ダンジョンに伝説の忍がいるのは間違っているだろうか   作:sakky314

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正邪決戦(後)

 マダラは困っていた。

 

 

 

 有り余るほどに満ちている体力。それを削ってもなかったことにする再生力。生半可な攻撃では傷をつけさせない甲殻。

 

 忍界では恐れられたマダラからすれば、このモンスターを倒すことなど造作もない。

 

 

 

 

 

 

 

 そのすべてがこの階層諸共葬り去ることに目をつむればという注釈がつくが。

 

 あの二人、【静寂】と【暴喰】と戦った時にも感じていたことだが、自分自身がこの舞台には早すぎるということを実感する。

 

 

 絶対防御を謳う須佐能乎が腕の一振りだけで限界まで壊され、竜の吐息(ブレス)も仙術で忍術を限界まで強化してやっと拮抗する程度。

 相手の一撃がこちらの生死を分けるにもかかわらず、こちらの一撃は相手に対して何ら痛痒を与えられない。

 忍界から紛れ込んだ異物(マダラ)のその力は、Lv.だけなら素でLv.3、チャクラと仙術を駆使すれば第一級冒険者にも迫る可能性を持つ。

 

 

 だからこそ、神に刻まれた『恩恵(ファルナ)』というものの埒外さを物語っている。

 

 写輪眼、さらにその上を行く輪廻眼は、言ってしまえば動体視力を極限まで突き詰めた瞳。

 しかし、いかに相手の攻撃を見切ることができても、モンスターと冒険者の力と耐久を超えることができないマダラでは、その地力の差を覆すことができない。

 自己の力が唯一無二であるものだとわかっているからこそ、一人で戦うことができないことに腸が煮えくり返りそうになるが、そもそもこの戦いは彼の領分ではない。

 

―――だから

 

「待たせたわね!この強く可憐なアリーゼ・ローヴェルが率いる正義の眷属(アストレア・ファミリア)がこの戦いを終わらせに来たわ!!」

 

 この小娘共に後は任せよう。

 

「やっときたか、これでオレの役目も終わりだな」

 

 そういって去ろうとするマダラの手をアリーゼが掴み取る。

 

「もちろん、あなたも一緒にね!マダラ」

 

「なッ⁉なぜオレが一緒に戦わねばならん!」

 

「皆で帰るってアストレア様に言われたんだもの!皆で戦って勝つ、それが仲間ってものでしょ?」

 

 マダラの手を放さずにそう語りかけるアリーゼ。奇妙な時間が流れるが、怪物はその時間を待つような人の心を持ち合わせてはいない。

 

「チッ、退く機会を見失ったか」

「フッ、おにい様も私の正しさに下ったみたいね!」

「呆れてものも言えないだけだ...来るぞ団長!」

「よし、改めてみんなで勝ちましょう!『未来』に進むために!」

 

 戦闘の初手は竜が放つ吐息。増えた羽虫を焼き払うために放たれたそれにアリーゼが突っ込む。

 

「おにい様!()()()()

 

――【花開け(アルガ)】」

「敵の攻撃に突っ込む馬鹿がどこにいる...【仙法・水遁水陣柱】」

 

 瞬時に組み替えられるマダラの手。口元に立てられた指から放たれる巨大な水柱が炎の吐息の勢いを弱める。残火と高熱の水蒸気を燃やし尽くしてアリーゼが突き進む。

 たった一人、飛び出してきたアリーゼに向かって振るわれる。竜の爪を通り過ぎ、文字通り爆発的な加速をもって敵の首に迫る。

 

「【炎華(アルヴェリア)】!」

 

 前衛ではガレスに次ぐ破壊力を持った一撃、しかしそれでも甲殻のない首元に傷つけるのが精いっぱいという事実がこの竜の能力(ポテンシャル)の高さを物語る。

 羽虫に傷をつけられたことに怒れる竜は、その毒々しい翼を羽ばたかせる。それだけで階層の端から端まで吹き抜ける暴風がアリーゼの体を襲う。

 

