ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか 作:sakky314
思う存分に武器を振れるような大広間で一組の男女が、向かい合う。
それを見守るのは、一人の妖精と下界に降り立った天井人。
唐突な椿の提案から始まったこの立ち合いは、椿の主神の名の下に神聖な試合となった。
この女は何を考えている?
柱間もアリーゼもこの女もそうだが、感性で動く奴らとはとことん噛み合わん。
軽く手首をほぐした女は、鞘を支え柄に手をかけると、その内包されていた純白の一振りを光の下に晒し、その刃に反射した光波が煌めく。
「ほう.......」
女が眼前に構えたその長刀に感嘆の息を漏らす。
あの階層に並べられていた物との違いが一目でわかる。それと比べれば、クナイをゴミと評する気持ちもわからんではない。
「どうした?怖気づいたわけでは無かろう。来んのか?」
耳に届く言葉に眉を顰める。
いつからだろうか.......自分から向かう者が柱間以外にいなくなったのは。
しかし、この女―――――
崩れる様に腰を落としつつ、身体に隠された手で手裏剣を指の股に挟み込む。
しなる腕から投げ放たれた手裏剣は、獲物を求めて真っ直ぐに飛び込んでいく。その結果を見るよりも早く手を組み合わせる。
「【手裏剣影分身の術】」
目の前に迫り来る手裏剣はその数を増やし、逃げ場を無くす。
チャクラによって実体を持った紛い物は、女の持つ長刀に次々と断ち切られて、煙と共に消えてゆく。
「......っ!!糸!?」
当たるものだけを打ち払う中で、顔の横を通り過ぎた手裏剣につながれていた糸にやっと気付く。
通り過ぎた手裏剣に繋がれた糸。それを手繰り寄せ、手裏剣の進む先をを百八十度変化させる。
進路を変えた手裏剣に対し、女は足を引いては流れる動きで振り返り、襲い掛かる手裏剣を断ち切った。
「少しはやれそうだな」
―――――よく写輪眼を理解しているな。
写輪眼。うちは一族の血継限界にして、白眼と輪廻眼に並ぶ三大瞳術の一つ。
リャーナの料理を模倣したように、相手の動きを見切り再現してしまうが、瞳を見た相手にチャクラを送り込んでは精神エネルギーを操り、幻術に陥れる能力も持つ。
そして、それは相手が意識して瞳をのぞき込む必要はない。
相手の見る光景の中に写輪眼を当て嵌める。正確には、術者の視軸と被術者の視軸が合わさればその術中に嵌る。
リオンめ。何事か話していたと思えば、写輪眼について教えていたな。
ここに来る道中、鍛冶師の女と話していた娘に目だけを向ければ、隠し事をした子供のように視線を外したリオンが見えた。
「戦い方がよく練られておるわ、その瞳が写輪眼とやらか」
視線を戻せと促す様に語りかけてくる女は、こちらに向き直りつつもその視線だけは頑なに合わせようとしない。
三大瞳術と言い伝えられる写輪眼は、
手裏剣一つをとってもそうだ。投げ放つ時、繫がれた糸の先、死角に投げられた物に振り向けば。
一つの動きの先に写輪眼を置く。それが写輪眼を持ち得る者の戦い方であり、『一対一では必ず逃げろ』と他の忍に恐れられた、うちは一族の血継限界。
目の前の女もアリーゼ達もそうだが、このオラリオという地で冒険者という職に足を踏み入れている者共は、適応が異様と呼べるほどに早い。扉間の様な並外れた思考能力を持ち合わせているわけではなく、もっと原始的な......言うなれば、直感的生存能力に長けていると言える。そして、最も重要なのが『神の恩恵』。常人を超人たらしめる神の力を根底に、この遊びが戦いとして成り立っている。
こういった生存力に長けた近接戦を得意とする手合いの屠り方は主に三通り。
一つ、敵との距離を取り遠距離忍術で削り切る方法。
二つ、幻術や罠を用いて相手に戦闘そのものを起こさせず嵌め殺す方法。
そして、三つ―――
腰に付けたポーチから両手でクナイを掴み取る。その細い柄をしっかりと握りしめるのは、近接戦を行う合図。
―――相手の力量と対応力の二つを上回って刃を突き立てる方法。
「近接戦ねぇ.....ねぇ疾風、彼の実力はどの程度なの?」
武器を扱う神として、多少は扱う側の心得も持つヘファイストスは、戦いの趨勢を見極めようと、いまだ底を見せないマダラの実力を隣に立つ少女に問いかける。
「私は、あまり手合わせはしませんが......手加減されて尚、ファミリアの皆誰一人として勝ち星を拾えてません.....」
日々の屈辱を吐き出す様に、苦々しい表情をしたリオンの言葉が静寂に支配された室内に流れる。
その言葉を聞き終えたマダラが駆け出した。
「速いなッ!」
走り込んできたオレに合わせて、その長刀を振り下ろす。
クナイを交差させてその一振りを受け止める。重い一撃に全身が沈み込むが、右手のクナイを滑り落とせば同時に支えを失った長刀も残るクナイの上を滑り落ちる。それを逸らすように振り払えば、阻む物のなくなった女への道が開ける。
しゃがむ様な体勢から見上げれば、目を合わせまいと顔を背ける姿が目に入る。その顔を目掛けて蹴り上げるが、長刀を手放し片腕で完璧に防いで見せる。
もう一方の手で、薙ぎ払われる長刀を軸足で飛んで躱しては、女の腕を土台にして立ち、そのまま下段に足払いを放つ。
