実践訓練を終え、白露達は入渠施設に入っていた。入渠、またの名をドックと呼ぶが史実では船体の清掃や修理に使われる施設の事を指す。だが、今現在は温泉のような形をしており、艦娘達もそのお湯に浸かれば疲労回復、かすり傷程度なら治癒も早くなる。しかし、あくまでかすり傷程度の話。骨折、切断、脊髄損傷、重度の火傷などの傷を治すことはできない。あくまで疲労回復を早めるために使用する施設と言ってもいい。白露達、基白露型全員は大きめの風呂に入っている。
「はぁ、疲れた…」
「確かに。何がとは言わないけど、疲れた」
「あれは不知火の馬鹿が悪いっぽい!涼風の事を馬鹿にするなんて」
「突然ですが整いました!」
「え!?な…何?」
「不知火とかけまして、馬と鹿を間違えた中国の皇帝と説きます」
「……その心は?(いやな予感しかしねえ…)」
「どちらも
……その瞬間、周囲に冷たい風のような感覚がする。白露達含め、風呂に入っていた者達全員が一斉にその場を立ち上がる。
「全員あがるぞー」
『はーい』
「ちょっと待てえええ!謝るから!謝るからすぐに上がらないでえええええΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」
「……ふう、全員上がらずに済んでよかった…」
「涼ちん…いい加減そういうのやめなよ…。海ちんの言うように周りの空気が氷河期になっちゃうよ…」
涼風に話しかけたのは、夕雲型11番艦藤波。不揃いに切られた前髪、セミロングくらいの髪の長さが特徴の少女。普段は髪を右耳の後ろで一つにくくっているが今は風呂に入っているためほどいている。普段は早波同様白地に赤い緑のリボンをしている。気に入った相手や姉妹艦などにはあだ名のように”ちん”とつけることが多い。
「おお藤波。第2班で時雨と一緒の班だったよな?どうだったよ?」
「無理無理無理、白ちんには敵わないって…」
「私より強い奴が出てきても同じことがいえるのかおい…」
呆れながら白露は上を向く。それもそのはず。日本にいる最強格は15人。白露、雷はその中で同率で13番目。一応異名もあり白露が剛拳、雷が雷神の異名を持つ。初霜は最下位の15番目異名は
「じゃあ、白露ちゃん達より強い人たちがあと11人?」
「そのうち2人は早ちんのいく岩川基地にいるんだからね…」
「そういえば、藤波さん、早波さん、浜波さん、あと黒潮さんも岩川基地に所属願いを出していましたね」
同じクラスである海風がそう話す。そもそも、岩川基地とは噂ではこう言われている。問題児達の集まり、人を殺した奴がいる、暴れる奴がいて陸軍などの者が行きたがらないなどなど。さらに、一番やばい噂が戦う提督がいるという話。その提督一人で並みの深海棲艦クラスなら普通に倒せるというとんでもない話。だが、早波の異父姉が岩川基地にいる。それもあり早波がどうしても行きたいという話になったのだ。藤波と浜波は早波と一緒に行きたいから。黒潮が行きたい理由は単純に面白そうだからという話らしい。
「そうそう。早ちんのお姉ちゃんが岩川基地にいるみたいだからね」
「…あれ、そういえば早波さんのお姉さんってどんな方なんですか?」
「う~んとね…重巡洋艦で古鷹型の古鷹って名前なんだ。12歳差で、すごく優しいんだ!左目が金色で”鷹の目”っていう異名があるすごい人だよ」
早波のその発言に、白露と雷、初霜が反応する。さらに、同じ重巡である鈴谷・熊野が目を丸くする。古鷹型1番艦古鷹。改二状態で特殊艤装である対深海棲艦用ライフルを使い、距離1500m以上の相手を狙撃することが出来るほどの狙撃手。重巡洋艦クラスでは上位クラスに入るほどの実力者だ。
「そやけど、その人以上にやばい人があの基地にいるんやで…」