「手の込んだ自死なら他所でやれ。オレがいなかったらあの爪で死んでいたぞ」

「でも、おにい様がいるんでしょ?なら恐れる物なんて何もないわ!」

 

 地面へと落とされる前にアリーゼを抱きとめたマダラが皮肉を込めても、アリーゼはそれを笑い飛ばしてしまう。

 

「......調子のいい小娘がッ...小手先の技は好かんが、この『うちはマダラ』が()()()合わせてやる」

 

「グルオオオオオオオオオォォォォ!!!」

 

 そんな団結した冒険者達を前にして【神獣の触手】も咆哮を上げる。それと共に竜の甲殻の隙間から炎が吹きあがる。竜の全身から吹きすさぶ炎の熱は、それだけで何者も寄せ付けぬ灼熱の領域となる。

 

「【仙法・水遁大瀑布の術】」

 

 マダラから放たれる鉄砲水を【神獣の触手】は、灼熱の炎を翼の暴風に合わせた熱波でもって迎え受ける。風の恩恵を受けたすべてを焼き焦がす熱と自然が力を与えた水塊の両者が混ざっては消える。そんな意地の張り合いに折れたのはマダラの方だった。

 

「【土遁万里土流壁】」

 

 焼け石に水の結果となることが目に見えたマダラはすぐさま術を切り替えて壁を作って、その熱の咢から逃れる。

 

「どうするリヴェリア。あの水量でもあの炎を消せぬとなれば、近づくことすら困難になるぞ」

「私が...やる...」

「っ!?よせアイズ!!お前の風でもあの竜には...」

 

 『届かない』という言葉を愛娘に伝える前に呑み込んだリヴェリアは、続くアイズの言葉に目を見張る。

 

()()()()()。だから、リヴェリアの『魔法』を貸して?」

「....!!わかったアイズやるぞ。【終末の前触れよ、白き雪よ―――

 

「おい、ドワーフ。あの蜥蜴を地に落とす。力を貸せ」

「ガレスじゃ。できるのか?儂は何をすればいい」

「できるのかじゃない、やらせてやる。お前の思うままに武器を振るえ。それだけでいい、あちらも始まる。行くぞ」

 

――三度の厳冬--我が名はアールヴ】【ウィン・フィンブルヴェトル】」

「【リル・ラファーガ】」

 

 三条の吹雪とすべてを貫く白い風が灼熱の風を貫いて進む。吹雪の螺旋槍が竜へと当たり、内包していた厳冬が竜を取り巻いてゆく。

 都市最強の名を冠する妖精王(ハイエルフ)の魔法が、竜の炎の勢いを止めることに留まらずその体に霜を纏わせ、竜の出す炎まで抑え込む。

 

「こちらも行くぞ。【土遁超軽重岩の術】」

「ぬぅ...体がここまで...ッ!!往くぞ。振り落とされるでないぞ!」

 

 マダラの狙いを瞬時に理解したガレスはマダラを伴いながらも、その小さな体に似合わぬ脚力をもって天井へと跳躍する。

 その身を翻し、天井へと足をつけ目標(モンスター)を目掛けて急転直下する。

 

「ぬううううううぅぅぅぅぅ」

「【土遁超加重岩の術】」

 

 超加速と超重力を伴った一撃が竜の背へと突き刺さり、その鱗をばらまきながら巨体を大地へと叩き落す。

 

「いまじゃあ!小娘共ォ!!」

 

 地へと堕とされた竜へと集まるのはその時を待ちわびていた冒険者達がその牙を叩きつける。

 

「【ゴコウ】」

 

 放たれた斬撃が竜の翼膜に傷を入れる。

 

「【ルミノス・ウィンド】」

 

 風の弾幕が翼に風穴を開ける。

 

