願いの物語シリーズ【星野雛】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第1話『私はいつだって、笑っている楽しい子。笑顔が尽きない子。星野雛だ』

夜空に輝く無数の星々。

 

両手を広げ、足元に少しだけ気を付けながらその場でくるくると回れば、世界に光が溢れた。

 

どこまでも広がっていく蒼い世界は、私に無限の可能性を与えてくれる。

 

世界はこんなにも広い!

 

両手で星々の海をすくっても、両腕で抱え込んでも足りない。

 

私だけじゃこの世界を捕まえるには広すぎる。

 

私はそれが何だかおかしくて、面白くて、楽しくて、草むらの上に仰向けで倒れながら星の海を見やった。

 

この世界にはこんなにも美しい物がある。楽し気に笑う虫たちの声がする。頬を撫でる柔らかな風がある。

 

あぁ、なんて素晴らしい世界なんだろう!

 

「雛ー! どこに行ったんだい? 雛―!」

 

「お婆ちゃん!? ここだよ! 私はここ!」

 

「あぁ、雛。こんな所にいたのかい。一人で飛び出して行ったら危ないよ」

 

「ごめんなさい。でも、見て! 空がこんなにも綺麗で、まるで光る海みたい!」

 

「……そうだねぇ。うん。綺麗だ」

 

「あの向こうには何があるんだろう。海を行くなら船が必要よね。でも空の向こうには行けないわ。あぁ、そうだ。なら、翼があれば良いんじゃないかしら。翼があれば何処へだって行ける!」

 

私は草むらから飛び起きて、翼が生えたイメージでお婆ちゃんの周りを軽快に飛び回る。

 

体はどこまでも軽くなった様に、一度地面を蹴るだけで空へと舞い上がった。

 

羽はどんな羽が良いかな。白くて大きい翼が良いかな。

 

天使様みたいに。どこまでも、透き通る様な白い翼が良いな。

 

「ふふ。あはは。今ならどこまでも飛んでゆけそう!」

 

楽しくて、嬉しくて、世界はこんなにも輝いていて。私は、どこまでも世界を広げながら今まさに飛び立とうと……。

 

「ゴホッ、ケホッ」

 

「お婆ちゃん!! 大丈夫!?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。ごめんね。邪魔をしてしまって」

 

「ううん。邪魔なんかじゃないよ。私こそごめんなさい。お婆ちゃん体が弱いのに。こんな遅くまで連れまわしちゃって」

 

「……雛」

 

「帰ろう?」

 

「あぁ、そうだね」

 

私はお婆ちゃんの手を握って、一緒に家を目指した。

 

私とお婆ちゃんの二人が暮らしている家に。

 

 

 

私は星野雛。

 

どこにでも居る普通の小学生。

 

他の人と少し違う所があるとすれば、お父さんとお母さんが居ない事くらいかな。

 

でも別にそれを悲しいなんて思った事ないわ。

 

だって、私には大好きなお婆ちゃんがいるんだもの。

 

悲しくなんて無い。寂しくもない。

 

これは嘘でも強がりでもなくて、本当のコト。

 

だからこの事で私をからかう子たちは本当に見当違いだわ。

 

私が本当に辛い事はこのコトじゃ無いもの。

 

「じゃあ、お婆ちゃん。行ってくるね」

 

「……ゲホッ、ゲホッ、すまない、ね」

 

「いいの。お婆ちゃんは寝てて。私、クラスでも一番足が速いし、力持ちなんだから。買い物くらい簡単よ!」

 

「あぁ、雛は凄い子だねぇ」

 

「ふふ。そうよ。私が凄い子なんだから。お婆ちゃんはゆっくり休んでいて」

 

笑顔でそう言って、扉を閉めてから鍵を掛ける。

 

中からは辛そうな咳が聞こえていた。

 

その声を聞きながら私は持っていた買い物バッグをキュッと握り締めて、呟く。

 

