ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか   作:sakky314

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ひと時の間の苦悩

 長い夜が明け、日が昇っていくと同じように人々の活動も活発になっていく。

 それは冒険者ももちろんだが、闇派閥の襲撃も続いていた。そんな中、都市最大派閥の一つであるロキ・ファミリアではフィン、リヴェリア、ガレスの三人が集まっていた。

 

「しかし、()()()()()()()()()()

 

 続く闇派閥の襲撃被害と遭遇戦の報告を聞きながら、冒険者と闇派閥の被害を算出していくフィンはそう呟いた。

 

「あの男が闇派閥に与えた打撃は相当だったということだな」

 

「あぁ、それにしても綺麗に避けているね」

 

 マダラのいる野営地(キャンプ)が避けられている事実をフィンが指摘すると「フィン...それは...」とリヴェリアがムッとした表情を見せる。

 確かに、何らかの形で闇派閥との関係があるのは確実。

 しかしだ、彼が見せた治療技術に治癒魔法はもちろんのこと、冒険者の早期復帰によって戦力減少には歯止めがかかり、彼のいない場所は襲撃が来ないことを知ってか知らずか人の安心という見えない所まで影響は出ていた。彼がいる恩恵は測り知れない。

 まぁ、冒険者の口伝いに広まった外様の彼を訝しげに見る人が多いのも事実だが...

 

「わかっているさ、リヴェリア。彼の貢献は僕も知るところだ、このままいけば人々の疑いの視線なんて吹き飛ばす程だろうね」

「しかしじゃ、彼奴が襲われないのは不自然。何かの取引があると見ておる。そうじゃろう?」

「あぁ、その通りだよガレス。僕の見立てでは両者の不可侵といったところだろうね」

「このオラリオに攻め込む闇派閥共が恐れるほどの何かがあるということか、儂としては第二級冒険者クラスの(lv.3の冒険者を倒した)彼奴には戦ってほしいところじゃが...」

「あれは素直に言うことを聞き入れるタイプではなさそうだからね...監視を減らして今後のために協力関係を築くっていうところが一番じゃないかな」

 

 その言葉を聞いてリヴァリアの頭に浮かんだのは己の主神ロキのことだった。下界に降りてきた娯楽好きな神々(ロクでなし共)があの未知(イレギュラー)に対してバカをすることは目に見えている。

 頭を痛める様に溜息を吐いたリヴェリアの様子にフィンは「わかるよ」と彼女のことをいたわりつつも、

 

「さすがに今の状況でことを起こすようなことは彼等はしないと思うよ。まぁ、ロキが彼をファミリアに引き入れたら面白いかもね」

 

 から笑いをこぼしながら口を零した。

 

 

 

◇◇◇

 

 オラリオ地下放水路の入り口にて、オラリオ崩壊を望む邪教徒達が一堂に会していた。

 

 そこには闇派閥首魁・エレボスの姿も。

 

「エレボス様よぉ...どこに行くのかは知らねぇが、本当にあの男に話はつけたんだろうなぁ」

 

 このオラリオを堕とさんとする闇派閥を纏めるヴァレッタもまた、突如として現れた正体不明のマダラに警戒を払っていた。

 

「そんなにこの(オレ)の言葉が信用できないかい、ヴァレッタちゃん?」

「信用の問題じゃねぇ、頭に血の昇った馬鹿共が限界だっつってんだよ」

「フッ、そうかもな...。だが――

 

 

そんな奴等も使い道次第だろ?」

 

 

 邪悪に滲ませた哄笑とともにエレボスはそう告げる。

 そんな飄々とした態度にヴァレッタは舌打ちしつつも首魁の許可は得たとばかりに使()()()について考えていた。

 

「それじゃあ行くぞヴィトー」

 

 暗闇へと彼女を残し、街の陰へとエレボスは歩いて行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 リュー・リオンは走っていた。(アーディ)が亡くなったことから目を背け、正義の意味を自己に問い、仲間(アリーゼ)に勝手に失望して、寄る辺を失った彼女は戦うことに心を委ねて『悪漢(マダラ)』に敗北し、自身の価値すらも見出せなくなっていた。

