願いの物語シリーズ【星野雛】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第5話『私、十年待ってる間。練習しとくんで! 安心して下さい!』

先輩とのあれやこれや。なんやかんやがあった日から数日、私は考えていた。

 

あの時、先輩は私に相応しいと自分で思えたらプロポーズすると言っていた。

 

つまり、その時には結婚という事だ。

 

なら? 今の状態は?

 

もしかしてもう付き合ってるんか? 付き合ってるだろ。いや、付き合ってるな! 間違いない。

 

まぁ、先輩は男らしく、女らしくーなんて言葉に拘っている人だからなー。きっと私から告白っぽい事を言われて悔しかったんだろう。

 

それで、プロポーズは僕からするぞ。なんて予告した訳だ。

 

むふふ。可愛い奴め。

 

仕方ない。私は我慢してやろう。むふふ。

 

「なにを一人でニヤニヤ笑っているんだ君は」

 

「いーえ。なーんにも無いですよ。むふふ」

 

「……その顔、他人に見せるなよ。特に君のファンにはな」

 

「っ!!? もしかして、嫉妬ですか!? 先輩ってば私の事そんなに好きなのー!? やだー!」

 

「違う!! 君のファンは君に綺麗なイメージを持ってるんだから、そういう意地汚い様な顔は見せるなと言っているんだ」

 

「へーへー。分かってますよ。クリーンな感じね」

 

「本当に大丈夫か?」

 

「とーぜん! 今だって十分に出来ているでしょう?」

 

「フン。どうだか。僕の前じゃいつもだらけてるじゃないか」

 

「そりゃ先輩の前ですから」

 

「は?」

 

「先輩はどんな私でも嫌いにならないでしょー? ふふっ先輩だけ。特別ですよ。あ。嘘吐いた。お婆ちゃんにも結構駄目な所見せてる気がしますねー。アハハ」

 

「……」

 

「あれ? せんぱーい? せーんぱーい? 怒っちゃいました?」

 

「君は……そういう事を、誰にでも言っているんじゃないだろうな」

 

「はぁ? そういう事?」

 

「その、特別が、どうのとかだ」

 

「いや、だから先輩以外とこんな話しませんて。話聞いてました?」

 

「っ、分かった」

 

先輩は途中まで私の方を見て話をしていたのに、突然顔をパソコンの方に向けてしまう。

 

なんだ! なんだ! その態度は!

 

「ちょっとー! お話するんならちゃんと目を見てお話するのが基本でしょ!?」

 

「やかましい。もう話は終わりだ」

 

「ぶーぶー! 私はまだ話足りないぞー!」

 

「僕は忙しいんだ。話は、終わり!」

 

「ちぇー。おもしろくなー」

 

私は暑くなってきたなと窓の方へ向かい、勢いよく窓を開ける。

 

「壊すなよ」

 

「壊しません!!」

 

人をゴリラか何かだと思っているんじゃなかろうな。この人は。

 

素っ気無く放たれた言葉に、私の繊細な心が傷ついて……たりはしないけど。少しだけ寂しい。

 

もっと先輩で遊びたいのになぁ。残念だ。

 

まぁ、映画監督になる為に今頑張ってるみたいだし。しょうがない。私は待っていてあげようじゃないか。

 

良い女というのは、言われずとも察し、行動出来る人間である。

 

何も無ければ静かにしててあげよう。

 

私は窓の近くに机を持って行って、そこに座り込みながら本を開いた。

 

外から流れてくる風はやや強いが、この暑い季節には心地よく、私は物語の世界に入り込んでいった。

 

 

 

「……! ……か! ……な! 星野、雛!!」

 

「ん? なんか呼ばれました?」

 

「ようやく気付いたか」

 

「ようやくって、あぁ、すみません。本読んでたんで」

 

「分かっているから謝らなくていい。ただ、もう帰る時間だ」

 

「はーい」

 

返事をしつつ、机から降りて窓を閉じようとしたのだが……既に閉まっていた。

 

はて? 窓を開いて読んでいた様な気がしたのだけれど。気のせいだったか?