「笑え。笑え。私はいつだって、笑っている楽しい子。笑顔が尽きない子。星野雛だ……笑え。うん! 大丈夫」

 

自分に言い聞かせるように。私は笑顔で毎日が楽しい自分を演じる。

 

私が悲しんでいたら、お婆ちゃんが悲しむから。

 

私が辛そうにしてたら、親切な人達が、私とお婆ちゃんを引き離そうとするから。

 

だから、私は楽しい毎日を過ごす。明るい『普通の女の子』になるのだ。

 

「さっ、買い物に行っちゃおうかな! 今日は何が安いだろうなぁ~フンフンふーん!」

 

アパートの前を駆けだして、商店街の方へ走って向かう。

 

途中に話しかけてくる近所の人に笑顔で挨拶をしながら、私は楽しいお買い物に向かっていた。

 

「こんにちは!」

 

「お。今日も元気だねぇ。おつかいかい?」

 

「うん! 今日はね~。イワシが食べたいかなぁ~」

 

「ガハハ。そら雛ちゃんの食べたいもんだろう! で? 婆ちゃんは何が欲しいって言ってたのかな?」

 

「えっとね。えっとね」

 

私はメモ帳を取り出しながら、お婆ちゃんの買おうとしていた物を話す。

 

「サンマ! くーださい!」

 

「おうよ。じゃあ特別に活きの良いサンマを二匹用意してやろうじゃねぇか!」

 

「いいの!? やったー!」

 

「うんうん。雛ちゃんは素直で可愛いねぇ! しょうがねぇ! ここはさらに特別にイワシも二匹付けちまうか!」

 

「本当に!? オジサンありがとう!!」

 

「ガハハ。婆ちゃんによろしくな!」

 

「うん! 伝えておくねー!」

 

私はそのまま魚屋を後にして、横にある八百屋さんに入った。

 

そこでは待っていたとばかりに、八百屋のおばちゃんが立っていて、にこやかに迎えてくれる。

 

「いらっしゃい。おつかいだって? 偉いねぇ」

 

「ううん。『普通』だよ」

 

「あぁ、なんて良い子なんだろう! ウチの和也も雛ちゃんの少しだって良いから見習って貰いたいもんだ!」

 

「アハハー。和也君。学校で困ってたらすぐに助けてくれるし、私なんかよりずっと良い子だよ!」

 

「まぁ! あれまぁ! あの子も意外とやるもんだ。おっと、長話してると良くないね。さぁ、今日は何を買いに来たんだい?」

 

「えっと、えっと。ごぼうと人参と、レタスと、きゅうり! 下さいな!」

 

「かなり多いね。よし。ウチから手伝いを派遣してやろう。和也!! かーずや!! 降りておいで!!」

 

おばちゃんが家の中に向かって大声を出すと、気怠そうな様子の和也君が降りてきた。

 

私は目があった和也君に頭を下げるが、和也君はフッと目を逸らしてしまった。

 

「アンタ! 挨拶くらい返しな!!」

 

「いでっ! 殴るなよ! 口で言え! 口で!」

 

「言ってんだろ! さ。アンタ家で暇してんだから、雛ちゃんの家まで買ったもの届けてやんな」

 

「はぁー? めんどくせぇな!」

 

「あ、あの! 申し訳ないですし。大丈夫ですよ! 私、一人で持てますから!」

 

「……あー。星野? 何買ったんだ。お前」

 

「え? えっと、ごぼうと人参と、レタスと……きゅうり」

 

「そっか。婆ちゃんは?」

 

「あの、咳してて、熱も少しあるみたい」

 

「分かった。母ちゃん! リンゴ貰うぞ!」

 

「バイト代とでも言うつもりかい!?」

 

「ちげーよ! 代金なら小遣いから引いとけ!! ほら。これ、良いリンゴだから。婆ちゃんに食わせてやれよ」

 

