エヴァ様は今日も死なない! 〜不死身系お嬢様がダンジョン配信でバズリ散らかした話〜   作:あるふぁせんとーり

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【メイド】5枠目【一休み】

 さて、このように初仕事を終えたエヴァ様と私ですが、速攻次の配信、という訳にはいきません。

 

 何故なら、エヴァ様は現在勘当の身、すなわち、配信の前に新生活の準備に取り掛からなければならないのです。

 

 そしてその準備の拠点、エヴァ様が仮の宿として選んだのは【ホテル・エルバジェ】という市内のビジネスホテルでした。

 

 いえ、ビジネスホテルと一口に言っても、エルバジェは温泉やサウナ、ビュッフェなどに力を入れている高級チェーン。

 

 出張に疲れたサラリーマンの皆さんの心強い味方であり、その評判をどこかで聞いたのか、エヴァ様も度々「一度くらい泊まってみたいわ」と口にしていましたので、丁度その願いも叶ったことになります。

 

 

「あー、疲れた。早くお風呂入りたいわ」

 

「ええ、そうしましょうか。荷解きの必要もありませんしね」

 

 

 元々エヴァ様はあまり物を持つタイプの方ではありません。

 

 上流階級の人間というのは得てして多趣味なことが殆どではありますが、エヴァ様の場合はその大部分を競馬やルーレット、トランプゲームなどのギャンブルが占めています。

 

 一応ゲームや漫画といった年頃らしい趣味もあることにはあるものの、それらも電子書籍やダウンロード版などがあるためにエヴァ様の荷物といった荷物はスマートフォンやパソコン、ゲーム機などとその周辺機器程度のものに収まっています。

 

 

「そういえば、エヴァ様着替えなどはどうするおつもりですか?」

 

「ああ、着替え?後で適当に買いに行くわよ。晩ご飯も食べないとだし」

 

「承知しました」

 

 

 あのダンジョンで受け取っていたエヴァ様お気に入りのパーカーを直しながら答えると、彼女はもう脱いだ服を散らかし、一糸まとわぬ姿で「ん〜っ、と」と身体を伸ばしていました。

 

 

「ほらリリィ、早く。せっかく露天風呂付きの部屋取れたんだから」

 

「急かさなくても、私はちゃんとご一緒しますよ。私の裸がお望みなんですよね?」

 

「私まだ未成年なのだけど。R-18に負ける身分よ?」

 

「でもR-18Gじゃないですか、エヴァ様」

 

「そういう体質なだけだもの、私悪くないわ」

 

 

 そんな言葉と共に長い舌を出しながら、エヴァ様は無邪気に風呂場の方へ走っていきました。

 

 先程の趣味の話もそうですが、こうして見ると年相応の幼さというものは残っているようにも思えます。

 

 考えてみればエヴァ様はまだ弱冠17歳。エヴァ様は2年前に学院高校を卒業しましたが、同じ年に入学した方々はまだ第6学年で学業に励んでいる真っ最中なのです。

 

 そのように考えると、ある意味当然の幼さとも言えるのでしょうか。

 

 そうして彼女に急かされるまま服を脱ぎ風呂場へと向かうと、エヴァ様はバスチェアに腰掛け、足を軽くパタパタとさせながら私のことを待っていました。

 

 

「お待たせしました、エヴァ様」

 

「早く洗って、リリィ。早く露天風呂浸かりたいから」

 

「じゃあ自分で洗えばいいじゃないですか」

 

「嫌よ。リリィの方が上手じゃない?私の身体洗うの」

 

「巧言令色ですか?」

 

「とても機械の捻くれ方とは思えないわね」

 

「……はぁ、仕方ありません」

 

 

 「これはエヴァ様に同行してしまった私にも問題があります」と、私は肩まで掛かったエヴァ様の髪に指を通しました。

 

 シルクのような肌触りの滑らかな金髪。

 

 私は泡立てたシャンプーでそれを丁寧に洗いながら、鏡越しのエヴァ様の姿に目をやりました。

 

