エヴァ様は今日も死なない! 〜不死身系お嬢様がダンジョン配信でバズリ散らかした話〜   作:あるふぁせんとーり

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【メイド】幕間【帰り道】

「それじゃ遊び行ってくるわ!」

 

「あまり遅くならないでくださいね」

 

 

 初ダンジョン、初配信の帰り道。

 

 私達はギルドへと向かう前にショッピングモールに寄り道していました。

 

 デカいゲーセンがあるらしいと意気揚々で出撃していったエヴァ様を見送り、私は趣味のコスメ集めへ。

 

 何でもあの【Eleanor(エレノア)】がようやく新作を出したとのことで、これは貯まっていた給料を叩きつけるしかありません。

 

 というわけでウキウキでショップへと向かっていると、唐突に私のスマートフォンが着信音を鳴らしました。

 

 

「……はぁ、面倒な人間から掛かってきたものです」

 

「『あら、ちゃーんと聴こえてるわよ。貴女の声。楽しくやってそうで何より』」

 

「……それで、本日は何の御用ですか?「御母様(マスター)」?」

 

 

 私が尋ねると、御母様は「そんな大層な用じゃ無いわ。警戒しないでくれる?」とクスッと笑いました。

 

 彼女の名前はミナ・ブランドフォード。

 

 エヴァ様らの母親にして、私の開発者。

 

 まあ簡単に言えば……エヴァ様をもう少し賢くして、捻って、それでいて子供っぽさはそのままにしたような方でしょうか。

 

 まあ、エヴァ様と同程度に面倒な人間というのは間違いありません。

 

 私はため息を溢しました。

 

 

「話、長くなりますか?」

 

「『そうね、まあ珈琲ショップでも入るのを薦めるわ』」

 

「はぁ、かしこまりました。……Eleanorの新作……」

 

「『ああ、確かに貴女には似合いそうね』」

 

「分かっているのなら手短にお願いします」

 

 

◇◇◇

 

 

 というわけで手っ取り早く近くのカフェに入り、席に着く私。

 

 店内はあまり空席が目立たない程には賑わっていて、楽しげな談笑や注文が響いています。

 

 そして注文したいちごミルクを受け取ってから、私は御母様へ電話を掛け直しました。

 

 

「それでもう一度聞きますけど、本日は何の御用ですか?」

 

「『だから御用なんて大層なものじゃ無いわ。ただ、新しい道を踏み出した貴女達を祝ってあげようと思っただけなんだもの』」

 

「……はぁ、見てたんですか。配信」

 

「『ええ。とても楽しませてもらったわ。流石は私の娘達、といったところかしら』」

 

 

 「『本当、面白い娘に育ったものね、二人共』」と笑う御母様。

 

 その声は今年44とは思えないほどに若く、衰え知らずの好奇心と歴40年を優に超すいたずらっ子であることをありありと感じさせます。

 

 

「『ああ、余計な心配は要らないわよ。エヴァは何をやっても人並み外れて上手くいく、そういう物語に生きているんだから』」

 

「メタ発言ですか?御母様」

 

「『貴女も相変わらずね?でも御生憎様、認知論は門外漢なの。だから17年貴女達を見てきた母親としての評価になるのかしら。勿論、贔屓目は否定出来ないけれど』」

 

「そう、ですか。でしたら、それともう一つ」

 

 

 私はいちごミルクを飲み干してから席を立ち、片隅で山盛りのドーナツを頬張る少女……のような女性の肩を叩きました。

 

 

「この距離なら、直接話せば良いのでは?」

 

「あら、もう気付かれたの?」

 

 

 いちごジャムのたっぷり掛かったドーナツを押し込み、ペロッと口周りを舐める彼女。

 

 楽しげに跳ねる猫耳、なびく灰色の髪、揺れる長い尾、その全てが平常運転。

 

 そして御母様は隣に座るように勧めると、「1日ぶりね、リリィ」と微笑みました。

 

 

「聞きたいことはたくさんありますが、まずどうしてここに?」

 

「だって、貴女達が配信していたのってオーエンテューダーの廃工場でしょう?」

 

 

 質問に質問で返した御母様。

 

 私がそれに頷くと、彼女は「ならもう自明じゃない」とアップルティーをマドラーで掻き混ぜました。

 

 

「廃工場から最寄りギルドのテューダーミンストレルの間でエヴァの御眼鏡に適う寄り道なんてこのモールくらいだもの。後は貴女の行きそうなコスメショップの通り道にあるこの店でお茶をしていれば良いだけ。簡単でしょう?」

 

「はぁ、何故そこまでするんですか?」

 

「あら、その理由はもう伝えたじゃない。「貴女達の門出を祝いたい」って。本当にそれだけなんだから」

 

 

 そう言っていたずらっぽく笑う御母様。

 

 こうして見ると、やはりエヴァ様は母親に似たのだとよく実感できます。

 

 そんなことを思っていると、私の頬に尾先が触れ、彼女は「またあの子のこと?」と尋ねてきました。

 

 

「ええ。御母様にそっくりだなぁ、と」

 

「そうね、あの子が一番私に似てるわ。長所も短所も、全部ひっくるめて。……ああ、【変異(オルター)】は無かったけれど」

 

 

 彼女は手櫛で尾を梳かしながら言いました。

 