超人的な反応をもって、その間に長刀の腹を差し込むように割り込ませてくるが、手に持つクナイを投げて、その動きを打ち払う。
「何っ!」
遮るものを失ったオレの足が、女の顔を蹴り飛ばした。
「その程度か?」
(相手の眼を見れぬことが、こんなにも戦いにくいとは.....侮っていたな)
目は口ほどに物を言う。
極東に伝わることわざで、人の本性を表すというのが本来の意味合いを持つのだが、それを実際に体験するとは思わなんだ。
見えぬ相手の全体像。目線から敵の動きを予測することもできなければ、身体を注視しようとすることを逆手にして、身体を見れぬように瞳で隠して攻め込んでくる。
ここまで手前が対処できているのは、そのステイタスとランクアップによって鋭敏化した五感に任せていることが大きいな。
それを自覚した時。
挑む者と挑まれる者。両者の立場は入れ替わってしまった。
「どうした?怖気づいたわけでは無いだろう。来ないのか?」
「言われずとも!」
地面に打ち据えられたクナイを引き抜き、悠然と構えなおすマダラに対して、椿が吠えては斬り込みかかる。
「少しだが.....お前達のことが分かってきた」
数えきれないほどにクナイと長刀が、その刃を合わせる。
振るわれたクナイが、その刃先を自在に伸ばしてその褐色の肌を薄く斬り裂いてゆく。
交差する長刀とクナイ。後ずさりながらも、それが受け止める長刀のさらに先にいる女に問いかける。
「お前達は英雄を崇拝しすぎだ」
日々書き取りされてきた、このオラリオの原点であり原典。
そこに真っ向から喧嘩を売る。
目の前の名刀を断ち切るようにクナイを薙いでは、その軌道から飛び去っていく。
「お前達が称賛する英雄の裏には、誰にも知られず、誰にも触れられず、死んでいった奴らもいる」
束の間の平和の前に死んでいった、一族の仲間のように。
「そんな奴らの意思とやらが、生きる者を突き動かし、力を表すらしい」
柱間の残した意志が忍の世を変えたように。
「英雄ってのは、そんな突き動かされた最後の一人のことでしかない」
極度の集中に晒された女には答える余力は最早なく、肩で息を始める。
頭の上から放たれる言葉を振り払うように顔を振ると、意を決して死中に飛び込んでくる。
振るわれた一刀を右手に持ったクナイで受け止める。
バヂッ
左手のクナイが絶叫を上げ、その金切り声が室内を駆け抜けた。
交錯する二人の体。
その丁度真ん中に、半ばから
「はっはっはっ、手前の刀が負けたぞ!ほれ、主神様。見てみろ!!あのクナイ、ビカッと光ったと思うたら、手前の刀がスパッだ!」
そう笑い飛ばして、長刀の断面をヘファイストスに見せつけては、子供のように騒ぎ立てる。
「それは後ででも出来るでしょう。椿、仕事はちゃんとしなさい。貴方が言ったことなんだから」
眷属の顔に隠されていない目を細めながら、諭す様に椿のことを落ち着かせる。
「おお、そうだったそうだった!!お主、名を何という」
「マダラだ」
「そうか、マダラか!手前は椿と言う‼約束通り、お主が求めているものをなんでも手前が打ってやろう」
こちらに向き直った椿が、興奮を顔に張り付けたままに始まる前の約束事を持ち出す。
「それで相談なのだが......」
「.....なんだ。言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ」
「ウム!.......お主の武器の信条は理解できんが、学ぶ部分もあるのではと思うてな。どうだ!?手前の一品を使ってはみぬか?」
「使えるならば、武器なんぞ何でも構わん。ただ―――」
「ヨシ!!ならば交渉成立だな!これで手前はマダラの専属鍛冶師となったわけだ。そうなれば早速武器を打たねばな」
そう言い残しては、唖然とするマダラを置き残して風のように走り去ってゆく。先ほどまで肩で息をしていたにもかかわらず、その活力はどこからきているのだろうか。
「まったく、あの子ったら.....ごめんなさいね。新しい武器ができたら直接届けさせに行くわ」
そう言って、斬り飛ばされた椿の獲物の穂先を拾い上げたヘファイストスは、その刃をもう一度食い入るようにみつめる。
数多の英雄たちを助けるためにその身を捧げた精霊の力。
そんな童話を読んできた子供達は武器を使い手の半身と呼び、鉄を打ち、技を磨く。全てはこれから生まれてくる英雄たちの力になろうと思いを込めて。
だからこそ認められなかった。『道具』として存在理由なく振るわれるモノを『武器』として作ることなど。
だが、椿の長刀は斬られた。
マダラは神の恩恵を得て日が浅い。つまり、今みせた彼の力は神の力によらない子供たちの純然たる可能性。
だからこそ、椿の刀がマダラのクナイによって斬られたという事実は、椿が神の恩恵をもって打ち込んだ全てをマダラが研ぎ澄ましてきた全てがねじ伏せた何よりの証左。
刃物の優劣は切れ味の優劣によって決まる。そして、彼女はそれに負けた。認められなかった武器に。その使い手に。
あの子には壁ができた。築かれた壁ならば、乗り越えなければならない。人の歴史を超えなければならないという壮絶な壁を。そうすれば.....もしかしたら....
