた人が顔を見せる。

 

「ああ、椿さん。良かった、いてくれて。ちょっと上でトラブってまして.......」

 

 そう椿に告げられたその言葉に妙な胸騒ぎがした。

 

 

◇◇◇

 

「俺の作品に興味を持った奴がいるって聞いたから来てやったのに、こんなものを作れだと!?」

 

「お前は鍛冶師だろう?武器をつくらないでどうする」

 

 最早、破裂する寸前の風船のような雰囲気の両者に割り込む声がかかる。

 

「ちょっと、一体何の騒ぎ?」

「へ、ヘファイストス様......」

 

 突然現れた天上の存在に男の声がしぼむ。

 

「あら?面白い子が来たものね.....北東区の英雄さん?」

「そんな名を名乗った覚えはない。不愉快だ」

「ふふっ.....ごめんなさい。うちは.....マダラだったわね?それで何があったの?」

 

 先ほどまでの穏やかな雰囲気はどこに行ったのか。そう問いかけたくなるほど、鋭利な眼差しでオレのことを睨みつける。ひとえに、己が眷属を信じるが故に。

 

「オレはただ、武器の制作を依頼しに来ただけなんだが......」

「そんな使い捨てのものが武器だなんて俺は認めねぇ!!」

「.....この調子でな」

「使い捨て?ちょっと見せてくれる?」

 

 鍛冶神として聞き捨てならぬセリフに反応したのか、眷属の持つそれを借り受ける。

 

 

 

 手に渡った問題の物をその眼で見る。

 機能という機能だけを追い求め、それ以外を徹底的に排除したような両刃の短剣。

 そして、投げ当てることを意識したような投剣。

 

(クナイと手裏剣と言うんだったかしら?)

 

 己が知識の中から極東で使われるという暗器の名前を引っ張り出す。

 材質も只の鉄だ。

 ギルドから支給される武器類と大差ない。それどころか、うちに依頼してくる料理人の方が、切れ味の良い包丁を使っているかもしれない。

 眷属が使い捨てと言ったように、これでダンジョンに潜れば、あっという間に壊れていくのは想像に難くない。

 

 そう評するほど、ただの量産品でしかない。

 

 なるほど、これを作れと言われたら、眷属が怒るのも無理はないだろう。

 片手間程度で作れると言えど、それよりも上等なものを作れるのにもかかわらず、それを望まれないのだから。

 私でも不満が溜まるかもしれない。

 

「鍛冶師として言っておくわ。貴方が持つ武器は貴方の身を守るための物。これに貴方は命を預けられるの?」

「.....?武器の本懐はどれだけ使えるかだ。形あるものはいずれ朽ちる。それで死んだなら、その程度の力量しかなかったということだろう」

「.....そう」

 

 自分が打った一振りを見せれば、そんな考えも変わるだろうか。

 

「主神様まで出張ってくるとは、何事だ?」

 

 そんなとき、最も信頼する眷属が顔を出した。

 

 

 

 

 長身に黒髪、褐色の肌はアマゾネスとやらの特徴だろうか。輝夜のように身にまとう着物から出身はその辺りなのだろうな。その女の側ではリオンが「原因はお前か」と言いたげな顔でこちらを見てくる。

 

「椿、この武器の素直な感想を聞かせてくれる?」

 

 そうやって手渡されたクナイを見た椿の言葉に―――

 

「なんだ、この武器は.....ゴミかなんかか?」

 

 鍛冶師としてかけらすら敬意のないその言葉に驚く。

 

「言い過ぎよ椿。でもごめんなさいね。私達は鍛冶師として信念を持って()()を打ってる。貴方が求めるような()()を私達が打つことはできないわ」

 

 その言葉を聞いて己との価値観の違いを悟る。

 

 彼らの語る武器とは、【霊樹の団扇】や水の国で打たれる妖刀の様な一点物。鍛冶師としての誇りをかけた物なのだろう。

 対してクナイや手裏剣の様な忍具は、戦乱の中で広まったものだ。すべての忍が持てるように作られ、戦場で敵に奪われたり失ったりしても大丈夫なように、安価な物が大量に作られた。

 

 オレからすればどちらも武器であることに変わりはないが、ここでは違うのだろう。

 

 作り手の矜持というのだろうか......分らん感覚だな。

 

「そうか.....邪魔したな」

 

「.......待て、手前もお主に興味が湧いた。手合わせしようぞ」

 

「何?」

 

「もし、お主が勝つようなら、手前が武器でも防具でも何でも打ってやろう」

「本当だな?」

「おうとも!手前に二言はない」

 

 その豊満な胸を張り、胸を叩く椿に連れられて、試し切りを行う場所へと赴いた。

 

 

 

 

 目の前の男は何を考えてこんなものを使っているのだろうか。

 

 武器は使い手の半身だ。

 

 だが、武器の本懐は使われること。ならば、死ぬまで使われ続けるそいつらも、武器としては正しい姿なのかもしれん。

 

 そこまで考えて、ふと、隣のエルフを見る。

 

 なるほど、此奴が噂の者か.....アストレアの眷属らしく、争いを好まない娘よ。

 

 リオンの苦々しいような表情を見て悟る。

 

「.......待て、手前もお主に興味が湧いた。手合わせしようぞ」

 

 ならば、此奴のことを知らなければならん。

 何も感じん此奴の剣ではなく、此奴自身から。

 

 そうすれば、新しいいんすぴれーしょんを貰えるかもしれん。

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