 

「あれ? 先輩。窓開いてませんでしたっけ」

 

「僕が閉じた。風が強かったからな」

 

「あー。そりゃごめんなさい。なんか紙でも飛びましたか?」

 

「……」

 

何でもない日常の会話が急に止まり、先輩は私をジッと見る。

 

見えない何かを探す様な、なんとも言えない視線だ。

 

「どうしました?」

 

「いや。何でもない。ただ、そうだな。これから窓の近くで本を読むのは止めた方が良い。ここは一階だし。外から見える」

 

「先輩……そんなに人から注目される事が恥ずかしかったんですか?」

 

「僕じゃない!! 君が、だ!」

 

「はぁ……なんでです? 私役者なんて目指してますし。見られて困る事なんて何も無いですけど」

 

「っ、君は! 君は僕が好きなんだろう!?」

 

「えっ」

 

「告白してきたじゃないか! アレは嘘だったのか!? からかっていたのか!?」

 

「い、いえ。違いますよ。本心ですよ」

 

「なら今後は気を付けてくれ!! 以上だ!!」

 

えぇー? どういう事ぉ!?

 

なーんでこの人突然怒り始めちゃったのー?

 

私は鞄を持ち、怒り、ズンズンと足を鳴らしながら歩く、先輩の後ろを歩きながら考える。

 

今の会話のどこに怒らせる要素があったのか。

 

おそらくは私が窓際で本を読んでいた事に先輩は怒っていると思う。

 

一人で本を読んでいたから怒っていた?

 

いや、違う。だって、前にソファーで読んでいた時は怒っていなかった。寝転がって読んでたら怒られたけど、これはだらしがないからだろう。

 

お婆ちゃんもこれでよく私を叱る。

 

なら、だらしがない方面か? 窓際で本を読む事がだらしがないと判断されたのでは?

 

いや違うな。これだって前にも同じ事をやっていた。

 

窓開けて、先輩の作業を何となく一時間くらい眺めてたけど、全然怒って無かった。まぁ見てる事には顔真っ赤にしながら怒ってたけど。

 

ふふ。可愛い可愛い。

 

また機会があったら先輩の頭ポヨポヨなでなでしよ。

 

「おい」

 

「なんでしょう?」

 

「何か今、不穏な気配を感じたんだが、妙な事を考えてないだろうな」

 

「その様な事は! 断じて考えてませんよ!」

 

「……なら、良いけどな」

 

セーフ!! 危ない危ない。先輩は勘が良いからな。気を付けないと。

 

しかし、そうなるといよいよ分からない。

 

いやっ! 待てよっ! 先輩は確か、言っていたな。一階だから外から見えると。

 

つまり、私が誰かに見られてしまう事が先輩にとって不快だったのではないだろうか!!

 

最近は演劇部で露出も増えたからか、ファンも増えたし。それで、先輩ったら……私が自分だけの物じゃ無くなったと思って!

 

嫉妬してたんだー! やだぁー!

 

それで不機嫌になってたの!? えー? なになに? 先輩私の事好き過ぎでは!?

 

もー仕方ないなぁ。むふふ。

 

「せーんぱい」

 

「なんだ。急に変な声出して」

 

私は周囲を見て、私と先輩以外誰も居ない事を確認し、ササっと先輩に近づき耳元で囁いた。

 

「私は先輩の事、大好きですからね。手を伸ばしたらちゃーんと届きますよ」

 

「なっ」

 

「そんなに怖がらなくても私は先輩のものですから」

 

「もっ、はっ! はぁ!?」

 

「ふふ。私、待ってますからね。先輩」

 

なーんて。

 

ちょっと前に読んだ本のセリフを参考にしてみる。

 

まぁ、先輩にギュって抱きしめてもらえるのは、きっとまだまだ先なんだろうけどなー。

 

それに、キス、とか。

 

お婆ちゃんは結婚式の後にしてたって言ってたけど、果たして私の心臓が耐えられるかは疑問だ。

 

