ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか 作:sakky314
青々と茂っていた木々が今では煉獄を造る薪と化している18階層。そこでは最凶の眷属と正義の眷属達が鎬を削っていた。
「私に魔法を撃たせないための中距離からの飛び道具での牽制か。それにどういう訳か私に反応してくる...なるほど、あの男に何か吹き込まれたか?」
あのアルフィアを相手に正義の眷属達は善戦していた。
音の魔法を軽減する
マダラが彼女に与えた情報を姑息な
「貴方知っている?攻撃の時、軸足が必ずこっちを向いていること」
「...私自身でも知らない攻撃の予備動作。バカばかりの
「団長!敵に仕組みを教えてどうするんだ!!」
こちらに反応してくるアリーゼ達の仕組みに納得した表情を見せるアルフィア。その原因を作ったアリーゼは一瞬の油断すら許されないこの場においても仲間から責められる。
「...ふっ。
再び動き始めるアルフィアに全員の警戒が戻る。拳を握り締め、こちらに向けて足を動かしたアルフィアに向けて、先手を取らせないためにネーゼのナイフが飛びかかる。
「奴が私達と渡り合えたその理由がわかるか?」
アルフィアが握りしめた拳が地面を叩き割る。元々遥か高みにいるLv.7のステイタスにチャクラコントロールの極みと言える怪力は、それまで振るわれていた手刀の力の比ではなく、叩かれた衝撃で投げナイフをはじくだけに飽き足らず、その振動が階層を揺らし、アリーゼ達まで衝撃に身を竦ませる。
「魔力を込めた拳...?そのような使い方であれほどの力が出せるなんて....」
「『力』だけではないぞ?」
そうつぶやいたアルフィアの姿が掻き消える。目の前から姿を消したアルフィアはその次には輝夜の背後にいた。
「輝夜!!」
アルフィアから湧き出る凄まじい殺気に輝夜が顔を後ろへと振り向かせる。次の瞬間、体の
「輝夜!大丈夫!?」
目線だけはアルフィアから離さずに輝夜の無事をアリーゼは確かめる。「あぁ...」と苦悶の声を漏らす輝夜。
「大丈夫だ団長...奴はあのスピードに
「ほお...よくわかったな。奴の動きを模倣してみたが、私自身その力に翻弄されている」
「だから、私の刀を叩いたのか...才禍の怪物にも真似できないものがあるとはとんだ笑い種だな」
もはや負け惜しみでしかない輝夜の嘲笑にアルフィアは当然だと言わんばかりに鼻を鳴らす。
「当たり前だ。奴と私達では辿ってきた歴史が違う。私たちの時代にあの男がいれば奴も討てたかもな...」
「一体何の話をしているの?...奴ってまさか!?」
「さてな」
そういったアルフィアは彼女の闘いを再開する。
いつの間にか消えた輝夜に代わって上がってきた小人族はその小さな体と低いステイタスであっても輝夜の代わりを担っていた。
何度目かの手刀の一撃を盾と共にその間に入って身を引きながら受け流す。
「...小賢しい小人族だが、その生きのびるために知恵を振り絞る姿勢だけは評価してやろう」
「おいおい、天上のLv.7様に褒められるとは光栄すぎてちびっちまうぜ」
「どうせ奴に教わっていたのだろう?私の魔法のことも。ああ、語らなくてもいい...後衛のエルフが私が付与魔法を消すところを今か今かと待ちわび、魔法を留めているのがその証左だ」
こちらの狙いを看破するアルフィアにアリーゼ達もその動きを止める。
そんな彼女らを前にしてアルフィアは付与魔法を解除する。それと共に吹きすさぶのは彼女を抑えていた魔力の本流。
敵の狙い通りに動く彼女に対してアリーゼが「なにをしているの」と問いかける前にアルフィアが口を開く。
「だが、これも教わったか?この付与魔法は私自身の放つ『魔法』まで著しく威力を削ぐことを」
徹底した【
「――!!みんな退避し――」
放たれた
◇◇◇
「...まさか、ここまで来るとは思っていなかった。何度俺を驚かせれば気がすむんだい?―――アストレア」
「えぇ、あなたはきっとここにいると思っていたもの」
「それに、彼まで連れてくるとはね...この戦いを見守るといったのは嘘だったのかい?―――マダラ」
「あー、イッタイ何の話をしているのかオレには全くわからないな」
「えぇ、そうね。神がダンジョンに潜るのは