 初配信であれだけ死んだにも関わらず、そのひたすらに細い身体は白く、傷一つない、作り物のような完成度を保っています。

 

 それだけならず、金髪、赤目、鋭い犬歯に長い爪……と、その容姿はまるで吸血鬼の姫のよう。

 

 残念ながら何度確認しようとも、エヴァ様の自負通り、見た目だけならまさしく傾国。

 

 「人は見た目で判断できない」という好例でしょうか、道徳の教科書に載る日はそう遠くないかもしれません。

 

 

「ねえリリィ。私晩ご飯はモツ鍋とか食べたいわ。近くに美味しいお店があるの」

 

「大丈夫ですか?人気ってことは少なからず混雑すると思いますが。あ、脇洗うのでバンザイして下さい」

 

「そう言われると思ってもう予約したわ。エヴァ・グリーンデザートは万事快調よ」

 

「事後報告にも程がありますね」

 

 

 そして上質なボディソープの泡でもこもこになったエヴァ様の身体を流し終えると、彼女はまた心地良さそうに伸びをし、そして露天風呂へと静かにその身を浸しました。

 

 

「あぁ〜……そとのおふろ……さいっこぉ……」

 

「脳を溶かすには少々早いです、エヴァ様」

 

「しょうがないじゃない……こんなにつかれたのひさしぶりよ、わたし」

 

「ああ漢字力が深刻な弱体化を」

 

「というかあたりまえでしょ?にんげんってしんだらつかれるものよ」

 

「いえ普通の人間はまず死んだらそれきりです。疲れるとかありませんから」

 

「そう。たいへんね、にんげんって」

 

「人外ポイントの積立投資とかやってます?」

 

 

 そんな適当な会話をこなしつつ、身体を洗い終えた私はちゃぽん、と静かに、露天風呂の中の湯船に浸かり、寝湯でとろとろに蕩けたエヴァ様の隣に腰掛けました。

 

 何とも言えない、心地良い電気信号が身体を奔りました。

 

 

「……いい湯、ですね」

 

「あっは、さいしょからそういってるじゃない」

 

「ええ……それと、まだ漢字力戻ってませんよ」

 

「えっうそ」

 

 

◇◇◇

 

 

 一風呂浴びて外へ出ると、時刻は18時を回っていました。

 

 その長い髪を相変わらずのよく死ぬ母親のような感じでまとめたエヴァ様。

 

 あまり多趣味ではないとはいえ彼女も人の子、一度買い物に出ると楽しくなったのか、年頃の少女らしくその両腕いっぱいに百貨店で買い揃えた衣服やアクセサリーの入った紙袋を提げ、今後遠征などで使うことも増えるだろう大きめの新しいスーツケースを引いています。

 

 

「大丈夫ですか?エヴァ様。一度ホテルの方に荷物を置いていった方がいいのでは?」

 

「多分大丈夫でしょ。ちゃんとしたお店だし、荷物くらい預かってくれるわよ」

 

「そうだといいのですが。何せエヴァ様計画性ありませんし」

 

「主人が寛大なことに感謝するのね、リリィ」

 

「叛意のないメイドにも感謝するべきでは?」

 

「なら差し引きかしら。ほら、もう着くわよ」

 

 

 エヴァ様が予約したという店は、駅近くの繁華街からは少し離れた閑静で上品な住宅街、その一角に構えられた料亭でした。

 

 調べてみると、予約に半年は下らないという書き込みがあちらこちらに転がっています。「こんなところ、よく取れましたね?」と尋ねると、エヴァ様は「これも縁って奴よ」と微笑み、東洋風の庭園の奥の扉を開きました。

 

 

「失礼、予約したエヴァ・グリーンデザートだけれど」

 

「ああ、あなたがエヴァちゃんね。ちょっと待ってて」

 

 

 エヴァ様が声を掛けると、30半ばと言ったところでしょうか、着物姿の女性は私達を少し待たせ、館の奥へと誰かを呼びに行きます。

 