「え? いいの?」

 

「まぁ、な。ほら。前に俺が熱出した時、お前、見舞いに来てくれたろ。その礼……みたいな感じ」

 

「……ありがとう」

 

私はリンゴを両手で持ちながら和也君にお礼を言った。

 

演技ではなく、本心で。

 

商店街の人は好きだ。みんな私とお婆ちゃんの事を好きで居てくれるから。

 

「あんた……少し見ない間に男になったねぇ」

 

「俺は生まれた時から男だ!」

 

「そうかい! じゃあ男代表。しっかり持てよ!」

 

「おうよ!」

 

ずっしりとした鞄に買ったものを詰めて、和也君がそれを持つ。

 

凄く重そうで心配になり、声を掛けたが和也君は大丈夫だと笑うばかりだ。

 

「重くない?」

 

「こんなもん。大した事ないね。何せ鍛えてるから」

 

「そっか。凄いね」

 

「それで? 他には何買うんだ」

 

「え、いや、これで終わり……」

 

「んな訳ねぇだろ。ほれ。どうせ嘘吐いてもすぐバレるんだから言え。一緒に運んでやる」

 

「……ありがとう」

 

「気にすんなよ。で? どこだよ」

 

「えっと、お肉屋さん」

 

「……あいつの所か」

 

渋い顔をしつつも、スタスタとお肉屋さんに向かって歩く和也君の後ろに付いて歩きながら私は、その温かい気持ちに感謝してまたお礼を言う。

 

和也君は相変わらず素っ気無く、大した事無いと言っていたけど、手は震えていたし、本当はかなり厳しいのではないかと思った。

 

でも、言わない方が良いのだろうとその言葉を飲み込んだ。

 

「こんちわー」

 

「おう。和也じゃねぇか。買い物か?」

 

「そ。星野の付き添い」

 

「ハハーン。なるほどな。おーい!! 猛!! 和也君が来てるぞ!」

 

「いや、別に猛呼ばなくて良いって。ほら、星野。さっさと注文して帰るぞ」

 

「え、えと。欲しいのは」

 

私はワタワタとしながら、注文をして、そのお肉を包んでもらう。

 

しかし、そうこうしている間に猛君が階段を降りて来てしまい和也君は頭を抱えるのだった。

 

「おう。和也。どした? それに、星野……なるほどな? 抜け駆けか。和也」

 

「別にそんなんじゃねぇよ」

 

「そうかい、そうかい。ったくしょうがねぇな。よっし。オヤジ。コロッケ三つくれ」

 

「勝算は」

 

「荷物持ちよりウチのコロッケのが強い」

 

「んー。まぁ良いだろ。持っていけ! その代わり。必ず持ってこいよ!」

 

「任せとけ!」

 

「はぁ……最悪だ」

 

何故か落ち込んでいる和也君を横目で見つつ、私はお肉を受け取って鞄に慎重に入れた。

 

そして、サンダルを履いて外に出てきた猛君にコロッケを手渡される。

 

「やるよ」

 

「え? でも」

 

「良いの良いの。スーパーよりウチの店を使ってくれるんだからさ。サービスって奴だ。それにな。好意は素直に受け取る方が親切なんだぞ」

 

「……うん。そうだよね。ありがとう。猛君」

 

「良いって事よ!」

 

「……コイツ」

 

「和也君。君にもあげようじゃないか。うん?」

 

「いくらだ」

 

「タダに決まってるだろ? ハハハ。バカだなぁ」

 

「分かったよ! 貰っとく!」

 

それから、猛君も和也君の荷物を一部持ってくれて、その代わり私の荷物は和也君に持っていかれてしまった。

 

結局何も荷物を持たないまま家まで運んでもらい、お茶でも御馳走しようとしたのだけれど、二人はそのまま凄い速さで返ってしまう。

 

今度は何かお礼をしようと。私は心に誓うのだった。

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