マダラの三文芝居にアストレアが微笑み返す。そんな滑稽な劇を見させられては、流石のエレボスもため息を吐いた。
「いつも通りならその大根役者を見て腹を抱えて笑ってやるところだが、今の
「貴方に会うために建前を考えてあげたのに無粋ではない?...まあいいわ。ここでそんなことはしない。私もマダラもただこの戦いを見届けに来た。ただそれだけよ」
アストレアのその応答に「そうか」とだけ呟き、邪神は再び眼下の闘いへと向き直る。
その眼下では少女たちが『希望』を叫んでいた。
「女神の名のもとに、この大地に『未来』への『希望』を綴りましょう!」
「語り継いでやるぞ、英雄神話!過去を惜しむためではなく、未来へと至るために!」
そうして彼女たちは再び剣を交える。
輝夜の戦線復帰、落ちてゆく【静寂】のステイタス。そして煌めいてゆく星達の輝き。
戦況の天秤は徐々に傾いてゆく。
その時は唐突だった。アルフィアの必殺が、隙を見せたリオンへと叩きつけられる瞬間にアルフィアは口から血を吐いた。
「マジかよ...」
「【
「【
口から絶えず血を吐くアルフィアに正義の眷属達も追い打ちの剣を向けることはできず降伏を勧める。
だがしかし――
「本当にお前たち『雑音』はどこまで私を『失望』させれば気がすむのだ...」
口から血を流しながらもそれでもなお、『過去の英傑』はその震えた二本の足を大地へと突き立てる。
「...アルフィア!そこまでしてどうして立ち上がるというのですか...!」
「この身は既に
「証明してみせろ『
そんな不朽の武器のように曲がることも折れることもない意志に、少女達は燻る戦意を再燃させる。
「正邪の行進......いや、正邪の決戦...ああ、そうだ!これだ!これが見たかった。この
烈火の激進が。鈍色の斬撃が。桜色の連爆が。人間の一閃が。狼人の爪牙が。戦士の鉄壁が。魔女の砲炎が。妖精の稲光が。女人の剛拳が。聖女の癒しが。そして―――
星々が流星となって煌めく煉獄の大地で、鈴の
高まる魔力と幻視の灰雪が、彼女の切り札となって取り巻いてゆく。
少女たちの反撃は、躱され、いなされる。紡がれる旋律。増してゆく鐘の
すべてを無に帰したいと願う彼女の
滅殺の鐘の音が響くことなく無音となって動揺したアルフィアの後隙を【紅の正花】と【疾風】は、見逃さずに猛進する。
焔と暴風に巻かれた灰髪の魔女は、ようやく背を地につけた。
『過去』を願った『悪』を打ち破り、『未来』を掴み取った『正義』へと『希望』を託したアルフィアは、モンスターが空けた大穴へと進みゆく。
見上げた先の高台で『正義』と『悪』の二柱の神に挟まれて佇む男を見る。
その男は傲岸不遜な振る舞いをしながらこちらの死に様を見下してくる。
自分が関われば全てを一蹴出来ただろうに、最後までこちらを見据えてくれた男へ心の中で感謝を祈りながら大穴の前で少女達へと向き直る。
「――さらばだ、正義の眷属。さらばだ、オラリオ
そう言い残して最強の冒険者は、妹の待つしじまの向こうへと旅立った。
◇◇◇
「逝ったか...ありがとう、アルフィア。お前に感謝を」
「エレボス...最強の眷属はもういない。貴方の
「何を言っている。アストレア?君にはあの『
「
そんな『正義の眷属達』を見据えて、アストレアは身を翻す。
「そんなことはさせない。させないために私
「私達って...おいおい、そりゃあ契約違反じゃないのかい、マダラ?」
「オレは既に
そういって道を進む二人の背に向けてエレボスは口を開く。
「...マダラ。最後に一つ聞いてもいいかい?」
声をかけられたマダラはエレボスへと向き直る。
「この期に及んで何の用だ?」
「――この世界に少しは興味を持てたかい?」
「そんな話か...」とくだらない話を振られたマダラは、ため息を漏らす。
「この世界はオレにとって何ら意味を持たない世界だ。興味を抱くはずもない」
ぶっきらぼうに言い捨てる様子のマダラにエレボスはわずかに悲しい表情を見せる。そういって再び背を向けて歩みだすマダラにエレボスは、何も言わずその背を見つめた。
ふと、こちらを向いているアストレアが視界に映る。その表情はまるで続きを知っている様に微笑んでいて―――
「―――だが、あの小娘共の進む先くらいは、余興として楽しめるかもしれんな」
そういったマダラに続いてこちらを見て笑顔を見せたアストレアが、高台を降りる道を歩んでいった。