「……なぁ黒潮。お前どうして岩川基地に行くんだ…いや、この話は後だな。そのやばい奴って?」
「重巡最強格の人と軽巡級ではNo.2の人がおる。ソロモンの狼、他には首狩りの異名を持っている人と鬼神の異名を持っている人や。まぁ名前まではまだわからんけどな。最初の質問に対しては、不知火と陽炎のやり取りから離れられるっていうのが半分。もう半分はどういうところなのか自分の目で見てみたいっていうのもあるな!」
黒潮らしいといえばらしいか…と白露は思った。黒潮は自分の目で見て自分で判断するやつだ。おまけに、噂好きで変わった環境下で過ごすことを好む変わり者だ。さらに、陽炎と不知火のやり取りを遠目で見ながら内心離れたいという思いが強かったのだろう。白露目線で見ても呆れ半分で見ているのがよく分かったほどだ。
「そういえば、その不知火は今どこにいるんだい?」
時雨の問いに黒潮は後方にある個人風呂の方を指さす。そこには、最速で大破判定になった神威、そして陽炎、不知火と順番に入っているが不知火に関しては真っ白の状態になって白目を剥いている。さっき吹雪と綾波にボコボコにされていたためそのせいだろう。
「ほんまに、馬鹿な姉艦やで…」
「どこの誰とは言わないけど、引けを取らないよね…」
「時雨、私に言ってるか…?」
「他に誰がいるんだい?」
『以下同文!』
時雨の言ったことに、白露型全員が手をあげて賛同する。確かに組み手を申し込んできた上官を捻じ伏せるわ命令を無視するわ、喧嘩沙汰をするわで色々問題を起こしているからだ。しかし、こんな白露でも母親には頭が上がらないし姉妹艦に対しても口調では語気を強く言ったりするものの、決して手を挙げることはしていない。むしろアドバイスなどをして逆に懐かれるほどだ。それこそ、戦闘が苦手な春雨に対して「前線にいるのが嫌なら後方支援に徹してろ」と言ったり、過去のトラウマが原因で自信を持つことができず、自己肯定感が低かった山風に対しても「何かがあったら
「…はぁ、全くお前らは…」
「事実ですけど、五月雨達には優しいじゃないですか!」
と五月雨。
「山風のことがあって、白露姉さんに付いて行きたいと思いました!」
と海風。
「怒られたけど、あれは私のことを思って言ってくれたし…」
と山風。
「あたいは白露の姉貴に付いていくぜ!」
と江風。
「一緒にいると楽しいから!」
と涼風が言う。あっそと言い、少しだけ口角を上げる白露。そして、ゆっくりと湯船から上がると入り口の方へと向かう。時雨も白露についていった。
「さてと…」
白露と時雨は利根の言われた通り、元帥と母、星羅が待っている第1会議室の前に立っていた。星羅がいるということは話の内容は大体察しがついている。おそらくだが、父方の祖父が関係しているのだろう。ここ数日以内にここに攻めてくるのか、捕まったのかのどちらかだ。後者であれば非常にありがたいが、前者であれば大変なことになると思う(主に攻めてきた相手側が…)。とりあえず2人は目を合わせた後に会議室のドアをノックする。中から「入ってくれ」と言われた後に中に入る。中に入ると元帥である山本勘兵衛、三大将の1人である斎藤慎二がいた。2人の特徴は山本が短髪にちょび髭が生えているのが特徴で、斎藤は少し長めの白髪で筋骨隆々なのが特徴的だ。さらに、星羅と3人の男性が立っていた。1人は初老の男性で2人は星羅と同じくらいの年齢の男性だ。1人は短髪で左目の下に泣きボクロがあり、1人は肩までかかる長い髪が特徴の男性だ。その1人が白露と時雨に向かって飛び掛かってくる。
「久しぶりねー!焔~!雫~!あららΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」
