願いの物語シリーズ【星野雛】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第8話『電話が鳴ったらすぐに教えてください』

時が流れ、私と先輩は高校を無事卒業し、先輩のお父さんがオススメしてくれた劇団に入団した。

 

先輩のお父さんが言う通り、確かに劇団は良い人たちばかりで、私は毎日充実した日々を過ごしていた。

 

しかし、しかしだ。問題がある。

 

そう。既に話は聞いていたが、観客が非常に少ないのだ。

 

経営は赤字だし、人が来ないのではモチベーションにだって関わってくる。

 

そこで私は一つ手を打つ事にした。

 

そう。ジョージ・ウィルソンさんに頼る事にしたのだ。

 

まぁ勧められた事務所への所属を断った以上、頼み事をするなんて、なんだコイツと思われてもおかしくは無いが、怒られるのならその時考えようと思う。

 

という訳で、早速私はジョージ・ウィルソンさんに連絡を取り、劇団について相談した。

 

意外、という訳ではないが、ジョージさんは私の悩みを聞いて、怒るでもなく解決策を示してくれた。

 

それが……。

 

「映画出演ですか」

 

「そう。僕と一緒に出演しようじゃないか。そして、その映画関係でバラエティー番組とかに呼ばれるだろうから、そこで劇団の宣伝をすれば良い。どうだい?」

 

「私は嬉しいですけど。ジョージさんは良いんですか?」

 

「勿論だよ! 前も言ったけど、僕は君と一緒に映画を撮りたいんだ」

 

「分かりました! じゃあ、お願いします!」

 

私はジョージさんと握手をして、詳しい日程を確認し、別れた。

 

そして、そのまま劇団の人には軽く事情を説明して長期連休を貰い、ジョージさんとの映画に挑む。

 

ジョージさんは今までに共演したどんな役者の人よりも凄い人で、私は色々な事をジョージさんに教わりながらより演技の質を高めてゆくのだった。

 

 

 

そんなこんなで時間は過ぎ、私が劇団に入団してから二年が経ち、今ではすっかり人気になった劇団で私は日々楽しく役者をやっている。

 

私目当てで来てくれる人もいて、我ながら中々人気の役者になったと鼻も高々である。

 

「今日も大盛況だったね! 殆どのお客さんが雛ちゃん目当てだったんじゃないのー?」

 

「そんな訳無いじゃ無いですかー。ニヨニヨ」

 

「それが謙遜している顔かー? このっ、このっ」

 

「あう! や、やめてー! きゃはは」

 

共演者の奈緒さんと休憩室でイチャイチャしていたら、不意に扉が開き、難しい顔をした先輩が入ってきた。

 

そして、お茶を入れて飲む。

 

何だか酷く疲れている様な様子だった。

 

私は奈緒さんと目を見合わせた後、なるべく明るい声を作りながら、先輩に話しかける。

 

「せーんぱい。今日の舞台どうでした? 私的には最高の高! って感じだったんですけど」

 

「……どこかだ」

 

「え?」

 

「君はあの程度で満足なのか? ジョージ・ウィルソンと共演した映画の方が、楽しそうだったがな」

 

「それは」

 

「別に無理してこんな所に居なくても良いんだぞ。君が欲しい事務所も劇団も腐るほどあるんだ」

 

「わ、私は、先輩も居るここが」

 

「そうやって! 僕を理由に使うな!!」

 

「っ」

 

私は本気で怒る先輩の声に、両手を握り締めながら一歩二歩と後ろに下がってしまう。

 

苦しい。

 

胸が、苦しい。

 

なんだか呼吸も上手く出来ない。

 

前はもっと上手く出来ていた筈なのに、何だか最近は全然上手く出来なかった。

 

何がいけなかったんだろう。どうしてこんな風になっているんだろう。

 

自分に問いかけるが、答えは出なかった。

 

「……すまない。少し頭を冷やしてくる」

 

「わたしこそ、ごめんなさい」

 

いつの間にか私の体を支えてくれていた奈緒さんに導かれて、私はソファーの上に座る。

 

そして奈緒さんに促され、ポツリ、ポツリと先輩と上手く行かないという話をした。

 

大人な奈緒さんからなら何か答えを貰えるかもしれないと思ったのだ。

 

しかし、奈緒さんの反応はあまり良くない物だった。

 

「多分、よくある事なんだと思うよ」

 

「よく、あること」

 

「そう。子供の時はさ。無邪気に好きだ嫌いだーで人を選べたけど。大人になると利害関係とかも出てくるから。それにやっぱり葉桜さんには雛ちゃんが重いのかもしれないね」

 

「重い? ですか?」

 

「そう。雛ちゃんはさ。眩しいから、誰もが手を伸ばしたくなるけど、届かないって知った時の絶望は大きいんだよ。才能の壁とかもあるけどさ。他人なら近づかないって事も出来るけど、葉桜さんは雛ちゃんと仲が良かったからね」

 

