ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか   作:sakky314

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正邪決戦(前)

「さぁ、みんな立ち上がりましょう!あの『大最悪(モンスター)』を倒さないと!」

「リヴェリア様の救援に早く向かわなくては...」

 

 そういって震える足で立ち上がるアリーゼとリオンに輝夜とライラが現実という毒を吐く。

 

「団長...空元気をふるまうのはいいが、その震える手は抑えておけ...」

 

「リオンもだ...体力もねぇ、魔力もねぇ、持ってきた道具(アイテム)も底を尽きた。それに何よりあいつと戦う力がねぇ。そんなないないないない尽くしで行っても足を引っ張るだけだろ...」

 

 いつもなら揶揄ってやる状況でそんな言葉が出ないことが、このアストレアファミリア全員パーティの状況を物語っている。

 治療師(ヒーラー)のマリューですら精神力(マインド)を枯渇しており、もはや正義の眷属達は戦力外に等しい。そんな現状を突き付けられては、義務と気炎を吐いていたアリーゼとリオンも顔を歪ませてしまう。

 諦念と絶望(モンスター)が咆哮をあげ、諦念を持ちかける。

 

 

 そんな彼女たちに再び前を向く気力を与えてくれるのは、いつだって夜空に輝く一筋の光だった。

 

「顔をあげなさい。恐怖と絶望に屈しては駄目」

 

 女神の声が聴けると思っていなかった眷属達は、そろって顔を跳ね上げる。

 

「アストレア様!?」

「神がダンジョンに潜るのは禁止事項では...それよりもなぜその男と一緒におられるのですか!?」

 

 本来いるはずではないアストレアの姿に真っ先に反応するアリーゼとリオン。しかし、リオンにはそれ以上にアストレアの護衛のように側で立っているマダラの姿の方が、気に食わなかった。

 

「彼が暇しているようだったから、私が彼にここまで連れてきてくれるよう頼んだの」

 

 幸いにも自分がここにいることが流れてくれそうだと、話の方向をずらすアストレア。

 気に食わない男が護衛として頼まれたという事実が、複雑な感情となってたじろぐリューの姿を他所にアストレアは顔を真剣なものに戻す。

 

「人数分の万能薬(エリクサー)を持ってきたわ。これで回復を。」

 

 差し出される小袋に入った小瓶が11本。それを一人一人手渡してゆくアストレアに眷属達は目を見張る。

 

「アストレア様......!!愛しています!」

「私も愛しているわ、ネーゼ。そして、みんなのことも」

 

 感極まって泣き始めるネーゼに釣られて、アストレアの愛情に涙腺が綻びる眷属達。そんな彼女達の顔をアストレアは見回す。

 

「だから必ず勝って皆で地上に帰りましょう」

 

 そして齎されるのは『女神の祝福』。絶望の中に会っても尚、希望をもたらすアストレアの言葉に団員たちの心が新たになる。

 そんな中に会っても現実を直視することを忘れていない者が二人。

 

「アストレア様、その気持ち、すっげぇ嬉しい。嘘じゃあない」

 

「でも、やっぱりダメだ。体力と精神力が戻っても、あたしたちには力がねぇ。これじゃああの『大最悪』には勝てねぇ」

「ライラの言葉にうなずくのも癪だが、今の私達ではロキ・ファミリアのため盾になるくらいしかできない。全員での生還などとてもではないが...」

 

 断言はしなかったが、ここにいる全員が気づいていた。神の神威を使って呼び出されたモンスター。神を脅かすモンスターという人知を超えているモンスターは、再生能力をも有しておりタフネスだけならば、あのアルフィアをも上回ることは遠目でもわかる。

 

「せめて、何か手を打たねぇと...」

 

 ファミリアの参謀役の焦りの声に全員の視線が集まるが、そんな焦りすら見せない場違いな声を出さない少女がここにはいた。

 

「何よ!打つ手ならあるじゃない!」

 

 そんな策ならもうあるとばかりに投じられる声に全員が弾かれたようにその声の主に目を向ける。

 

「アストレア様がここに来てくれた!それが答えよ!!」

 

 そうやって笑顔を向けるアリーゼに、アストレアもまた微笑み返す。

 

「えぇ、ここで全員のステイタスを更新する」

 

「「「「「....!!」」」」」

 

「は~~~!そんな簡単なことが分からねぇなんて、あたしもまだまだだな!」

「ダンジョンでのステイタス更新なんて後にも先にもなかったことだろう...仕方ないことだ」

「はっ...!アストレア様!!そういえば、禁止事項のはずなのになぜこのような場所に...!」

 

 急に風向きが悪くなったアストレアは「さぁ、時間がないわ!ステイタスを更新しましょう!」と強引に乗り切る選択をする。

 

「それまで、あのモンスターを抑えてくれないかしら?」

 

 それまで黙って見ていたマダラに向かってアストレアは微笑みかける。

 

「よかろう...」

 

 その言葉を受けて、マダラが歩みだす。

 

