願いの物語シリーズ【星野雛】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
唐突に。
本当に唐突に先輩がパン君に会いたいと言ってきた。
私とどういう関係なのか聞かれ、子供の時からずっと一緒だと答えたら、そう言ったのだ。
しかし会うと言われても困る。
流石に学校へ持っていくのは大変だし、公園とか他の公共施設では迷惑になるだろう。
だからと言って私の家に招待するのは……ちょっと、やだ。
ピンクの壁紙とかじゃないしフリルのカーテンとかも無いから、女の子っぽい部屋じゃ無いし。
先輩に幻滅されるのは、嫌だ。
そこで、私はピーンと閃いて、先輩に言い放ったのだ。この問題を解決する方法と、私の好奇心を同時に満たす方法を!
「先輩の家で。というのはどうでしょうか!?」
そう。この時の私はまさに天才だった。
どんな名探偵よりも冴えわたっていただろう。
そして先輩は困惑しつつも、家に行く事を許可してくれて、私は直近の土曜日に先輩の家に行く事になった。
荷物が多いと言えば、車を出してくれると言ってくれて、私は先輩が来るのを待っているのだった。
「む!」
「あら。お客さまね。はいはい。今いきますよー」
家の中にチャイムが鳴り響き、お婆ちゃんが対応するのを私は物陰に隠れながら偵察していた。
微かに聞こえる話し声に耳を傾ける。
「えっと、はい。確かに私は星野ですが……え? 雛ですか? えぇ、家に居ますが」
先輩だ!! 間違いない!!
私はそう確信して、物陰から飛び出した。
「もー! 先輩! 来るのが遅いで……よ? あれ? どちら様ですか?」
「おっと。元気な子だね。はじめまして。かな。僕はジョージ・ウィルソン。仕事で役者をやっているよ」
「やくしゃ、さん?」
「そう。まぁ君の様子を見る限り、あまり有名ではないね」
「あ、いえ。私、その……テレビとかあんまり見なくて、ごめんなさい」
「いやいや。気にする事は無いさ。実はね。ちょっと君に話があって来たんだ。少し、良いかい?」
「え?」
私は一瞬お婆ちゃんを見る。
お婆ちゃんも混乱している様子だったけど、私に視線を返して頷いてくれた。
私に任せてくれるという事だ。
しかし、家の中に入られるのは嫌なので、外で話をしましょうとだけ私は返した。
そして、私とお婆ちゃん。ジョージ・ウィルソンさんは近くにある喫茶店に向かう。
最悪何かが起きても、この場所なら商店街の人に助けを呼べるし、大丈夫。
私は自分にそう言い聞かせて、ジョージ・ウィルソンさんに話を聞く事にした。
「それで、私に話というのは」
「あぁ。実はね。君をスカウトしに来たんだ」
「スカウト……ですか?」
「うん。君の演技を見てね。僕は心が躍ったんだ。そして思った。君と同じ舞台に立ちたいと」
「でも、私なんてまだ学生ですし。そんなに凄くは無いと思うんですよね」
「学生だという所には頷いておこう。だから、君には切っ掛けだけ渡しておきたい。もし君にその意思があるのなら、ここに連絡してくれ」
ジョージさんはそんな事を言いながら二枚の名刺を置いていった。
そして用事があるからとお金だけ置いて帰っていく。
遺されたのは、芸能事務所の名刺とジョージさんの名刺だった。
おそらくここに連絡してから、自分の名刺を渡せって事なんだろうなぁと何となく察する。
はてさて、どうしたものか。
「お婆ちゃんはさ。どう思う?」
「そうねぇ。とりあえず名刺が正しいのか調べるところから始めればいいと思うわ」
「それは確かに」
「後は、雛が役者を目指すとして、駄目だった時は違う道も選べるようにしましょうね。という所かな」
「ふむ。確かに。そうだね。うん。ちゃんと考えてみる」
「それが良いわ」
お婆ちゃんと未来の話をして盛り上がっていた私は、ふと誰かが勢いよく店の扉を開いた事に驚き視線を入り口に向けた。
そして、呼吸を荒げながら縋るように私を見ている先輩を見る。
「あれ? 先輩じゃないですか。どうしたんですか?」
「どうっ、したっ、じゃ、ない! 約束っ」
「あぁ。そういえば今日来るって言ってましたね。ごめんなさい。ちょっと急用が入っちゃって」
「……っ」
「でも、別にゆっくり待っててくれれば」
「あの男か!?」
「え?」
「あの男が、パン君なのか!? やけに年上に見えたが、年が離れすぎているだろう!? 確かに見た目は良い風に見えたが、本当に君に相応しい人間なのか!? よく考えるんだ!」
「いや、あの、先輩落ち着いて」
「確かに僕は冴えない男だ。君に相応しい人間では無いだろう! それでも、この想いだけは!! 真っすぐに君を想っているこの心だけは、絶対に誰にも負けないと確信して」
「良いから! 落ち着いてください!」
私は先輩の口を両手で塞いで、急いで腕を引っ張り外へと向かう。
お婆ちゃんにチラっと視線を送ると、ゆっくりしてるとコップを掲げてアピールしてくれた。
ありがたい。
イキなお婆ちゃんに感謝しつつ、私は先輩を勢いのまま部屋に連れてゆくのだった。
「これが!! パン君です!!」
「……は?」
「なんですか。その顔は」
