願いの物語シリーズ【星野雛】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第4話『入部希望です! 星野雛。葉桜恵太。よろしくぅ!』

期末試験も終わり、夏休みも目前に迫ったある日。

 

私は逃げようとする先輩の首根っこを捕まえて、演劇部の部室に来ていた。

 

扉を勢いよく開き、先制攻撃だとばかりに声を張り上げる。

 

「たのもー!!」

 

「星野さん!?」

 

「は、離したまえ! 僕はこんな所に用なんて無いぞ!」

 

私はこの期に及んでギャアギャアと騒いでいる先輩の尻を蹴り飛ばし、部屋の中に入れてから私も部屋に入る。

 

そして鞄から二枚の紙を取り出して、机に叩きつけた。

 

「入部希望です! 星野雛。葉桜恵太。よろしくぅ!」

 

「ま、待って、まって。入部希望? 道場破りとかじゃなくて?」

 

「はい。入部希望です」

 

「あ、そうなのね。ごめんなさい。急な登場で動揺してしまって」

 

「大丈夫ですか?」

 

「いや、九割以上君のせいだと思うけどね」

 

「先輩……じゃなかった。葉桜クン、うっさいよ」

 

私は葉桜君のお尻を軽く蹴って、黙らせる。

 

そして、注目を浴びている状況に少しだけ胸を高鳴らせて、言葉を続けた。

 

「で? 問題無いですか?」

 

「は、はい。もちろ……」

 

「問題あると思います!」

 

「私もそう思いまーす」

 

私は手を上げながら間延びした声で、問題があると言い放った二人を見た。

 

先ほどの真面目そうな人とは違い、その二人は何だかあまりやる気を感じないような姿をしていた。

 

どういう事だとばかりに私を誘った人を見るが、首を横に振るばかりだった。

 

一目惚れした相手なんだから、もっと頑張って欲しいんだけどな!

 

「まぁ、別に問題があるのなら帰りますけども」

 

「はぁ!?」

 

いや、なんでアンタが驚いているんだと、反対した一人を見る。

 

何ならもう一人も驚き腰を浮かせていた。

 

「えっと? 星野さんは、どうしたいのかな?」

 

「いや、誘われたんで、演劇もやってみようかなって思ったんですけど、お呼びじゃ無いのなら帰ろうかなと」

 

「うーん。私としては、星野さんに入ってもらえると嬉しいけれど。今人手不足だし」

 

「そうなんですか? でも問題があるそうですけど」

 

「そうなのよね。えっと、二人は星野さんが入るとどんな問題があるのかしら」

 

「それは……」

 

「え、演技力! 演技力が大事だと思うんだよね! 人数少ないしさ! 顔だけ女が入ってきても、出来る事なんか無いし! 足手まといになっちゃうでしょ!?」

 

「そんな事」

 

「まー確かに」

 

「えぇ!? 星野さんが頷いちゃうの!?」

 

うんうんと私は頷いてから、ふと彼女たちの目の前に置かれていた脚本を見た。

 

そして、その中身をパラパラとめくってゆく。

 

いつの間にか復活していた先輩も後ろから覗き込んでおり、面白くもないパロディだな。なんて言ってたから頭をはたいておいた。失礼な人だ。

 

「はい。分かりました。では、何かシーンを指定してください」

 

「え?」

 

「どこでも良いですよ。演じるので」

 

「そ、そう? じゃあ、ヒロインが母親に襲われるシーンを」

 

一応入部許可側にいる女の先輩に言われ、私は目を閉じた。

 

そして、そのシーンまでの過程を頭の中で流してゆく。

 

始まるのは、母親に襲われるシーンからだ。

 

『お、お母様……何かの間違い、ですよね?』

 

話ながら、相手役いねーやという事に気づいたが、先輩の映画でやった時の様に相手役も自分でやる事にする。

 

一応即興劇だし、役が変わったと分かるように、その場でターンをして振り返る。

 

『何が間違いなものか。私がどれほどこの時を待ちわびていたと思う? お前の父親に、母親に! 全てを奪われた私が、この時をどれだけ待ちわびていたか! お前には分からないだろう』

 

『わ、私は、私にとって母は、お母様だけです!』

 

『戯言を抜かすな!! お前の顔を見る度に思い出すんだ。あの女を、あの憎い女を! その顔で、私を母などと、呼ぶな!!』

 

怒りを全身に滲ませて、先ほどまで私が居た場所に吠える。

 

憎しみを真っすぐに向けた。

 

より深く、より、確実に、役に向かって、進んでいく。

 

母親と娘の中に入り込んで、私がそのものになるように。

 

『……っ、お母様、その剣は』

 

『これでお前の命を絶つ』

 

『っ』

 

『死、ねぇ!』

 

『……おかあ、さま』

 

私は刺された場所を手で押さえながら苦しそうに呻いて、それでも必死に手を伸ばす。

 

愛していた人の凶行を、痛みを、苦しさを感じてもなお、愛していると伝える為に。

 

最期の別れが憎しみでは、悲しすぎるから。

 

『お、かぁ……あい、し……』

 

だが、その声は届かず、腕は力を失って床に落ちた。

 

体もまた動かない。

 

落ちる。落ちてゆく。

 

「す、すごい」

 

「すごいわ! 星野さん! 星野さん?」

 