白露は飛び込んできた男性に向かって蹴りを入れる。時雨はこの光景に慣れているのか少し苦笑いを浮かべている。蹴りを入れられた男性は叔父である
「いきなり蹴りを入れるなんて酷いじゃない焔!」
「よく言うよ。ダメージそんなに入ってないじゃん…」
「あらばれた(^^♪てへぺろ♪」
『てへぺろじゃなくてね…』
「怜王のこの性格は治らんさ…昔からだからな…」
明智小次郎。2人の父親で性格は無口で感情があまり表には出ないが面倒見がいい。逃走生活を続けながらも、たまに白露達の前に顔を出していた。
「2人ともしばらく見ない間にまた強くなったのう。さすが我が孫じゃ!」
佐藤一星。2人の祖父であり、海軍・陸軍の護身術講師として何回か来たことがある。斎藤とは同郷でもあり同じ格闘仲間。3人の顔ぶれを見て何かを察したのか、白露はおもむろに口を開く。
「感動の再会って訳じゃなさそうだな…」
「あぁ、その件は私から話そう。どうか掛けてほしい」
元帥である山本が話す。白露達は対面にあったソファーに腰掛ける。山本・斎藤もソファーに腰掛けた。かなり重要な話なのか表情はかなり真剣だ。
「単刀直入に話す。明日の明朝、明智源五郎が率いるテロリスト達が攻めてくる」
「本当に急なんですね…でも情報がこっちに入っているってことは、楽勝なんですよね(笑)ぐへへへへ」
不敵な笑い声をあげながら星羅が話す。それもそのはず、ここに所属している陸軍は屈指の精鋭達だし一星、小次郎、怜王など屈指の実力者達がいる。白露も時雨も正直そんなに心配していない。テロリストに敗北するほど大本営に所属している者達は甘くない。相手が可哀そうになるくらいに。
「…まぁ…俺達もいるから大丈夫だ…」
「あのくそ親父をぶちのめせるなら私は一向に構わないわ。ぐへへへへへへ(笑)」
「確かに、わしらがいる限り問題ないわ。源五郎にはわし自らも制裁を加えてやる!」
「私達の人生をめちゃくちゃに仕掛けたんだから当然の結果よね~。ふへへへへへへ」
頭を抱えながら4人のやり取りを見る白露。この4人は白露でも異能無しでの戦いであれば普通に負けるし、星羅とやりあうときは異能を使っても勝てないというとんでもない実力だ。元帥である山本・大将の斎藤もそうだが人類側で言えば最強といっても過言ではない。
「ごほん。一星、お前らまさかテロリスト達と戦うつもりか?」
「もちろんじゃ慎二。わしらが出向かなくてどうする?」
「しかし客人であるお前達に手伝ってもらうのはな…」
「よいではないか斎藤。ここに所属している者達にもいい刺激になるだろう!」
「ふむ、元帥がそう言うなら…。だが、おぬしらが出るのならわしも出るぞ一星。わしだけじゃない、他の者達も必ず出る」
ここの空間に私達いる意味ある?と白露は思う。まぁ、父に叔父に祖父と会えたからいいが。それでも、話が白露達抜きにとんとん拍子で進んでいるため白露は呆れながらこの会話を聞いていた。明日の明朝に襲撃があるというのにどうしてこんなに余裕があるのだろうと思う。いや、戦力が整いすぎてるから余裕があるのかもしれない。大本営の第1から第3艦隊の精鋭達、陸軍トップ3の実力を持つもの。そして、ここにいる全員。本当に過剰戦力だ。
「あぁ、それと夕方頃に呉から1人艦娘が援軍としてくる」
「げ、呉!?まさか似非英語を話す金剛型のあいつじゃないよな?」
「なぜそこまで彼女を毛嫌いしているのかはわからないが、違うものが来る」
「へぇ、一体誰さ?」
「それは、来てからのお楽しみじゃな」
そう言って元帥は机に置いてあったお茶を飲む。何やら濁されたような気がするが、白露は気にしないようにする。しかし、テロリストのために艦娘が援軍で来るなんてことは普通ない。呉鎮守府に所属している者達は基本的にテロリストや陸軍の事を嫌っている者が多い。その中で一番その者達に憎悪を持っているものと言えば呉の提督か一部の艦娘だ。