今だって、こうして近くに居るだけで苦しくなるくらいなのに、抱き着いたりしたら、もう駄目かもしれない。

 

「君は! 君は、そんな事ばかり言っていると、本当に襲われても知らないからな! 僕の理性だって、無限じゃ無いんだ!」

 

「せ、先輩は! 私の事、そういう風に、見てるって……事ですか?」

 

何だか恥ずかしい事を言っている様で、顔を背けながら先輩に問う。

 

普段は目を見て話せなんて言うのに、この時ばかりは直視できない自分が少し情けなかった。

 

「そ、そりゃ、僕だって男だ。君を! その……抱きたいとだって、思う。軽蔑するかもしれないが、これが僕の本心だ。そういう欲は僕にだってあるんだ」

 

「……わっ、私も、先輩になら、抱きしめられても良い、です」

 

は、恥ずかしい。

 

顔から火が出そうだ。

 

「で、でも! その、恥ずかしいので、心の準備が出来てからで……いかがでしょうか」

 

「っ、分かってる! 僕だって今すぐという話じゃない! 僕らはまだ子供だ。体は大きくなっても働いている訳じゃない。君の将来だってある。だから、今じゃない」

 

今じゃないという言葉に少し安心する。

 

しかし、新たに不安も浮上してきてしまった。

 

今じゃないなら、いつなんだろうかと。

 

「え、っと。今じゃないって事は、明日……とか。じゃないですよね?」

 

「当たり前だ!! 少なくとも十年くらいは後だ。まぁ僕の頑張り次第ではあるんだろうが。君にその意思があるというのなら、どんな苦難にだって挑むつもりだ」

 

「十年」

 

言葉にして、自分の胸の奥で高鳴る心臓に意識を向ける。

 

うん。それくらいあれば大丈夫かな。落ち着く様な気もする。

 

「長いか? いや、長いだろうな。しかし」

 

「いいえ。私はちょうど良いですよ。先輩。だから、待ってますね」

 

「……すまない」

 

「何を謝る事があるんですか。私だってこうは言いましたけど、心の準備とかもあるんですからね」

 

「そうか。そうだよな。君だって普通の女の子だもんな」

 

「もー。なんだと思ってたんですかー? まったく」

 

ずっと先の話だと思ったら何だか安心してきた。

 

しかし、何だかこのまま話を終わらせたら、私が情けない奴みたいに思えたので、宣言だけはしておく事にする。

 

そう。私はただ待っているだけの女では無いのだ。

 

良い女とは、察して行動するもの!!

 

ふふふ。我が家には大きなパンダのぬいぐるみがありますからね! それで練習してますよ! 私は! 抱きしめたり、その……キスしたりする練習!

 

天才ではなかろうか!

 

まぁちょっち小さいけど。

 

「じゃあ帰るか。なんだか落ち着かない一日だった」

 

「そうですねー。じゃ! 先輩。最後に一つだけ!」

 

「なんだ?」

 

「私、十年待ってる間。練習しとくんで! 安心して下さい!」

 

「……は?」

 

「先輩は先輩で頑張るし。私も先輩をガッカリさせない様に頑張りますね!」

 

「ガッカリって、おい! お前っ! 一人で何をするつもりだ! いや、何って、聞きたい訳じゃ無いんだが」

 

「あー。大丈夫ですよ。一人で練習する訳じゃ無いですから! パン君と一緒です。じゃ! そうと決まれば今日は帰りますねー!」

 

「待て! おい!! パン君!? 星野! 星野雛!!」

 

「お疲れ様デース!」

 

「許さんぞ!! 星野雛!! 僕は……!」

 

まだ騒いでいる先輩を振り切って、私は家に急いで帰宅した。

 

お婆ちゃんには何か嬉しい事でもあったの? と聞かれたが、先輩と楽しい話をしたと伝えておいた。

 

そして、この日の夜は、何故か先輩から電話を掛けて来てくれて、夜遅くまで長話をして過ごすのだった。

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