幻呪綺譚   作:ぬなり

2 / 4
第2話 青年と少女

 

 

青年side

 

 

店を出て数秒、俺は広大な森へと到着した。

 

「確か声がしたのは向こうだな……。」

 

現在の位置から北へ10km。

俺はその場所へ急いだ。

 

 

 

?side

 

 

 

 

 

「嫌だああああああ!!!!」

 

何度声を上げただろう。

助けなんて来ないってわかっている。

 

 

ここは人里を囲むようにある広大な森。どれだけ叫んでも、嘆いても誰の耳には届かない森の奥の奥。

 

「うらぽぽぽぽぽぽぽぽぼ!!!!」

 

おぞましい鳴き声を上げながら迫ってくる異形の怪物。

なにかの怨念を形にしたようなどす黒い邪気を孕み、目の前の私を捕食しようとがむしゃらに追いかけてくる。

 

恐怖と緊張感から心臓の音が耳の横でなっているように聞こえる。

ドクンドクンドクン。

 

走り続けて息が続かない。

 

「あっ……!!!!」

 

情けない声が出た。

私は木の根っこに足を引っ掛けて体勢を崩す。

そのままゴロゴロと転がり、正面の木に激突してしまった。

 

「……あ……ぅぅ」

 

背中に激痛が走ると同時に走り続けていた時の疲労感が今になって襲ってきた。視界がぼやけ、息ができない。

 

「ぽぽぽぽ……ぽ。」

 

怪物は私を覗き込むように体を曲げる。

死んじゃうのか……と一瞬思ってしまう。

 

何も出来ない、立ち上がれない。

 

「たす……けて……。」

 

怪物が私の首を絞め宙に浮かすが、最後の抵抗で声を振り絞る。

 

「ぽぽぽ……っ」

 

 

怪物が手に力を入れ、私の首を真上に引きちぎる……。

 

 

 

 

その瞬間。

 

バリバリ……ッ

 

青黒い稲妻が一瞬縦に走った。

 

ドォォンー!!!!

耳が痺れる轟音と共に、怪物の腕と私の間にスーツ姿の青年が立っていた。

怪物の二の腕から手首までが一瞬にして灰になり、持ち上げられていた私はバタッと地面へ倒れ込む。

 

「はぁっはぁっ…………えっ…??」

 

 

息を整え青年を見上げる。

 

「もう大丈夫だよ。すぐ終わらせるからね」

 

その場の空気に合わない、青年の優しい声が私の耳に刺さる。

開放された安堵感からか、私は見ず知らずの青年の前で涙を零してしまった。

 

「……ぅん……っ」

 

「さてさて……」

 

 

 

 

 

 

青年side

 

 

北へ10キロと言っても俺からすれば数秒あればたどり着ける距離だ。

俺は足に力を込めて飛び上がる。

視界が悪い地上からではなく、空から散策することにした。

 

 

目を凝らし奥の方を見ると、木々が大きく揺れている部分がある。

 

「そこか…」

 

風を切り裂きながらその場所へ向かうと、少女がなにかに襲われていて必死に逃げていた。

 

だがあれは噂の妖怪じゃないな。

 

「呪霊……か。」

どの世界にも負の感情が生まれれば現れる異形の存在。

俺はその呪霊が蔓延る世界からこの世界に迷い込んだ。

ここに来て数百年、何度も遭遇したことがある、

それを俺は秘密裏に何万体も祓ってきていた。

 

 

呪霊に対抗する唯一の策。

──それは呪力だ。

 

俺は空から一瞬で地上へ降り立つ。

それに合わせて呪力を呪霊の腕へと打ち込んだ。

 

俺は呪力特性が黒雷と呼ばれる稀有な物。

攻撃と同時に黒雷が炸裂、その雷は悉くを塵にする。

 

「ぼぼぼぼぼッ!!!!!!」

 

当然それは目の前の呪霊も同じ、急に腕を消され驚いている。

背後の少女も突然現れた俺にとても驚いてる様子だ。

 

そりゃそうか、空から降ってきたんだから。

 

「もう大丈夫だよ。すぐ終わらせるからね」

 

俺は少女に安心させるようにそういった。

少女はその言葉に安堵したのか涙を零しながら「うん」と小さな声で言う。

 

「さてさて……。」

 

呪霊は突然腕を消されて唖然としてるな

だが再生はしないってことはそれほど強くないってことかね。

 

 

状況を理解したのか、呪霊はその巨体を使い猛突進してくるが俺はそれを片手で受け止める。

 

衝撃が体をすり抜け周囲へと行き、後ろの木々がへし折れる。

 

「……やっぱりそんなに強くはないか。」

 

俺はそのまま持ち上げ地面へ思いっきり叩きつける。

 

「ぺぎゃッッ!!!」

 

地面が割れる程の衝撃が呪霊を襲い、体を粉砕。

そして残った頭を呪力で消しとばした。

 

「こんなもんかね」

 

 

呪霊が灰になって行くのを見て、少女の方へ振り返り声をかけた。

 

「大丈夫だったかい?怖かったね。」

 

少女は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら飛びついてきた。

余程の恐怖を味わったのかそのままわんわんと泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

少女side

 

 

 

私は涙を零しながら青年の後ろ姿をしっかりと見ていた。

この世界には

 

神が持つとされる「神力」

妖精、妖怪が持つとされる「妖力」

魔法使いが使うとされる「魔力」

人間が持つとされる「霊力」

 

と分けられる。

その他にもあるけど、青年が持つ力はそのどれにも当てはまらない不思議な力だった。

 

しかもその力だけじゃない。

 

私から見れば遥かに怪物の突進を軽々しく。 しかも片手で受け止めて、そのまま地面に叩きつけた。

 

地力の差がその怪物と圧倒的だった。

訳の分からない現実に唖然とするが、その強さからくる安心感に心から「もう大丈夫なんだ」と思いまた涙が溢れてきた。

 

 

「大丈夫だったかい?怖かったね。」

 

 

青年の落ち着いた声が私の感情をさらに加速させる。

 

「怖かった……こわかったよぉ……っ」

 

嗚咽と共に感情を吐き出しながら青年に泣きつく。

青年は嫌な顔ひとつせず、私が泣き止むまで頭を撫で続けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。