「……私、どうしたら、良いんでしょうか」

 

「うーん。そうだねぇ」

 

奈緒さんは腕を組みながら悩み、そして一つの提案を私にしてきた。

 

「じゃあ。お姉さんから一つ提案があるんだけど、良いかな?」

 

「提案……なんでしょうか」

 

「私と一緒にちょっくら旅に出ようじゃないか。雛ちゃんが自分を見つける為の旅にさ。劇団を離れて、誰も知らない場所で、役者として活動してみれば、何か見える事があるかもしれないよ?」

 

奈緒さんに言われた言葉を自分の中で繰り返して、考える。

 

そして、家に帰ってから考えると告げ、その日は帰り、私はお婆ちゃんに相談してみる事にした。

 

「という訳なんだけど」

 

「そうかい。雛はどうしたいんだい?」

 

「私は……正直悩んでる。お婆ちゃんの事もあるし」

 

「……ふふ。雛は本当に優しい子だねぇ。でもね。もう良いんだよ。私に囚われなくても」

 

「別に私は囚われてなんか!」

 

「囚われているさ。だって、私が居なければ、雛はきっとその人の誘いに乗って、動いていただろう?」

 

「それは……そうかも、だけど」

 

「だからさ。良いんだ。婆ちゃんの事は置いて、飛び立って良いんだよ。どこまでも遠い空に。雛はいつか大空に飛ぶもの。だからね」

 

「……お婆ちゃん」

 

「でもまぁ、最期の時が来たら、その時は、顔を見せてくれると嬉しいね」

 

「うん。分かってる。最期なんて言わず、毎月帰ってくる」

 

「無理はしないでね」

 

「大丈夫。大丈夫だよ。ありがとう。お婆ちゃん」

 

私はお婆ちゃんを抱きしめて、奈緒さんと共に新しい世界を目指した。

 

 

 

新しい世界は今までとは違い、難しい事が数多くあった。

 

その多くが共演者とのトラブルであったり、監督との衝突であったりした。

 

かつて映画を撮った際にはジョージさんが間に入って話をしてくれた為、殆どトラブルらしいトラブルは無かったが、私一人になると難しい事ばかりだった。

 

こういう所も先輩にはいつも助けて貰っていたんだよなぁ、なんて思い出し懐かしくなる。

 

しかし、それは甘えだった訳だ。そしてその甘えが先輩を苦労させてしまった。

 

だから私は甘えを捨てて、何とか話し合い、少しでも良い映画にしたいと頑張った。

 

だが、頑張れば頑張るほどに人は離れてゆき、気が付くと私は一人で戦う事も多くなっていた。

 

それでも折れなかったのは奈緒さんや電話でしか話せないけど、お婆ちゃんが居たからだ。

 

先輩も記憶の中で応援してくれていたし。それも助けになっていた様に思う。

 

私はみんなに力を貰って、私は映画撮影に挑んでいた。

 

そして、いくつもの映画に出演していた私は、ある話題作に出演する事になった。

 

とは言っても、主演じゃないけれど。

 

まぁ、一歩一歩先へ進んでゆく事が大事だと自分に言い聞かせ、撮影に挑んでいたのだが、この映画が非常に難しい映画だった。

 

いや、役はそこまで難しくはない。すぐに乗れたし、今出せる自分の最高は出せていると思う。

 

しかし、難しいのはやはり共演者だった。

 

特に主演のアイドルさんが難問だったのだ。

 

「あー! もう!! いい加減にしてよ! バカにしてんの!?」

 

私の前でそのアイドルさんは地面にペットボトルを投げ捨てて、怒り散らす。

 

彼女は私と一緒に共演するのが楽しくないと言って、いつも怒っているのだ。

 

どうすれば良いのか。考えたけれど、答えは出ず、何とかしてくれという監督の声にも応える事は出来なかった。

 

撮影は遅れ、遅れているというのに、アイドルさんの癇癪はより強くなっていった。

 

しかし、アイドルさんは大手事務所に所属しているらしく、誰も彼女に文句を言う事が出来ずに居た。

 

そして、先の見えない暗雲の中事件は起こる。

 

「……え? お婆ちゃんが!?」

 

そう。お婆ちゃんが倒れたのだ。

 

商店街の人から掛かってきた電話では、救急車で病院に運ばれ、一命は取り留めたらしいが、不安は大きい。

 

とりあえず、何かあったらすぐ連絡をして欲しいと言って、私は時間を作る事にした。

 

しかし、撮影が遅れている状況で何日も居なくなる事に対して監督が良い顔をせず、どうしようもない時だけはお願いしますとだけ告げ、私は撮影に戻った。

 

でも、どれだけ映画に集中していても、焦る気持ちは消えず、私は早く撮影を終わらせたいとアイドルさんとのシーンに挑み続けたが、良い成果は出せなかった。

 

気が滅入る。

 

吐き気がする。苦しい。

 

こんな時に、先輩が居れば、きっと助けてくれるのに。

 