「待て!流石に一人では太刀打ち出来ないでしょう。ここは皆を待って全員で行くべきだ」

 

 気に食わない男でも、自分たちが敵わない相手へと一人で進ませることを良しとしないエルフの良心が、リオンに待ったを言わせる。

 そんな彼女の優しさをマダラは鼻で笑う。

 

「貴様に一つ教えてやる......うちはを舐めるなよ」

 

 そう言い捨ててマダラは手を組み替える。

 坊主(扉間)憎けりゃ袈裟(水遁)まで憎いとばかりに使いたくなかった技であったが、使うしかないとマダラは割り切る。

「何をしている」とリオンが言い切る前にマダラの術は完成した。

 

「【水遁・大瀑布の術】」

 

 マダラの口から放たれた水害は『大最悪』を呑み込んだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

「リヴェリア!焼くでも凍らせるでもいい、敵の翼をどうにかしろ!動きが止まった瞬間、儂が突っ込む!」

 

 そう戦斧を両手で構えなおすガレスにリヴェリアは声を張り上げる。

 

「ガレス!何を言っている!」

「特攻してでも魔石を砕くしかあるまい!頭部か、胸部か、位置ははっきりと知れんがな!」

「ふざけるなっ、馬鹿を言え!アイズの黒風(かぜ)でもそぎ落としきれない再生能力だぞ!特攻など阻まれる!」

「ならばどうする、アイズが死ぬぞ!時間を浪費しても、どちらにせよ全滅は避けられん!」

 

 そんな友と娘の命の天秤など、傾けられないリヴェリアの苦悩を打ち破ったのは、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』を横にしたような大量の水が『神獣の触手(デルピュネ)』を押し流す光景だった。

 

「【水遁・水龍弾の術】」

 

 モンスターを流し押す水流から、水で形造られた龍が『大最悪』へと食らいつく。

 

 そんな声と共にその場に降り立ったマダラに二人は、驚愕する。半分はあのモンスターがいとも簡単に捕らえられたことについて、もう半分はフィンに「彼はこの戦いに参加しない」と聞いていた男が目の前に来たことについて。

 

「お、お主は...」

「お前は...」

 

「これで回復してろ。時期に彼奴等が来る」

 

 そう言われて投げられた小袋には万能薬が3本入っている。そうしてモンスターへと歩むマダラの歩を止めることはガレスとリヴェリアにはできなかった。しかし、それを阻む少女が一人。

 

「邪魔...しないで...!!」

 

 黒い風をまき散らしながら道を阻む目の前の少女を見下しながら、マダラは告げる。

 

「小娘、そんな体で何ができる?邪魔なのはお前だ。失せろ」

 

 そういわれ、見上げたマダラの瞳を見た瞬間、アイズの体がふらついた。

 

「アイズっ!!......くっ!」

 

 ふらついたアイズの体が地面に倒れこむ前に襟を引っ張り上げ、リヴェリアへとその体を放り投げる。

 

「貴様!何をした!」

「寝かしつけてやっただけだ。ガキの面倒くらい自分達でしておけ」

 

 エルフの女が急いで万能薬を少女に飲ませた姿を見て、マダラは体勢を立て直したモンスターへと向き直る。

 

「さて...階層主とやらとは違うようだが、味見程度にはなるだろう」

 

 マダラはチャクラを込めて須佐能乎を展開する。透けた青い両面宿儺の巨人と漆黒の竜が睨み合う。

 先手を取ったのは『神獣の触手』。神を追っているモンスターは目の前の鬱陶しい物に目もくれず、その巨体を支えるには不釣り合いな細腕を薙ぎ払う。

 どれだけ、潜在値(ポテンシャル)が高かろうと所詮はモンスター。力任せに振るった腕は、二本の左腕によって直撃を免れる。須佐能乎に大きなひびを入れるが、その程度。須佐能乎によって腕を跳ね上げられ、不格好にも挙手をするような形で懐を見せるモンスター。

 マダラが操る須佐能乎は空いた右腕で刀を持つと、無防備なモンスターの腹に向けて剛腕を振るう。

 その一太刀は竜の体に傷をつけた。

 

「なんだ、あの男(暴食)よりも柔らかいではないか...いや、畜生に期待するなど酷な話か」

 

 自分を害し、あまつさえ鼻で笑う人間に『神獣の触手』は怒りの唸り声を上げる。込み上げる魔力を輪廻眼で見分けるマダラは笑う。

 

「今度は火力勝負か?よかろう。乗ってやる」

 

「グルオオオオオオオオオォォォォ」

「【仙法火遁・業火滅失】」

 

 龍の息吹と滅燃の業火が両者の間でぶつかり爆ぜた。

 

 

 

「これまでとは...あやつ、凄まじいの」

「詠唱なしであの規模の魔法など...聞いたこともない」

 