扉に手をかけて今にも去りそうなマダラの背に声をかける。
取っ手に手をかけたまま振り返らず背を見せるマダラに構わず問いかける。
「貴方は......英雄が嫌い?」
気になった彼の言葉。彼にとって『英雄』とはどんな人物なのだろうか。
「......嫌いだな」
一息ついて応えられた端的な答え。最後まで顔を向けなかった彼の真意は神の眼をもってしても見抜けない。
扉を閉める乾いた音が室内に広がる。女神に対してあまりにも失礼なその態度にリオンが頭を下げて追いかけていく。閉められた扉。ただ一人残された静寂の中で女神はその一点を見つめていた。
「待ちなさい。何ですかあの態度は!!神々に対してあまりにも無礼が過ぎます!」
バベルを背に帰路を歩んでいるとリオンが追い付いてくる。
くだらないことに付き合う気もなかったが、このまま騒がれても気が散るだけだな。
「はぁ....お前達はよくあの『愚物共』を敬うことができるな」
「ぐっ...ぐぶつなど!」
神......忍界においてそれは、災厄を鎮め、天地に平穏と安寧をもたらした六道仙人を表す言葉。だが、この地で神という物を知った時、胸の中に渦巻いた感情は『失望』だけだった。
「一つの『物事』に生き方を縛られ、成長も退化もない。【
先ほどの女神もそうだ。司る物事に縛られている窮屈な生き方をしていながら、超越存在という上から見る肩書が気分を逆撫でしてくる。
「ましてや、野次馬根性で走り回る破落戸など反吐が出る」
陰に隠れていた幾人かが下手な口笛を吹きながら、足早にその場を去っていくその後ろ姿をオレは鼻で笑う。
大方、先の戦いで名を挙げたオレを見に来た輩だろう。あの戦いが終わり、解放されたというか、分別が無くなったというか。どちらにせようっとおしいことこの上ない。
「―――アストレア様にもそのような考えを持っているのですか?」
神々共から目を戻せば、何やら怒った様子のリオンが問いかけてくる。
アストレア....か。
確かに、あれ程の善神は探す方が難しい。それは認めよう。
ならば、この『失望』はどこから来るのだろうか.......
「......この世の理には必ず裏と表がある。平和な時を生きたいと願いながら、争いが起こることを願う。それが、人間という生き物の本質だ」
忍界を長く見つめ続け、そしてこの世界の歴史を知った。
人を。モンスターを。あるいは埒外の化け物を敵として、口論で。殴り合いで。剣で葬る。
ただの自論ではあるが、同時にこれは確信でもある。
「一体何が言いたいのですか」
「こうは考えられないか?『正義』という物があるからこそ『悪』という存在が生まれると。......フン、『正義』に対を成す『悪』を肯定する神々がいるなど皮肉なものだな」
「それ.....は.....」
言葉にすることでやっと理解ができた。
要は争いを生み出した神々へのいら立ちなのだ。
人間である六道仙人は、人知を超えた力を持ちながら
それはアストレアも変わりない。神々の立場は、オレ達とはかけ離れすぎている。
まぁ、だからこそこの世界に来たのかもしれない。
「『価値のある出会い』.....か」
まるであの悪神が仕組んだ運命の歯車に載せられているようで嫌な気分になったマダラは、言葉の二の句を継げないリオンを放って帰宅の路を歩んだ。