 

「なぜっ...!なぜ、私はこんなにも弱いんだ...」

 

 自分がもっと()やければあの家族を助けられた。命が失われることはなかった。思い出すのは邪神の言葉と二日前の光景。

 そして、呪うのは自分の弱さ。答えも出せず、人も守れない。そんな自分自身が嫌いになりそうだった。

 

「もっと...強くならなければ...敵を倒せない...」

 

 そんな時だった。自身の名を呼ぶ声が聞こえたのは、

 

「アンドロメダ...」

 

 言葉を返しつつも彼女の言葉はあまり頭に入ってこなかった。アンドロメダの未来を見る瞳が見られなくて、視線を落とし彼女の言葉を受け入れようとしなかったから。

 それでもなお、伝えるべきことは伝えなければと彼女の矜持(プライド)が口を開いた。

 

「アンドロメダ...赤い甲冑に黒い長髪の男を見ましたか...?」

「え、えぇ...」

 

 突如として返されたリオンの言葉にアンドロメダも驚いた。

 

「あの男が今どこにいるかは知っていますか?」

「は、はい。しかし、勇者(ブレイバー)が今は彼にかかわるなとだけ...」

 

 返されたアンドロメダの言葉にリオンは理解が追い付かず叫んでいた。

 

「なぜっ!?勇者(ブレイバー)はそのようなことを!?あの男は――!」

 

 続く言葉は襲い来る闇派閥の雄叫びによって途切れさせられた。冒険者の彼女達は条件反射のように剣を抜き応戦を始める。一足早く飛び出したリオンは敵の壁の向こうへと消えていった...。

 

 

 

◇◇◇

 

 キャンプの救護所。悲しむべきことに今日もここには冒険者・民間人を問わずけが人が運び込まれ、大盛況の有り様だった。

 

 そんな中、マダラは人一倍治療を回していた。

 これはほかの治療師(ヒーラー)より優れているとか、治療技術が卓越しているということではなく、暴れる患者を幻術に落とし、最低限を終えるとともに次へと向かう無愛想な人間故だった。

 

 そんな最近ではいつも通りの大騒動もひと段落を見せた昼下がり、マダラは昼休憩をとっていた。 

 

「貴方、ご飯を食べているところを見てないけれど大丈夫かしら?」

 

 そういって手のひらサイズの黒パンと水筒の水を持って現れたのはアストレアだった。

 

「眠らず、飲まず食わずでも一週間は動ける。糧食も持っているからそのような気遣いは不要だ」

「それが糧食?ちゃんと食べないと元気が出ないわ、あなたの分も貰ってきたからちゃんと食べなさい」

 

 そういってマダラに食べ物を押し付けるとともに、アストレアは隣へと腰を下ろした。

 諭すような物言いのアストレアに軽く嘆息をしつつも、好意を無駄にせぬよう食べるマダラは隣から注がれる視線が気になった。

 

 「糧食が気になりでもしたのか?」とアストレアに尋ねると、顔を赤くしつつもアストレアは「異世界の糧食...えぇ...すこし、ね」と返され布袋に入った糧食を手渡す。

 

 「これも神としての(さが)なのかしら...」とつぶやく、彼女は黒い小粒を思い切って口の中に放り込んでかみ砕く。

 

「あらっ、甘くて美味しい」

 

 黒々とした見た目からは思いもよらない最近では食べられない甘味にアストレアは二口目、三口目と手を付けていく。

 

「あー...それは兵糧丸と言って、あくまでそれは糧食として作られたもので...」

 

 珍しくも言葉を言いよどむその様子にアストレアは手を止めずにいぶかしげな視線を向ける。

 

「一粒で三食くらいの栄養が...」

 

 続いた言葉にビクッ!!と体を震わせたアストレアは...

女神だから大丈夫よ!...たぶん...」と顔を真っ赤にして最後の一粒を口の中へと放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな緩やかな時間を打ち壊したのは、ボロボロの輝夜とライラが運び込まれたとの急報だった。

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