 押し寄せる熱波を造り出す『神獣の触手』とマダラに、ガレスとリヴェリアはあれが人なのかを疑ってしまう。

 罅を入れながらもマダラを守りモンスターを押しとどめる青い巨人。火・水・土・雷・風と多種多様な魔法の数々。そして、つい先日まで神の恩恵(ファルナ)が刻まれていなかったとは思えない身のこなしと、戦闘スキル。

 見ているだけでわかってしまうマダラの実力に恐れを隠せない。

 

「う~~~」

「アイズっ!!大丈夫か!?」

 

 目を覚ましたアイズにリヴェリアはすぐさま声をかける。しかし、そんな声に耳も傾けずにアイズは憑りつかれたようにリヴェリアの抱擁を振りほどいて、竜の姿を探す。

 

「アイズ、待てっ!」

「いやっ...!あれは私が倒さなきゃ!!あふぅ~~~~!!」

 

摑まれたリヴェリアの手を振りほどいてでも竜のもとへと行こうとしたアイズに、手刀が振り下ろされる。

 

「聞き分けなさい」

「痛いっ!」

「はたいたのだから当然だ。少しは冷静になりなさい。まったく、リヴェリア様にご心労をおかけして.....」

 

 背丈が自分よりも低いために見上げるような形で、顔を膨らませて怒りを向けるアイズにリオンは嘆息する。

 

「あの時、あなたに挑まれた私も、こんな顔をしていたのだろうか......。自分のことながら嘆かわしい...」

「......?何を言っているの?」

「...なんでもありません。それより、いうことを聞きなさい。第一、階層主に単身で戦いを挑むなど正気の沙汰ではない」

「いや!あのモンスターは私が倒すの!!それに、あの人は一人で戦ってる!」

 

 唐突に正論を返されてリオンはたじろぎ、言葉を返せなくなってしまう。

 そんな二人に割り込むのはアリーゼだった。

 

「我儘を言ったらだめよ、【剣姫(けんき)】!いいえ、チビッ子ちゃん!」

「ちびっこ!?」

 

 ファミリアで一番背が低いことを気にしているアイズは、衝撃とちょっとのむかつきで声の主を見返す。

 

「無茶をして体を壊したら、じゃが丸くんを食べられなくなってしまうわ!」

「そ、それはこまる!」

「何より、あなたを心配している人が悲しんじゃう。モンスターじゃなくて、貴方自身が誰かを泣かせてしまっていいの?」

「......!」

 

 こちらに指を突き付け、馬鹿にしてきたと思えば今度は優しい姉のように語りかけてくるアリーゼの言葉にアイズは耳をいつの間にか傾けてしまう。

 そこでアイズはやっと自分の手をずっと握っていたリヴェリアの顔を見た。

 その顔は今にも泣きそうで、悲痛な面持ちをさせていたことにやっとアイズは気づく。

 

「ごめんなさい、リヴェリア...」

「いいんだ、アイズ」

 

「大丈夫よ。一人より、みんなで戦った方がる良いに決まっているんだから!私達ならあの怪物を倒せるわ!いけるいける!」

 

 パチコーン☆彡と片目をつぶったあと、アリーゼは太陽のような笑顔を向ける。

 

「だからそんな(思い)はしまっちゃいましょう?」

「........わかった」

 

 そう言うと、アイズの剣呑さが消え、目を輝かせていた黒い炎は立ち消える。

 そんな姿を見て子供のあやし方では未来永劫アリーゼに敵わないだろうと思うリオン。

 

「すまない...【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】」

「いいのよ!【九魔姫(ナイン・ヘル)】お礼はこの後の闘いでたっぷりともらうから!」

「でも、どうするの?あのモンスター、どんなに斬っても、倒せない...」

 

 アイズの風でも削ぎ切ることができなかった『神獣の触手』の肉体は、何があっても簡単に再生してしまっていずれの攻撃も致命傷にはなりえていない。

 

「問題ないわ!何せ清く美しい私達がLv.4になったんだから!!」

「一斉ランクアップ!?ファミリアが、全員!?」

「えぇ、先程ステイタスの更新をして、アリーゼ達を『昇華』させた。すべては莫大な経験値(エクセリア)のおかげ」

 

 経験値は戦闘を行った者で分配される。それを加味しても全員分のランクを上げるほど偉業と数えられる【静寂】という敵とダンジョンに潜ってくるアストレアに驚きを隠せない。

 

「安心しろ、我々もだ。普通に頭が痛い」

 

 襲い掛かる情報量にモンスターにやられるとは別種の痛みが襲い掛かるリヴェリアを見て、こめかみに手を当てながら唸る輝夜。

 

「けど、全員で『11レベル分』戦力は上がったわけだ。これなら何とかなるんじゃねぇの?」

 

 自分たちの戦力が望外にも上がりすぎてしまって、楽観的な言葉を吐くライラ。

 

「ライラ、慢心は禁物です。安全に、そして確実にあの『大最悪』を討ちます」

 

 そんなライラに諫言を告げるリオン。

 

「そうね!ここであのモンスターを倒しましょう!」

 

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