(中でも一番テロリスト達を憎んでいる奴と言えば、確か異名持ちで最強格の艦娘2人のどっちかか。2とも相方がここの医療施設にいるしな…)
「とにかくじゃ。こうして家族全員が揃ったんじゃ。大部屋をとってあるから皆でそこに寝泊まりするといい。襲撃の件については、後ほどここの全員に伝えておく」
「まぁ素晴らしい!家族全員川の字で寝れるわけね!こうなったら、焔の隣に寝てへぶ!?」
「ぶっ倒されたいのか怜王兄!」
「もう倒されてるのだけど焔…」
「怜王兄…受け身もとってるし殴られる瞬間にもしてるよね…」
「あらさすがね雫!その通り☆」
「…こりゃ陸軍内で手合わせ殺到するだろうな…」
白露の思った通り、この後めちゃくちゃ怜王や小次郎、一星らに手合わせが殺到するのだが、長くなるため割愛する。
ーーー元帥達と話した後、夕方頃
「ふははははは!この私と対等に戦えるものがここまでいないとは情けわいわね陸軍は!」
「いや怜王兄が強いんだって…」
「唯一対等に戦えたのは、陸軍№3の横山さんくらいだったね」
手合わせを見学していた白露と時雨。陸軍達がぼこぼこにされるのをただ糸目で見ていた。大抵は一撃で倒されるし、一星も小次郎も相手を軽くあしらっていた。本当にこの3人に互角とは言えずとも、何とかやりあえたのは陸軍の横山和彦くらいだった。
「う~ん、明日のためのいい運動になったわ!あぁ、すっきりした」
「…話変わるけどよ…さっき医療施設のほうに誰か入っていったな…」
「医療施設に?父さん、特徴はどんなだった?」
「…確か、前髪がぱっつんで、黒髪のおさげが特徴の女だ。長袖のベージュだったな」
「…待てよ…その特徴ってことは」
「あ~そうそう。呉からの援軍ってのはあたしだよ~白露」
「……はぁ、北上…」
球磨型3番艦。重雷装巡洋艦北上改二。白露同様日本最強格、軽巡クラス最強の艦娘。白露は正直北上と関わることが苦手だ。ゆるい雰囲気を発していながら、目の奥はどす黒い何かがある。冷めた様子で周囲と関わることが多く、特に駆逐艦に対してはうざい等ということが多い。隣にいる時雨も苦笑いしながら北上のほうを向いている。
「ほお、かなりの手練れとみる。このわしが背後をとられるとはの…」
「お~、臥龍合気道術開祖の佐藤一星さんか~。あなたがいればこのスーパー北上様の出番はないかな~…」
「わしらが出ようが出まいがおぬしは出るじゃろ?」
「…なんでそう思う?」
「3年前の大湊事件。その時に君の相棒は…。いやすまない、この話は聞かなかったことにしてくれ。じゃないとおぬしの心の奥底に眠る怪物を呼び起こしそうじゃ」
一星の発言に、北上は一瞬だけ目を鋭くしているようだった。北上の一瞬の変化に小次郎、怜王、星羅は一瞬だけ構えるがすぐに解いた。
「……じゃ、あたしはこれで。せいぜい気をつけろよ、駆逐艦ども~」
軽く手を振りながら宿舎のほうに向かっていく北上。途中途中すれ違う陸軍に対して睨みつけたりしているのか、陸軍の者達がビビッて遠ざかるほどだ。
「ずいぶんやばい雰囲気を持っている子なのね。あの子は一体何者なの?2人共」
「日本最強格、軽巡最強の艦娘。”不俱戴天”の異名を持つ艦娘だよ」
「不俱戴天?」
「北上さんの能力は正直よくわからないんだ。ただ、怒りが条件なんじゃないかとは言われているけど…」
「不俱戴天とは、主君や親の仇とは一緒に生きていけないこと。恨みあい憎みあい相手を殺したいと思っているという意味じゃな」
「…兄さん、あの子…」
「…強いな。俺達でギリギリか?」