私は、携帯をギュっと握り締めながらお婆ちゃんの無事を祈った。

 

神様……お願い。

 

祈りは届いたのか。分からない。でも祈らずにはいられないのだ。

 

「星野さん。そろそろ準備して下さい」

 

「……分かりました」

 

「あっ、携帯。預かりますよ。持ち込むと、監督も良い顔しませんから」

 

「分かりました。ただ、大事な連絡が来るかもしれないので、電話が鳴ったらすぐに教えてください」

 

「分かりました」

 

それから、監督の指示により私たちはとにかく映画を完成させる為に撮影を続けた。

 

アイドルさんにもいよいよ怒号が飛び、アイドルさんは怯えながらも真面目に撮影に挑んでいる様だった。

 

お陰で、休憩しながらにはなるが、一気にシーンが進んでゆき、順調に巻き返してゆく。

 

これなら間に合うかもしれないと、私は嬉しさを噛み締めながら、撮影に挑み、そして三日間泊まり込みで行った撮影は、連絡がないまま全てが完了したのだった。

 

これでようやくお婆ちゃんに会いに行けると、私は携帯を預けたスタッフさんを探し、携帯を返して貰う事にした。

 

しかし、そのスタッフさんが居ない。

 

おかしいなとキョロキョロ探していると、何だか嫌な顔をしたアイドルさんが近づいて来て、笑いながら携帯を私に放り投げてきたのだった。

 

「これ、アンタのでしょ?」

 

「……なんで」

 

「連絡来たらすぐに教えてって言ってたらしいじゃない? ねぇねぇ連絡来なくて不安だったぁ? でも安心してよ。二日前からずっと鳴ってたらしいからさ」

 

「え!?」

 

私は急いで携帯の着信履歴を確認する。

 

そこには多くの連絡があり、商店街の人や、知らない番号、そして先輩からの連絡すらあった。

 

何があったのか、考えるまでもない。

 

「アハハ! もうフラれちゃったかもね! ジョージさんと共演したか何だか知らないけど調子に乗ってさ!」

 

「っ!」

 

もうアイドルさんの話を聞く余裕もなく、私は駆けだしていた。

 

急いで電車に乗ろうと、撮影のビルを出ると、すぐ目の前の道路に苛立った様な様子の奈緒さんが立っていた。

 

「雛!! 貴女、何やって! 貴女のお婆ちゃんが!」

 

「ごめんなさい。私、すぐ行かなきゃ」

 

「チッ、こんな事なら中に付いていけば良かった。乗って!! すぐに向かう!!」

 

「……ありがとう、ございます」

 

私は車に乗り込んで、凄い勢いで走り出す車の後部座席でただ、ただ祈っていた。

 

携帯を握り締めて、震える手を止める事も出来ず、溢れる涙が指に落ちても、ただ、祈る事しか出来なかった。

 

そして、この大都会に来た時よりもずっと短い時間で、私たちはよく見慣れた町に帰ってきた。

 

しかし、今私の胸にあるのは懐かしさではなく、焦燥感だけだ。

 

早く早くと祈る気持ちに従う様に車はどこまでも早く走り、ある病院の前に止まった。

 

奈緒さんの着いたよという言葉が耳に入った瞬間、私はぶつかるようにドアを明け、病院の玄関を通過し、受付で、お婆ちゃんの名を叫ぶように伝えながら、その病室を聞き、さらに走った。

 

走るなという声も無視して、ただひたすらに急ぎ、その病室のドアを蹴破るように開いて中に飛び込んだ。

 

「お婆ちゃん!!」

 

「……星野!」

 

「ご家族の方ですか? 星野ふみさんが」

 

「雛ちゃん! お婆ちゃんが!」

 

多くの人が話しかけてくるけれど、私には何も聞こえていなかった。

 

ただ、ベッドで寝ているお婆ちゃんの所に向かって、歩き、その手を取る。

 

あたたかい。

 

まだ、あたたかい。

 

でも、お婆ちゃんは目を開けてなくて、眠っていた。

 

「お婆ちゃん? 私、雛だよ。来たよ? ねぇ、目を開けて?」

 

「星野」

 

「先輩、ねぇ、お婆ちゃん、ちょっと夜更かししちゃったのかな。まだ夕方なのに、ねぇ」

 

「すまん。星野」

 

「なんで、謝るの? ねぇ、みんなだって、なんで、そんな暗い顔してるの!? ねぇ!!」

 

「星野。お前のお婆ちゃんは、星野ふみさんは、亡くなった」

 

「嘘だ!! そんな訳無い!! そんなの!」

 

私は認めたくない現実を拒絶する様に首を振るが、先輩に抱きしめられて、何も言えずただ泣き叫んでしまった。

 

先輩から逃げ出して、お婆ちゃんとした約束も叶えられず、私はいったい何をしていたんだろうか。

 

心の内で問いかけても、その問いに答える人間は誰も居なかった。

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