 御母様、ついでにエヴァ様の末の妹であるユイカ様は山猫の【変異】を持っています。

 

 具体的には耳と尾、そして夜目。

 

 度合いで言えば軽度でしょうか。

 

 【変異(オルター)】というのは……まぁ、ある種の身体的特徴のようなものです。

 

 染色体に魔力が影響を与えることで先天的、あるいは後天的に他の動物の特徴が発現する、所謂「獣人」に近くなる、と。

 

 確率的には同様に確からしい1割、両親どちらかが【変異】だと3割くらいということで、まあそれほど珍しいものでもありません。

 

 人によって度合いは異なり、場合によっては「獣寄りの人」ではなく「人寄りの獣」のようになるケースもあるのだとか。

 

 

「わざわざ説明御苦労様」

 

「メタいですよ御母様」

 

「ふふっ、貴女も懲りないわね」

 

 

 そう言ってアップルティーを飲み干す御母様に、私はふと浮かんだ疑問を投げかけました。

 

 

「そういえば、エヴァ様には会っていかれないんですか?どうせメダルゲームに勤しんでいますから、呼べばすぐに来ますよ」

 

「いいえ。今回は遠慮しておくわ。流石の私もあの子には合わせる顔が無いわよ」

 

「そう、ですか。御母様がそう言うのであれば無理にとは言いません」

 

「ええ、そうして頂戴。……でも」

 

 

 カラン、と氷の揺れる音が鳴り、机に置かれるグラス。

 

 そして見慣れた微笑みとともに、紫雲のような瞳が私を覗きました。

 

 

「もし、貴女が止めるべきだと思ったのなら、いつでもあの子を連れて帰って来て。そこで家出はおしまいにしてあげる」

 

「家出?勘当ではなく?」

 

「あら、貴女も勘違いしてるの?「勘当」なんて、あの人がエヴァを揺さ振るために大袈裟に言っただけなのに」

 

「……え?」

 

 

 衝撃の種明かしに驚きを隠せず、パチパチと瞬きをしていると、御母様はもう一つドーナツを頬張り、「まあそうなるとは思っていたけれど」とクスクス笑いました。

 

 私は空っぽになったいちごミルクのお代わりをもらった後、机に肘を突きながらため息を吐きました。

 

 

「本っ当に良い性格をしていますね、御母様」

 

「当然じゃない。貴女とエヴァの母親よ?」

 

 

 そしてアップルティーのお代わりと共にドーナツを流し込むと、「でも、半分くらいは本気かしら」と付け足した御母様。

 

 「どういうことですか?」と首をかしげると、彼女はいつの間にか空になったトレイを下げながら答えてくれました。

 

 

「だって、もっと自由なあの子が見たかったんだもの。人間誰しも、取り返しのつく内に家出しておくべきよ。そっちの方が楽しいんだから」

 

「……これ以上はノーコメントで」

 

「ええ、そうしてちょうだい」

 

 

 「私もそろそろ御暇かしら」とネックレス代わりの銀の懐中時計を確認し、席を立つ御母様。

 

 そして彼女はベレー帽を被ると、「ああ、忘れるところだったわ」と席の足元に置かれていた紙袋を私の方へ差し出しました。

 

 

「はいこれ。Eleanorの新作」

 

「……え、何故?」

 

「何故って、御駄賃代わりよ。それと、口止め料?」

 

 

 喜び半分、困惑半分で私がそれを受け取ると、御母様は私の分まで会計を済ませ、スケボー片手に店を出ていきます。

 

 ベレー帽、編み込みの入ったシルバーアッシュのロングウルフ、白のブラウスにサスペンダー付きのショートパンツ、挙句の果てに絶対領域の目立つニーハイソックスと、相変わらずのどれだけ若作りすれば気が済むんだというファッションですが、本人曰く「良いじゃない、私美人だもの」とのこと。

 

 こんなところでも血の繋がりをひしひしと感じます。

 

 そして彼女が片足をスケボーに乗せたところで、私はその背中を呼び止めました。

 

 

「……、ありがとうございます、御母様」

 

「良いのよ、それくらい」

 

「はい、それと……」

 

「ん、何?」

 

「尻尾、タイヤに挟んでますよ」

 

「……へ?」

 

 

 少し間抜けな声を漏らし、バランスを崩した御母様。

 

 「ひゃあっ!?」なんて生娘のような反応をしながら、ぺたりと尻もちをついた彼女は、「これじゃあ、全然締まらないじゃない」と少し赤面しながらはにかみました。

 

 

「いたた……、……あ、リリィ、エヴァには内緒よ?」

 

「はいはい。分かってますよ、御母様」

 

 

 そして御母様は再度スケボーに乗り直し、「ばいばーい」と手を振りながら去って行きます。

 

 それに手を振り返していると、さぞかし大勝をキメてきたであろう、エヴァ様の姿がちょうど入れ替わるように視界に入ってきました。

 

 全く、運が良いのか悪いのか……。

 

 

「……エヴァ様、そろそろ出発しますよ」

 

「あ、もうそんな時間?」

 

「逆になんで戻ってきたんですか?」

 

「そりゃメダル増えすぎたから……」

 

「理由がガキ過ぎません?これだからエヴァ様は──」

 

 

 ……本当、よく似ています。




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