 その間に他のスタッフへ荷物を預けるエヴァ様。そしてテレビCM2本分程度の待機時間の後、彼女は楽しげな足音と共に姿を現しました。

 

 

「……っと、久しぶりだね、エヴァさん!」

 

「ええ。ご無沙汰しているわ、先生」

 

「それにリリィさんも、お久しぶりです!」

 

「はい、お久しぶりです。アヤノ先生」

 

 

 そうして軽く挨拶を交わすと、彼女は私達を少し広い座敷へと案内しました。

 

 中心には十人程度は着けるであろう漆塗りの机が置かれ、掘りごたつ式になっています。そして机の上にはお造りの舟盛りや牛のたたき、そしてエヴァ様念願のモツ鍋。

 

 それを目にすると、エヴァ様はその手を合わせて「そう!これよこれ!」と目を輝かせました。

 

 

「ねえ、先生も一緒にいかがかしら?」

 

「ご一緒……一応、エリカさんにもちゃんともてなすように言われてるんだけど……」

 

「良いわよ、私が許すわ。貴女も良いわよね、リリィ?」

 

「ええ、構いません」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて!」

 

 

 そうぱぁっと笑うと、彼女は着物の帯を少し緩めて席に着きました。

 

 明るい金髪のショートボブが特徴的な彼女の名はアヤノ・ウィジャボード。

 

 エヴァ様がエネイブル学院高校の第1学年であった頃の担任であり、飛び級に必要で結局3年間在籍していた生徒会の顧問でもあった方です。

 

 今は結婚して退職し、専業主婦を務めながら、時たまこうして叔母のエリカさんが経営する料亭を手伝っているんだとか。

 

 

「それにしても、見ない内にまた綺麗になったね〜!かれこれ2年ぶりだもんなぁ〜」

 

「先生こそ、元気そうで何よりだわ。まさか3年で寿退職してしまうなんて思わなかったけれど」

 

「ね〜、アタシも思わなかった〜!」

 

 

 そんな楽しそうなやり取りを眺めながら、私は目の前に並べられた肉、魚、米を淡々と口に運んでいました。

 

 過去のものとは言え、教師と生徒という関係の彼女達がまるで友人かのような距離感で接しているのには多少の理由があります。

 

 教員免許を取るのにも当然必須となる、この国の最高学府である【学術研究院】、通称【術院】には基本的に4年間の教育課程が存在します。

 

 学院から現役で進学するとすれば、卒業するのは22歳。

 

 そして彼女は新卒でエネイブル学院高校の教職に就いたため、当時第1学年で12歳だったエヴァ様とは一回りも変わらないのです。

 

 ちなみにエヴァ様はあまり友人が多い方ではなかっため、もしかしたら片手の指で数えられる程度には仲の良かった相手かもしれません。

 

 

「っていうかさ、エヴァさんが勘当されたのって本当?風の噂で聞いたんだけど……」

 

「ええ。名字、変わっているでしょう?」

 

「あっ、それそういうことだったんだ〜!……ちなみに、理由とか聞いても大丈夫?」

 

「ギャンブルのやり過ぎだって。意味分からないわ」

 

「あちゃぁ……だから程々にって言ったのに……」

 

 

 「授業中、いっつもトランプとかサイコロとか弄ってたもんね〜」と笑い混じりに、烏龍茶を呷りながら言う彼女。

 

 エヴァ様は「もう良いわよ、その話は」と僅かに苦笑しながらモツ鍋を突いていました。

 

 

「……あら?こんなに少なかったかしら」

 

「美味しかったです、エヴァ様」

 

「……はぁ、そんなことだろうと思ったわ。先生、お代わりをもらえる?」

 

「大丈夫だよ!今連絡した!」

 

「美味しいヤm」

 

「それ以上言ったら2回殺すわ」

 

「人間換算だと肩パンですね」

 

「……っ、あっはは!」

 