北上の背中を見ながら、別の宿舎へと向かっていく一同。白露と時雨だけは北上の背中を見続けていた。また聞きの状態だからわからない部分もあるが、相棒が医療施設にて今も意識不明の状態だと聞いている。それに、殺したいほど憎んでいる相手を見つけたら、北上は一体どうするつもりなのだろう。やはり殺すつもりなのだろうか。
「…はぁ、本当に明日攻めてくる奴らが可哀そうになってくるわ」
「…確かに…」
「……そうだ!皆ご飯食べに行きましょうよ!ちょうど夕食時だし!」
さぁ、行こう行こうという感じで星羅が全員を食堂のほうに向かわせる。場の空気を察したのだろう。ちょうど夕食時になったため全員食堂のほうに向かうことにした。
「あぁ、おいしい!久しぶりにこんなにおいしいご飯を食べたわ!」
「……美味い……本当に久しぶりだ」
「怜王兄は反応いちいち大げさだし、父さんはいつも通り無口というかなんというか…」
「あぁ、老体にはお茶が染み渡るわ…」
「爺さんは相変わらずお茶が好きだなおい…」
3人の食事を見ながら白露は糸目で見る。如何せん陸軍や海軍の者達が多い食堂なため、当然周囲の目線がこちらに向く。特に女性陣は父と怜王を見て見とれている者が多いが、父に目線を向ける女性陣がいれば、白露が殺気を向ける。当然白露の視線にビビると女性陣は目線をすぐにそらした。
(親父に視線を向けていた奴らの顔は覚えたからなこんちきしょう!)
「こらこら焔。そんな怖い顔をしないの。周りの子達が怖がってしまうわ」
「…わかったよ母さん。だから頭撫でるのやめてくれない…」
「頭撫でないとあなたいつまでも殺気を周囲に向けちゃうじゃない」
(ぐうの音も出ない…)
「がはははは、さすがの焔も星羅には頭が上がらんか!ぬはははは!」
腕を組みながら目線を斜め下にそらす白露。この動作をしているときは照れ隠しの証拠だ。星羅もそれをわかっているのか、その様子を笑顔で見ていた。怜王もその様子をキラキラした表情で見ていたが白露の強烈な目力を浴びてからはすぐに真顔になり食事をしていた。一星、小次郎、星羅、時雨には基本的に甘いがなぜか叔父である怜王には当たりが強い…のだが、基本的に何をしてものらりくらりとされるため白露も諦めているし、時雨は基本的に優しいので怜王のスキンシップを受け入れている。まぁ、時雨が基本的に甘えん坊ということもありたまに星羅や白露の布団に潜り込んでいることが多いのだが。
「話は変わるけどさ…父さん達は明日の朝までどうするのさ?」
「…飯食って…さっと風呂に入って…そのあと寝るさ…」
「明日に備えて準備しないといけないからね。大部屋でみんなで寝れるんだし、お風呂上り後は全員で川の字で寝ましょう!何なら焔、叔父であるこの私の横で寝てもいいのよへぶ!?」
「そんなことするかこんにゃろ(# ゚Д゚)」
「あら厳しいわね。てへぺろ(^_-)-☆」
「だからてへぺろじゃなくてね…」
「……なんか姉貴達のやりとり見てるとさ、すごい家族だなと思うよな」
「今回はお前に同意だよ涼風…」
白露達のご飯風景を横目で見ていた他の白露型一同は全員同じ感想を持つ。あの命令無視や喧嘩沙汰を引き起こすことが多い白露がまるで子ども扱いであるからだ。白露でさえこんな様子ならば、自分達では全くと言っていいほど歯が立たないのではないかと思う。如何せん、陸軍連中がほとんど歯が立たなかったというし。明日のテロリストの襲撃の件は事前に聞かされているので何ら問題はないが本当に相手が心配になるレベルになるような感じだった。
「はぁ、生き返るわ~!」
「母さんも陸軍連中と手合わせしてたからな…」
「そうなのよ…ことあるごとに私も手合わせをお願いされるから困っちゃうのよね…」
白露ほどではないものの、星羅も何かと陸軍の者達に手合わせをお願いされることが多い。そのためかほぼ毎日風呂に入るときはこんな風に大きなため息をはいたりすることが日課だ。