「いや、だって、ぬいぐるみじゃないか。パンダの!」
「えぇ、そうですけど」
「ぬいぐるみだぞ!?」
「いや、だから分かってますって。なんですか? パン君の事、バカにしてるんですか?」
「いやだって、練習って、ぬいぐるみじゃ出来ないだろ!? ま、まさか、生えてるのか!?」
「なにを訳の分からない事を言っているんですか。パン君は私の大事な家族なんですからね。こうやって抱きしめてたら、練習出来るし。その、キスの練習だって、出来るんですから!」
「……」
「ちょっとー!? もしもーし?」
「確認なんだがな。君は子供がどうやって出来るか、知っているか?」
「本当に突然ですねぇ。まぁ、知ってますよ」
「だよな。じゃあ、何だってこんな事になってんだ?」
「んー? どういう事です? だって子供作る話と、パン君の話って何も関係ないですよね?」
「……どういう事だ?」
「いや、どういう事だ、というのは私のセリフなんですけど。だって子供は大人になって、結婚して、二人で寝ると出来るんですよね?」
「間違いでは無いな」
「それと、こうやって抱き着いたりとか、キスしたりするのって、何も関係ないですよね?」
「……そうだな。とは言い難いがそうだな。しかし大きく勘違いしている様な気配も感じる。その寝るというのは具体的にどういう事だ。言ってみろ」
「いや、具体的にも何も、お布団しいて、その上で横になる。ですよね?」
「一人の時はそうだな。二人の時は?」
「二人の時……?」
先輩に言われて、確かに考えていなかったなと、普段しいている布団の大きさを腕で測りつつ二人で寝る姿を想像する。
そこで、ハッと気づいた。
「た、確かにパン君では寝る練習になりませんね」
「そうだろうな」
「パン君の大きさは先輩の半分以下……! これじゃ大丈夫だと思ってても、先輩がはみ出ちゃうかもしれないです!」
「……」
「どうしましょう。もっと大きな布団を買わないといけないんでしょうか。でも、ウチあんまりお金無いんですよね。先輩の家の布団はどうですか? 大きいですか?」
「……はぁ」
「どうしました? せんぱーい?」
「見に来るか?」
「え!? 良いんですか。行きたいです!」
「君さえ良ければ一緒に寝ても良いぞ。子作りの予行演習でもしてやろうか? 避妊なしで」
「お試しって奴ですね! あ。でもお風呂入って無いので、汚いかもですけど」
「大丈夫だ。シーツを洗えば良いからな」
「なるほど! 流石先輩! 天才ですね!」
「……はぁ。そうだな。悲しいくらい、僕もそう思うよ」
それから私は先輩が乗ってきた車に乗って、とんでもない大きさの家に向かった。
当然というか、その家は先輩の家で、私はその大きさに興奮して大はしゃぎしてしまうのだった。
そして、案内された先輩の部屋はとても大きくて、ベッドも私の布団より大きかった。
「おぉ……これが噂に聞いていた」
「噂をした覚えは無いけどね」
「乗ってみても良いですか?」
「好きにしろ」
「わーい!!」
私は思い切ってベッドに座り、そして横になってみた。
驚きのふわふわ感だ。ウチの布団とは大違いである。
バタバタとベッドで遊んでいたのだけれど、先輩が横に居るメイドさんと一緒に私を見ている事に気づき、当初の目的を思い出した。
マズイマズイ。子供っぽいと思われてしまう。
遊ぶのはまた今度にしよう。
「うん。良いと思います」
「そうか。満足して貰えて助かったよ。じゃあ、峰倉さん。このシーツ洗っておいてください」
「分かりました」
「あ、わざわざごめんなさい。ありがとうございます!」
「いえ。問題ありませんよ。若奥様」
「峰倉さん!!」
「おっと失礼しました。今はまだ、星野様でしたね。ふふふ」
先輩とメイドさんの峰倉さんは楽しそうに笑っていて、とりあえず怒られなかったし、問題は無しと判断した。
ただ、先輩がもう洗ってと頼んでしまった為、そこに待ったをかける。
「先輩。まだ洗っちゃ駄目ですよ?」
「ん? なんでだ?」
「あぁ。なるほど。確かに。星野様がお帰りになられてから残り香でのお楽しみ時間がありましたね」
「峰倉さん!」
「おほほ」
「いえ。先輩と一緒に寝てどんな感じか確かめるって話だったじゃないですか。それに予行演習するんですよね? えっと、ひにん? 無しで。でしたっけ」
「あら」
「なっ、そんな約束をした覚えはない!!」
「えー。してましたよー! ほーらー。一緒に寝ましょう?」
「あら。あらあら。あらあらあらー。これは失礼しました。邪魔者は退散しておりますね。ふふふ」
「違う!! 誤解だ!!」
「奥様ー!? 奥様ー!! 大変でございます!! お孫様が!! お孫様ができますよ!!」
「峰倉さん!!!」
凄い勢いで部屋から出ていったメイドさんと先輩を見ながら、楽しそうだなぁと私は思わず笑ってしまった。
そして、誰も居ない事を確認して勢いよくベッドに倒れ込む。
そのまま近くにある枕を抱き寄せて、目を閉じた。
「せんぱいの、匂いがする」
ジョージさんから聞いた話、お婆ちゃんと話した話が頭の中でグルグルと回っていたけれど、先輩の気配を感じて心が落ち着き、私はそのまま深い眠りの中に落ちてゆくのだった。