 

 私達のやり取りに思わず笑みを溢したらしい、お造りを使って即席海鮮茶漬けを作っていたアヤノ先生。

 

 「何?どうかした?」とエヴァ様が尋ねると、彼女は「いや、大したことじゃないんだけどさ?」と口を開きました。

 

 

「なんか二人、姉妹みたいだな〜って思って!」

「私とエヴァ様が?」

 

「そうそう!なんていうか……人外っぽいところとか!」

 

「人外?……ふふっ、ええ、そうね。その点で言えば、私もリリィも変わらないもの」

 

「そういえば言ったっけ?アタシ生徒会の顧問やってた時、エヴァさんの後輩から「あの人絶対人とか食べてますよね!?」って相談されたことあるんだよ」

 

「人なんて食べないわよ。……あ、犬に食われそうになったことはあるわ。あんまり良くない賭場で」

 

「あんまり?」

 

「ええ、あんまり」

 

「なんかもうエヴァさんらしいなぁ……あ、そうだ。今って何やってるの?勘当されたってことは実家も出たんでしょ?」

 

「ええ。今は……家を探してるところね。配信とかやりながら」

 

「お家探しかぁ……あ、そしたらここからもう少し北の方とかどう?アバーナントの方、最近開発進めてるんだって!」

 

「アバーナント……本当ですね。オーダーハウス専門のキャロルハウス社がやってるみたいです」

 

 

 そう言って私はスマートフォンの画面上の検索結果をエヴァ様に見せました。

 

 彼女はその中に「温泉付き」というプランを見つけるなり「はい決まりね」と即決。

 

 しかし、もう少し下にスクロールすると「高難易度ダンジョン発生により現在延期中」という文章、そして謝罪を述べる文字列が無慈悲に並んでいました。

 

 

「先生、残念だけどその話、ダンジョンのせいで止まっちゃってるみたい」

 

「あちゃぁ……それは……」

 

「だから解決してくるわ」

 

「え、もしかして……!エヴァさん、冒険者始めたの!?じゃあ二人でってこと!?」

 

「ええ、そうなるのかしら。まだ駆け出しだけれど」

 

「良かったぁ〜!アタシ絶対エヴァさんは冒険者みたいな自由な方が向いてると思ってたからさ!」

 

 

 話を聞くと、どうやら彼女は担任だった頃からエヴァ様に冒険者を進路の一つとして勧めていたらしく大喜び。

 

 そして彼女は喜びのまま「冒険者なら精つけないと!」とお代わりの大盛りモツ鍋をこれまた大盛りで私とエヴァ様に取り分けました。

 

 そしてもうしばらく経ち、私もエヴァ様もテーブルに乗った全ての皿を空にして満腹。

 

 何とも言えぬ心地良い充足感が身体を満たしていくのが分かります。

 

 「そろそろお暇しましょうか」とエヴァ様に声を掛けると「ええ、そうね」と彼女は静かに頷きました。

 

 

「先生、ネアルコpayは使える?」

 

「パイはないのにペイはあるんですね」

 

「それライン越えよ」

 

「うん、大丈夫!最近ようやく電子決済導入したから!」

 

「ならそれでお願いするわ」

 

「オッケー!じゃ、ここにどうぞ!」

 

 

 そう言って自らの従業員用端末を差し出す彼女。エヴァ様がそこに自らのスマホをかざすと、明るい電子音と共に決済が行われました。

 

 そして預けていた買い物の荷物を回収し、いよいよ私達は料亭を後にしようとしました。

 

 

「ご馳走様、先生。また来るから」

 

「うん!アタシも待ってるよ!」

 

「ええ、さようなら」

 

「失礼します」

 

 

 というわけで、私達は美味しいモツ鍋と新居の情報、そして新たなダンジョンの手掛かりなど、大体今必要な物を回収し、ホテルへの帰路に着きました。

 

 

「あーあ、元気そうで良かっ……、……え、「配信」?」




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