「え? 星野さん!! どうしたの!? 星野さん!」

 

深い役の底で、私はヒロインと同じ様に痛みを感じながら沈む。

 

起き上がる気力はない。だが、不意に肩を叩かれ、先輩の声が聞こえた事で目を開いた。

 

「カット。終了だ。星野」

 

「っ! あ、ごめんなさい。良い感じにハマっちゃいました」

 

「少しは自重しろ。そこまで演じなくても大丈夫だろ」

 

「アハハ。やるからには全力なんで! 自分!」

 

「はぁ……ったく。確か、演劇部の部長だったな。アンタ」

 

「は、はい! そうですね!」

 

「星野の才能は間違いなく本物だ。だが、気を付けないと食われるぜ? コイツの入部はよく考えるんだな」

 

「がおー! がうがう!」

 

私は猛獣のフリをしながら先輩の肩に噛みつく演技をした。

 

しかし、先輩はノッてくれず、そのまま入ってきた時とは逆に私の首根っこを掴んで部室から出ていくのだった。

 

数日後、正式に入部の許可が下りたのだが、先輩はどこか不満気で、どうなっても知らないからななんて言っていた。

 

嫉妬かしら。可愛い可愛い。

 

私は何だか面白くて頭を撫でていたのだが、怒られてしまうのだった。きゃうん。

 

時が流れ、演劇も映画も絶好調。

 

私も色々な役が演じられて実に充実した日々を過ごしていた。

 

格好いい男の子役を演じてからは女の子のファンも増えて、お菓子なんかも差し入れて貰えて大変満足な時間であった。

 

「もぎゅ、もぎゅ」

 

「そんなに食って、太るなよ」

 

私は先輩のあんまりな物言いに、口の中に入れていたチョコを飲み込んでから全力で抗議を行う。

 

「もう! デリカシーがありませんよ! 先輩!」

 

「何がデリカシーだ。僕は君に何度も言ったぞ。女なら、少しは恥じらいを持てと! そんな事を言わせる女にデリカシーだなんだと言われたくはない!」

 

「はーじーらーいー? 持ってますけど」

 

「どの口が。今日だって、部室に僕が居るのに、スカートの下に、下敷きで風を起こして、パタパタとやっていたじゃないか! その度にスカートが揺れて……くっ」

 

「いやだって、暑いし」

 

「暑いのならクーラーでも扇風機でもつければ良いじゃないか!」

 

「先輩。部室にそんなもの。無いですよー」

 

「なら、ある所に行けば良いだろう!?」

 

「えー。でも、そこには先輩が居ないじゃ無いですかー」

 

「……はぁ。君って奴はどうしてこうも」

 

「なんです? なんです? こうも?」

 

「何でもない」

 

「えー。気になる気になるー」

 

私は先輩の肩を捕まえてガタガタと椅子ごと揺らした。

 

最初は遊びで揺らしていただけだったが、その内楽しくなってしまい、先輩の静止も聞かずやり続けてしまった。

 

だからか、先輩はやや声を荒げながら、私の腕を捕まえて、私を近くの壁際に追い込んだ。

 

ちょっと前の演技でもやった壁ドンって奴だ。

 

「いい加減にしろ。僕でも怒る時は怒るんだ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

何だか急に格好いい所を見せられて、動揺した私は思わず謝罪を口にしてしまう。

 

でも先輩の真っすぐな目はやたらと分厚いレンズを突き抜けて私を射抜いていた。

 

だから、思わずキュッと目を閉じて、待つ。

 

「っ、な、なにをしてるんだ!」

 

「いえ。そういう雰囲気かなと思いまして」

 

「からかうな! 僕は君の玩具じゃないんだ!」

 

「本気、ですよ」

 

私は目を開き、今度は先輩の腕を逆に掴んで顔を近づける。

 

先輩に近づくだけで高鳴る心臓は、私に恋を知らせているのか……それは分からない。

 

でも、近くに居たいという気持ちも、先輩にぎゅって抱きしめられても構わないという気持ちは本当だった。

 

だって、先輩は、私の人生に光を与えてくれた人だから。

 

「だ、駄目だ。僕は、君に、相応しくない」

 

「相応しい。って何ですか? 私の気持ちは私が決める事。私と先輩の気持ちは私たちが決める事ですよね?」

 

先輩の目を見つめたまま、一歩足を踏み込んで先輩に近づいた。

 

これ以上ないくらい近い距離の、さらに奥深くへ踏み込んでゆく。

 

「は、離れてくれ!」

 

「嫌です」

 

「君が言ったんだろう! 僕達の気持ちは僕達が決める事だと! 僕は僕が認められないんだ!」

 

「なら、どうすれば認められますか?」

 

「……っ、僕は! 僕は世界一の映画監督になる! 誰よりも、凄い映画を撮る。だから、その時、その時は! 君にプロポーズさせて欲しい」

 

強い火の灯った瞳に、私は体の奥で何かが震える感覚を覚えながら、先輩から離れた。

 

そして溜息を一つ吐いて、頬を赤く染めながら動揺し、呼吸を荒くしている先輩に一言。

 

「しょうがない。じゃあその映画。私がすぐに撮らせてあげますよ。だから、覚悟。してくださいね」

 

私は先輩をジッと見ながら、クスっと笑うのだった。

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