「【炎華】」

 

 正義の炎が『大最悪』の翼を焼き尽くす。

 

 正義の眷属達によって自慢の翼膜が襤褸切れとなりながらもその翼で少女たちを振り払う。

 

「グルオオオオオオオオオォォォォ―――ッ!?」

「【仙法・土遁黄泉沼】」

 

 突如として沈み込む視界。もがけばもがくほどに沈み込むその地面に怪物は理解が追い付かない。

 

「長耳の娘。やれ」

「私の名はリヴェリアだ!【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

 リヴェリアの魔法によって竜をはめる沼が凍り付きその動きを止める。動かなくなった標的に魔導士たちが残る力を解き放つ準備へと入る。

 

 魔導士たちが高める魔力に『神獣の触手』の危機感が募る。

 自らに残る魔力を口腔へと溜め込む。

 放たれようとしているのはすべてを焼き払う吐息ではなく、目の前の敵を消し去る殲滅の波動。

 

「目の前に気を取られ周りが見えぬとは、所詮は畜生か」

 

 呆れた言葉をマダラが呟いた直後、『神獣の触手』の頭上を覆ったのは天井をきらめいていた水晶が固められた大水晶塊。

 頭へと落とされた大水晶塊によって竜の口が閉じられる。逃げ場を失った波動の力場は竜の口腔で拡散する。

 

 大爆発

 

 激震と共に広がる衝撃波と飛来物が魔導士へと届かぬように前衛たちが壁となる。

 紡ぎ終える妖精の歌。放たれるのは下界一の魔法。突き進む魔法の矢が竜の胸を穿ち、その魔石(弱点)を露出させる。

 

「これで最後じゃ!往くぞ娘共ォ!」

 

 ガレスがここ一番の声を張り上げて駆け出してゆく様を見て前衛たちが後に続く。

 

 駆け寄ってくる冒険者たちに気づいたのは竜の本能か、はたまた、ダンジョンの意思なのか。

 爆発によって頭部が無くなろうが、弱点が見えていようが構わずに、爆発によって脆くなった氷を踏み砕きその両爪を冒険者に向ける。

 

 そんな爪を前衛が受け止め、芯まで凍った腕を攻撃陣(アタッカー)が斬り、砕く。

 

 阻むもの無き最後の一本道を金髪の少女が駆け抜ける。

 

「【起動(テンペスト)】――――【リル・ラファーガ】!!!!」

 

 小さな体が魔石と共に竜の体を貫き通す。

 

 

 

 紫紺の大塊が砕かれ灰へと還る竜を見てマダラは思う。

 過去の己が今の己を見て何を告げるだろう。

 一人で敵を討てぬ様をあざ笑うだろうか。それとも、『うちはの誇りを忘れたのか』と憤るだろうか。

 だが、主神へと笑顔で勝利の二本指を向ける赤髪の少女を見ると思うのだ。

 あの馬鹿(戦友)ならば今の俺を見て涙を流すのだろうと。

 

 さて―――

 

 

 

 

「そろそろ逃げないと全員崩落に巻き込まれて死ぬぞ」

 

 勝利の余韻に浸り、互いをたたえ合う場に冷や水がかけられる。

 首を上げるマダラに倣って天井を見上げれば、落とされた水晶を中心に亀裂が走る。当たり前だ。天井の杭を落とし、竜の爆発に下界一の魔法。竜の熱で脆くなったダンジョンにここまですればこうもなる。落ちてくる天井のかけらに未来の光景を幻視した全員の顔が青くなった。

 

「撤退よ!撤退いいいいいいい!」

「待てアリーゼ!あの竜のドロップアイテムくらいは―――」

「そんなの無視よ!無視無視!これ以上の冒険は身を滅ぼしちゃう!」

 

 竜の残り物を惜しむライラの声は却下され、一行は上への道を最後の気力を使って走っていった。

 

 

 

 

 