「でも、お母さんも三日後には柱島に行くんだし、ここよりは大分楽になるんじゃない?」
「そうなのよ雫!私も三日後がとてもとても楽しみよ!手合わせもねだられることも無くなるだろうし!」
「…母さんの弟子になりたいなんて奴が出てきたりしてな」
『……あぁ』
白露の発言に、2人は深く考えた後に同時に納得したような、半分呆れたような声を出す。確かに、艦娘だろうが陸軍だろうが星羅の弟子になりたいというものが多くいる可能性が非常に高い。むしろいない方が少ないのではないか。だが、星羅の弟子になれば訓練は非常に厳しいし、白露と時雨でさえ最初の方なんて疲労で体を動かせなく無くなるレベルであった。今は大分慣れてきたがそれでもきついものはきつい。
「…母さんも明日テロリスト戦参加するの?」
「さすがに私は参加しないわよ。食堂で皆のご飯を作っておくわ」
「…そうか」
「何々焔、心配してくれてるの?(・∀・)ニヤニヤ」
「…別に心配は」
「あ、腕を組んで斜め下を向いたよお母さん!」
「あらあらやっぱり心配してくれてるじゃない!私は本当にいい娘を持ったわ~!」
「頭撫でんなよ!?周りに見られるだろ!」
「だが断る!」
「何のセリフだよおい(# ゚Д゚)」
「白露の姉貴~!」
「あぁ、なんだよ涼風?」
「このポーズの元ネタだ!」バアアアアン
「…………あぁ、ジ〇ジ〇ね…」
「…あははは」
唐突な涼風のアニメネタに、時雨は苦笑いを浮かべる。白露は呆れ半分に涼風を見る。星羅はたまにこういうネタを繰り出すことがある。おかげで怜王と一緒にいるときは大体はっちゃけてることが多いのだ。
「涼風よ~。お前も本当アニメネタとか好きだよな…」
「たりめえよ!べらぼうよ!」
「あっはははは!涼風ちゃんも本当に面白い子ね!今度アニメネタ対決でもやりましょうか!
『やめてくれないお願いだから!』
「だが断る!」
「ロードローラーだー!」
「オラオラオラオラオラオラ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ー!」
「二人ともうるせへぶ!」
「にっしししー!やってやったぜ白露の姉貴ー!」
「か~わ~か~ぜ~(#^ω^)」
「げっ!やべ、本気で怒らせちまったΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」
「江風逃げてください!ここは五月雨が何とかします!」
「いえ、なら春雨も手伝います!」
「お前ら江風をかばうな!私がしごいてやる!」
「まぁまぁ白露姉さん落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか村雨!」
わーわーぎゃーぎゃー言いながら全員が風呂場から出る。その後も全員が賑やかな環境で各々髪を乾かしたり寝巻に着替えたりしていた。もちろん江風はしっかりと白露から焼きを入れられしばらく頭が痛かったそうだ。
就寝時間 大部屋
「…んで、結局この並びになるのね…」
「ふふふふふ、この私の計画通りよ!」
「お前が焔の隣で寝ていっていったんだろ…そろそろ叔父離れしないと…嫌われるぞ」
結局並び順は左から小次郎、怜王、白露、星羅、時雨、一星の順になった。星羅は白露と時雨の間に寝たいし、怜王も怜王で白露の隣で寝たい。小次郎と一星はどこで寝れても大丈夫とのことで端っこのほうになった。
「…なぁ、明日余裕で勝てるよな?」
「…さあな」
「さあなって、何かあるわけ?」
「情報によると、テロリスト達が新たな兵器を手に入れたって噂だ。人型の何か…ということしか…わかってねえ」
「改造人間か何か?」