「終わりか...」

 

 正邪の最終決戦。その結末を眺めた『絶対悪(エレボス)』はつぶやいた。

 

「ええ、終わりよ。エレボス」

 

 そんな彼の前に現れたのは正義の女神と眷属達。たとえそれが禁忌(タブー)であろうが、不審な動きを見せたら取り押さえることができるように。彼の周りを取り囲む。

 

「見事だ、オラリオ。俺の全てを賭けても君たちの『正義』に届かなかった。素直に負けを認めるとしよう」

「......随分と余裕、ブッこいてんじゃねえか、神様よぉ」

「私達が貴様を許すとでも思っているのか?」

 

「思うわけないだろう。英雄譚だったら改心しただろうが、これは現実。俺はどこまで行っても『絶対悪()』なのさ」

 

「お前の邪悪はここで終いだ。下界の脱落者。最後に何か言い残すことはあるか?」

 

「そうか?じゃあお言葉に甘えて。俺の要求は二つ。一つは俺を裁く神物がアストレアであること。それが『悪』と『正義』を名乗る神同士の決着(フィナーレ)にふさわしい」

 

 自身の死に様のみならず、死に場所まで指定してくる厚かましさに眷属達は怒りのラインを超える。

 

「二つ目はそこらへんに転がる俺の眷属を見逃してやってくれ。ただ、見逃すだけでいい」

 

 自分たちの抗議も無視して二つ目の要求をしてくる神の面の皮の厚さに眷属達も絶句する。

 だが、

 

「わかりました。その申し出受け入れます」

 

 この場を纏める正義の女神が決めてしまっては、それで終いだ。それを覆せば汚名を着るのはアストレアなのだから。

 

「さすが正義の女神、慈悲深い」

 

 エレボスはそういうと歩き出し、アストレアの隣を通り過ぎる。

 

「じゃあ、行くか。散り際まで『悪』らしくな」

 

 そう肩越しにアストレアを向いたときに赤い瞳と目が合う。

 

 

 

 

 周りの世界が溶けてゆく。人も土も草木でさえ溶けていく。白く染まった世界で向かい合うのは世界の異物(マダラ)世界の神(エレボス)の二人。

 

「すげー、君ってこんなこともできんの?」

 

 まさかの光景にさすがのエレボスも感嘆の息を漏らす。

 

「幻術を通して、オレのチャクラをお前の精神に......まぁ、理屈はいい。それで、お前の求めたものは見つかったのか?」

「なんだ、気づいていたのか?」

「あれだけ御膳立てされて、気づかぬ方が難しいだろう」

「....その前に一つ。俺の言ったことは覚えているか?」

「オレにとって価値のある出会いだなんだとかの話か?」

「あぁ、その話だ。どうだった君から見て正義の眷属達は?面白い子だったろう」

「まぁ....夢見がちな馬鹿を見るのは退屈せんな」

 

「うわー男のツンデレはきついぜ?アストレアに言われたらグッとくるんだが...」

「......ならばアストレアの姿になってやろうか?」

 

 一瞬でもその姿を想像してしまったエレボスは、顔色を悪くする。

 

「すまん、冗談だ。オレの脳が壊れてしまう.....まぁ、その言葉が聞けて良かったよ。マダラ、君に一つ頼みがある」

「なんだ?」

「彼女たちはこれからこのオラリオで様々な巡り会わせに出会う。だから、零能の俺達に代わって見てやってくれないか?」

「自分の決めたことは貫き通す...それが『忍道』というものだ」

 

「そうか....じゃあ、俺は君の物語でも見ながら天界でゆっくりするよ」

 

「ではな」

「あぁ...それじゃあな」

 

 

 

 

 

「エレボス、どうかした?」

 

 ぼうっとした様子のエレボスに対してアストレアが尋ねる。

 

「いいや、なんでもない」

 

 そう言い残して男神は地上へと続く道を上っていった。

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