「それはわからんがの雫。だが、その可能性は十二分にある」
その言葉に白露と時雨は少し黙る。この3人がいるから大丈夫だとは思う。それでも、ほんの数%の確率でも絶対に何事もなく終わるなんてことは100%ない。
「…頼むから何事もなく終わってくれよな」
「大丈夫、私達強いから!」
「わかってるけどさ…」
「…お前らは、食堂でゆっくり過ごしているといいさ…」
「…けど」
「もう、焔ったら普段はつんけんしてるけど、やっぱりこういう時は優しいわね!お休みの前に私にハグをへぶ!?」
「殴るよ!」
「もう殴ってるわ焔…」
「ふはははは!それだけの余裕があれば大丈夫じゃて!」
「爺さんは楽観視しすぎだろ(# ゚Д゚)大体なんでこういう時に余裕」
「しー…」
星羅の一言に、一同は一気に静かになる。星羅の左腕のほうを見ると、時雨が抱き着いてすでに寝息を立てていた。久しぶりに全員が揃い安心して寝てしまったのだろう。一度寝てしまったら時雨は朝まで起きない。
「…俺達も寝るか」
「そうしましょうか。雫を起こしちゃうのは嫌だし」
「怜王兄、明日覚えておけよ…」
「ふふふ、任せなさないな!」
「では寝るぞ~」
「えぇ、皆お休み!明日頑張ってね!」
そう言って全員が目を閉じ眠りについた。
『あのくそ親父、本当にこの子達を殺す気!」
『…いくら反艦娘思想とはいっても…ここまでだったとはな…』
『お父さん!怜王お兄ちゃん!』
『大丈夫、ここは私達に任せてお逃げなさい!』
『星羅…子供らを頼む』
『お母さん、血が!嫌だよ誰か…誰かああああ!』
「っ!?」
息を切らしながら勢いよく起き上がる白露。またあの時の夢だ。10年前の記憶。家から追われ、父達が殿をし、母が自分達をかばった時の夢。この2日間で見ることになるとは白露も思っていなかった。呼吸を整えてからもう一度布団の中に入り目を閉じる。しかし、さっきの悪夢の内容がどうしてもフラッシュバックしてしまいなかなか寝付けない。時刻はまだ夜中の2時だ。
(こういう時は母さんの手を握ったりすることがあるんだけど…恥ずかしいんだよな…)
星羅のほうを見るが、体は時雨のほうを向いており時雨を抱いて寝ているのだろう。変に近づくわけにはいかないし、起きた時の星羅の体制などが心配だ。
(はぁ、仕方ない。反対向いたら何か変わるか…も?)
目線の先を見ると、ちょうど怜王の左手が白露の真正面にあった。白露はゆっくりと体を起こし、怜王の寝顔を観察する。しっかりと熟睡しているのを確認すると、ゆっくりと怜王の手を握った。
(今日だけだ今日だけ!何か言われたときは、母さんの手が空いていなかったって言い訳すればいい!……あ、でも怜王兄の手、あったかいなぁ…)
怜王の手の温かみを感じながら白露はゆっくりと目を閉じる。時間が過ぎると白露も規則的な寝息を立てていた。
ーーー朝5時
「…ん」
イヤホン越しにアラームの音を聞いて起きる怜王。襲撃に備えてすぐに起き上がり準備をしなければならない。小次郎と一星もすでに起き上がり準備を進めているところだった。
「…怜王…起きたか…行くぞ」
「はいはい兄さん…ん?」
怜王は起き上がる前に自分の左腕を見る。すると、白露が怜王の手をしっかりと握りしめて寝ていたのだ。やはりなんだかんだ言っても、皆の事が心配なのだろう。口ではああだこうだ言っても、心根は昔のままだ。
「…本当に、優しい子に育ったわね。叔父さんうれしいわ…焔、雫。行ってくるわね」
二人の頭をなでてから、入り口の方に向かう3人。寝ている3人を起こさないようにドアは静かに閉めていった。そして、1時間後に星羅達が起き、眠たそうにしている時雨を叩き起こしながら歯磨き、洗面を終えて食堂の方へと向かっていった。
この後、予想だにしない事態が訪れることも知らずに